魔王の絶句

 婚約者とか言われて断ったら何故か攻撃された。全く意味がわからないけど、当たってないからいいか。


「へぇ……やっぱり、ロイドさんの能力わかっちゃったかも」

「それは困るな」


 一応、自分の能力は隠して生きてきたつもりなんだけども、まさか人間の仲間にバレているとは思わなかった。魔族はやっぱり魔力を持っている奴が偉いみたいな風潮があるから、魔王なら持ってるでしょみたいな感覚で接してくるけど、人間は殆ど能力持ちなんていないから。


「ずばり、ロイドさんの能力は『幻』ですね」

「……つまり?」

「私の攻撃が当たっていないのは、幻覚を見せられているからです。当たっていないんじゃなくて、すり抜けているんですね?」

「うーん、四分の一正解?」

「えー!?」


 当たってないんじゃなくてすり抜けているのは正解。幻っていうのも惜しい感じ。でも、もっと常識から外れた能力をしてるんだなーこれが。


「待ってください。ロイド陛下は、本当に能力持ちなんですか? 人間なのに?」

「勝手にお喋りに入ってこないでよ。メイドの分際で」


 おっとこれはいけない。

 ミエリナがすぐさまメイドさんに向かって攻撃を放ったので、間に入って弾く。弾かれて飛んでいった魔法は城の壁にぶつかって一面を凍結させてしまった。


「……魔法を弾くのは能力じゃないですよね?」

「魔力抵抗が高いだけだよ」


 体内の魔力量が多ければ多いほど、魔力に対する抵抗が高くなると言われている。そんでもって、俺は人間どころか魔族でもあり得ないぐらいの魔力量を持って生まれてしまったので、魔法に抵抗しようと思えば体外からの魔法の大半は弾けてしまう。さっきの魔法みたいに。


「なんでアレンが使った魔導具に抵抗しなかったんですか?」

「……あれん?」


 誰だっけそれ。


「貴方を追放した勇者候補の名前」

「……あー、アレンね。あのアレンか」


 いや、忘れてなかったよ、本当だよ?


「使われた魔導具の詳細はアイリスから聞いたんですけど、抵抗しようと思えばできたはずなんですよね……どうしてですか?」

「まー……人間関係が面倒だったから?」

「もしかして、男の嫉妬ですか?」


 やめてやれよ。彼だって真剣にミエリナのことを好いているはずなんだから。勇者候補様から時折鬱屈とした精神を感じることはあったけど、基本的には尊大な自己肯定感があるんだから。


「まぁ受け身の男の話はいいんですよ」


 言ってやるな。男なんてのは好きな女の前じゃ受け身になっちゃうものなの。だって嫌われたら立ち直れなさそうだし、彼。


「ロイド陛下、あの女は危険です」

「そう? 御しやすい方だと思うけどなぁ」


 俺を研究対象として提供してやれば、すぐに人間でも裏切って普通に味方になってくれると思うけど。真理の探究者なんて言われてるけど、簡単に言うと倫理観無視で真実を追い求める狂人って意味だからね。


「好き勝手にやっていいから味方になってくれって言ったら、人間を裏切ってくれる?」

「いいですけど、その場合はそこの婚約者とかいう女性殺しますけど」

「……助けてくださいよ」

「わかってるって」


 死なないからって苦痛が無い訳じゃないと思うし、流石にそのまま放置して好き勝手に殺していいですよ、なんていう訳ない。仮にも婚約者だし。恐怖の対象にはされてしまったけど、パウリナ嬢には良い所も見せてこっちに惚れてもらえると後々面倒が少なくて助かると思うから、かっこつけないとな。


「彼女は結構可愛いからだめ」

「へぇ……私、ロイドさんのこと好きだなーって思ってたんですよね」


 やっぱり色恋ってクソだ。パウリナ嬢とも利害が一致するビジネス的な関係にしておこう。


「アイリスから、それって好きなのではって言われて確かにって思ったんです」

「へ、へー」

「だから、婚約者がいるって聞いて少し嫉妬してしまいました」


 その結果が俺に向かっての攻撃ですか。

 アイリスちゃんも面倒なことしてくれたな。こんな怪物の色恋感情を表に出させると面倒なことになるって……わからないだろうなぁ……アイリスちゃんは性善説を信じ切ってる人だから。

 ここでパウリナ嬢は不老不死だから殺しても意味がない、なんて言おうもんなら永遠と拷問されながら実験材料にされるだけだろうから、言うのはやめておこう。ミエリナは俺よりよっぽど魔王してるからな。


「魔王の妻は1人は限りません。複数娶ればよろしいのでは?」

「……骨、あとでぶっ殺すからな」

「これは手厳しい」


 後ろからぬるっと現れた骨の意見に、普通にイラっとした。色恋なんて面倒なことはやりたくないって言ってんのに、なんで普通に複数娶るとかになってるんだよ。


「今からぶっ殺してもいいんだぞ? その幻影」

「お気づきでしたか」


 俺の背後から現れた骨だけど、こいつはただの幻影だ。骨の能力は幻影を飛ばしてその情報を本体に還元する。だから、骨の本体は多分普通に執務室で仕事をしているはず。騒ぎの中でも落ち着いて仕事してるのはどうかと思うけど、こうやって幻影を飛ばしてくるぐらいには興味があったらしい。


「私はもうロイドさんの能力を解明するだけじゃ足りなくなったから、なんとかして欲しいんです」

「ちょっと欲張りじゃない?」

「知らないんですか? 魔女は欲に溺れた生き物なんですよ?」


 知ってたよ。というか、真理の探究者とか言って人類の希望だみたいに言っていた王国の人間たちの方が信じられないわ。ミエリナは勇者候補のパーティーにいた時から、こんな感じの奴だったからね。マッドサイエンティストだよ、この子。


「嫉妬の感情を抑えたらどうですか?」

「それ、君が言うんだ……哀れなメイドさん」

「何を言っているんですか?」

「見ればわかるよ。メイドさんも、ロイドさんのことを好く思ってるんだよね?」


 は?

 あんだけ仕事押し付けてるのに、メイドさんも俺のことを好い人だとか思ってんの? 趣味を疑うわ。


「……」

「ねぇロイドさん! この中だと正妻は誰?」

「いや、パウリナ嬢でしょ」


 バーナーとの約束もあるし。


「わ、私に矛先向けないでくださいよ!」

「あ、悪い」


 なにも考えずに反射で答えちゃった。

 ミエリナの表情がまた一段と怖くなった気がするけど、大丈夫だ。パウリナ嬢は死んでも生き返る。

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