魔王の行動

 骨に四精霊の居場所を調べるように言ってから二日後に、骨が俺の部屋にやってきた。当然のように俺の部屋で掃除と仕事をしているメイドさんと共に、骨を迎え入れた。


「四精霊の居場所が判明しました」

「……もう?」


 頼んでからまだ二日だよ? もうちょっとゆっくりさせてもらってもいいかな?

 頼んだのは俺だから仕方ないとは言え、骨が有能すぎるのも考え物かもしれない。


「タイタニス、ヨーグル、バーナー、トレイスの居場所はそれぞれこの地点になります」


 ふむふむ……よくわからん高い山、近くの真っ黒な海、ずっと噴火してる火山、砂漠のど真ん中、と。なんでどいつもこいつも辺境に住んでるの?

 精霊だからだろうな。よくわからないけど。


「会ってどうなさるおつもりなんですか?」

「そりゃあ……協力してもらうんだよ。俺が戦争で前に出なくていいように」

「は、はぁ?」


 何を言っているんだか。人間にも魔族にも味方しないなんて言われている四精霊は、人間側の王国もずっと動向を追っていた。なにせ、一体でも魔王と比肩するような力を持っているなんて言われているんだ。それが四体もいるんだから、味方にしようと思わない方がおかしい。ま、王国側は仮に協力を約束しても魔族を滅ぼしたら次はお前らだーってやるんだろうな。モンスターは絶対に許さないって宗教だし。


「まずは……巨人からかな」


 順番はどうでもいいけど、一番の問題児が蛇だということは知っている。

 巨人、魚、鳥、蛇がそれぞれ地水火風の属性を司っているけど、実際この四精霊同士の仲はいいのだろうか。まぁ、会ってみればわかるか。


「大地の守護者タイタニスは、レメロン山脈におります」

「へー」


 魔族の国の山脈の名前とか言われても知らね。そもそも、魔族がこの国をなんて呼んでいるのかも知らないし。興味もあんまりないんだけども。

 現在は人間と魔族の戦いも落ち着いているから、次の戦いが始まるまでに四精霊の協力を取り付けよう。本当に協力してくれるかどうかはわからないけど。


「じゃあその……なんとか山脈に行ってくるわ」

「お気をつけて」

「ご、護衛とかは?」

「いらないでしょ。いる方が邪魔」


 実力的な問題でもね。でも、それ以上に人間の魔王ってだけで警戒されるのに、それで魔族まで従えてますよみたいな態度で行ったら、多分難癖付けられる。いや、四精霊の性格なんて知らないけど。邪魔って言うのが一番の理由ではあるけども。

 そうしたら善は急げだ。さっさと出発しよう。


「あ、待ってください魔王様!」


 なんか制止されている気がするけど無視だ無視。俺は魔王だけど、怠惰で働かない魔王だからな。


 なんて飛び出してきたけど、別になにか計画性があって出てきた訳じゃないから、本当に話し合いだけで済むかな。目の前に山脈が見えている状態で考えても遅い気がするけど、いいか。なるようになるだろ。


「よし」

『……魔王、か』


 山に向かって足を踏み入れようとしたら、いきなり声を掛けられてしまった。視線を上に動かすと、なんかすごい大きい巨人が山の影からこちらを見つめてきていた。黄土色の巨人で、この山脈に住んでいる。間違いなく、こいつが大地の守護者、地の属性を司る四精霊の一体、タイタニスだろう。流石に協力を頼む相手の名前は覚えた。


「おーいタイタニスさんよー」

『魔王が、ここにやってくるのはどれくらいぶりだ。私に何の用だ』


 どうやら、タイタニスは結構話が通じるタイプらしい。それにしても、魔王がやってくるのは久しぶりってことは、魔族は勝手に相手は敵って言って歩み寄っていなかっただけではないのか? これなら、人間側もさっさと四精霊と手を組めばよかったのに。


「協力して欲しいんだよ。人間との戦争も、そろそろ飽きてきた頃でさ!」

『……いいだろう。そもそも、私たち四精霊は元々属性を安定させるために初代魔王によって生み出された存在。魔王の命令に逆らうことなど、あり得ない』


 え、そんな感じなんだ。なんか四精霊は世界が生まれた時から存在しているとか聞いていたけど、どうやら違うらしい。歴史なんて好き勝手に書き換えられているってことか。なら、間違った歴史が書かれたものは直しておかないと。具体的に言うと、魔王城の地下に閉じ込められているあの腐れ邪神様の頭を叩いておこう。


『私以外の精霊は、魔王の言うことなど知ったことではない、と言うだろうがな』

「じゃあ君だけ良い奴なんだ。俺が人間だってわかってるのに、従ってくれるってことでしょ?」

『魔王の肩書を持つ者であることに、種族など関係ない。魔王は、ただの魔王だ』

「そっか」


 やっぱり、タイタニスは話の通じる良い奴だ。骨もこれくらい素直に協力してくれればいいのに。


『だが、我々四精霊の力を借りれば、すぐに戦争が終わるという訳でもないだろう。どうするつもりだ?』

「そこは追々考えていくけど、相手を殲滅するようなやり方は遺恨が残ると思うんだ」

『遺恨か……1000年も続けておいて、何を今更といった話ではあると思うがな』

「まぁね」


 たとえ、今から俺が超パワーを使って魔族と人間の戦争を止めたとしても、1000年間憎み合って殺し合ってきた歴史は消えたりしない。根本的な部分すら失っても戦い続けているのは、欲の感情だけじゃないはずだ。たかだか数十年しか生きられない人間の寿命で欲の感情が1000年も長続きする訳がない。そこにあるのは、世代を超えて受け継がれてきた憎悪の感情。


「でも、行動しない方が問題でしょ?」

『……そうだな。ならば私も進んで協力しよう。この戦争を終わらせるのは、今の時代に人間でありながら魔王となった貴方であるべきだ』

「ははは……」


 人間嫌いの人間魔王が戦争を止めるべき、か。なんとも皮肉な話に聞こえる。しかし、これでタイタニスの協力は得られた。恐らく、四精霊にとっても戦争は面倒なものになっているはずだから、協力は得られると思っていたが、ここまでスムーズになんの条件もなく協力してもらえると思ってなかった。たまには他人の善意も信じてみるものだ。

 正直、怠惰からほど遠いことをしている自覚はあるけど、後々俺が魔王として仕事を放棄する為にも四精霊の協力は必要不可欠。それは力の問題じゃないので、俺にはなんともしようがない。

 そう、これは俺が未来でだらだらする時間を確保するための労働だ。そう思って頑張ろう。

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