第2話 店のルール
「伯父さん、これ」
「ありがとう!母さんの味の佃煮が好きだから頼んだんだよ!龍の母親は、昔から料理が得意だからな」
伯父さんは、俺が持ってきた母の佃煮を喜んでくれる。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ああ!今日から、よろしく頼むよ」
「わかってるよ」
俺は、伯父さんに見送られながら病室を後にする。
病院を出るとスマホで、伯父さんの店を目指して歩き出す。
【目的地に到着しました】
俺は、伯父さんの店を見つめている。普通だ。
特に変わった所なんて何もないように思う。
(あっ、そうだ)
俺は、昨日撮った伯父さんの動画を再生する。
【1つ目、店についたら、店の前にある犬の置物の頭を撫でる】
(よくわからないルールだな)
俺は、店の前に番犬のように座っている石の置物の頭を優しく撫でる。
「今日から、よろしくな!」
俺は、置物の頭を撫で続ける。
(売り上げに影響するとか何だろうか?)
【いらっしゃいませ】
石の置物が、突然喋った。
「わっ!ビックリした。センサーか!よく出来てるな」
俺は、店の鍵を開ける。
【二つ目、店に入る時は必ず左足から!】
俺は、左足から店に入る。
【三つ目、入ったらすぐに真ん中の試着室のカーテンを閉めに行く】
俺は、試着室を探して歩く。
「あった!これだな」
シャアーーっと試着室のカーテンを閉めた。
特殊なルールは、これぐらいだろうか?
俺は、はたきをかけたり掃除機をかけたり、トイレ掃除をする。
そうだ!特殊なルールはまだあったんだ!
俺は、伯父さんの動画をもう一度再生した。
【Tシャツが納品されたらTシャツメーカーで印刷をする事、その時最後に【龍】とスタンプを必ず手で押す事】
「あっ!これか」
俺は、龍と書いてあるスタンプと隣に置いてあるインクを手に取る。
「このインクじゃなきゃ駄目だって、伯父さんが言ってたよな!」
俺は、続きを再生する。
【おもちゃは、必ず絵の具で色を塗ること】
「この油性絵の具だよな」
絵の具の種類は、全部で10種類だった。
絵の具が切れたら、伯父さんの友達の茨木(いばらき)さんの所に取りに行かなきゃ行けないんだよな!
それと、ズボンはazumaで買わなきゃ行けない事とおもちゃはタチバナで売ってるおもちゃと伯父さんの友達の立花勝(たちばなまさる)さんが作っている竹とんぼやパチンコを中心に仕入れて来いって話だったよな……。
「よくわかんないな……」
俺は、伯父さんの店を見渡す。
確かに、母が話したように独特なお店なのがわかる。
服屋って言うわりに、何故かおもちゃも置いてあるし……。
そして、オリジナルで作っているTシャツは、母が言ったように、確かにダサい。
何故かTシャツに【俺は、勇者だ】と書かれているのかが謎である。
【最強の防具です】このロングTシャツは、何を言いたいのかが全くわからない。
【level99でしか着れません】俺は、そのTシャツを見つめる。
「level99って何だ?俺がやってるゲームみたいだな!」
これは、伯父さんの趣味なのだろうか?
どう見たって、お洒落ではない。
そして、何より大切な事は、【12時から夜中の12時まで必ず店を開けること】と言われたのだ。
12時から12時って、この働き方改革と言われてる時代にブラックだと思った。
そして、【最初の一週間は、必ず毎日開けること】と言われて尚更ブラックな職場だと思った。
「とりあえず、約束した以上は守らなきゃいけないよな」
やる気は、ほとんどなかったけれど……。伯父さんのキラキラした目を思い出すと嘘をつくわけにはいかなかった。
俺は、12時になったから店を開く。
そして、真夜中の12時になったので閉店した。
1日開けて思ったのは、お客さんが一人も来ない店だったという事だった。
俺が帰宅すると母は起きて待っててくれていた。
「お疲れ様!ご飯温めてあげるわね」
「ありがとう」
俺は、母に働いていて疑問に思った事を話す。
「伯父さんって、あの店だけしかしてないんだよね?」
「してないわよ」
母は、俺にカレーを出してくれる。
「あんな暇な店で、よくやっていけるよね」
俺の言葉に母は驚いている。
「えっ?!あの店って暇なの?」
「えっ?今日開けたけど、誰も来なかったんだけど……。俺、1日中、動画見てたし……」
「え?そんなはずないわよ!伯父さん、戸建てもキャッシュで一括返済出来るけど、ローンにしたって言ってたから……。今日、たまたまだったんじゃない?」
たまたま……?俺には、そんな風には思えなかった。母も、顎に手を置いて何かを考えているようだ。暫く考えてから、俺は母に話しかける。
「あのさ、もしかして、伯父さん、借金とかあるのかな?」
「まさか!あるわけないわよ」
「本気で言ってる?」
「本気よ!それに、ほら伯父さんがいないから入りにくかっただけよ。そのうち、来るわよ。お客さん」
「そうだよな……」
母にそう言われて俺は納得する事にした。長かった今日一日がようやく終わり、俺はシャワーを浴びて眠りについた。
俺は、次の日、また伯父さんの病院へ行き、母の作った煮物を届けてからお店を開けに行った。
母は、たまたまだと言っていたけれど……。
やはり、暇な店だ!俺は、今まで見れなかったドラマを全話見終わった。
そして、新しい映画やドラマを見ていた。
そんな生活を俺は、一週間続けたけれど……。
一度も忙しくなる時は、なかった。
この日の俺は、今までの疲れが溜まっていたせいで朝からとにかく眠たかった。
「ふぁぁぁーー」
欠伸をしながら、俺はレジに座っていた。
「本当に暇だよなーー」
この、一週間でやって来たお客様は、二人だ。
その二人は、何も買ってくれずに帰って行った。
思い切って、模様替えしてみたらいいんじゃないのか?
この独特な雰囲気を嫌って、みんな入りにくいんじゃないのかな?
明日、伯父さんに言ってみようかな……。
俺は、眠気が襲ってきて眠ってしまった。
・
・
・
「それは、よくないではないか?」
「こっちが欲しいのだ」
「それ、いいなーー」
あれ、テレビ消し忘れたのかな?
俺は、ゆっくりと目を開ける。
「え!えぇー」
俺は、店内を見て驚きすぎて声をあげてしまった。
いつやってきたのだろうか?
ダサいTシャツを来て、おもちゃを持ってるお客様が店内にいっぱいいる。
「何だ?仮装パーティーか?」
よく見ると、耳が尖っていたり、尻尾がはえていたり、怪獣みたいな奴もいたりする。
「あれ?ハロウィンって秋じゃなかったっけ?」
俺が、ポツリと呟くと……。
「おい!お前、誰だ?」
声しか聞こえない。
「ここだ!見えないのか……」
俺は、その声に下を覗き込んだ。
何故か、3歳ぐらいの女の子が一人でいる。
「あれ?お母さんは、どこにいるのかなーー?」
俺の言葉に女の子は、怒り出す。
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