第11話 

 翌朝。


 夜弥美は1人で寝ていた筈のベッドに、誰かが居るのに気付いて起きる。


「どうして……。どうして……」


 カトレアだった。


「んー……。あー。---おはよう、ヤミ君」


 夜弥美の動きでカトレアは目が覚めたのか、ゆっくりと起き上がる。



 夜弥美起き上がるカトレア薄着姿で中身がほぼ透けていたので、そっぽを向く。


 ブラジャーをしていないのか、慎ましやな胸の形は綺麗で、その頂点の突起物が浮いていた。


 その色も薄いピンク色がかかっている様に見えた……。


 カトレアは「あ」と言って上半身の局部を隠す。


「昨日はありがとう」


 夜弥美は焦る。


「え?何を⁉︎」





「んふふ。内緒」





 カトレアはそう言いながら布団を出る。


 ベッドの脇に置いている服をささっと着て、


「それじゃ、先に降りてるから!」



 展開が判らない夜弥美は徐々に昨日の夜の事を思い出す。



「えっと……。うん。何も思い出せない……」



 悩んでも仕方が無いので、夜弥美はゆっくりとベッドから降りる。


 自身はしっかり寝巻きを着ている。


 恐らく、本当に何も無い……と信じたい。



(何が『ありがとう』だったのだろう)



 夜弥美はそう思いながら、下へ降りるのであった。









 リビングへ行くと、カトレアと真飛流が何かを会話していた。


 夜弥美は「おはよう」と言うと、真飛流は夜弥美に顔を向けて「おはー」と返す。



 この時、カトレアはボソッと、


「なんだか……真飛流様、お母さんみたい」


 と言うので、真飛流はカトレアに向き直す。


「アタシはアンタの母親になった記憶は無い。あ、---それとも、養子でヤミちゃんとアタシの子供に来るなら大歓迎よ。タルトも未だ10代だからいけるける」


 と返すが、カトレアが思わぬセリフを拾う。



「---記憶、か……」



 これに真飛流は気付く。


 カトレアは所々、記憶が抜け落ちている事。


「あ、えっと……。---ごめんなさい。わざとじゃないのよ。菜々緒にも言われるから、つい……」



 カトレアは苦笑いをする。


「ああ、……大丈夫、です。---判って、ます」


 そう言いながら、カトレアは朝食が乗った皿を持って、テーブルへ行く。



 夜弥美はそれを見て、


「真飛流は地雷踏むの好きなの?」


「んな訳ないでしょ……」


「……前科あるし」


 ボソッと言う。



 それに真飛流はビクッと反応する。


「そ、それはそうだけども……。---悪いけどフォローして貰える?」


「……はあ。自分でして欲しい所だけど、判ったよ。---当たり障りの無い辺りでね」


「……ん。……ありがとう」


「埋め合わせしてよねー」


「うん」


 真飛流はそう短く返事をしながら台所へ戻って行ったのであった。









 鈴蘭姉妹のパーティー統合案について。



「あ、おひさー、オクト。---元気?……そう。アタシよー?---驚いた〜?」



『統合を持ちかける』話で事を進める形になった。


 タルト---カトレアも恩がある以上は早々易々と、パーティーを抜けられないだろうと言う話もある。



 現在、真飛流はカトレアのスマホから電話を掛けている。



 真飛流は電話口の向こうが驚きつつも、久し振りの連絡で嬉しそうな音声が聞こえる。


「それで相談なのだけど---」



 真飛流は、先に『カトレアが夜弥美を誘惑と理由を付けて、引き抜こうとしに家に来訪』した話をする。


「そ。アンタの入れ知恵で良いのね?」


 電話口で『うっ』と言う声と肯定する旨、謝罪の声が聞こえた。


「---はあ……判ったわ」


 溜め息を吐きながら言う。


「ま、それが前談なんだけどね。そこから菜々緒と話をして、提案なのだけど---」


 真飛流はパーティー統合案を言うが、オクトが遠慮して、その採択は見送られる事になった。



「そ、判ったわ。うん、気にしないで。アタシも気にしないから。---うん。アタシがカトレア?に言えば良い?……そ。気が変わったら言ってね。じゃ」


 真飛流は電話を切る。



 そのままカトレアに向かってこう言った。


「ふう……。---と言う訳で、統合案はお流れ。カトレアもこっちに戻るならご自由に、みたいよ」



 それにカトレアは頷く


「判りました。取り次ぎありがとうございます」


 少し、抑揚の少ない声で。








 夜弥美が朝食中にふと、


「そう言えば、冷淡なキャラモードは演技?」


 と尋ねると、


「んー……。演技と言われら演技かな?元々、そんな感じに喋ってたけど、半分は菜々緒さんの指示だねー」


 そう言われた菜々緒は、


「ああ、そう言えばそうだったな。---タルトが居た組織……下忍もそうした演技力も習うから、完全冷徹キャラでいったらどうだ?って提案したんだ」


 と、軽く経緯を言う。


 それにカトレアは肯定する。


「ま、そんな感じ。---ヤミ君は冷静なボクが好きみたいだけど、ヤミ君が好きな真飛流様は明るい感じだから、どうするか悩んでいる内に、段々キャラ迷子になってきた自覚はあるけど」



 苦笑いをするカトレア。


 夜弥美は、


「生きやすい方で良いんじゃないかな?」


 と言うが、カトレアは「ん」とだけ言って何かを考え込んでしまったのであった。









 と言うのもあって、カトレアは結局、冷静なキャラでいく様にしたらしい……。





 真飛流はカトレアへオクトから言われた事を伝える。


「あ、あとね。菜々緒のパーティーに戻るなら『必ず一言、声を賭けて欲しい』って言ってたわ。恩義を感じるなら、アタシの顔に免じるって。あとはアタシに尽くせば良いってね。---良かったわね、オクトがアタシの後輩で」



 それを聞いたカトレアは驚く。


「そ、そんな割と簡単に話が……」



 真飛流は頷く。


「さっきも言ったけど、アタシの後輩。忠実なシモベだからよ。---ま、あの2人。冒険者家業もアタシの家より金持ちだからお遊びみたいなモノだし、政治家の権力と財閥系の金で、自由気まま、自分勝手にしてるし、多少の事は気にしてないから大丈夫よ。---金持ち喧嘩せず、って所かしら」



 菜々緒はそれを聞いて、


「おい、オレとお前も金持ちの筈なのに---」


「---それは、常にライバルだからよ。特に、今は1人の男を巡って」


「---いや、そうだけどよ。まあ……そろそろ良い年だし、喧嘩なんざ辞めて柔和路線をだな---」


「何よ急に、寄り添って来て、気持ち悪い……」


 本気で嫌悪感を出す真飛流。


「---嫌よ、アンタの言葉には裏がある。考えてない脳筋の様で、計算してるもの」


「……」


 真飛流に言い返され、ムスッとしながら、菜々緒はそっぽを向く。


「……気持ち悪い事言うなし」



 真飛流は続ける。


「ま、アンタがやたら『早く帰りたい』って言うし、血眼になって『早く仕事を終わらそう』とか言うし---」


 そう言いながら、懐から1枚の紙を出す真飛流。


「---こんなんがゴミ箱から出てくるし」


 そこには、『新米勇者育成指導員の指定(案)』とあった。



 菜々緒はそっぽを更に向く。



 真飛流は続けて言う。


「---案だけどほぼ決定よ。未だ、こっちへ本格的に帰るのは難しいわ。---むしろ、ギルド持ちで下宿先か寮をこしらえて貰いたいレベルよ。ホテル暮らしも良いけど、何だか色々目立つのが嫌だし」


「まさかゴミ箱を漁ってまで調べるのかよ……」



 真飛流は呆れながらツッコム。


「いや、何がしたいのアンタ……」



 菜々緒は頭の後ろを掻く。


「いやぁ、隠すつもりは無かったんだけどよぉ……。ボイコットをしたかったのは1つある」


 真飛流は、


「呆れた。---で、もう1つ何かあるの?」


「あ、ああ。……その関係で政治が絡み出して、親父が最近になって急にコンタクト取ってきてよ……。勘当しときながらだぜ?」


「……それが何か関係あるの?」


「ああ、まぁ。な。大アリだ。---オレが政略婚をさせられそうなんだ。その関係で、『勇者の先生は、領主の娘であり、大物政治家の妻』と言う構造で、量産型勇者を、政治に絡めて育成、勇者を街の戦力、引いては幕府に対する駆け引きに使うつもりだ」



 これに真飛流は嫌そうな顔をする。


「ええ……。もう……。次から次へとややこしい事を引っ張ってくるわね、アンタ。しかもそんな事、どこで……」


「親父だ。オレを説得させたいんだろう。権力者にもなれるぞってな」


「はあ……。本格的に勇者育成も汚職が蔓延るのね……」


「仕方無いだろ。そう言う施策は回りに回って、地主だの領主だの、結局は政治が絡んでくるんだよ」


 しかし真飛流は嫌悪感を全面に出す。


「だから、柔和路線と結局、何が関係あるの?」


 菜々緒はそれに返す。


「それはだな……その……。---怒るなよ、真飛流。本気で考えてはいるけど、飽くまでもその場凌ぎで言っちまったから、未だどうにかなる案件だ。一緒に落ち着いて考えて欲しい。歪み合うのは辞めたいんだ」


「だから何よ?気持ち悪い。早く言いなさい」


「……いやぁ、絶対怒らないか?」


「はいはい」


「約束だぞ?……」


「判ったから。怒らないわよ」


「信じるぞ?」


「はいはい」


「言うぞ?---『ヤミ君と婚約した』って言っちまったんだ」





「殺す」





「いきなり反故にし---」



 真飛流の本気の太刀筋が菜々緒を襲う。


 菜々緒は瞬間に交わす。



「ちっ、流石、同じ勇者だけはあるわね」


 真飛流は悔しがる。



「おい!今マジだったろ⁉︎しかもお前、どこから刀を出した⁉︎しかも刀使えたっけか⁉︎」


「あら、当たり前よ?自分で言うのもアレだけど、こう見えて天才勇者ですから?---ま、元だけどもね。序列1位はどんな武器も使えて当然」


「久し振りに聞いたな、その話」


 菜々緒は真飛流のただならぬ殺気に戦慄をするが、


「はあ〜……。ホント計算高いのか、口だけ出任せセットの総合商社なのか……。---長い付き合いだけど、よく判らないわ」


 真飛流の殺気が徐々に引く。


「---これくらいにしといてあげる。私が怒るって判ってても、珍しくちゃんと言った事は褒めるわ」

 

 真飛流は夜弥美を見る。


「---……ねぇ、アタシの怒りはどこにぶつければ良いのかな?ヤミちゃん?」


「そ、それは……」


「冗談よ」


「……」


 これに夜弥美は答えられなかった。



 菜々緒はそっぽを向きながら鼻の頭を掻く。


「ま、まあ、なんだ。---マジで皆んなで親父を騙す演技をして欲しいだけなんだ」


 このセリフに夜弥美は驚く。



「えっと、つまり菜々緒さんは、本当にそうしたお願いをしに、戻って来たって事ですか?」



 菜々緒は少し照れているのか、ゆっくりと喋る。


「んー、まーな。こうして頼むのも柄にも無いってのは判ってんだけどよ。---真飛流と同じでヘッポコブ男と政略婚なんざ、こっちからお断り。だから、協力して欲しいんだ。---頼む、真飛流、ヤミ君、タル……カトレア!」



 夜弥美は真飛流とカトレアを見ながら言う。


「うーん……。どうしよう?」



 カトレアは嫌そうな顔をする。


「自分で蒔いた種ですよね?」


 若干牽制するカトレア。



 菜々緒はそれを聞いて悩む。


「う、うーん。---そうだけど、そうだけどな……」


 菜々緒が本気で困った顔を初めて見る3人。



 夜弥美は3人に言う。


「はあ……。真飛流とカトレアは難しそうだね……」



 それを言うと、カトレアは、


「これで嘘がバレて、菜々緒様が強制政略婚ライバルが減るからね」


 と、冷たく見放す。



 真飛流は、


「コイツの尻拭いはもう嫌よ」


 と、カトレア同様、見放す。



 夜弥美はカトレアを見る。


「はあ……。菜々緒さん、どうします?作戦はあるのですか?」



 菜々緒は少し表情が綻ぶ。


「きょ、協力してくれるのか?」


「はい。飽くまでも、どこかの喫茶店とか飲み会の席で、ですよ。家呼ぶのは絶対面倒な事なるんで」



 これに真飛流が食い付く。


「待ちなさい。---ヤミちゃんがそう言うなら話は違うわ」



 カトレアは、


「ら、ライバルが減るのは嬉しいけど、ヤミ君がそう言うなら考えるよ」




 真飛流とカトレアは見つめ合う。


「あら、カトレア。珍しく気が合うわね?」


 真飛流は面倒そうな目で言う。



 カトレアは苦笑いをする。


「たまたまですよ。ボクはそんな気は無いのです」


「……そ」



 しかし、これに夜弥美は、


「いや、今更もう良いよ。2人共、素直じゃないんだから」


 そう言われた2人は「「うっ」」と言う。


「それに、多分逆効果だと思うけど……。---この家に来るなら、その時はその時で考えよう」




 と言う訳で、数日後に来ると言う菜々緒の父親への対策会議をする事になった夜弥美であった……。





 その当日。



 事件が発生してしまう。



 菜々緒と真飛流が『ダイニング』の都市のギルドから呼び出しが掛かったのである。



 菜々緒はどうにか断りたかったので、やむを得ず、真飛流と代役にカトレアを立てて、行って貰ったのである。


 ギルド側は、新米勇者とは言え、勇者の肩書きを持つカトレアの代役を認証したので、早速2人は朝から出掛けて行ったのである。





 菜々緒と夜弥美は集合場所の喫茶店を貸切にして、菜々緒の父親を待つ。


 夜弥美は菜々緒を見て、


「そんな緊張してる菜々緒さん、初めて見たかも」


「……緊張はしていない」


 強がりを言う菜々緒。



 夜弥美は、「……ですか」と短く相槌を打つ。





『カラン』と音を立てて、喫茶店に入ってくる人物。



 菜々緒と同年代と言ったところであろうか。


 くノ一の姿をした女性が---


 夜弥美は『???????』と頭に疑問符を浮かべる。



「親父……だ」



 小さな声で言う菜々緒。



 夜弥美は、


「んンぉん゛!!!ォォンオ゛!!!!!」


 と声にならない声を出す。



「ヤッホー、菜々緒ちゃん元気ー?」


「……親父、それ辞めろと言っただろ?」


「良いじゃん。---いい加減慣れて」


「はあ〜〜〜」


 大きな溜め息を吐く菜々緒。



 菜々緒の父親?は夜弥美を見る。


「初めまして、貴方が噂の夜弥美ちゃん?」



 夜弥美は答える。


「はい、卯月夜弥美です」





「それじゃ早速、わたしのお嫁さん候補として連れて行けば良いの?」





 菜々緒はそれにツッコム。


「だから、ヤミ君を揶揄うのは辞めてくれ。---ほら、死ぬ程警戒してる」


 夜弥美は立ちあがろうかどうか悩んでる姿を菜々緒に見られる。



「うふふ、冗談よ」


 ニコっと笑う菜々緒の父親は菜々緒の対面に座る。



「それじゃ、改めまして---。菜々緒の父親役の『八臣はちおみ』です」


 夜弥美はオウム返しに問う。


「『父親役』、ですか?」


「そーよ。暫定後継人ってところね。---菜々緒の実の父親が植物人間状態だから、ご本人から指定されてたの」


「はあ……」


「ちなみに、本当は菜々緒の従姉妹です」


「あ、成程」


「ちなみに、勘当を言い渡したのは私です」


「な、成程」


 夜弥美は次々と喋る八臣に言葉を選びながら言う。



 菜々緒は少し居心地が悪そうである。


「んで、親父。本題に---」


 菜々緒は喋り始めたが、八臣は遮る。


「---夜弥美ちゃんとの婚約、嘘でしょ?」


 これに菜々緒は、


「いや、ほん---」


「良いって。---うちの家じゃ真飛流ちゃんの婚約者を寝取ったとか面白い噂になってるけど、貴女、そんな見え透けた嘘をよくも平気で言えたモノね?」


「……」


 菜々緒は黙る。



 八臣は続ける。


「普通に考えて、うちの家と真飛流ちゃんの家、情報筒抜けなんだから判るでしょ?」



 これに夜弥美は、


「あ……」


 と気付く。



 それを見た八臣は頷く。


「貴方も今になって気付いたのね」


「……はい」


「気にしないで良いわよ。---今日来た理由は貴方へ対する興味半分と、菜々緒に直接言い渡す事があるから来たの」



 マシンガントークと言うのだろうか。


 展開が早くて、夜弥美は追い付けない。


「はあ、そうでしたか」


 そう言うので精一杯だった。



 しかし、八臣は言う。


「菜々緒ちゃん、貴女の素行不良のせいで婚約が破棄されました」


 真顔で告げる。



 菜々緒は目を点にする。


「はあ⁉︎」



 八臣は拍手をする。


「よくやってくれたわ、菜々緒ちゃん。褒めてあげる」


「お、おう……」


 戸惑う菜々緒。



 夜弥美は訊く。


「えっと、一体何が……」


 八臣が答える。


「いやー、ぶっちゃけ嫌だったのよ、菜々緒ちゃんと婚約させた奴を婿入りさせるの。菜々緒ちゃんのお母さんが、金目当てに安請負した時は大喧嘩したけどね……。---ま、結果オーライ。引き続き、夜弥美ちゃんを巡って真飛流ちゃんと争奪戦して良いわよ〜」


 ケラケラ笑いながら言う八臣は夜弥美を見る。


「---確かに、可愛い顔してるわね。『父親役』降りたらわたしも狙おうかな?」



「おい、親父!」


 菜々緒は立ち上がって抗議をする。



 八臣は「うふふ」と笑って誤魔化す。


「冗談よ。---ま、どうしても負けそうなら、子種だけ貰って孕んで帰って来ても良いわよ?お母さん、とりあえず菜々緒の子供、……孫を抱っこするまでは死ねないって煩いから」


「あのオカン……。オレの事何だと思ってるんだ?」


「さ?ご都合主義は相変わらずね。---わたしも菜々緒ちゃんの赤ちゃん抱っこしたい気はするわよ〜」


 八臣は夜弥美の方を向くが、夜弥美はそっぽを向く。


「……あら、真飛流ちゃんとは相当ヤりまくってたみたいなのに、こう言う話、苦手?」


「いえ、そう言う訳じゃないのですが……。菜々緒さん、結婚するまではそう言う事をするのは---」


 夜弥美のセリフを遮る八臣。


「---嘘だー。欲しいモノはどんな汚い手を使ってでも、手に入れる菜々緒ちゃんがー……。って思ったけど、真飛流ちゃん相手だと、命の危険があるわね」


 自分で言っておきながら、勝手に完結する。



 夜弥美は「あははは」と愛想笑いをする。


 菜々緒はゆっくり座って頬杖をつく。


「……はあ〜。---話はもう良いか?勘当しといて、都合良く呼び出しやがって」



 八臣は頷く。


「うん。お話しは終わり。---あ、今回はお母さんに文句言ってね。アレが勝手に進めた話をわたしが尻拭いしたんだから」


「……じゃあオカンが来いよ」


「無理ね。絶対菜々緒ちゃん連れ戻すもの」


「……」


「わたしは家訓に従って勘当させたのも忘れないでね?」


「え?家訓だったのか?」


「え?」


「え?」


「え?」


 夜弥美は、「何それ、怖い」



 八臣は「うーん」と悩む。


「---盛大な齟齬はあったけど、ま、勘当した事自体は問題ないからね」


「お、おう」


 戸惑う菜々緒。


 八臣は立ち上がる。


「別に、本気で誰も菜々緒ちゃんの事を嫌いになった訳じゃないからね?」


「あ、ああ……」


「それじゃ、帰るね。---あ、あと夜弥美ちゃん借りていくね?」


「……おい」


「大丈夫よ。取って食べたりしないわ。真飛流ちゃんとの一騎打ちは嫌だもの」


 そう言いながら立ち上がる八臣。



 夜弥美はついて行くか悩む。


「……どうしよ?」


 尋ねられた菜々緒は、


「ま、大丈夫だ」


「うん、判った」


 そう言って夜弥美は立ち上がる。



 八臣は、


「行きましょう」


 と言って、夜弥美の先導をして店を出る。


 夜弥美もそれについて行くのであった……。

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