魔王の登山

 俺は現在、常に火山活動が止まらない死の火山アルス火山を登っている。とは言え、魔法を使えば簡単に熱は防げるし、正確には歩いているんじゃなくて飛んでるから疲れもしないんだけども。

 というか、今更なんだけども空を飛ぶぐらいだったら普通に「門」でも開いて火山の中心部まで行けばよかったかもしれない。まぁ、もう中心部まで到達したから意味のない話なんだけども。


『魔王か。こんな火山の中心部までやってくるとは、よほどの狂人と見る』

「なんなの? 魔王に対して狂人って印象ある?」

『ある』


 あるかぁ……そこであるって返されるとなんも言えないな。

 火の粉をまき散らしながら翼を揺らす業火の不死鳥バーナーは、なんか投げ槍な感じで喋っている気がする。土を司る精霊タイタニスの話によると、バーナーは元々魔族のフェニックス家によって祀られていたと聞いた。そして、俺が魔王として書類で知っている情報では、フェニックス家は随分と前に戦争もあって没落してしまって、生き残りがいるかどうかもわからないことになっている。


「あー……狂人の魔王に手を貸して欲しいんだけど」

『狂人に手を貸す馬鹿がいると思うか?』

「いない、かも?」

『わかったら帰れ。私は気分があがらないことはしたくない』


 パリピかな?

 いや、フェニックス家はバーナーを祀り感謝を伝えるために派手なお祭りをしていたらしいことは知っているけど、まさかそれがお気に入りなパリピとは思わなかった。けど、これは交渉の条件に使えそうだ。


「俺は魔王だ」

『知っている。見ればわかる』

「魔族に対して絶大な権力がある」

『人間の魔王にそこまでの権力があるとは思えないが……戦時中の今なら力のあるお前に権力があるのも納得できる』


 いい具合に食いついてきてくれてるな。このまま俺に有利な交渉をさせてもらおう。


「魔王の権力を使えば、フェニックス家を再興できるかもしれない」

『できるのか? お前の権力だけで?』

「できるかもしれないと言っただけだ。何が具体的に何が原因でフェニックス家が没落したのかも知らないし、フェニックス家がそもそも生き残っているのかも知らない」

『…………いいだろう』


 いや、まだ説明終わってないんだけど。


『お前の言いたいことは大体わかった。フェニックス家を再興できるかもしれないから、それを条件に私に戦争へと参加しろと言うのだろう? 魔王らしい悪辣さじゃないか』


 魔王嫌いすぎでは?

 もしかしなくても、フェニックス家が没落した理由は過去の魔王にありそうだな。でも、ここで諦める訳にはいかない。


「タイタニスとヨーグルには既に協力を約束してもらっている。四精霊に頼みたいのは、敵の殲滅じゃなく戦争の終結の協力だ!」

『あの堅物巨人とお気楽魚が?』

「や、お前ら実は仲が良いだろ」


 堅物とお気楽はもはや罵倒レベルだろ。一周回って仲がいいだろ実は。


『ふむ……タイタニスが信用したのなら、私もある程度の信用を向けよう』

「タイタニスって、そんなに信用あるの? お前らのリーダーなの?」

『私たちに上下関係など存在しない。ただ、タイタニスは私情を捨てて行動する奴だからな。私たちの行動指針にされることが多い』


 それ、ただの苦労人では? まぁ、タイタニスは特に気にして無さそうだけども。自分の信じた摂理に従って動いて、他の精霊がなにか言っても知ったこっちゃない、みたいなイメージ。だから堅物とか言われてるんだろ。


『魔王の名に置いて誓え。フェニックス家を必ず復興させ、祭りを再開させるとなと』

「あー……いいけど、俺は魔王の名前にそこまで興味ないぞ?」

『やはり悪辣だな魔王。人間の癖に実に魔王らしいぞ』

「あはは……あんまり言い過ぎると殴るからな」


 俺だって気が長い方ではないと自覚しているから、あんまり怒らせるようなことばかり言われると普通に殴りたくなる。まぁ、それはバーナーも理解しているだろう。


「そもそも、何が原因でフェニックス家が取り潰されたのか知らないんだけど」

『取り潰された訳ではない。戦争の最前線に全員送られただけだ』

「それを取り潰したと言うのでは?」

『継ぐ者がいなくなっただけで、家が消された訳ではないから取り潰されてはない』


 細けぇなぁ……こいつも堅物だろ。

 まぁ、魔王の怒りを買ってフェニックス家は全員が戦争の最前線に送られて、実質的に流刑されたみたいなものか。


『送られた理由は……魔王に謀反を起こそうとしていることが嗅ぎつけられたからだ』

「自業自得では?」


 いや、王様に謀反を起こそうとしたら一族郎党皆殺しにされるのは当たり前でしかないだろ。


『違う。真相は私の存在を鬱陶しいと思った他の魔族が、フェニックス家を嵌めたのだ』

「そういうことなら、納得できるかもしれないけど……魔王にそれが信じられるぐらいには反抗的だった訳だろ?」

『当たり前だろう。そもそも、代々魔王は四精霊のことを敵視しているのだからな』

「休戦協定結んでるのに?」

『それはそちらに勝手な押し付けだろう』


 魔族と四精霊の問題は結構根が深そうだな。まぁ、人間である俺には関係のないことだけど。

 フェニックス家が潰された理由は大体理解した。つまり、バーナーを邪魔だと思った魔族が祀っているフェニックス家を陥れ、バーナーの精神的なダメージを狙ったってところか?


「結局、フェニックス家だけを狙ってバーナーを狙わなかった理由は?」

『不死鳥の意味を調べてこい』

「あー、成程」


 文字通りの意味で不死鳥のバーナーに喧嘩を売るなんて無駄なことは、しなかったということだ。なんともくだらない話だが、当事者であるバーナーとフェニックス家からしたらたまったものではないだろうな。


「わかった……できるだけなんとかしてみるよ。うちには性格は悪いけど優秀な宰相がいるからな」

『……ダンタロッサ家を無条件で信用するなよ』

「ダンタロッサ?」


 いきなり知らない家の名前を出されても、俺には何がなんだかわからないんだが?


『お前の宰相だ。ワイト族の長であるグリューナル・ダンタロッサが、お前の宰相だろう?』

「……そんな名前だった気がする」

『気を付けることだな。フェニックス家を陥れたのも、ダンタロッサ家だ』


 バーナーの言葉に、俺は盛大なため息を吐いてしまった。

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