宰相の内側
「骨、お前の家がフェニックス家を潰したって聞いたんだけど、本当?」
「…………どうでしょうか。フェニックス家が潰されたのは随分と前のことですし」
四精霊に協力を取り付けてくると言って、魔王城を飛び出していったはずの魔王様が、何故か私の前にいる。彼はそれこそ神話に出てくる原初の神にも匹敵するのではないかと思うほどの力を有しているようなので、転移の魔法が難なく使えても納得はできるが、急に来られては驚いてしまう。
魔王様が言っているフェニックス家を潰したのがダンタロッサ家……つまり私の出身であるとの情報だが、恐らくは炎の精霊である業火の不死鳥バーナーから聞いたのだろう。そして、それは紛れもない事実だ。
そもそも、ワイト族の長であるダンタロッサ家の当主は、代々敵を亡き者にして成り上がってきた。それは当時の魔王であったり、権力闘争で敵対する魔族であったり、あるいは精霊であったりと。その中で潰されたのが、バーナーを祀るフェニックス家だった。
「その口ぶりからすると本当みたいだな」
「……どうしますか?」
「別に? お前がやった訳じゃないからな」
確かに、そうだ。
魔王様に疑われるようなことをしてきた自覚はあるが、少なくともフェニックス家が潰された話に私は関与していないし、そもそも生まれてすらいない。その罪が当主である私には無関係であるかと言われればそうではないが、直接的な関与はないのが事実。
「フェニックス家の生き残りは?」
「……最後の当主の、娘が生きていたはずです」
「かなり前の話なのに、本人が?」
「行方知れずですが……不死の力を持ってしまった、とか」
「なるほどね」
不死鳥バーナーを祀っている一族の生き残りが、不死の力を持った存在と言うのは実に興味深い話だ。しかし、一切姿見つかっていないのだからこの好奇心を満たす方法はない。
それにしても、急にフェニックス家の話を始めたと言うことは、バーナーの協力の条件にはフェニックス家の再興が含まれていたのだろう。過去のダンタロッサ家が何を思ってフェニックス家を潰したのかは知っているが、後世にこうも影響を残すとは思ってもいなかったろう。いや、そもそもここまで強力な人間が魔王となり、精霊と手を結ぶとは思わなかったが故の失態だ。
「探させます」
「いい。俺が探す」
「どうやって?」
「世界中を覗けばいいだろ」
魔王様が、何を言っているのかわからない。世界中を覗くと言うのは、どういう意味なのだろうか。もしかすると、私の知らないような魔法でフェニックス家の生き残りを探すと言うのだろうか。
「世界を上から俯瞰して、全て探って行けばいい……そうすればいずれは見つかる」
「そんなことが、可能なのですか?」
「魔法に不可能なことはない。想像さえできればな」
ならば、魔王様の頭の中には何が想像されているのだろうか。少なくとも、私には世界中の全てを想像するなど不可能だ。そもそも世界中に存在する魔族に限定したところで、しらみつぶし現実的ではないだろうし、そんなことができる訳がない。
「そんなことはできない、実現できるはずがない。そういう考えが魔法を阻害する」
「……」
「凝り固まった考えを変えてみるといいよ。魔法の探究を続けるつもり、ならね」
魔王様は、魔法の探究をしているのだろうか。そして、この方は私が裏で魔法を使った世界の探究をしていることを知っている。メイドであるアリスなど比べものにならない程、この方は私のことを理解している。
アリスは恐らく、私のことをただの怪しい存在だと思っているが、この方は私がなにを思ってなにをしているのかまで正確に把握している。
「真理の探究者に碌な奴はいないって、勇者候補様と旅をしている時に思ったんだ」
「それは、人間の魔女の話ですか?」
「そうとも言うな」
人間側に「真理の探究者」と名付けられた女性がいることは知っていた。私の能力を使えば、人間の偵察など容易にできるからだ。魔王様が元々真理の探究者と共にいたことなど知らなかったが、この言いようでは私と似たような性格なのかもしれない。
「骨、お前は……世界をどうしたいとかあるか?」
「世界を?」
「お前が探求している真理がもし、世界を滅ぼすほどのものだったら? お前は探索をやめるか?」
「まさか」
ありえない。たとえ世界が滅びようとも、世界の真理を解き明かすことができるのならば私は易々と一線を超えるだろう。それがたとえ、魔王様を殺すことになろうとも、私は微塵も振り返ることはないだろう。
魔法使いとは、種族関係なくそうあるべきだと私は思っている。
「だろうな。やっぱり性格悪いはお前ら」
「それは……褒めているのですか?」
「どう頑張ったら褒めてると思うんだよ」
魔法使いにとって、性格が悪いは褒め言葉になり得る、と私は勝手に思っているが、どうやら罵倒されたらしい。まぁ、魔法使いではない魔王様には理解されない話かもしれない。それも、魔法使いらしいと言えば、そうだが。
「見つけた!」
「はい?」
「だから見つけたんだよ、フェニックス家の生き残り」
「この短時間で、ですか?」
「そうだけど?」
「会話をしながら?」
「だから、そうだけど?」
魔王様は、自分の異常性をイマイチ自覚できていないと思う。少なくとも、世界中を見渡しても、行方も分からない生命体一つを短時間で発見することは、魔王様以外には不可能だ。
「世界にちょちょっと干渉しただけだよ」
「それが異常だと言うんです」
「ま、俺はこの世界に生きる誰よりも多次元世界に詳しい自信は、あるな」
平然と多次元世界があることを口にしてしまう魔王様が、恐ろしい。
「それで、フェニックス家をどう再興するおつもりなのですか?」
「適当に爵位でも与えたら?」
「魔族の爵位は既に廃止されました」
「サー・骨くん、細かいことは気にするな」
「魔王様、真面目に考えてください」
やはり、肝心な所でしっかりとするのに、それが終わればいつも通りになってしまうのが魔王様の欠点だ。
「方法が無いんだったら、最後は書類上だけでも俺の嫁にして、魔王の特権で再興でいいじゃん」
「具体的な案ですね。それで考えておきます」
「最終手段だからな?」
そう言いながら、魔王様は次元に穴を空けて移動していた。
まぁ、あれほどの具体的な案があるのならばそれでいいだろう。没落した元名家の魔族が、魔王様に見初められて王妃になる。これほど庶民受けする話も、ないだろう。
あぁ……魔王様は、どこまでこの世界を混沌としたものに変えてくださるのだろうか。今から、楽しみで仕方がない。
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