魔王の計画
トレイスと殴り合って協力を取り付けたので、魔王城まで戻ってきたらまたミエリナが暴れていた。と言っても、今回は魔法をぶっ放して周囲を破壊してたとかじゃなくて、普通にジタバタと暴れていた。
「はっ!? やっと帰ってきた!」
「俺?」
どうやら暴れていた原因は、俺が魔王城にいなかったことらしい。いなかったって言っても、たかが数時間の話なのに、なにをそんなに暴れているのかと思ったら、どうやら俺の能力について答え合わせをしてくれると思い込んでいたようだ。勿論、能力について詳細を教えるつもりなんて全くない。
「ケチー!」
「教えないものは教えない」
そもそも、能力がバレるってのはかなり危険なことだと俺は思うのだが、それを暴こうとするのは悪質では? やっぱり真理の探究なんてやってる奴は禄でもない奴なんだな。
ミエリナのことは無視して、骨のいる所へと向かうとパウリナと向かい合って書類を書いていた。多分、フェニックス家再興のことで色々とやっているんだろう。
「お帰りなさいませ魔王様」
「……お帰り、なさい」
「トレイスは説得できたから、これでなんとかなりそうかな?」
「そうですね……できる限りはやってみましょう」
トレイスにも言ったけど、俺の作戦なんて骨に一任しているのでそれに従うだけだ。こんなくだらない戦争はさっさと終わらせて、怠惰に隠居したくてしょうがないんだ。
「まず、戦争に勝たなければ終わらせることは難しいでしょう」
「まぁ……そうだな」
もし、俺が中立の立場で介入できるなら文字通り止められたかもしれないけど、俺は既に魔族側のトップに座ってしまっている。魔王だけど人間だから中立ですよー、なんて都合のいいことは通らないだろう。故に、戦争を終わらせるのならばまず戦いに勝つ必要がある。
「その上で、魔族側が人間を不当に搾取することがないようにするべきです」
「それも、そうだな。でもできるか?」
「それをするんですよ」
正直、人間よりも寿命が長い魔族にとっても1000年は長すぎた。今や魔族だから、人間だからという理由だけで差別されるような状態な訳だから、長期的な意識改革が必要だろう。そして、長期的な意識改革に必要なのは長期的な平和だ。この場合の平和とは、いがみ合っていないことではなく、戦争などの戦いが起きていないことを指す。水面下で争っていても、公に戦争をしていなければ平和だろう。
片方からの搾取は必ず争いを生む。骨の言う通り、まず魔族側が戦争で勝ち、尚且つ人間側に権利を認めて講和を成立させる。
正直、できる気がしない。
「中立である精霊に仲介を頼むという手もあったのですが、人間側は精霊のことをモンスターであるとして、魔族に与する存在だと吹聴しています」
「頭こんがらがってきた」
はっきりと言おう。
俺は頭を使ってなにかを考えるのが、苦手であると。故に俺は骨に丸投げしているが、そもそも骨の説明ですら頭がパンクしそうだ。
「それで、具体的になにをすればいい訳?」
「結論から言いますと、王国を打倒して新たな人間の代表を立てるべきです」
「……現状の王国を打ち倒すと」
「魔族に滅ぼさせるのではなく、人間自身に革命を起こさせるべきです。我々はそれを手伝う」
つまり、魔族との戦争に負けたという不満をそのまま王国にぶつけさせ、ついで腐った王国と貴族、癒着した宗教を丸ごと破壊して新しい人間のリーダーを立てる。
できるかどうかは置いておくとしても、成功すれば確かに人間と魔族の関係改善にも繋がるだろう。問題は、誰を人間側のリーダーを立てるか。
「候補は既にいます」
「いるの!?」
速くない!?
でも、軍人、貴族、王族、信者、どれをとっても失敗しそうな気がするんだけど誰を頭に据えるつもりだ?
「勇者です」
「……勇者ぁ?」
鏡を見なくても、俺が物凄い顔しているのは自覚できる。
勇者なんて女神を信仰する頭のイカれた宗教が勝手に創り出した、自分たちにとって都合がいい幻想だろう?
彼らの言う勇者は、教皇様の利権と立場を確立する英雄(笑)だろうが。
「勇者候補ではありません。真の勇者です」
「…………いるのか?」
「はい。つい先日、確認できました」
実在するなら話は別、か?
勇者なんて聞くと魔王を倒す博愛主義者の理想論者という印象なんだが、まさか存在するとは。存在するならさっさと腐った王国を打ち倒して欲しいもんだけどな。
「勇者は現在、人知れず修行を重ねて魔族と戦う準備を進めているようです」
「人知れずとか言ってるのに、普通に知ってんじゃん」
「人ではなく、魔族なので」
腹立つな、こいつのつまらんジョーク。
それにしても、勇者か……博愛主義者なら確かに利害の一致で仲間になってくれそうだな。
「なら説得に行くか。勇者の証がついてるんだろ?」
「いえ、勇者には勇者の証なんてついていません」
「は?」
なにそれ。結局女神様がー、の話は1から10まで全部嘘だったってこと?
うわー……ドン引きだわ普通に。
「しかし、女神が力を与えているというのは本当の様です」
「何故?」
「その男は、光の魔法によって魔族を消失させることができるそうです」
「え、怖いな」
「光の魔法は、文献通りなら女神にしか扱えない特殊な魔法のはずです」
地下にいるあれとは別の女神だな……間違いない。
それにしても、本当に真の勇者が現れたのだとしたら、なんの為に女神は勇者を生み出したのだろうか。もしかして、俺を殺すためか?
「会ってみないとなにもわからないか……よし」
「明日以降にしてください。仕事が溜まっていますよ?」
すぐに出掛けようかと思ったら、後ろからメイドさんに肩を掴まれてしまった。
「い、いやー……これも大事なお仕事だからさ?」
「重々承知しております。ですが、こちらの仕事は数週間前から溜まっています」
「うわー」
こらパウリナ、そんな「こいつ根っからの屑だな」みたいな目を向けるんじゃない。骨も「話はもう終わったからいいですよ」みたいに頷くな。
「嫌だー!? 仕事するぐらいならミエリナの実験に付き合う!」
「本当!?」
うわ、どこから出てきた。
しかも仕事をしろとか言ってたメイドさんと、実験に付き合ってくれるならみたいな顔していたミエリナが、互いの存在を確認した瞬間に俺のこと放置してすぐにでも殺し合いをし始めそうな雰囲気になってるんだけど。
「……貴方が蒔いた種でしょう? なんとかしなさいよ旦那様」
「いや、無理だって」
パウリナ、やっぱり俺のことからかって遊んでないかな、君。
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