魔王の退屈

 魔王城を飛び出してから、一気に辺境まで飛んできた。飛んできたと言っても、ちょっと次元に穴を空けてそこから目的地まで歩いて移動したんだけども。そして、穴を空けた場所が少し正確すぎたみたいで、目の前には驚愕に目を見開いている女性が1人。


「あー……フェニックス家の生き残りさん?」

「っ!?」


 返答は炎を発生させる魔法だった。

 うーむ。流石にいきなり目の前の次元に穴を空けて現れた人物が、忘れ去れらたはずのフェニックス家を知っているのは怪しかったか。


「害を加える気はないんだけども」

「そう言ってきた奴を、何人も消し炭に変えてきたわよ」

「そりゃあすごい。不死身だからこそできる自爆戦法ってやつか」


 炎を発生させる魔法陣であることには違いないんだけども、彼女が使っているのはどう見ても自爆魔法なんだよね。だって、魔法を発動させた瞬間に彼女の身体に罅が入るのを見たし。自爆の魔法があるのだって、戦争の前線で何回も見たし。

 ただ、この少女はフェニックス家の生き残りで不死身の身体を得てしまったと言われていた通りらしいので、その身体を生かして自爆戦法を使っているみたいだ。


「あ、また爆発した」

「き、効いてないの!?」

「効いてないんじゃなくて、そもそも当たってないんだけども……細かく自分の魔法に関して教えると思う?」


 まぁ、別に自爆が当たったところで痛くも痒くもないんだけどね。俺は痛くなくても、衣服が汚れるのは嫌だから当たりたくはないんだよ。魔王様のご衣裳ですとか言われて着てるけど、この黒い法衣みたいな奴結構気に入ってるから。

 自爆した端から、爆炎の中でチカチカと光ながら来ていた服も同時に再生しているのを見る感じ、どうやら再生するのは死んだときの全てがそのまま再生するっぽい。


「羨ましいな……」

「不死が羨ましい? それは死ねる奴のくだらない考え方ね。そう言って私のことを研究しようとしてきた奴を何人も見てきたわ」

「そう」


 別に彼女の生い立ちに全く興味なんてない。正直、彼女をなんとか説得してフェニックス家を一度再興させてしまえば、バーナーは俺に協力してくれるんだから。彼女の不死の力にも、彼女の名前にも興味はない。ただ、服が直るのだけは羨ましいと思う。


「死ねっ!」

「……血気盛んだなぁ」

「くっ!?」


 今度は至近距離まで詰めてきて自爆しようとしてきたので、適当に上からの重力を強めて動けないように地面に貼り付けてやった。そしたらそのまま自爆しやがった。


「……覚悟決まりすぎでしょ」

「このっ!」

「はぁ……どこまで精神が耐えられるか見ものだな」


 正直、こういう人道的じゃないことは気が向かないんだけど、今更そんなことを言っても仕方ないので、心が折れるまで放置しておくか。




「ぐぅっ!? がはっ!」

「ん?」


 彼女が余りにもしつこいので、適当に体感時間の進みが数万倍の空間を創り出して放り込んで、その中でそのまま放置していた。なにもない空間でただ放置されたのはそれなりにきついらしい。俺は外で数時間読書してただけなんで、特に疲れてもないけど、彼女はもう動けないみたい。


「さ、さっきまで、のは」

「現実だよ?」

「ひっ!?」


 この怯えようだと、かなり精神に来ているらしい。まぁ、死なないからと言って、気が遠くなるような時間の間なにも見えない闇の中に放置されれば、精神にも来るか。


「あ、あなたは……何者、なんですか?」


 恐怖でまともに言葉も喋られなくなったんじゃないかと思ったけど、怯えながらもこっちの目を見て話している。流石に不死身の身体に付き合って生きてきただけあって、メンタル回復は早いな。


「俺は? 魔王だよ」

「ま、魔王……生き残りの、私を……殺しに来たんですか?」

「いいや? 多分君のことは殺せるとは思うけど、それとはまた別の用事だよ」


 不死身の存在は前に殺しちゃったしな。先代の魔王だけど。それでも、どうやら先代の魔王よりも目の前の彼女の方が、不死としての力は強そうに見える。本当に殺せるかどうかは微妙……いや、殺せるな。いやいや、そんなことはどうでもよくて。


「不死鳥バーナーがね、フェニックス家を再興させろってうるさいのよ。だから君を探しに来た訳で、別に君自身には興味がないんだ……用事があるのはフェニックス家の名前だけ」

「不死鳥、様が?」

「そう、君たちが祀っていた不死鳥様が、ね?」

「……わかり、ました」


 ふーむ。どうやら、想像以上にさっきの拷問紛いの空間が堪えたらしい。不死身の身体を持っていても、精神的な苦痛にはそこまで強くない、と。精神的な回復は早くてもショックには強くないらしい。不老不死になるってのも案外不便なんだな。人間からすると夢のような話だと思うけどね。


「じゃあ、魔王城に帰ろうか。どうやってもフェニックス家を再興してもらうからね」


 すごい絶望的な表情を浮かべている気がするけど、別にそこまで酷いことを言ってるわけじゃないんだけどな。まぁ、酷いことはしたけども。それとも、フェニックス家だからやっぱり魔王は信用できないのかな? まぁ、普通に拷問みたいなことしておいてなんだけどさ。

 来た時と同じように次元に穴を空けて魔王城の自分部屋と繋げると、丁度メイドさんと目が合った。


「やぁ、メイドさん。彼女を少し休ませてあげてくれないかな?」

「……誰ですか?」

「フェニックス家の生き残りさん。詳細は骨に聞いておいてね」

「わかりました。では、こちらへどうぞ」

「は、はい」


 彼女はメイドさんに預ければオッケーで、そうしたら次は骨と話し合ってフェニックス家をしっかりと再興させる方法を話し合わないとな。まぁ、出かける前に言っていた、俺と結婚するってことにしておいて、魔王の権力を使って無理矢理再興してもいいけど、嫌われそうだしなぁ。まぁ、今更だと思って我慢してもいいけどね。


「ほねー」

「何用ですか?」

「フェニックス家再興」

「おや? 嫌がる女性を無理やり娶って再興するのでは?」

「言い方」

「それでは、没落した家の少女が見初められて一気に王妃へ、ですか?」

「うわぁ……てか、それやってもそもそも没落させたの魔王じゃん」


 とんだ酷いマッチポンプもあったもんだ。


「事実など必要ありません。重要なのは、民衆から支持を得られるかどうか、です」

「まぁ、確かにね」


 じゃあ別にかわいそうな子が魔王に見初められて返り咲く、でもいいか。俺はバーナーからの協力が取り付けられるならなんでもいいし。

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