魔王の驚愕

 ミエリナとパウリナのごたごたをとりあえずメイドさんに丸投げして、魔族領の問題は骨に丸投げした俺は、最後の精霊である暴風の化身トレイスの元へと向かう為に、魔王城から出なきゃいけない。

 基本的に引きこもり体質で出不精の俺が、四精霊の協力を得る為とは言えここまで頻繁に外に出ることになるとは……さっさと戦争を終わらせてゆっくり引きこもりたいな。

 まぁ、戦争を終わらせるためにも四精霊の協力が必要不可欠なので仕方ないのかもしれないが……やっぱり面倒なものは面倒だ。


 四精霊もタイタニスとヨーグルまでは結構話の通じる奴だったけど、バーナーは魔王のこと嫌いそうだし、トレイスに至ってはまさに暴風の化身って感じの奴らしいからな。

 全員がタイタニスみたいな奴だったらよかったのに……と思ったけど、四精霊が全員あの堅物クソ真面目だと、それはそれで疲れるな。


「ん?」


 ぶつくさと適当なことを考えながら、魔王城から一歩外に出た俺の視界に、人間がいた。

 いや、ここ魔族領の結構深い所なんですけど、なにしてるんすか? もしかして、魔王様が嫌いすぎて、人間のこと普通に通しちゃったの? でも、魔族的にもそれは普通に裏切り者レベルだと思うんだけど、プライドとかないのかな?


「魔王だな」

「え、まぁ……そうだけど」


 勇者候補っぽい奴がこっちを睨みつけてきているんだけど、もしかしてこれ戦うパターン? 俺、さっき人類最高峰の魔法使いと戦ったばっかりなんだけど。


「長かった……人間がここまで到達するのに、1000年かかった。だが、これでようやく戦争も終わる。魔族の王であるお前を殺し、人間は真の平和を手に入れる!」


 わお、がっつり洗脳教育。

 魔族が原因で戦争が始まったのはそうだけど、魔族側からの終戦の提案を固辞し続けていたのは人間なんだぞ?

 魔族は人間に害を及ぼす、とか。魔族領は本来人間の土地であり、女神様から与えられたものだとか、色々な理由を付けて魔族を迫害しようとしてたのが長引いている原因だろ。


 そんなことを言って勇者候補が聞くはずもなく、聖剣(仮)でこっちに斬りかかってきた。何故聖剣に(仮)がついているかと言うと、そもそも勇者が使うはずの聖剣なんてものは、世界中のどこにも確認されていないからだ。なのに、勇者候補様たちは、みんなどこからか自分だけの聖剣を見つけてきて振るってる。量産型勇者候補に量産型聖剣とかやめろ。


 適当に魔法陣で受け止めているけど、そもそも彼らは勇者候補であって、正式な勇者ではない筈なんだけど……なんで彼らはこんな自信満々なんだろうか。

 確か、予言では勇者が現れ、魔族との戦争に終結をもたらす、だったはずなんだけども。そもそも、彼らは勇者候補であって勇者ですらないからな。


「くっ! 流石に魔王は手強い!」

「そのために私たちがいるんだから!」

「そうだぜ、俺たちにもっと頼れ!」

「……あぁ! ありがとう皆!」


 すごい王道展開の少年誌みたいなことやってるけど、この程度の実力じゃあそこら辺の魔族にも負けそうだけども……どうしようか。このまま殺す、って訳にもいかないよな。俺だって魔王だけど、人間だし。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「……えい」


 面倒だから次元に穴でも開けて王国に送ってやれ。

 5人ぐらいの勇者パーティーを、適当に次元の穴で王国の教会に送り付けてやった。まぁ、これなら当分は騒がしくならないだろう。後で骨にこのことを教えてやらないとな。

 魔王城に至るまで必ず通るはずであるザガン領とマルフォス領をスルーしてやってこないと、あんな雑魚がここまで来れる訳がないんだから。


「お前、殺したのか?」

「ん?」


 また勇者候補様か。


「ロイド、やはりお前は人類の敵だ!」

「いや、誰だよ」


 俺のことを知ってるっぽいけど、こんな奴のことなんて……知ってるわ。


「あー……アレン・ケーブル?」

「そうだ! お前の悪辣さを誰よりも早く見抜き、ボコボコにして魔族領に飛ばしたアレンだ!」

「お、おぅ」


 80%嘘で出来てたな今の話。合ってたの魔族領に飛ばしたアレンだ、の部分だけだろ。


「お前、今俺の目の前で勇者候補を殺したな!」

「いや、殺してはないけど」

「嘘を吐きやがって……やっぱり、お前みたいな奴は始めからパーティーに入れるんじゃなかった! 俺は慈悲で入れてやったのに!」

「お前、俺がパーティーに加わった当初、貧民街の屑だけど盾になるならいいぞって言ってただろ」


 こいつ、自分の過去が振り返ることもできないタイプか?

 くっそ面倒くさいな……前世でもこういう虚言癖持ちで、自分が仕事できないのに仕事できる気になってる奴、いたなぁ。大体、こういう奴って自己評価が滅茶苦茶高いのに、自分を甘やかしてくれる人間がいないから、拗らせて周囲が悪いみたいなこと言い始めるんだよな。


「レンドン、こいつを殺すぞ!」

「……お任せください」


 従者のレンドン・アークスか……こいつのことは結構よく覚えてる。だって、アレン・ケーブルの金魚の糞やってる癖に、彼我の実力差をはっきりと理解できるタイプだからだ。だからこそ、こいつは馬鹿だ。自分も、アレンも俺に勝てないことがわかっていないがら、アレンに命令されれば命を捨てるんだから。


「覚悟しろ!」


 真っ先に飛び出してきたアレンの顔面に、反射的に拳を叩き込んでしまった。うざいと思った顔は殴りたくなるので、手が止まらなかった。


「ぶぅえっ!? な、なんでぇ……こいつ、こんな」

「アレン様!」

「ほい」


 レンドンがアレンに近寄ったのでそのまま2人まとめて教会に送り返してやる。なんか、魔王に負けて教会に送り返されるって、すごいゲームみたいだな。「しんでしまうとはなさけない!」ってか?


 なにはともあれ、これで静かになったのでゆっくりとトレイスのいる砂漠にいける。

 魔族領をフリーにしてる裏切り者みたいな奴らがいることは大問題だけど、これは骨に解決してもらえばいい。最終的に俺が出張る必要があるのなら普通に手を貸しもするから問題ないだろう。

 まぁ、多分だけどトカゲと狼を叩き潰すことになると思うけど、それも面倒だな。小さな虫を殺さないように指で摘まむのは難しいのと同じだな。


「待て! お前が魔王だな!」

「……勘弁してくれ」


 これ、何組繰り返すんだよ。

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