勇者の怨念

「クソっ、クソっ! クソっ!」


 魔王城まで圧倒的な実力によって余裕で辿り着いた俺は、脅威に気が付いて俺の前に現れた魔王となったロイドに王国に強制的に転移させられた。雑魚でなにもできない役立たずだったはずのロイドは、卑怯な手を使って俺の顔面を殴り、勝てないと思ったのか強制的に転移させることで戦いから逃げたんだ!


「……魔王に負ける者は勇者ではない。よって、貴様らへの援助は打ち切らせてもらう」

「そ、そんなっ!?」


 なんだ?

 俺の後ろで騒がしい連中がいるが、もしかしてあいつらも勇者候補なのか?

 憐れだな……真の勇者はここにいるのに、勇者候補なんて名乗っている馬鹿ども。そんな奴らがなにかを騒いだとしても、教会が受け入れる訳ないだろう。なにせ、真の勇者はここにいるのだからな。


「アレン・ケーブル、君もだ」

「ん? なんだ?」

「魔王に敗北してここに飛ばされてきたのだろう?」

「俺は負けてない。あいつが俺と戦うのを恐れて逃げたんだ。馬鹿にするな!」

「ふんっ! 口ではなんとでも言えるな」


 なんだこの偉そうな神父は。俺が真の勇者であることに気が付けない無能か?

 やはりこの王国は、俺の真の力を認めない屑ばかりだな。この神父は、後で勝手に処刑でもされるだろう。なにせ、真の勇者を罵倒したんだからな!

 それにしても、なんで急に神父が偉そうに俺に喋りかけてきているんだ? いつだって神父共はペコペコと頭を下げることしかしてなかったじゃないか。教皇は何処に行ったんだ?


「聞いていないようだな。ならもう一度宣告してやるぞ、アレン・ケーブル……魔王に敗北した勇者候補は、勇者ではない! よって資格を剥奪し、援助を断つ! 金輪際、教会には足を踏み入れないでいただこう!」

「な、なんだとっ!? ふざけるな!」


 俺が勇者じゃないだと!?

 俺は異世界から転生してきた、選ばれた人間だぞ!?

 そこで泣いている馬鹿たちとは違う、完全に選ばれた人間側なのに、たかが神父如きが俺に偉そうになにを言いやがった!? ふざけやがって……折角俺がチート能力で王国を助けてやろうと思っていたのに、こんなゴミみたいな下っ端神父に馬鹿にされるなんて!?


「そもそも俺は負けていない! 魔王が……ロイドが俺のことを恐れて逃げ出したんだ! そうだ……あいつは俺に命乞いをしていたから!」


 そうだ。ロイドが俺に勝てる訳が無いんだから……命乞いをして俺がそれを許してやろうとした瞬間に、騙してここに飛ばしたんだ。それぐらいじゃないと、俺のことをどうにかできる訳がない。あの無能ロイド如きが!


「……ロイド、だと?」

「お前らは魔王の名前も知らないのか? 魔王の名前はロイドだ! 元俺のパーティーメンバーだが、無能だったから切り捨てたんだよ! そうしたらたまたま魔王になってたみたいだが、俺に恐れをなして逃げ出した!」

「……アレン・ケーブルのパーティーメンバーであるロイドか。おい、お前のパーティーの神官は誰だ?」

「偉そうに指図するな!」

「ちっ! さっさと教えろ!」


 ぐぅっ!?

 誰に許可を得て俺の胸倉を掴んでやがる!

 まぁ、いいか。これくらいは教えてやる。あの女も、俺の真の価値を理解できなかった無能女だから。教会に罰してもらおう。


「アイリスだよ!」

「アイリス……神官アイリスか!?」

「そうだよ。俺はエリートだからな……神官も優秀な奴が良かったんだが……アイリスは使えなかったぞ」


 ふん。そもそも教会があんな無能な神官を寄越してくるから悪いんだ。俺の足を引っ張っているから、俺はよく魔族に苦戦していた。俺の普通の実力を考えれば、魔族に苦戦するはずなんてないのに、俺が苦戦していたのはあいつらのせいだ。

 魔女であるミエリナも俺のことを利用していたらしいし、きっと裏で俺にデバフの魔法でも使っていたに違いない。そうじゃなきゃ俺が弱いみたいじゃないか。


「アレン・ケーブル、貴様は勇者候補失格どころではなかったな。貴様は罪人だ!」

「な、なにっ!?」

「神官アイリスが行方不明になっているのもお前の仕業という訳だな!」

「ふ、ふざけるな! 俺はパーティーからあいつが離れてから一度も会ってない!」


 完全な冤罪じゃねぇか!

 アイリスは、まさか俺になんらかの罪を擦り付けるつもりか!?

 あのクソ女ぁ!

 やはりアイリスとミエリナは、中から出てきた裏切り者だったんだ! 俺が真の勇者であると知ってしまったから、貶めるために俺のことを裏切って罪を擦り付けたんだ!


「そうだな……恩赦、ではないが、魔王を倒したら罪をなかったことにしてやる」

「そ、そもそも俺は罪なんてやってねぇだろうが! なにがオンシャだ!」

「貴様にやった、やってないの自覚などどうでもいい! 貴様は自らの内側から魔王を生み出したのだ! 今すぐ処刑にしないだけありがたいと思え!」


 それは、ロイドが魔王になったのが悪いってことじゃねぇか。俺は全く悪くないのに、なんで俺だけが罪人のように扱われないといけないんだ!?

 俺は悪くないのに、ロイドのせいで……ふざけやがって!


「あの屑を殺してやればいいだろ!? だったら簡単なんだよ!」

「ふん。一度敗北した癖によく吠える」

「黙れっ! 俺がロイドの首を持ってきたら、お前の首を切断して晒してやるからな!」


 クソっ!

 全部ロイドが悪いんじゃないか。俺は全く悪いことなんてなにもしていないのに、俺は女神に選ばれた完全無欠の勇者なはずなのに!

 そうだ。全部が全部、ロイドが悪いんだ。俺を騙してパーティーに入り込んで、真の勇者である俺のことを貶めたんだ。もしかしたら、あいつは最初から魔王で、俺に勝てないことがわかっていたからあんな卑怯な手を使って俺を貶めたんだ。そうに違いない。

 やっぱりあいつは俺の力びびってたんだ!


 それがわかればもう怖くない。もう一回魔族の領域を通り抜けて、魔王を名乗っているあのクソ雑魚のロイドをぶち殺す。そうしてから王国に帰って来て、俺がどんな扱いをされたのかを全部バラしてやる。そうすれば、真の勇者である俺を無能扱いした教会の連中もみんなに責められて死ぬ!

 俺は人間を救った英雄になって、最強の英雄として崇められるんだ!

 俺は選ばれた人間で、俺は完全無欠の真の勇者なんだから!

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