第10話 

 菜々緒は取り乱さなかったが、売り言葉に買い言葉。


「じゃあその証拠と言うのは今見れるのか?」


 と、菜々緒が言うと、真飛流は自室からノート型パソコンを持って来る。



「はい、これ」


 真飛流はあまり見たくないのか、あまり画面を見ずにパソコンを操作して、菜々緒が夜弥美と致した一部始終を見せる。


 タルトも興味津々で見る。


 









 顔を真っ赤にして菜々緒は夜弥美を見る。



「これ……お前も見たのか?」



 夜弥美は頷く。


「す、少しだけ見ました。---記憶は一切無いですが」



 そのセリフを聞いた菜々緒は大きな溜め息を吐く。




 菜々緒は観念したのか、


「オレはマルチスキル使いだ」


 と、急にセックスの事についての説明でなく、そんな事を言い始めた。






 通常の異能使いは、習得するスキルは1つ。


 稀に菜々緒の様に2つまたはそれ以上をのスキルを使いこなす、マルチスキル使いも存在している。


 勇者クラスとなれば一定数は居るが。





 菜々緒は国の研究機関で過去、マルチスキルについて調べて貰った経験があると言う。


「通常、1つのスキルしか得られないから、その1つを極めて成長するんだが、オレの場合、先に記憶操作---と言っても、消去しか出来んのだが、それを得たんだ」


 しかもそれは思春期真っ盛りの時期である。


「---初恋相手と初めてセックスをしようとしたんだが、直前に怖くなってよ。ソイツを殴っちまったんだ」


 少し恥ずかしそうに言う菜々緒。


「---んで、そいつの記憶を消そうとしたら、オレとの思い出も勢い余って記憶も消しちまってよ〜。んで、恐ろしくなって使うのを辞めた」



 それ以降、結婚するまでセックスはしないと言うアイデンティティが生まれたとかなんとか……。



 そう言った経験から、記憶操作スキルも封印する



 そうして過ごしている最中、剣技と炎系の属性攻撃を掛け合わせるのが得意な菜々緒は2つ目のスキルを手に入る。


 例の『爆炎』と呼んでいる、一定時間、属性強化攻撃が可能なスキルである。


 現在もこれを極めており、効果が切れた後のクールダウン時間の短縮を目指す鍛錬をしていると言う。





「そんな運命を変えのがヤミ君なんだ。……まぁ、ぶっちゃけ……、今更だけどよー。---『結婚するまで処女を守る〜』とか言ってた自分を殴りたい」



 菜々緒曰く……。


 夜弥美が真飛流と2人で密会をして寝た翌日。


 菜々緒は自分が見付けて来て、これから育てようとした男を寝取られた悔しさのあまり、真飛流の目を盗んで夜弥美を人気の無い所へ連れ込み、野外で襲ったらしい。


「しかもよー、すっげぇ、痛いのなんの。『もう二度とするか‼︎』って思ってたら、真飛流がその内、完全に落ちたメス顔になってるもんだし、完全に負けた気がして腹が立ってたまにヤミ君食ってたら、ヤるのに慣れた」


 最後は若干投げやりな感じで言う。



 真飛流は菜々緒に問う。


「へー。……マジで今までずっと嘘を吐いていたのね?」


「……ああ」


「今までのやり取りは全部演技?」


「……結果的にはそうなるな」


「そ……。---はあー。全然気付かなかったわ」



 真飛流は溜め息を吐く。


「もう何かしらをツッコム気力も無くなったわ、隠れ淫乱女め。---どうせアタシが入院中に“アタシのヤミちゃん”とヤりまくってたのでしょ?」



 それに菜々緒は抗議する。


「お前にそれは言われたくないけど……。それについてはNOだ」


「ふーん……。それは嘘じゃ無いのね?」



 菜々緒は夜弥美を見る。


「嘘じゃない。今更吐いてもな---ヤミ君が急にガードが固くなったんだ」


 故に殆どセックスはしていないと言う。





 夜弥美は少し生々しいやり取りと、菜々緒達の言葉選びに無心を貫こうとする。


(うー、想像すると……息子が反応する)



 タルトは菜々緒を真飛流のやり取りを聞きながら、


「モテモテだね、ヤミ君」


 と、どこか羨ましそうに言う。


 冷淡な声で。



 夜弥美は「どうしてこうなった」と頭を軽く抱える。


 タルトはそれに対して、


「何でだろうね」


 と、だけ言う。



 夜弥美は「はあー」と溜め息を吐きつつ、


「……僕は一体どうすれば」


 2人のやり取りと見る。


 普段に比べたら、比較的、落ち着いてやり取りをしているので、下手に割って入らない様にしようとしている。



 真飛流は頷く。


「もう良いわ。この話はおしまい。−−−思わぬ副産物で、アンタのスキルとかも判ったし、有効活用が出来そうね」



 これに菜々緒は驚いた。


「…………お、おう。---判った」


「……何を驚いているのよ」


「いや、……てっきり、今後は手出しすんなって言うのかと」


「言わないわよ。各各々、今まで通り好きにすれば良いのじゃない?別に、ヤミちゃんはフリーだし」



 この言葉に菜々緒とタルトは顔を合わせる。


 菜々緒はタルトに尋ねる。


「聞いたか?タルト。……これで同じ土俵って奴になれたんじゃねぇか?」


「んー。……そう、ですね。フリーならナニしてもOKと言う事で捉えます」



 タルトの言葉に真飛流が反応する。


「あら、結構強気ね?---まあ良いわ。タルトも『アタシと菜々緒がヤミちゃんを独占してる』って言う誤解が解けたみたいだし。あ、−−−これで事ある毎に無理心中をしないでね」



 それを聞いたタルトは菜々緒と真飛流を交互に見る。


「え、あ……はい」


 そして、2人に宣戦布告をしする。


「---えっと、じゃあ……、“ボクのヤミ君”は好きな時にた、食べたら良いのですか?」



 真飛流はタルトからのセリフに少し驚きつつ、


「個人の判断に委ねるわ。---と言うか、“アタシのヤミちゃん”だし」


 そう言うが菜々緒は、


「いや、それはどうかと思うぞ。“オレ様のヤミ”は今後、節度を守った性活をして貰う。---そこの節操無しはオレ達3人同時に孕ませかねん」



 真飛流は返す。


「それは良い大人として賢明な判断ではあるけど、ルールを作ったとことで、どうせ隠れてスルに決まってるわ」



 菜々緒はそれに反論する。


「そこをこれから考えるんだ」



 しかし、真飛流は、


「はあ……。所謂、肉食系女子って言うか……。ま、もう女子って年齢じゃないけど、節操無しはアタシ達よ。ヤミちゃんを食い散らしてるのは。---ルールを作ったとことで、信用出来ない」



 タルトはここで何かまた対抗意識を持つ。


「じゃあ、僕達は純愛?」



 夜弥美を見ながらタルトは言うが、夜弥美は否定する。


「あー。……そうなるのかな?」


「……ヤミ君?」


 凄むタルト。



 夜弥美は焦る。


「た、タルトが本気だったのに気付いたあと、なんだか突き放された気がして……。---僕の勘違いだったのかな?って……」



 ここでタルトの雰囲気が変わる。





「ねぇ、ヤミ君?ホントはボクの事、嫌いでしょ?」





 これに夜弥美は戦慄する。


「いや、そんな事は−−−」


「ボクの事、そうして全部否定する」


「ち、違う」



「違わない!」



 少し大きな声で、菜々緒と真飛流は少し驚いてタルトを見る。


 タルトは続けて言う。


「もう良いよ、放っておいて」


 そっぽを向き、帰ろうとするタルト。



 夜弥美はオドオドして、真飛流を見る。


 真飛流は『さ?』と肩をすくめる。


 菜々緒は知らん顔。



 夜弥美は引き止める。


「待って、タルト」


「待たない。---じゃあね、ヤミ君。君の気持ちはよく判った」


「違うんだ、タルト」


 夜弥美はタルトの肩を軽く掴む。



 タルトは夜弥美を睨む。


「じゃあ、ナニが違うの?」



 ここで真飛流が2人の間に入り、会話を遮る。



「待ちなさい、タルト。---そうして変な演技をして、しれっりとヤミちゃんを誘導尋問して拐おうとしないで」



 タルトは怒る。


「真飛流さん、邪魔しないで」



 真飛流は呆れる。


「……本気なの?」



 タルトは真飛流を睨む。


「もう放っておいて下さい。ボクとヤミの話です」


「……本気で喧嘩しようとしてるの?」


「……」


 タルトは答えない。



 これに菜々緒は、


「お、メンヘラって奴か?」


 と言うが、真飛流は苦言を言う。


「今は辞めなさい。あと、『ヤンデレ』も判っていないのに『メンヘラ』は知っているのね」


「真飛流がそうだからな」


「……はあ。もう良いわ。そう言う事で。---あと、家ので暴れ回られたら面倒なんだから辞めてよ」



 菜々緒は「ちぇ」っと言って黙る。



 真飛流はタルトを見る。


「はあ……。---とりあえず、今日は解散しましょ」


「……解散って言っても帰るのボクだけじゃん」


「だから一旦落ち着いて……」



 タルトは夜弥美を見る。


「……今日、泊まって行くね、ヤミ君」



 そう言われた夜弥美は焦る。


「ええ……⁉︎」



 菜々緒も反応する。


「いや、家主はオレなんだが?」



 タルトは、


「普段居ない癖に?“僕のヤミ君”が家を綺麗にしてるのに?」


 と、返す。



 菜々緒は不機嫌になる。


「あのなぁ……。お前、ちょいちょい喧嘩売ってくるな?」


「ふんっ」


「ああ、もう言い返すのも面倒な奴だ」


 菜々緒はそう言って、そっぽを向くのであった。



 真飛流は承諾する。


「判ったわ。今日は泊まっていきなさい。---無理に帰せばヤミちゃんが拉致られそうだし」



 菜々緒は小さく呟く。


「また敵に塩を送る」


「今日の所を穏便に済ますには仕方ないわ」


「ヤミが警戒してるけど、良いのか?」


 真飛流は菜々緒にそう言われて、夜弥美の姿を見て少し笑う。


「悪いけど、タルトをなだめられるのはアンタだけだから、宜しくね?」





 ここまで、何ら意見を言えず、勝手に話しが進む夜弥美。



「あ、うん。はい」


(こうなると、また僕は何も言えずに固まる……)


 そう思いながら、夜弥美は真飛流が冷蔵庫へ行く姿を見て、菜々緒を見る。



 菜々緒は「んだよ?」と言う。



 夜弥美は、


「いや、僕が用意したご飯食べちゃったみたいだから……」


「あ、ああ。---美味かった」


「う、うん」


 菜々緒が悪びれる事無く言うので、諦めてもう一度、晩御飯の用意をするのであった。









 パーティーを組んでいた時もこんな感じであった。


 菜々緒、真飛流が話し合う。


 それにタルトは細かい事を指摘。


 陽太も同じ感じである。



 肝心の夜弥美は、菜々緒と真飛流の指示を受けながら動くのみ。



 陽太には「自分で考えて動くより、指示通りの方が結局上手く行くから無理すんな」と、別に嫌味で言われた訳ではない。


 陽太も勝手に動くと、菜々緒は気に掛けず、陽太が巻き込まれようと気にせず容赦無く攻撃を打ち込む。



(今思うと、陽太を事故に見せかけた……アレを?)


 真飛流が入院する前もあともそんな感じではあった。


 最も、真飛流が入院中は菜々緒はタルトと戦術会議をして物事を進めていたが、1人が欠けてしまっても、パーティー運用は問題無かった。


 それだけ、地盤はしっかりしたパーティーだが---。





 冷蔵庫にあるモノで夜弥美、真飛流、タルトは晩御飯を食べたあと、菜々緒が酒を飲み始めたので、4人での宴会が始まった。


 そこでタルトが菜々緒を詰める。


「菜々緒さん!“僕のヤミ君”を勇者にさせる為に、うちのパーティーへ引き抜きますから!」



 菜々緒は返す。


「いや、“オレ様のヤミ”だし。---じゃない。お前の話は9割嘘だからな?」


「そんな事はありません!」


「確かに、ヤミの奴を育て上げるのは難しい。---だがよ、お前みたいな量産型勇者を生む訳にはいかな。品格ある勇者にする為には厳しくしないといけない」


 菜々緒は最もらしい指摘をするが、それで引くタルトではない。


「じゃあ僕は勇者としての資格は無いと?」


「ハッキリ言う。---無い。だから、オレはお前をゆっくり育てていた」


「育てて?評価の放棄をゆっくりとか言って誤魔化さないで下さい!」


 立ち上がるタルト。



 菜々緒も立ち上がる。


「誰も素質が無いと言っていない。記憶半分のお前を下手に刺激しない様に、トラウマのフラッシュバックを起こさない様にしてたんだ。---結局、オレのそうした苦労を無駄にしたがな、お前は」





 こうして言い合う2人を尻目に夜弥美は、小さな声で、


「真飛流、3人仲良くして欲しいのだけど、どうにかならない?」


「んー、難しいわね。タルトがずっと敵意剥き出しだもん」


 と、会話をしつつ、菜々緒とタルトを見る。


 2人は畳の上で並んで座っている。


「むしろ、ヤミちゃんがその敵意を無くしてあげるのが効果的なんだけど……。それはそれで難しいそうなのよねぇ……」





 菜々緒の言い分。


 菜々緒は菜々緒で考えてやっていたらしい。


 しかし……。



「タルト、お前そうして嘘吐いてヤミの奴を拐おうとしたんだろ?」


 菜々緒が話題を変えて突っ掛かる。



 タルトはニヤつく。


「ふーん?……人聞きが悪いですね。---ヤミ君の事を考えて提案しただけです」


「脅してでもか?」


「勝手な解釈ですね。ヤミ君も『断って』はいましたし、ヤミ君の考えを捻じ曲げてはいません。本人の意思が重要ですから」


 タルトがそうやって踏ん反り帰るのに、腹を立てたのか、


「詭弁だな。態度で示して誘導を都合良く使ってから、言った言っていないって手を使いやがって」


 菜々緒は静かに言う。



 タルトは、


「あまり菜々緒さんも人の事は言えないと思いますが?---まあ、真飛流さんみたいに、ヤミ君には言葉と態度で示すべきだとはボクも思っていますが」


 と、真飛流と夜弥美と老夫婦の様な雰囲気を醸し出す風景を見る。



 菜々緒もそれを見る。


「クッソ。そうして見せ付けやがって」



 タルトは、


「次はボクがあそこに座る」


 と言いながら、一気にお猪口の米酒を飲む。



 菜々緒はそれを見て、


「……ホント、人が変わったな」


 と呟きながら、お猪口の米酒を一気に飲む。





 ここで夜弥美が意を決して言う。


「僕は出来るだけ自然と皆んな仲良くして欲しいんだけどなぁ……」



 これに菜々緒が返す。


「……コイツに言え。大体突っ掛かるのはコイツだ」


 タルトを親指で指差す。



 そう言われたタルトは、


「自分勝手なのはそっちです。元はと言えばパーティー解散したのも---」


 と、事の始まりについてを言い始める。



 菜々緒は渋い顔をしながら言う。


「あー、もう……。ホント、面倒くさい」


 言い返すのにお手上げ降参なのか、菜々緒は項垂れる。


「---真飛流、パス」



 そう言われた真飛流は、


「あのね、アタシに何でも話を振るんじゃないの」


 と呆れつつも、タルトに尋ねる。


「---そのアンタの今のパーティーリーダーって誰?」



 タルトは答える。


「オクト•鈴蘭です」


「……マジ?」


 真飛流は聞き返す。


「---もしかして、アメジストも一緒?」



 タルトは驚く。


「知ってるのですか?」



 真飛流は答える。


「知ってるも何も、アタシの後輩よ」



 また、思わぬ所で話が繋がる。


 タルトは「ほえ〜」と感心しながら言う。



 真飛流は少し自慢気に言う。


「『鬼の鈴蘭姉妹』だっけ?それ言われる原因を作ったのアタシだけど、どう?相変わらず容赦無い?」



 タルトは今度は「え?」と言って目を丸くする。


 真飛流はその理由を言う。


「あら、知らないの?---昔、アタシも血気盛んだった時、鈴蘭姉妹は親戚の家が盗賊にやられたみたいでね。『あんな犯罪者、アタシが正義の名の下、勇者として成敗する!』って言って、盗賊のアジト潰したらそうなった」


 割と簡単な話しではあった。



 タルトは問う。


「時系列がボクには判らないのですは、定期的にそうした殺戮をしているのは……?」



 真飛流はそれも答える。


「残党潰しよ。もう流石に落ち着いたでしょうけど」


 ちなみに、菜々緒がタルトとパーティーを組む、少し前の話だと言う。


「---菜々緒のパーティーに入る前の話ね」



 夜弥美は言う。


「合縁奇縁って奴ですね」



 真飛流はそれに対して、


「良い事言った感出して勝手に話を終えないで。---ま、仮に、“アタシのヤミちゃん”を拉致っても、無駄ね。忠実なシモベから返却して貰うだけだし」



 タルトはそれを聞いて落胆する様な仕草をする。


 それを見た菜々緒は、


「やっぱ取り込もうとしてたんじゃねぇか」


 とタルトに言う。



 タルトは小さな声で、


「もう、ボクはこの人達と正面から戦うしか無いのか」


 と言って項垂れる。


「---ヤミ君の事は諦めないけど、勝算が無さ過ぎる」



 これに真飛流は返す。


「あらあら。冷静沈着、いつも達観して物事を俯瞰的に見て貴女にしては弱気ね?」



 タルトは面倒臭そうに言う。


「自分の事は全部裏目に出るから、無理」



 真飛流は頷く。


「そ。ま、じゃないと、こんな回りくどい、面倒な事しないわよね」



 タルトは「むう」と言ってそっぽを向き、何も言わなくなった。





 少し、無言の間が開く。


 この時、真飛流は腕を組んで考え込む仕草をする。


「……いっその事、タルトと鈴蘭姉妹をパーティーに入れる?」



 菜々緒は反対をする。


「いや、何でだよ」



 真飛流は返す。


「大丈夫よ。2人共、良い娘だから。---アタシが単に迷惑掛けたからって無理矢理パーティー抜けた位だし。むしろ、復帰は喜んでくれるかもね?」



 菜々緒は警戒をする。


「そうじゃなくて……。ヤミがハーレム状態に---」



 真飛流は、


「良いじゃん、それはヤミちゃんの自由よ。アタシ達が縛る理由はどこにあるの?むしろ、そうして縛ってもヤミちゃんは心を開かない。---逆効果よ?」


 と言いながらも、夜弥美の腕に抱き付く。



 菜々緒は悪態を吐く。


「ヤミの事を知った様な口を---」


「それは……ま、今は元カノだもん。そう言う腹を割って話した内容はしっかり覚えているもの。勿論、お互いの身体もだけど」


 自慢気に言う真飛流。



 菜々緒は真飛流に言い返す。


「あのよ。女に言い寄られているのに、それに答えずに他の女へフラフラ行く方が不誠実だろ?」



 真飛流は言う。


「あら、一方的に言い寄って、答えを聞いてないだけじゃない?」


「うっ」


「図星ね。---じゃあ言ってあげなさい、“アタシのヤミちゃん”?」


「アタシのアタシのって、フラれたクセによく言えるな?」


「それはアンタもじゃん?」


 真飛流はドヤ顔で言う。



 菜々緒はヒートアップする。


「お前に対抗しているだけだ!」


「あら、アタシは将来を見据えて言ってるのよ?どんなに遠回りしても、いつかはアタシの元へ帰って来なさいてね?」


「てめぇ、出来レースか⁉︎」


「あら、失礼ね。---良くも悪くもキープして貰ってるだけよ?ま、アタシより良い女の子が居たら捨てられるだけだけど」


「それこそ、不誠実じゃねぇか!皆んなに」


「皆んなって何?」


「お前はまた詭弁をそうして---」


「---あら、人の記憶を弄り回してた人に言われたくないんだけど?」


 真飛流もヒートアップする。



 菜々緒は立ち上がる。


 真飛流も立ち上がる。



「「表に出ろ」」



 2人はハモる。



 菜々緒は、


「いいぜ、久し振りにやってやろうじゃねぇか」



 真飛流も、


「言っておくけど、ヤミちゃんを賭けて戦う訳じゃないからね?飽くまでも、お互いのストレス解消よ?」



 お互い、何かを決めたのか、2人はそうして、外へ出て行ったのであった。









 タルトは夜弥美を見る。


「さて、騒がしい2人は放っておいてボク達は寝ようかな」



 夜弥美は頷く。


「……だな」


「…あ、一緒に寝る方じゃないよ?」


「……判ってるよ」


 タルトの釘刺しに夜弥美は苦笑いをする。


 タルトは少し遠い目をしながら言う。


「やっぱり、ボクとヤミ君はこれ位の距離感が良いのかな……」


「……」


 夜弥美は答えない。



 タルトは乾いたこれで笑う。


「ははは。気分が乗れば違ったかもね。---それじゃ、おやすみ」



 タルトは予め案内されていた部屋へ向かう。


 夜弥美も「おやすみ」と言う。



 タルトは夜弥美に背を向けたまま立ち止まる。


「あ、そうだ。……出来たらで良いんだけど、ボクの事はカトレアって読んで欲しいな」


「うん。判った」


「……ホント?」


 タルトは少し期待感を持つ。


 夜弥美は頷く。


「うん。そっちの方が可愛いからね」


「そっか……」


 タルト---カトレアは嬉しそうな声でもう一度、


「---じゃあ、おやすみ!夜弥美」


 そう言ってタルトはリビングを去って行った。

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