第13話 

「おい、親父。良からぬ事を考えてないだろうな?」


 菜々緒は家の台所で、八臣が買った食材を洗う。



 八臣はその横で材料を切る。


「あら、大チャンスなのに棒に振るの?」


「……今までの話の流れで言えば、勘当解除の打って付けとしか思ってないだろ?」


 呆れながら言う菜々緒。



 八臣は頷く。


「あら、バレちゃった?---そうよ?」


「……オレは別に勘当されてても構わん」


「そうもいかないのよ〜」


 菜々緒は納得していない顔だが、


「……はあ。---確かによ……。家族親戚に恩はある。いつまでも突っぱねる訳にはいかんのも判る。けどよ……。---二度と敷居を跨ぐなって言ってくる相手になんでこっちからヘコヘコせにゃならん」


 少し、お怒りモードである。



 八臣は、


「後継人パワーでそこは何とかするから……」


 と言うが、


「だから、何でオレに拘るんだよ……」


 菜々緒は困り顔で言う。










 夜弥美は、真飛流とカトレアの妊娠報告を素直に言い、父親は自身だとも明かした。


 しばらく呆ける菜々緒と八臣だったが、菜々緒は直ぐに気を取り戻し、真飛流に電話。


 そこで事実確認と、検査結果の画像を送って貰い、認識したのである。



「くっそー、やられた。カトレアにまで」



 カトレアに至っては病院へ行く前、簡易検査薬で陽性反応の出た代物と2ショットをしている画像をも送ってのである。


 菜々緒と夜弥美へ。



 これに八臣は、『チャンス』だというが、菜々緒は深刻そうな顔をして、しばらく考え込む。


「---と、とりあえず、家に帰ろうぜ。遅くなっちまう」



 その菜々緒の一言で、喫茶店を離脱。


 そのまま、3人は夜弥美達の家に帰ったのである。





 菜々緒はそれからずっと上の空である。


 その真飛流から直接連絡を取った際に、


「ヤミ君の『性欲処理とその管理』任されたけど、どう言う心変わりなんだか……」


 と、感心しつつ警戒している様子である。


「---まぁ、同時にカトレアとそうして孕まされたからには、もう今更、ヤミ君が誰をどう選ぼうか気にならんのかなぁ」



 これに八臣は、野菜を切る手を止めて、


「都合の良い話じゃん。射精管理してあげようよ?」


 と、乗り気であった。


「---そうなると、わたしも参加して良いのかしら?」


「おい!」


 菜々緒はいつもの冗談かと思い、軽く突っ込む。



「あはは……。冗談よ。---羨ましいけどね」



 少し寂しそうに言う八臣。


「---どこか良い男、居ないかしらねぇ〜」



 これに少し間が開くが、八臣が自身で空気を取り繕う。



「と、兎に角!菜々緒ちゃんは今がチャンスよ!」









 と言う訳で、冒頭に戻る。





 八臣が菜々緒のそれに拘る理由。


「……わたしの後継人としての役割が終わるからよ」


 静かに言う八臣。



 菜々緒は呆れる。


「はあー……。納得はせんけど、最初からそう言えば良いのによ」


「色々あるのよ」


「そうか」


「ちなみにわたしが結婚、若しくは妊娠しても後継人の任は解かれるわ」


「へー」


 菜々緒はあまり興味がなさそうであるが、


「---……オレのヤミ君を狙うのか?」


 これに八臣は否定する。


「まさか。---真飛流ちゃんに何言われるか判らないわ」


 八臣のセリフに驚く菜々緒。


「……、『誤差でいけるとか』親父、言いそうなのになぁ」



 これに八臣は半ば呆れる。


「貴女、自分の父親を何だと思ってるの?」


「従姉妹のねーちゃん」


「いや、まぁ、確かにそうだけど……」


「オレから彼氏とか仲の良い男とか、寝取ったり食い漁ってた癖に」


「あら、バレてた?」


「ったりめーだ」


「ま、男なんてそんなもんよ。1回ヤっただけで彼氏面。特に、貞操観念古い貴女から寝取るのは簡単だったし」


 自慢気に言う八臣。



 菜々緒は、


「だろうな。---別に悔しくはなかったけど」


「……癪に触るね、ホント」


「んだよ、勝手にライバル視すんなよ」


「実際そうじゃない!モテるの貴女だし、わたしが目を付けてた男、皆んなごっそりあんたへ目が行くから腹が立つになんの!」


「でもよ、そうしてオレが当て馬になったお陰で付き合えてんじゃねぇか?」


 これがスイッチになったのか、八臣の雰囲気が変わる。


「貴女のそう言う所が嫌いないよ!自動的に男が寄ってきて、『オレはオレの事を判ってくれる、本当の理解者しか選ばない』って偉そうに言って。……篩にかけたつもり?」


「かけてねーよ」


「かけてるじゃん!」





 これは話が長くなりそうだと思い、夜弥美は台所で言い合う2人を放って、他の家事をする。


 最も、自身が出した洗い物や、未だ施工出来ていない掃除箇所位だが……。



 それも直ぐに終わり、リビングへ戻ると、菜々緒と八臣の言い合いは終わっていた。


 仲良くカレーを作る続きをしている。



「お、スマンな、ヤミ君。---流石のオレでも見苦しい場面だった」


 菜々緒が謝る。



 八臣も、


「ごめんね、夜弥美ちゃん。---菜々緒ちゃん、そもそも男に興味が無いの忘れてたわ」


 と謝って来た。



 菜々緒は、


「少し語弊があるけどよ。なんだ、その……、『オレはコイツと心の底から仲良くしたい』って思う相手を探しきれない、親父と一緒で、男を見る目が無いだけ」


 と、喧嘩の結論らしき事を言う。



 これに八臣は更に言う。


「だから、菜々緒ちゃんがお熱の夜弥美ちゃんの存在って凄く珍しい、初めての事よ〜」


 夜弥美は「そ、そうですか」と短く相槌を打つ。



「そーよ。本来であれば寝取りたいところだけど、大前提が真飛流ちゃんの彼氏、むしろ婚約者相手に寝取るなんて、とてもとても……。---寝取る事なんて」


 何か含みを感じるが、気にしない。


「ま---。そゆこと」



 真飛流のお陰で、新たな痴情のもつれが回避出来たが、少し複雑な気分な夜弥美であった……。


(結局は真飛流のお陰……か)




 翌日。



 一晩泊まっていった八臣は早朝、


「んー、ちょっと体調が悪いのかな……」


 元々早起き体質であるが、起きてから頭がぼーっとして少し気持ちが悪いと言う。



 用事自体は終わっているので、朝ごはんを一緒に食べてから、八臣は足早に去っていった。





 夜弥美は本格的に『ダイニング』の都市にて、菜々緒達と一緒にしばらくの間、活動拠点になるので、その準備を始める。


 話の折り合いは菜々緒が一旦、ダイニングへ戻ってからする。


 正式に決まってから、行く事になるので、実際は掛かる時間は未知数である。


 それも、真飛流とカトレアもその内、戦線を離脱する事にもなる話もあるからであえる。





 菜々緒は荷物を抱える。


「んじゃ、また連絡するから」


 そう言って、菜々緒は足早に去って行った。



(……さ、僕もそれまで頑張らないと)



 そう思いながら、興味アルバイトへ行く。


 酒屋さんで配達業務を。









 ---菜々緒さんがいきなり『妊娠した』とか言って、パーティー解散の危機はヒヤヒヤしたなぁ。


 僕自身も勇者になる夢諦めかけたりしたし。


 真飛流とも……一度は別れる形になったとは言え、やっぱり僕は真飛流が好き……。


 カトレアは……まぁ、うん。


 可愛いとは思う。


 僕の見た目だけが良いって言うを交えて言えば、カトレアの方が好みなのよねぇ〜。


 ……あのまま、真飛流と完全に別れてたら---?



 いや、辞めよう。





 これからの事だ。



 冒険者ランク9。


 勇者の称号が貰えるまで、未だ道のりは遠いけど、菜々緒さんといつかは2人で頑張らなくちゃいけなくなる。


 真飛流もカトレアも、そうなれば年単位で離脱するだろうし。



 不安はあるけど、怖くは無い。



 だって、心強い仲間、現在、勇者ランク1位の菜々緒さんが居るから……。










 1週間後。



 真飛流から電話が掛かってくる夜弥美。


「もしもし?」


『おい』


「いきなり何……?怖い」


『アンタの母親を名乗る人物からコンタクトがあったんだけど?』


「お、おう……。マジか」


『マジ』


『……相変わらず、際どい衣装とか着てた?」


『その前に、良いニュースと悪いニュースがあるわ』


「またお馴染みのテンプレートを……」


『悪い方はさっき言ったけど、アンタの母親、街中で黒ビキニ姿とかイカれるわね』



 ……。



 「ああ、うん。それは僕もそう思う」



『しかも、見た目が15歳そこらって何?』


「まぁ、魔族ですから……」


『そうよ、驚いたわ。継母って言われるし、よくよく考えたらアンタの家族構成、聞いてなかったわね』


「また説明します……」



『大丈夫、全部聞いたから』



「さいですか……。悪いニュース、ってそれですか?」


『いいえ。アンタの継母が魔族領へ来いって言うのよ。---畜産農家の手伝いしろってね。勇者を何だと思っているのよ……」


「なん……だと⁉︎」



 戦慄する夜弥美。


「それは一体どう言う……」


『説明はあと。良いニュースの方よ』


「お、おう」



『アンタの継母、結婚は認めてくれたわ。---その代わり、酪農家として生きて行ける資格もあるか試される条件付きでね』



 ついでに菜々緒、カトレア、何故か八臣も。



「あ、はい……。何だかごめんなさい。---継母の実家の事で巻き込んで……」


『良いわよ、それで認めて貰えるならね』



 しかしそれは、食用出来る魔獣との激しい戦いである。


 そんな事も知らず、今、夜弥美達は新たな門出が始まろうとしている……。










「あれ、マジでいつになったら勇者になれるんだ、僕……」

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気が付いたら自分以外が勇者のパーティーになりました。 @Minase-Minatsu

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