魔女の襲撃

 私にとってロイドさんとはどんな人なのか。

 気が付かない間に初恋をしていたかもしれないとか、そういう話は置いておいて、私にとってロイドさんは……研究対象でありながら騎士のような存在、とでも言えばいいのだろうか。

 旅の最中に、私やアイリスが危ない目にあったことは数えきれないほどにある。それは自然の脅威であったり、人の悪意でもあったりするし、魔族との戦いでも起きていた。その度に、あの人は私とアイリスを守ってくれていた。

 勇者候補様のアレンは、自分の身を守るので精一杯のことが多かったし、レンドンが甲斐甲斐しく世話を焼いていたので私たちの危機など気が付きもしなかっただろう。


 それでも、私にとってロイドさんは興味の尽きない研究対象だ。最初は勇者候補の仕組みを調べ、王国や宗教の裏側まで知りたかったから入ったパーティーに、彼が入ってきたのは私の人生においてもっとも幸運だったことだろう。

 本人は隠しているつもりかもしれないが、私はロイドさんの持っている能力の片鱗を既に掴んでいる。どういったものなのかはまだ詳しく解明できていないが、だからこそ私はあの人を追いかけなければならない。

 そう思ってアイリスから聞いた通りに魔族領に入り込み、魔王城の場所をそこら辺の魔族の記憶を読みとって知り、突撃した。


「何者ですか?」

「ロイドさんの魔力を感じない……今は留守なのかしら?」

「私の質問に応えなさい」

「んー……じゃあ待つかな」


 魔王城に入り込んだのはいいけど、肝心のロイドさんの魔力を感じなかった。どうやら魔王城を留守にしているらしい。だが、残滓は感じるのでどうやらアイリスのお告げ通り彼は魔王になっているようだ。

 それにしても、教皇とかが言っているお告げが全て嘘なのに、アイリスのお告げは全て本当なんだから驚きだ。ロイドさんの研究が終わったら彼女も研究してみたいな。


「応えないのならば、始末させてもらいます」


 メイド服を着たよくわからない悪魔がこちらに向かって暗器を投げてきたので、空中で分解してそのまま投げ返してやったら、驚いたような顔をしていた。

 暗器の構造を把握していればばらすぐらいは簡単だと思うんだけど、もしかして魔族ってこの程度なの?


「くっ!」


 再び暗器を投げながら今度は接近してきたので、分解せずにそのまま投げ返してやれば、それを上に飛んで器用に避けたので、魔王城の重力を反転してやれば情けなく天井に激突していた。


「んー?」

「いたぞ! あそこだ!」


 衛兵らしき魔族たちが続々と集まってきた。反転した重力に対抗してそのまま天井を走っていたので、普通に魔法を解除してやれば全員が床に激突。廊下を翼で飛んでいた魔族も方向感覚が狂って飛行速度が落ちた奴から、魔力で弾き飛ばしてやる。


「待ちなさい!」

「また貴方?」


 他の魔族たちは不甲斐ない姿を見せているのに、何故か一番弱そうなメイドだけが私に噛みついてくる。

 少し、ムカついた。


「おいで」


 私の魔力を喰って動く魔力獣を10体召喚して、簡単な命令を与える。


「この城、滅茶苦茶にしていいよ」

「っ!?」


 私の命令通り、10体の魔力獣は一斉に口から魔力の弾丸を放った。この城はボロボロになっちゃうかもしれないけど、ロイドさんはそれくらいで怒る人じゃないから別にいいでしょう。魔族を殺しても、人間だから何も言わないと思うし。

 でも、このメイドだけはなんかムカつくなぁ……ロイドさんの魔力残滓が一番濃く纏わりついているからかな。


「私が直接殺してあげようか?」

「なっ!?」


 魔法で距離を失くして胸倉を掴んであげると、かわいそうなぐらい驚いていた。まぁ、手加減なんてしてあげないんだけどね。


 しばらく魔王城で暴れていたら、入口の方からロイドさんの魔力を感じた。


「うおぉぉ!」

「うるさい」


 牛男を上から魔力の圧力で押し潰してから、首を掴んで指を食い込ませる。魔力で強化した肉体なら、たとえ自分の数倍の身長を持っている怪物であろうとも片手で持ち上げられる。そもそも、人類最強に名前を連ねる私にただの魔族が勝てる訳が無い。能力持ちでないと私の相手なんて務まらない。


「ロイド陛下!」


 廊下の向こう側に弾き飛ばしたメイドがロイドさんの名前を呼んでいた。私の感覚は正しく、ロイドさんの魔力はやっぱりわかりやすい。

 牛男の首を掴んだまま入口の方へと歩いて行くと、見慣れない少女を連れて立っている豪華な服装のロイドさんが立っていた。


「あ、ロイドさん! やっぱり生きてたんじゃないですか!」


 死んでいたと聞かされていたから、心配していたという感情を乗せてにっこりと笑ってやれば、ロイドさんは私が手に持っている牛男を見てため息を吐いた。少し、女の子らしくなかっただろうか。牛男を放り投げて、ロイドさんに向けて再度笑顔を浮かべる。


「あー……ミエリナ・ルシフェル?」

「はい。私、ミエリナです」


 ロイドさんはしっかりと私の名前を憶えていてくれた。優しそうに見えて、実は結構冷たい性格をしているロイドさんは基本的に人の名前を覚えない。多分、記憶しているのは彼にとって重要な人物か、関わりが深かった人物だけ。私は、彼にとって大事な人物であれただろうか。


「何の用か聞いてもいいか?」

「ロイドさんが追放されたと聞いて、追いかけて来たんですよ?」

「研究目的で?」

「それもあります」


 ロイドさんは冷たい人ですけど、察しが悪い人じゃない。私が最初からなにを目的に近づいてきたのかなんて、しっかりとわかっている。でも、恋愛ごとには少し疎いと思う。私も人のことはあまり言えないけど。


「その女の子は?」

「……婚約者?」

「へぇ……」


 私の中のウキウキとした気持ちが一気に冷めていくのがわかる。アイリスに言われて、初めて私はロイドさんに対して恋にも近い感情を抱いていることは自覚できたけど、彼の婚約者がいるとわかって心が冷えていく感覚は、きっと嫉妬と呼ばれる感情だ。

 やっぱりロイドさんの傍は飽きない。私に、雄弁に色々と教えてくれる。


「じゃあ、その子をバラバラにすれば私が婚約者でもいいですか?」

「いや、ダメだろ」

「どうして?」

「魔王だし。真理の探究者が嫁はなぁ」


 へぇ……ロイドさんもそんなこと言うんだ。これはちょっと、嫌がらせをしないといけないかな?

 一応、ロイドさんの能力を知る為でもあるし別にいいよね、攻撃しても。

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