第4話 

 夜弥美が向かった先は、都市部郊外の下水処理施設周辺。


 この地域での害獣、害虫退治クエストである。



 地味だが、誰かがしないと街がたちまち、巨大ドブネズミや巨大な害虫が疫病をばら撒く事になる。


 それにここはこの都市部内と周辺に湧く害獣、害虫、魔獣の指数となる。



 身近に起こる食物連鎖の観察。



 これをする事により、討伐クエスト系を受ける時に効率的な稼ぎ方が出来る。


 中々湧かない害獣を狩って一攫千金を狙うより、忙しいけど、数打ちゃ当たるで、よく湧く害獣を大量に討伐して稼いだ方が良い場合もある。



 この地域で元々、討伐系をメインにしている冒険者なら『肌感覚』で、効率良く稼げるか判るが、他所者の夜弥美は当然、そうはいかない。


 なので、他にも、同様に指数を測るクエストを受けなければならない。


 こうした地道な活動がいつか報われる。



 ……多分。





 昼頃になるとお腹が空いた夜弥美は、持って来ていたコンビニ弁当を食べる。


 その時、スマホを見る。



 真飛流と菜々緒の連絡先は消しつつ、ブロックをしている。



 なので、着信があればそれ以外の人物だが……。


「陽太からか……」



 鬼の如く、不在着信がある。


 そうしている今正に、陽太から電話が掛かって来る。



 少し驚く夜弥美は応答ボタンを押す。


「……陽太?」



 しかし電話口の声は違った。


『えっと、陽太君の身内の方ですか?お友達ですか?」


 男の声だった。


「えっと……元パーティーメンバーです」


『そ、そうですか』


「……陽太に何かありましたか?」



 夜弥美は一瞬、戦慄する。


(陽太に何かあったか?)



 電話口の男は言葉に詰まる。


『その……実はですね---』


(まさか……死んだか?)





『---顎の骨を折る重傷を負いまして……』





 予想外の怪我の方向性だった。


『ちょっとしばらくは喋るのがしんどいみたいでして……。---何かしらの縁者が居るか尋ねたら貴方様の番号を示されたのですが……』


「そ、そうなのですね」


(先方さんも大変の様子なのは判るが、僕も良い迷惑なだけどなぁ)



 ふと、夜弥美は陽太の言葉を思い出す。



 ---旅は道連れ世は情け。



(いや、多分今は使い時の言葉じゃない)


 しかし、縁と言うのはこうも不思議と続くのか。



「---えっと、具体的にはどうすれば……」


(仕方ない、乗りかかった船だ。話は聞くか)



『そうですね、1週間程の入院の付き添いをですね---』



「あれ、陽太の奴、そう言った時の保険に入っている筈なんですが……」


 夜弥美がそう言うと、電話口の男は遠くで何かを言う。


 陽太と何か話しをしているのだろうか。



 電話口の男の声が帰って来る。


『ああ、えっと、元カノがその辺りは取り仕切っていたので、判らないそうです』


「それでしたら、『菜々緒』って言うソイツの恋人が居るんで、そっちに頼んで下さい。あと、その人には僕の名前出さないで下さいね……」


 夜弥美はそう言って一方的に電話を切った。



「僕は親兄弟じゃねぇ……」


 陽太からの電話は着信拒否。


(そもそも怪しいんだよ、色々と)



 詐欺の可能性も考えた夜弥美。


「街に帰ったらしらみ潰しに探してやる」


(もし詐欺だったら、どうしてくれようか)



 そう思いながら夜弥美は弁当を平らげて、クエストを再開。


 日が沈む直前までやったのであった。









 陽太の件は結論を言えば、本当に大怪我をしていた。


 顎を始め、頭部を中心に。


 命に別状もなく、障害も恐らく無い。



 今、気が滅入っているのは、電話口で菜々緒にこっ酷く怒られたとかなんとか……。



 保険で全部カバー出来そうなので、夜弥美の出る幕は無い。


(すまねぇ、疑って)



 ちなみに、夜弥美は一度着信拒否を解除して、病院の場所を聞き出した。


 直ぐに陽太のパーティーリーダーが出てくれたので来られた様なモノである。










 夜弥美は陽太の入院の確認したあと、ギルドへ来た。


 討伐報告に。



 相変わらず、ギルド内では『勇者様』『勇者様』と賑わっている。


 尚、例の勇者本人はここには居ないらしい。


 どこかへ出掛けているらしい。



 夜弥美は隅っこの窓口にて、今朝のオバチャン受付嬢が居たので、そこで討伐報告をする。


 そのあと、報酬を受け取る。



 受付嬢はお金を渡すと同時に言う。


「はい、報酬ね。---今朝、丁度、卯月ちゃんの入れ替わりで例の美女勇者様が2人来てたのよ〜」


「へぇー、そうだったのですか」


 卯月は夜弥美の苗字である。



『卯月夜弥美』



 名前も見た目も女性に見えるのがコンプレックスである……。





 受付嬢は小さな声で言う。


「その……ね。言いたくなかったら言わなくてもいいのだけども……。その……---パーティーリーダーの勇者様と何かあったの?」



 夜弥美は今朝、自身のパーティーメンバー登録を削除して貰った時に、


(リーダー名、このオバチャンに見られてしまったか)


 と、察する。



「んー、と。---……パーティーメンバー内のいざこざです。僕は直接関わってませんが、どちらかと言うと巻き込まれてしまった側でして……。そこから空気が気不味くなってしまい……」


 小さな声で夜弥美も言う。


(これだけ言えば察してくれるだろう)



 受付嬢は頷く。


「そうだったの。---大変だったわね」



 夜弥美は頷く。


「はい、大変でした」





 ここで夜弥美は会話の違和感に気付く。


(あれ、何だろうこれ。……何でこのオバチャンは菜々緒の顔を知っている風なんだ?)



 パーティー情報に個人情報がそこまで載っていたかどうか。



 夜弥美は考える。


「えっと、すみません。菜々緒さんの顔、知っているのですか?」



 受付嬢は答える。


「勿論よ。---今朝来たのが例の、菜々緒様と、真飛流様だったからね」



 夜弥美は焦る。


(追い掛けて来た?いや、そんな訳が無い)



 2人がこの都市へ来た理由は気になるが、それより気になるのが、


「あの……もしかして、僕の事は---」


 夜弥美は尋ねる。



 受付嬢は苦笑いをする。


「安心して。言ってないわよ。訳アリみたいだからね。---ここに来て事もパーティーメンバー削除の事も言わないでおくから大丈夫よ」



 そのセリフを聞いて、夜弥美はホッとする。



 更に受付嬢は喋る。


「元々、お三方は召集が掛かって来たみたいだから、忙しいと思うわ。それが終わったら次のお仕事もあるみたいだし」


 三人が来た理由について、詳しい理由は判らないと言う。



(本当に偶然だと言うのか……)


 そう思いながら夜弥美は礼を言う。


「お気遣い、ありがとうございます」


「良いわよ。よくある話だし、面倒事に回避は私達も、冒険者さんも重要だからね!」



 そう言うオバチャン受付嬢にホッとしながら、夜弥美はカプセルホテルへ帰ろうとすると……。





 ---『勇者様が帰って来たぞ!』






 冒険者の誰かが言い始め、騒つく。


 討伐完了祝賀会がどうの言ってる人も居る。



 それも束の間に、三人が帰って来る。



 夜弥美は俯いて顔を隠す。


(おいマジか)


 受付嬢も「隠れて隠れて」と小さな声で言う。


 偶然にも、フード付きのコートを着ているので、フードを被る。



 会話内容は……雑踏過ぎて聞こえない。


 顔も向けられないので、このままやり過ごすしかない夜弥美。



 ライウンが誰かにヘコヘコしながら喋っている声が辛うじて聞こえる。


「是非とも、お父上のご紹介通り、我が国で后となって下さい」



 ライウンが真飛流か菜々緒のどちらかに言い寄っているのだろう。


 しかし、その返答は聞こえない。


 あとはライウンのパーティー一行の足音が少ない気がする。



 夜弥美はチラッと、2階の所長室へ向かう勇者三人と、ライウンのパーティーメンバー1人が上がっていく所を尻目に見る。



 菜々緒と真飛流の顔がヒロインにあるまじき顔になっていた。


 多分、今の2人ならば、デコピンで人を殺せそうである。



 そしてそのまま、菜々緒は所長室の扉を蹴破って入って行ったのである……。


 真飛流はライウンを睨みながら部屋に入っていく。


 相当、お怒りモードの様子である。



 あまりにも傍若無人過ぎて、ギルドの建屋内が鎮まりかえる。



 その隙に夜弥美はギルドを去るのであった……。


「久し振りに見た、あの2人が暴れてるの……」









「夜の祝賀会は通夜状態だったと言う噂よ〜」



 翌日。


 夜弥美はオバチャン受付嬢から話しを聞く。


「どうもね。ライウン様のパーティーが菜々緒様と真飛流様に良い所を見せようとして、妖魔軍の幹部1人相手に苦戦したみたいなのよ」


 どこ情報か判らないが、夜弥美は「そうなのですね」とか「成程〜」等の相槌を打つ。


「---お陰でライウン様のパーティーメンバーはあの槍使いの人、生き残りは1人みたいなの。可愛そうよねぇ〜。亡くなった方。菜々緒様と真飛流様って、ライウン様より強い勇者様なのに、ライウン様の良い所見せる為の道具にされちゃって」



 そう。


 こうして冒険者は消費される運命なのだ。


 いつか、自分もそう仕向けられる可能性はあった。



『価値』とはそう言う事である。



 肉体関係を結んでまで、信用させて、最後は『真飛流様の為に死ねる』と言うマインドコントロール。


 菜々緒もそう言うつもりでタルトと陽太を育てていたのだろう。



 受付嬢の話しは止まらない。


「結局、妖魔軍幹部の『闇夜の囚人』を倒したのは真飛流様だってねぇ〜。---それとね。ライウン様のお父さん。一国の殿様なんだけどね。この件の前から勝手に真飛流様を婚約者にするとか言い出してて、今回の活躍で更に推し進めようとしてて、それはもうお家騒動もいいところよ〜。ライウン様も乗り気だし。---真飛流様は断ってるそうだけど……。もう決定事項でしょうね。カウンターダウンも近いわ」



 これに夜弥美は『ドキッ』する。


(そっか……。そうだよな。真飛流は良い所のお嬢様だし……)



 受付嬢は夜弥美の表情を伺っているのか、少し間を置きつつ、


「ところがどっこい!---菜々緒様が真飛流様を巡ってライウン様にね、爆弾発言したのよー」


 カウンターを乗り越えながら、ニコニコして言う。



 夜弥美はそれに引きながら言う。


「そ、そうなのですか」



 受付嬢は頷く。


「そうよ〜。---何て言ったか判る?」



 突然のクイズである。


 夜弥美は少し考える。


「……決闘ですか?」


「残念!---答えは『夜道には気を付けな』」


「そ、そすか」



 受付嬢は嬉しそうに言う。



「本当にそんな事言う人は実際居るとはねぇ〜。しかもよ、祝賀会終わりの夜中にライウン様と殴り合いの喧嘩をするなんて驚きよ。ドラマの世界でしか無いと思ってけど、本当にやっちゃうなんて、破天荒ね、菜々緒様」


「……うそん」


「本当よ。お陰で岡っ引きもどうしようか悩んだ挙句、『妖魔軍の精神攻撃を受けたライウン様を菜々緒様が正気に戻した』ってニュースにしたらしいわ」



 夜弥美は思う。


(今まで菜々緒を本気で怒らせなくて良かった……)



 ちなみに、ライウンは相当な大怪我らしい。


 しかも、基本的にはこの都市所属だが、ライウン1人しか居ない。


 なので、彼の怪我が治るまで、菜々緒と真飛流は半分、責任を取る形になり、この都市に居座ると言う。



 受付嬢に尋ねられる。


「……どうするの?卯月ちゃん?」









 そうなれば、仕方が無い。



「と言う訳で、出戻りしました」



 鉢合わせはしたくない。



 とある喫茶店にて。


 夜弥美の目の前に座るタルト。


 彼は面倒臭そうな顔をして座っている。



 バスを乗り継いで帰ってきたら日も完全に沈み、時間帯的にはディナーである。


 二人は軽食を食べながら話しをする。



 タルトは現在、色白で薄幸そうな見た目のお陰で、割と綺麗なお姉さんのパーティーに拾って貰い、世話を見て貰っていると言う。


 それも、菜々緒のパーティーを離脱した直後位に。



 前々から知り合いだったらしく、実は引き抜きを狙われていた説もあるとかなんとか……。




「そんなに直ぐにパーティー組めて羨ましいなぁ」


 夜弥美はそう言って頷く。



 タルトは頷く。


「まあね。---とは言え、偶然だよ」


「……そう?」


「うん。君もその内組めるさ〜。真飛流様との事を思い出して」


「……まぁ、その真飛流に『利用』されてたんだけどね」


「……」



 タルトは納得いかない顔をしている。


「そうは思えないんだけどなぁ〜。---ちゃんと話を最後まで聞かない癖、出てるよ」


「うっ、うーん」


 これには言葉が詰まる夜弥美。



 タルトは呆れる。


「そうして陽太みたいに逃げるのも良いけど、時には向き合わないといけないよ。---真正面から向き合う勇気。真飛流さんはどんな苦労でも、『勇者になる為なら』って突き進む君がカッコよかったんじゃないかな?」



 普段はモノ静かなタルトだが、一度口が乗ればこうして話をしてくれる。


 夜弥美は幾度か『記憶は薄くても潜在意識下のタルトは凄い』と、よく相談を持ち掛けていた。


 実際に行動に移すと成功をする。



 銀髪に隠された左目。


 夜弥美はこう言う。


「やっぱりそれ、未来視の魔眼だね」


「いや、普通の目だから……」



 夜弥美はタルトの隠された左目を、髪を掻き分けて見る。



「ちょっと、ヤミ君。恥ずかしい……」


 回りの女性客が盛り上がる。



 美男子二人


 片方は銀髪の薄幸そうな少年。


 もう片方は栗毛にショートカットみたいで、ぱっと見は女の子の様な青年。



 夜弥美はタルトの左目を見る。


「ホントだ、綺麗な瞳だ」


「っ〜〜〜」


 顔を真っ赤にするタルト。


「もう!話は終わり!---いい加減逃げずに、真飛流さんと一度向かい合ってよね‼︎」


 そう言いながら、代金を置いて去るタルト。



 彼は店から出た瞬間。


 恐らく、パーティーメンバーの女性だと思うが、高身長で黒髪のお姉さんだった。


 タルトと一緒に仲睦まじく何処かへ行った。



 夜弥美は窓からそれを見て一言。


「楽しそうだなぁ」



 ここでタルトが置き手紙をしているのに気付く。



 夜弥美はそれを拾う。


 差出人らしき者はアサダ。



 中を開くと、こう書いてあった。



『タルトのアドバイス通り、幕府騎士軍に入ったら、北の大地の最前線で活躍する事になりました。絶対に“漢”になって帰って来ます。---アサダ』





 北の最前線は命を削る過酷な戦場である。


 冬に強い妖魔軍の攻撃は激しく、戦死者が多い。



 夜弥美は軽く後悔した。


 最期のやり取りが『お姫ちんは辞めて』は後味が悪い。


 しかし、もう連絡を取る事は出来ない。


 次の知らせは恐らく---。









 夜弥美はいつものカプセルへ行く前に、真飛流の下宿先へ行く。


 このボロアパートは真飛流しか住んでいない。



 真飛流の勇者パワーのお陰で、幽霊が引き寄せられるとかなんとか……。



 なので、全員、出て行ってしまったのである。


 故に、大暴れしても怒られない。





 真飛流の部屋には未だ表札が掛かっている。


 夜弥美が来たのは合鍵を返す為。



 玄関ドアーの郵便受けに入れるだけだが、謎に緊張をする。



 タルトの言葉を思い出す。


『ちゃんと向き合わなきゃ』



「……嘘まみれに言いくるめられて、利用されるだけだよ」



 今回はタルトのアドバイスは全面には聞かない。


 次にもし会う時は確実に、ちゃんとした別れ話だろう。


 話は聞く。


 ……聞くだけ。


 出来るかは判らないが。



 そう思いながら、鍵を郵便受けに入れる。


 お揃いのキャラクター物のキーホルダーを付けたまま。



 夜弥美はアパートを去り、カプセルホテルへ向かった。


「……『急に熱が冷める』って、ホントにあるんだな」


 そう呟きながら……。









 それから1ヵ月の間。


 夜弥美は冒険者としての仕事ではなく、ギルド斡旋ではるが殆どアルバイト生活で生計を立てていた。



 どうも、冒険者として命を削ってまでして、仕事をすると言う気が起きなくなってしまったのである。


 それでも、名指しで討伐クエストが入るので、それには出る。


 出る可能性があるからには鍛錬は欠かせない。


 なので、アルバイトが終わったら体型、体力維持をする為の運動をすると言うルーチンワークが出来た。





 そんなある日の事。


 ギルドから魔獣討伐の依頼が来たのでギルドへ行く夜弥美。



 窓口で概要を聞く。


 そのついでに、受付嬢から思わぬ一言を言われる。



「あ!ヤミさんおめでとうございます!---仲間レベル1になりました!」



 寝耳に水である。


 夜弥美は驚きつつも、尋ねる。


「えっと、菜々緒さんのパーティーメンバーから僕は削除された筈では?」


「ええ⁉︎ちょっと待って下さい!……あれ、確かに一回抜けてますね。『怪我で一時離脱していた』と言う事理で再登録されてます……。---そもそも、ヤミさんがそんな手続きをいつの間に⁉︎」



 これに夜弥美は正直に答える。


 掻い摘んで。


「気不味くなって、パーティーを抜けただけです」


「……わざわざ『ダイニング』の都市でしたのですか?」


「……まぁ、色々ありまして」



 受付嬢は驚きつつ呆れる。


「はあ……。真飛流様、先月、この世の終わりみたいな顔をしていた理由、何か関連がありそうですね?」



 そう言われた夜弥美は即答する。


「……ノーコメントで」


 受付嬢は残念がる。


「そう、……ですか」


 と、言いつつも、更に続けて言う。


「---と言っても、大体察しは付きます。---ちゃんと真飛流様帰って来たら仲直りして下さいね?」



 夜弥美は誤魔化す。


「ははは、どうでしょうね?」



 内心では、


(数ヶ月は帰って来ないけどね)


 と、このまま自然消滅を願う夜弥美。



(クズと思われても良いさ。真飛流は真飛流で良いと思う相手を見付ければ良い。それも沢山居るさ。こんな男に拘らず)





 しかし。






 夜弥美は背後から名前を呼ばれる。



「ヤミちゃん!」



 こう呼ぶのは一人しか居ない。



 夜弥美は振り向く前に、後ろからその人に抱き付かれる。



「……会いたかった」



 真飛流のそのセリフに夜弥美は『ドキッ』とする。


 反応をすべきかどうか。



 悩んでいる内に、真飛流は謝り始める。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん」


(いや、怖いわ!)



 謝罪の言葉は段々聞こなくなり、背中で涙を流す声が聞こえる。


 受付嬢は「席外しますね」と言って、奥に引っ込んで行く。


 他の冒険者は気を遣ったのか、段々、建屋内から居なくなる。



 夜弥美はしばらく、背中を真飛流に貸した。



 自分の気持ちが揺らぎながら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る