第9話 

 夜弥美は帰宅してから、ギルドが無料で配布している新聞を読む。


 朝刊と夕刊があるが、夜弥美が読むのは夕刊だけ。



「んー、『当ギルドで新勇者誕生』とな……」


 独り言を呟く。


 そこには見覚えのある名前。



 ---本日付けで『カトレア•タルト•ジルコン』に対して、冒険者ランク9、勇者認定の通知と、その効力の発効を取り行った。



 要約すると、そう言う旨が綴られている。


 夜弥美は感心する。


「へぇ〜。過去の経歴とか、家柄や思想は関係無いってのは本当か」


 タルトの半生を知る彼は少し安堵する。


 そして、タルトの勇者昇格は別段、驚かない。



 現在も一部では。『夜弥美はコネや賄賂で冒険者ランク8になった』と散々言われ続けている。


 とは言え、タルトの過去の経歴は明るみに出ている訳ではないので、夜弥美の噂を払拭出来る訳ではない。


 飽くまでも、夜弥美の中での心を落ち着かせる材料である。



「あ、ああ。だから何処となく、物々しい雰囲気だったのか」



 つい先程の、ギルドの応接室の様な個室での出来事。


 夕刊は予め、予測記事として大きな賭けで出したのだろう。


 恐らく先程、タルトに勇者への辞令が下った。





「負けてられんけど、負けたなぁ……」


 夜弥美がそうボヤいていると、来客か、玄関チャイムが『チリリン』と鳴る。


「んー……、誰かな?」



 夜弥美が玄関先が見える外向きカメラの映像を見る。


「タルト?」


 この家の場所はザックリ教えていたが、早速彼……、---彼女は来た。


「今開けるー」





 夜弥美はタルトを迎え入れて、ちゃぶ台に案内をし、茶菓子を用意する。


 タルトは座ってから、夜弥美が読んでいた夕刊を見る。


「ああ、バレた?」


 淡々と言うタルト。



「隠してたの?」


 夜弥美は苦笑いをしながら言う。



 タルトは返す。


「いいや、隠しては無い。………わいが勇者になる瞬間を見届けて欲しかったんだけど、説明を聞かなかったのは君」



 いつものタルトだった。


 声色も中性的な男性の様なモノになっている。


 言い回しも冷静で淡々と言う。



 夜弥美はやはり、こっちのキャラの方が落ち着く。


「そのキャラに戻したの?」



 タルトはどこか少し呆れながら言う。


「……君がこっちが好みだからって言うからね」


「好みと言うか、落ち着く?」


「ふーん」


 タルトはお茶を飲みながら言う。


「---じゃあ、このままでいく」



 夜弥美はそう言うタルトに『?』と頭に疑問符を浮かべる。


「そっか」



 しばらく2人は無言のまま茶菓子を摘む。


 パーティーを組んでいた時もこんな感じであった。



 それを夜弥美は打ち破る。


「……うちに来たのは何かあったの?」


「……用事が無ければ来てはいけないのか?」


「んー、そう言う訳じゃないけど……」


「……冗談。ちゃんと用事があって来た」


「そ、そっかー」



 タルトは「ふう」と言いながら、この家に来た理由を言い始める。


「どう説明しようか悩んだけど、遠回しに言っても君は混乱するから率直に言う。---夜弥美、うちのパーティーに入らないか?」



 まさかの勧誘だった。



 夜弥美は驚く。


「え?また急に?なんで?」



 タルトは言う。


「君は菜々緒様のパーティーにこのまま居たら勇者になれないから」


「え?それはどう言う---」


 夜弥美の問いにタルトは遮りながら答える。


「菜々緒様が君を邪魔してるんだ」


「ええ⁉︎」


「勇者って、自身が属するパーティーメンバーの中で勇者になりやい冒険者が居たら、特別推薦が出来るんだ。だから勇者が居るパーティーって誰もが入りたいパーティーなんだけど……。---菜々緒様は不人気なんだ」


「へ、へぇ〜、そうだったんだ」


 夜弥美はたじろぎつつ、相槌を打つ。



 タルトは続ける。


「選り好みが激しい人で、公平な審判をしない事で有名なんだ」


 ---これから話す内容は全て、ギルドの所長から聞いたと、補足でタルトは言う。


「---それに加えて、真飛流様は『アタシは人を見る目が無いから無理』って仕事をしない事でも有名なんだ」


「そ、それはあるかも?」



 夜弥美は真飛流から愛の告白をして来た事を思い出す。


(確かに、僕なんかを選ぶ位だし)



 タルトは夜弥美の表情を見ながら、


「ま、それに関しては、君は心当たりがあるみたいだけど、それを認めると、わいも真飛流様と同類になるから辞めて」


「う、うん?判った」


 夜弥美は半分位は判っていないが、同意をする。



 タルトの話は続く。



 タルトが勇者になったので、夜弥美をオクトのパーティーに入れる。


 そこで一定の経験が積める様にオクトと、もう1人のパーティーメンバー『アメジスト』と一緒に計らいをして、夜弥美自身を成長させる。


 そこでレベル上げとスキル取得、仲間レベル上げる事も出来るので、一石二鳥以上。



 ちなみに、アメジストはオクトの妹らしい。


 男勝りで、元暴走族。


 姉のオクトが更生させたらしく、見た目はおっとりしている様で性格は菜々緒以上に破天荒。


 容赦は無いと言う。



 タルトが尋ねる。


「鬼狩りの鈴蘭姉妹はっ知ってるかい?」


「鬼狩り?鈴蘭?……知らないなぁ」


「じゃあさ、盗賊狩りの鬼姉妹」


「あ、それは聞いた事ある」





『盗賊に襲われて、返り討ちにした』と言う報告と共に、盗賊の首を持ってギルドの建屋に入って来て、大騒ぎに。


 指名手配且つ、生死を問わない相手とは言え、以降、『表に首桶を回すから、建屋に持って入らず、窓口へ報告。又は警察署へ持って行く事』と言うルールが出来た。





 実しやかに流れている噂だが事実である。


 その張本人がその2人だと言う。


『オクト•鈴蘭』と、『アメジスト•鈴蘭』の姉妹である。



 中々バイオレンス且つ、夜弥美はそんな生きる伝説に驚く。


「へ、へぇ〜」





 タルトは一通り、説明を終える。


「……どうだい?うちのパーティーに入らないか?」



 夜弥美は少し悩み、質問をする。


「……菜々緒さんが僕を勇者にさせない、って言うのはホント?」



 タルトは頷く。


「ああ。本人が真飛流様にそう言う話をしてた」


「ふむ……。もし、僕が菜々緒さんを選んだら勇者になれると?」


「それこそ、無い」


「……え?」



 タルトは何故か呆れる。


「君は今回の件で色々判ったんじゃない?---菜々緒さんは直ぐにでも君と結婚して、子供を作る気なのを」


「……うう。確かに……」


「そうなれば、冒険者だとか言ってる場合じゃないよ」


「……う、うーん」


 夜弥美はあり得そうな未来な感じがして、一種の恐怖を覚えつつ、


「---そうだ。何とか真飛流に頼んで、そうした推薦とか計らいは……?」


「それは真飛流さんが理解していないから時間が掛かる。それ以前に、菜々緒様が妨害すると思う」



 これも有り得そうは話で、夜弥美は行き詰まり感が生まれる。


「うそん……」



 タルトは夜弥美に質問をする。


「逆にそのレベルまでスキル習得していないのも驚きだけど。わざとなの?」



 夜弥美はタルトを見ながら答える。


「ん?スキル習得してる」


「……してたの?」


 タルトは聞き返す。



 夜弥美は詳しい内容を話す。


「うん。精霊使役。熊の魔獣倒した時の魔力増幅が一例あれだけど……」



 タルトは目を丸くする。


 見えているのは右目だけだが。


「っーーー。……マジか」



 夜弥美はタルトの仕草の理由がよく判らないので尋ねる。


「何か問題でも?」


「……大アリ。精霊を使って魔力増幅とか聞いた事ない」


「マイナーな能力とか?」


「それ以前の話。精霊使役ってスキルじゃない」





 スキルと言ったり、固有能力と言ったりと、名称は様々だが、魔術、魔法、霊能力等の力を使っていると、体質に合った特殊能力を得る事が9割の人間が出来る。



 タルトは『地獄耳』と言う、少し遠くの音や会話を聞き取る事が出来る。


 ちなみに、菜々緒は『爆炎』と本人は言っているが一定時間、得意の炎属性の攻撃力上昇が可能。


 真飛流は近接戦闘では便利が良い、『筋力増強』と言う読んで字の如しなスキルだが、


「最大出力にするとボディビルダーみたいな筋肉ダルマになるから可愛くない」


 と、出力を抑えながら戦闘をしている。





 そして、夜弥美の言うスキル、『精霊使役』はスキルではなく、霊能力系統の召喚術扱いである。


 しかも、通常、そんな技は神事に精通した様な神主系でないと難しい。


 親戚筋にそう言う系統が居れば可能ではある。


 夜弥美の家は、


「もしかしたら居るかもしれない」


 と言う言うが、仮説その1として置いておく。





 夜弥美本人がスキルを得たと言う状況による仮説その2。


「ぼっちが捗り過ぎて、『誰』か知らない気配の話し掛けていたら、いつの間にかこうなった」



 精霊と言うのは気まぐれである。


 なので、面白がって力を与えた、力を与えている『誰』と言う“存在”が近くに可能性。



 それを裏付けるのが、真飛流と命からがら助かったあの事件。


「実は精霊に声を掛けながら、精霊の力を借りながら、真飛流をケアしながら進んだ」


 夜弥美の魔力だけでは持たなかった。


「---真飛流は意識が半分位は意識が無いから覚えてないかも。それに、1時間寝たら全回復する魔力も精霊使役の副産物だけど、あの状況下じゃ魔力が足りていない」



 タルトは納得しつつも、1つ釘を刺す。


「ああ。うん。ちょっとそれについてはそう言う事にしておこう。---但し、精霊信仰する宗教の人の前だと『遠い親族に神事に携わった人が居る』にしなきゃ、異端児扱いされるから気を付けて」



 この国では多くの宗教が入り乱れているが、エルフを崇め信仰する宗教と、精霊信仰の宗教は異端者を差別すると言う文化があり、陰で腫れ物扱いされている。



 夜弥美は「うん、判った」と短く言う。





 タルトは寝転んで天井を眺める。


「はあ……。真飛流さんを出し抜くのは難しそうだ」


 あれからタルトは地味に夜弥美から真飛流の惚気を聞くハメになった。



「真飛流様、34歳ってのは驚いたけど、見た目若いね」


「だねー」


「……熟女好き?」


「え、34ってそんな年齢じゃないでしょー?」


「そう?30超えたらそんなもんじゃない?」


「個人の主観に差はあると思うよ。---あと、年齢でそう言うピンポイントな選り好みはしないかな?」


「……そっか。じゃあ真飛流様が40でもイケた?」


「…………イケる」


「ふーん……」


 タルトはそう言って何か考える。


「---……まぁ、『ガーデン』で君が話をしてた人もそんな人多かったね。ボクがほぼ専属になるまでは」


 そう言って何かを納得している様子ではあったが、タルトは夜弥美に近付く。


「年下に興味は?」


「……あるけど、僕はそう言う範囲で絞るのはしないよ」


「じゃあ……いたいけな10代前半とか平気なの?」


「それは法的な倫理観から対象外」


「じゃあ、ボクに手を出したあの時はアウトだね」


 これに夜弥美は、


「……え?」


 と聞き返す。


「ま、ボクも年齢詐称してお店で働いてたけど、あの時の数年前に年齢はね?」



 タルトはその時の年齢を言う。



「---ふふ?いたいけない女の子を手籠にした感想はどうかな?」


 タルトは冷静なキャラから、女の子らしい可愛い仕草で言う。


「……えっと」


「責任、取ってよね?---バラされたくなかったらね〜?」


「あー、そのー……」


 脅される夜弥美は焦る。


「……冗談だよ。---真飛流様に人間として、形を保てなくされちゃう」


「う、うん。そかー」


 タルトがどこか、本気だったので、夜弥美は警戒しておく事にした。





 夜弥美はそろそろ晩御飯を食べようと、予め買い込んでいた冷凍食品と、作り置きしている惣菜を取り出す。


「……何か食べる?」


 タルトにそう尋ねる夜弥美。



 タルトは断る。


「ありがとう。---でも、約束があるからまた今度」



 夜弥美は「残念」と言いつつ、


「あ、そうだ。タルト」


「……何?」





「遅くなったけど、勇者昇進、おめでとう」





 それを聞いたタルトは思い出したかの様に返す。


「ああ、ありがとう。未だ実感が無いから忘れてた」


「ははは。僕も締まりが無くてごめん」


 苦笑いをする夜弥美。



 タルトもニコっと笑う。


「そうだ。また今度、お祝いして欲しいかな。---2人っきりで」


 少し恥ずかしそうに言う。



 夜弥美も「うん、また今度」と返す。



 タルトは頷く。


「あと、うちのパーティー加入はどうする?」



 夜弥美はこれも思い出したかの様に言う。


「あー……。---それは考えさせて欲しい」


「話を脱線させといて申し訳無いけど……。---本当は今にでも決めて欲しいんだー」


「ええ……⁉︎」


 焦る夜弥美。


「……それはどうしても?」


「うん。どうしても」


 タルトは念押しをする。



 夜弥美は逆に問う。


「今断って、後から入りたいって言ったら?」


「手荒な真似はしたくないから、今決断して」


「手荒?」


「菜々緒様と真飛流様」


「ああ」



 なんとなく、暴れ回る2人を思い付く夜弥美。



「んー……」


 悩む夜弥美。



 誰にでも恩はある。



 タルトにも今朝、夜弥美は告白されたが、それ以前に真飛流との仲直りに対してのアドバイスも受けているのを思い出す。





 タルトは急にソワソワし始める。


「そろそろ行かなきゃいけないから決めて」



 夜弥美は首を振る。



「今はこのままで良い」



 そう言われたタルトの表情が曇る。


「……そっか」


「ごめん。急に事を決めて失敗続きだったから、落ち着いて考える様にしたの」


「……へー。---ボクのパーティー入っても失敗すると?」


「そ、そう言う訳じゃないよ」


「じゃあどう言う意味?」



 夜弥美は珍しく突っ掛かってくるタルトに驚く。


「えっと、僕が考え無しに突っ込むから---」


「---シナリオはこっちで考えてる。それに君は従えば良い」


(それはそれで楽だけど……。---タルトは何故こんな今までおっとりしていやのに、セカセカと急に強引な勧誘を……?)



 夜弥美はそれが頭の片隅にあったが、段々、怪しく感じてしまう。


「タルト、何を急いでいるの?」



 夜弥美の問いにタルトは諦める。


「---もういい」



 タルトは急に夜弥美の懐に入り込もうとする。


 夜弥美はそれを交わす。


「な、何⁉︎」


「ちっ!」


 タルトは短刀を逆手に持つ。


「---もういいや。ヤミ君が手に入らないなら、ヤミ君を殺してボクも死ぬ!」



(お、これが噂のヤンデレって奴か。---じゃねーよ!どうすんのこれ⁉︎)



 夜弥美は他人事の様に思うが、タルトの目からは涙が出ている。




 タルトは言う。


「『ボクが菜々緒様と真飛流様と肩を並べるまで、待ってて』って言ったけどやっぱり無理!---あんな化け物に勝てっこなんてないし、ヤミ君は真飛流様にゾッコン。八方塞がりだよ!」



 夜弥美は言う。


「まぁ、確かに化け物染みた2人だけど、そんなに悲観しなくても---」


「外、見て」



 タルトにそう言われて、夜弥美はタルトが指差す方を見る。


「うおおい!噂の化け物⁉︎」



 驚き過ぎて、菜々緒と真飛流を化け物呼ばわりする夜弥美。


 2人は腕を組んで中を覗き込んでいるが、特に何かそれ以外のリアクションは無い。


 むしろ、続きをしろと『しっしっ』と手で振り払われる。



 夜弥美はそれを尻目に見つつ、タルトへ言う。


「お、落ち着こうタルト。今暴れ回っても良い事無いし、僕が綺麗に保ったこの家を壊す気?」



 それを言われたタルトは「うっ」と言葉が詰まる。


 そのまま、菜々緒と真飛流をチラッと見て、落ち着いたのか、諦めたのか、項垂れて短刀を足元に落とす。



「……なんだかゴメン、ヤミ君」


 深呼吸をしながら言うタルト。



 夜弥美は頷く。


「あ、ああ、まあ、うん……」


 何とも言えない返事と、謎の間が生まれる。





 そうしていたら、玄関の方で2人分の帰宅した音が響く。



 先に入って来たのは菜々緒。


「急遽、真飛流に言われて帰って来たら面白い事になっているな、タルト」



 次に真飛流が入って来る。


「ほら、自宅内監視カメラって役に立つでしょ?」



 真飛流は菜々緒に言っているが、菜々緒はどこか何か別の事を考えている様子である。



 真飛流はタルトに近付く。


「勇者への昇進には驚いたわよ、タルト。---それをダシにこんな形であんたが夜弥美に迫るとは思わなかったけど」



 菜々緒は荷物を片付けながら夜弥美に言う。


「色々聞きたいだろうけど、また今度にしてくれ」


「はい」


「タルトの話を全て鵜呑みにするなよ?」


 菜々緒は夜弥美に顔を近付けて言う。


「---あと、物のついでで言うが、お前を推薦しない理由について訂正させて貰うぞ?あとタルトにも」



 夜弥美は「え、あ、はい」と頷く。


(全ての会話を聞かれていたと言う前提か……。説明楽だから良いけど」





 菜々緒は言う。



「お前は勇者に不向きな異端な性格なんだ。そんな優柔不断な勇者は要らない。他人優先な優しい勇者とかもな。---タルトに関しては妖魔軍に対して常に怒っている勇者とかは、悪いが推薦出来ない」



 真飛流が夜弥美より先に「へぇ」と言う反応をする。


「タルトを皮切りに、“量産型勇者”を作る話しが進んでるのに厳しいのね?」



 また新たな言葉が出て来て頭を抱える夜弥美。


「何それ……」



 真飛流は答える。


「勇者への昇格基準が見直されて、タルトの代からキナ臭くなったのよ。ま、詳しい選考、試験基準は知らないけどね?---ご指摘の通り、不勉強なもんでねぇ〜」


 そう言いながら、真飛流はタルトを睨む。



 タルトは「うっ」と言いながらそっぽを向く。



 菜々緒は夜弥美が用意した晩御飯をいつの間にか食べながら、


「とりあえず、お前等は座って話でもしろ。---タルトには色々聞きたいからなぁ

 〜」


 タルトが夜弥美を刺そうとした時のまま、ずっと対峙をしている2人に言う。


「---時間、あるよな?」


 念押しをしながら。



 タルトは「はい」と、小さく言う。



 真飛流も荷物を軽く片付ける。


「ま、どうせ明後日には出るから、このまま放置だけどね」









 タルトの口から語られる、夜弥美との出会い。


 一度だけ寝た話。


 今日の事に関しては午前中に夜弥美と熊の魔獣相手に危うく死にかけた事。


 家に来てからの話は筒抜けなので割愛。


『夜弥美を殺して自分も死ぬ』と言い出したのは、単純に、「そうしたかったから」だと言う。


 真飛流は「その性格には余罪がありそうね」と言うが、菜々緒が『ヤンデレ』をよく判っていなかったので、それ以上の追求はしなかった。









 大体の経緯を言ったタルト。


 話のキリが良い所で菜々緒と真飛流へ急に牽制をする。


「なので、ボクは菜々緒様と真飛流様に対してアドバンテージがあるのです!」


 彼女は少し強気に言う。



 菜々緒は何か吃る。


 真飛流はそうして複雑な顔をする菜々緒を尻目に、


「ダッサ。一度寝ただけで今更、彼女ヅラ?」


 と、呆れる。


「---過去に囚われてる上に、アタシと同じ、吊り橋効果で告白したのでしょうけど、アタシに勝てると思わないで。舐めないで。アタシは菜々緒より本気よ?。ヤミちゃんはアタシのモノ。今すぐに子供が欲しい、ヤミちゃんにずっと愛して欲しい。1日中セックスしたい。それ以外にも色々あるけど、本当は閉じ込めていたい位なんだから。---檻に」



 夜弥美はそれを聞いて、


「檻はちょっと辞めて欲しいなぁ……」


 と言うが、菜々緒は、


「真飛流の方が相当愛が重いが、大丈夫なのか?」


「大丈夫です、多分」


「……そっか」




 タルトは真飛流に対する策が効果の無さに若干、悔しそうな顔をしていた。



 夜弥美から見れば真飛流には過去のそうした出来事程度だと、あまり精神的に効いていない様子である。




 ここで菜々緒はふと、タルトが夜弥美に告白をした際のセリフを思い出す。


「あ、そうだ。---タルトは、オレと真飛流と肩を並べるまで、夜弥美に待って欲しい、と言うのは、どう言う意味だ?」



 タルトは言葉を詰まらせ、焦る。


 その様子を夜弥美は心配する。


「……大丈夫?」



 タルトは小さな子で言う。


「他の意味に捉えられてしまったかも……」



 と言う。


 夜弥美は小さな声で自身の考えを伝える。


「下手にここで取り繕うより、正直に言った方が良いよ」


「う、うん……」


 深呼吸をするタルトは菜々緒に向かって言う。


「---勇者になってから改めて告白するつもりでした」


 決して、実力の話しではないと言う。



 菜々緒は頷く。


「そうか。---なんだか、スマンな、『ヤンデレ』ってのがよく判らんで。話が噛み合わなくて」



 真飛流はタルト見る。


「ま、貴女が元情報屋、下忍をしていたお陰と、貴女も“アタシのヤミちゃん”が好き過ぎて、漏れてしまった情報、---特にギルドの所長から、勇者になる為の条件とか。そこからヤミちゃんが他にも引き出せた話もあるから、助かったわ、ありがとう」



 そう言われたタルトは「うう」と項垂れる。



 真飛流は続けて言う。


「ま、乱心をした事に対しては夜弥美がどう思うか次第だけど、家に被害が無い以上、アタシ特に咎める気は無いわ」


 真飛流は夜弥美を次に見る。


「---『皆んなと仲良くしないと、次は完全に別れる』って言われたからね」



 菜々緒は少し不服そうであるが補足で言う。


「君のパーティーに無理にでもヤミ君が拉致られるならば、流石に止める」



 真飛流も同意する。


「そうね。夜弥美が選んだならば諦めるけど」



 それに菜々緒は突っ込む。


「おい、嘘を言うな。ずっと『泥棒猫』って怒ってしていたじゃないか」


「そりゃそう言うでしょ。---あと、他人事みたいに言うけども、菜々緒も同類よ。『泥棒猫』」


「んだと、てめぇ?それはこっちのセリフじゃい。---オレが先に見付けて連れて来たのに唾付けやがて」


 菜々緒は真飛流に詰め寄る。



 真飛流は言い返す。


「はん、またその話題?---だから早い者勝ちよ。アタシからすればアンタのそんな、『結婚するまでセックスしない』とか言うアイデンティティ、早く考え直しなさい」


「ああ?オレの生き様に口出しする気か⁉︎」


 菜々緒は徐々にヒートアップし始める。



 真飛流はここで爆弾発言をする。





「その生き様を、ヤミちゃんの記憶を消してまでセックスしまくって、守ってるつもり?」





 菜々緒は顔に出さなかったが、右眉がピクっと動く。


 飽くまでも冷静沈着。


 それを見た真飛流は、


「あら、心当たりがお有り?」


 ニヤっと笑って言う。



 菜々緒は夜弥美を見る。


「……ふん、どこに証拠が?なあ、---ヤミ君?」



 菜々緒は夜弥美を見るが、段々顔が赤くなり、真飛流にその表情を見られない様にしている。


「証拠……ですか?」


 夜弥美は真飛流を見るので、真飛流が答える。



「---あら、相変わらず菜々緒はデジタル機器に強いのか弱いのか判らないけど、自宅内監視カメラは録画も可能よ?」

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