第1話 

 菜々緒の解散宣言にパーティーメンバーは目を点にする。


 しばしの間、無言の時が流れる。



 丸いテーブルに座る一向。


 夜弥美は正面に座る、拳銃使いのアサダを見ると真顔になっている。


 アサダは隣に座る菜々緒を見る。


 菜々緒は目を瞑っている。



 この沈黙を破ったのは菜々緒の隣に座る、剣士の陽太ようたである。



「い、いきなりだなぁ〜。どうしたん?」



 苦笑いをしながら言う彼は、菜々緒と男女交際をしていると思われる人物である。


 多分している。


 ほぼ確実に付き合っている。



 これに菜々緒は頷く。



「実は……。---妊娠したんだ」



 ……。



「「「ええ⁉︎」」」



 これに一人を除く男性陣一堂、驚く。


 驚かなかったのは拍手をする中性的な顔をした人物、菜々緒の元カレだったらしい、アサシンのタルト。


 声も中性的で、


「……おめでとう」


 と、唯一、祝福をする。



 菜々緒は頷く。


「ありがとう」



 そして次に菜々緒は衝撃の一言を言う。





「オレは勇者を辞める」






 これに夜弥美は唖然とするが、直ぐに我に返る。


「え⁉︎ま、待って下さい!」


 そう言って立ち上がり、菜々緒に向かって手のひらを『待って』のジェスチャーをする。



 その時、アサダの顔が絶望と悔しさが混じった表情を見る。



「あ、あと1ヵ月待って貰えませんか⁉︎」





 夜弥美は今まで、まともにパーティーを組んだ事がない。


『侍』クラスでは珍しい、ソロ冒険者。


 通常であれば、足軽鉄砲師や忍者、騎馬兵と組む事が多いクラスだが……。



 なので現在、彼の仲間レベルは0。



 しかし……。


 夜弥美は仲間レベルを10に上げなる任務をこなさねばならない。


 仲間レベルを1にするには6ヵ月間、同じパーティーで120回、クエストをこなさねばならない。


 夜弥美既に、120回以上はクエストをこなしている。



 あとは指定された期間を過ごせば良いのだが……。





 夜弥美の言葉に菜々緒は応えようとするが、陽太に遮られる。





「い、一体!誰の子供なんだ⁉︎」





(え、嘘ん……。修羅場来たかのか、これ……)



 夜弥美は目頭を押さえて、『あちゃー』と言うジェスチャーで天を仰ぐ。



 陽太は立ち上がり、菜々緒にお腹の子供の相手を聞くが、菜々緒は答えない。


「それは……」


 菜々緒は少し縮こまり、自分のお腹を両手で抱える。



 陽太は唖然としながら問う。


「ま、未だ、僕とはそ、そんなセ、セックスをしていないのに!」



 これに夜弥美は、頭に『?』と浮かべる。


(え、マジで?)


 悔しがっていたアサダも『え?』と頭に浮かべつつも、タルトを見る。


 夜弥美もタルトを見る。


 タルトは肩をすくめて首を振る。


 口パクで『違う違う』と示す。



(え、更なる修羅場?)





 陽太の問いに菜々緒は俯きながら答える。


「そうだ……。---君とはセックスはシていない」


 ここで陽太はタルトを見ながら、


「じゃあ一体---!」


 と言うが、タルトは引き続き、肩をすくめながら首を振る。


 アサダも夜弥美も同様に首を振る。



 陽太は更に言う。


「婚前交渉はしない、そう言ってたから我慢していたのに!」


「……」


 菜々緒は何も言わない。



 アサダは腕を組みながら菜々緒へ問う。


「リーダー、心当たりは?」


「……」


 やはり答えない菜々緒。



 タルトは立ち上がる。


「はあ……。菜々緒様がそう言うならば仕方無い。そんじゃま、---またどこかでねー?」


 そう言って、丁度、店員が持ってきたビールを受け取り、一気飲みする。


 そのまま荷物を抱えて、その店員にビール代を渡して酒場を去って行った。



「さらばだー」



 そんな別れの挨拶と共に。





 夜弥美も立ち上がる。


「ごめんなさい。僕も……お世話になりました」


 アサダへビールとその代金を渡して、夜弥美は荷物を早急に纏めて酒場を去った。



 陽太が菜々緒を問い詰める姿を見つつ。


 一瞬、悲しい顔をしている菜々緒と目が合うが、見なかった事にする。





(時間の無駄だ)


 夜弥美は急いでギルドへ向かう。


(それにしても困ったなぁ……。新たなパーティー探しなんて……)


 時間帯的にも、クエスト完了報告で賑わっている筈。


 その中でも、新たにパーティーメンバーを募集しているグループや、解散、再結成で賑わう時間でもある。


「早く……早く次のパーティーを探さなきゃ」


 そう呟きながら、夜弥美はギルドへ急ぐのであった。









 ギルドでパーティーメンバー募集を探すも、募集自体、無かった。


 色々なパーティーに声を掛けるも案の定、断られる。



 夜弥美はガッカリしながら、今日のところはギルドを去る。


「はあ……。ホント、参ったなぁ」





 ---夜弥美はギルドへ着いてから、受付嬢の『莉里亜』に事情を話すと驚かれる。


 未だ解散届けが出てないので、仲間レベル1への道が閉ざされた訳ではない。


『何とか、菜々緒を説得する様に』と言われたが、今更、『世話になった』と告げて去ったからには、引っ込みが付かない。





「……しばらくは小遣い稼ぎか」



 夜弥美はコンビニに寄り、弁当を買う。


 そのまま、公園へ行き、ベンチでボッチ飯。



 高ランク冒険者故に、報酬には一定の乗数で追加報酬が乗るので、真面目にクエストをすれば金銭的には早々困らない。


 しかし、今のクエスト内容条件で言えば、パーティーを組んでクエストをせねば、時間の無駄である。


 故に、クエストへのモチベーションは低い。


 かと言って、長い目で見れば、冒険者稼業を生業としている以上、金銭的にはサボる訳にもいかない。



 これは完全に悪循環である。





「……困ったなぁ」



 夜弥美はそう言いながら、立ち上がり、弁当ガラを片付ける。



 すると……。





「ヤミちゃん?」





 そうして夜弥美を呼ぶのは1人しか居ない。



「真飛流さん⁉︎」



 夜弥美が目の前に居る、美人な女性の名前を呼ぶ。


「ああ!---やっぱり、ヤミちゃんだ!」


 凛とした声で、夜弥美の名前を呼ぶ真飛流。


 そのまま、真飛流は持っていた紙袋を放り出し、夜弥美に正面から抱き付く。



「良かった、なのね!」



 真飛流はそう言って、強く夜弥美を抱きしめる。


 夜弥美は『無事』と言う言葉にジンと来る。



「菜々緒に何もされていない的な意味なんだけど?」




 夜弥美はこの言葉に『?』と頭に疑問符を浮かべる。



 しかし、この『無事』と言う台詞は夜弥美にとって、とある感慨深い記憶がる。









 ---夜弥美が菜々緒のパーティーに属してから半月程。



 真飛流からの告白により、2人は当時、半分恋人同士の関係であった。


 半分と言うのは、当時、真飛流は何故か、


『仲間レベルが1になったら正式に恋人になってあげる』


 と言って、夜弥美に条件を出していた。



 とは言え、殆ど普通の恋人同士であった。


 安い宿屋暮らしから、真飛流の下宿先に転がりこんでいた。


 当然、夜の営みもしばし……。


 それでいて、隠れて交際していたつもりの2人だったが、今思えば夜弥美は少し無理があると思われる。





 そんな最中、真飛流が大怪我をした理由。



 およそ、3か月前。


 他のパーティーとの合同クエスト中に、洞窟で大崩落事故に遭ってしまう。


 原因の一説には、菜々緒が魔獣に放った攻撃が外れた説が囁かれたが、生き証人は居ない。


 合同でクエストをしていた協力パーティーメンバーが全滅したのである。


 ---全員が命を落としてしまった。


 強いて言うならば、生き残りの夜弥美と真飛流が真実と隣り合わせだが、二人共、覚えていない。



 陽太、アサダ、タルトは別行動だったので、彼等が崩落現場に合流した時には菜々緒が穴に向かって、夜弥美の名前を叫んでいたと言う……。





『二人で生き延びたら結婚しましょう?』





 奈落に落ちた二人。



 夜弥美は比較的軽傷。


 重症の真飛流は、夜弥美の体力回復魔法と外から見える範囲での外傷を治癒魔法で治す。


 しかし、内臓や骨折等の見えない部分は怪我の具合が悪く、夜弥美の治癒魔法では治せない状態であった。


 真飛流は常に痛覚に苛まれ、意識を保つのがやっと。



 魔力回復も鈍いので、真飛流は夜弥美の“魔力融通”を受けながら、自然治癒の回復促進に賭ける。


 手を繋ぎ、心を通わせて、“魂の共鳴”を生む事でそれが可能となる。


 通常であれば、痛みで集中が途切れるが、真飛流は『恋人同士』且つ、『将来を約束した相手』と言う、強い心の繋がりで課題を克服する。


 それでも、通常の半分以下の供給速度と、夜弥美も融通が出来る範囲が限られているので、焼け石に水……。


 気力で殆どカバーをしていた様なモノである。





 そして三日三晩。


 二人は洞窟内の川を辿りながら彷徨い、外へ出る


 すると緊張の糸が切れたのか、二人は倒れた。



 夜弥美は気が付いたら、病院のベッドだった。


 外は日が傾き、夕焼けが綺麗だった


(これは……。言わねばならん)



「知らない天井……」



 そんな一番開口に看護師は「何ですか、それ?」と笑われた。


 夜弥美はそに看護師に真飛流の事を訊く。



「怪我の状態が酷くて、大きな病院へヘリコプターで搬送されましたよ〜」



 生きていると知り、夜弥美は一安心。


 また、しばらく、深い眠りについた。





 その後、退院して菜々緒達と合流。


 菜々緒は目に涙を浮かべるも、気丈に振る舞う。


 この時、夜弥美は菜々緒へ真飛流について尋ねる。



『意識はある。貴重品は無くしたみたいだ。ま、何かあれば病院からオレに連絡が来る。安心しろ、---無事だ』





 『無事』に生き延びた。



 全治3ヵ月と言うのも、思ったより長くなくて、どことなく安心した夜弥美。





 菜々緒にそう聞いてから、幾度か真飛流の事を尋ねていた。


 しかし、回答は、『順調だ』としか菜々緒からは返って来ない。


 面談や電話の通話も、『精神的なケアの一環でダメなんだ』と言う。


 渋々、夜弥美はそうした状況に我慢していた。





 そろそろ、時期的にはもう退院なり、完治して帰って来る頃だと思っていた。


 今日は菜々緒にそれを尋ねようと思っていたが、菜々緒の『解散』と言う一言で、パーティーが解散状態に……。



 しかも、菜々緒は誰の子供を妊娠したのか明かさないと言う話しから、しばらくは声を掛けるのが気不味い。



 このままいけば……。





 下手をすれば真飛流ともう会えないかもしれない。


 連絡先が変わってしまった、そもそもどこの病院へ入院しているかも判らず仕舞い。


 割と“詰み”である。


 (しらみ潰しに探す……?)






 そう危惧をしながら、ギルドでパーティー探しをしていたので、正直、パーティー探しの記憶は薄い。



(失礼な事を言ってしまったかもしれないなぁ)





 過去、思わぬ一言が理由でよく、パーティーを追い出されていた。


 軽いトラウマにもなっている。



 そうした事情を抱えて、人間関係に悩んでいた最中。


 菜々緒は優しかった。


 他の面々も直ぐに打ち解けて、友達の様であった。



(もう、そんな居心地の良いパーティーとは出会えないかもしれない)



 そう逡巡しながらコンビニ弁当を食べていた。


(もし、そうなれば勇者試験はもう受けられないかもしれないなぁ……)





 それが一転。





 真飛流の帰還。



 真飛流との約束。



 逆に約束が果たされるならば、勇者試験を受けるのを辞めるのも手かもしれない。


 2人でのんびり、冒険者稼業をして過ごす。





 希望の光が夜弥美に舞い降りた。




 しかし。





 現実は無常である。


 直ぐに思わぬ壁が立ちはだかる。





 夜弥美は真飛流に尋ねる。


「---あの約束、覚えてる?」



 真飛流はその約束を思わぬ形で事実上の保留扱いとする。


「うん……。だけど---」



 夜弥美から離れる真飛流。


「---その前に、そこの泥棒猫を始末してからじゃないとダメ」



(……泥棒猫?)



 真飛流に一気に殺気が生まれる。


「出てきなさい」



 木の影から現れる一人の人物。


「やあやあ、ヤミ君。探したよ」



 ニヤニヤしながら、トートバッグ一つでTシャツに綿パンと言う、先程の戦闘服とは大分軽装の菜々緒が現れる。


「困っているパーティーリーダーを放置して逃げるだなんて、どうかしてるよ、君は」



 夜弥美はキョトンとする。


「えっと……。パーティー解散って聞いたので……」



 夜弥美は言い訳をするが、菜々緒は『むす』っとする。


 これに真飛流が反応する。


「え?!解散⁉︎」



 夜弥美を見る真飛流。


「うん。菜々緒さん、子供がデキたみたいなんだ」



 真飛流は驚いた顔で菜々緒を見る。


「……マ?」


「おう。---あ、そうだ。それでなんだがな、ヤミ君」



 菜々緒はゴソゴソと、トートバッグから紙を出す。


「君に会いに来たのは他でも無い。婚姻届にサインをしてくれ。何、簡単な話しだ。---オレのお腹の子供は君の子供だ」



 ……。



「……はい?」


 夜弥美は本気で呆ける。



 菜々緒とは一切、その様な行為はした事は無い。


 むしろ、菜々緒は『婚前交渉はしない』と言う信念なので、歴代彼氏もそれを守っていた。



「僕は一切、菜々緒さんとそうしたら行為を致した事は無いのですが?」


 務めて冷静に言う夜弥美。



 菜々緒は頷く。


「そうなのだ。そこが問題なのだ」


 真面目な顔をして言う菜々緒。



 夜弥美は、


「あの……。---一体、何がしたいのですか?」


 そう言いながらチラッと真飛流を見る。



 真飛流は人としてあらぬ顔で菜々緒を見ている。


「ねぇ、菜々緒?」


 ドスの効いた声で言う真飛流。



「なんだ?夜弥美のセフレ」


 真飛流は菜々緒のそのセリフにキレた。


「わたしはヤミちゃんの婚約者じゃーーーあああい!」



 夜弥美は真飛流が約束をちゃんと覚えてくれていたのを喜んだ。


 しかし、それは直ぐに冷める。


 夜の公園で、全国でも数少ない勇者、それも二人が本気で喧嘩をすると言う事態に焦る。



 女忍者、くノ一である菜々緒。


 グローブを嵌めて殴り攻撃がメインの真飛流。



 蹴りと殴り、柔道の様に投げ技をしたり、されたり。


 実力では真飛流の方が上なので、菜々緒は割と押されつつも、受け身を撮り続けて、地味な持久戦をする。


 そうなれば、病み上がりの真飛流は分が悪くなる。



 そうして意外と良い勝負をするが……。



「こらーーー!何をやっておるーーーー‼︎」




 笛を吹きながら岡っ引き警察官、二人が来る。



 岡っ引きAは菜々緒を見る。


「あ、菜々緒様でしたか」


 岡っ引きBは真飛流を見る。


「あ、真飛流様ですか」



 岡っ引きAとBは夜弥美を見る。



「あ、うん。また君か。---お疲れ様」



 そう言って、踵を返して去って行った。



(治外法権すげぇ)



 勇者と言う肩書きは時には岡っ引きの権限を超える。


 扱いとしては、幕府騎士軍の士官、少佐並みである。



 とは言え、実際は冒険者同士の争いに岡っ引きは基本的に首は突っ込まない。


 通報があった時のみ。


 又は殺人事件に発展してからである。



 ちなみに、4ヵ月前の菜々緒が起こしたかもしれないと言う、崩落事故は『不幸な出来事』として処理されたのである。


 冒険者のそうした事故は大体そうして終わる事が多いが、面倒な事情聴取を経てからである。


 しかし、勇者絡みだと、勇者の証言が優先されるのである。


 それだけの権限故に、勇者試験と言うのは非常に難しくて厳しい。


 なので、度々、菜々緒は夜弥美に『よく考えるんだな』と言っていた。



 人柄と異能力、そしてコミュニケーション力。


 実績としても、試験としても、1つでも欠けるとダメなのである。



 それでも、冒険者ランク8まで上り詰めた夜弥美には憧れの存在である。


 勇者は。



 ---そう、一種のアイドルである。



 命の危険を顧みず、突き進む姿。


 時には勇者でさえ、命を落としてしまう時も勿論ある。



 魔王軍からクーデターにより分裂し、世界に喧嘩を売った妖魔軍との戦いはそれだけ厳しいのである。





 そんな存在である筈の2人が今---。



 ---私情、しかも痴情のもつれで喧嘩をしている。




 二人がぶつかる事はよくあった。


 肉体言語で解決もいつもの事。



 しかし、今回は違う。



 一番よく判らないのが、菜々緒の行動原理。


 故に、真飛流も暴力で訴えて聞き出すしかない。



 こうなればいつも通り、二人は肉体言語で解決してくれれば良いのだが……。



「ヤミ君、一先ずは野蛮な人間から逃げよう」



 そう言って、菜々緒は夜弥美をお姫様抱っこをして、ジャンプをする。



「待てや、コラ!」



 普段はお嬢様でお淑やかな真飛流が、ヤンキーの様なセリフを放つ。


 通常、取得が難しい飛行術で菜々緒を追い掛ける。


 菜々緒は飛行術が使えないので、建屋の屋根伝いにジャンプ力で跳ぶ。



 時折、菜々緒は地面に降り立ち、高速で駆け抜ける。


 それは路地であったり、大通りであったり。



 この街では二人は普段からよく争っているので、日常茶飯事である。


 しかし、今回は状況が違う。



 どこからか聞こえる---。


『菜々緒様が女の子を抱えて、走ってる』



(すいません、二十代前半の男性です)



 夜弥美は母親の遺伝子が強過ぎて、度々女性と間違われるのである。


 細かなパーツを見れば男性そのものだが、身体の細さも相まって、パッと見は中性的且つ、どちらかと言うと女性寄りに見られるのである。



 暗がりの路地に入ると、真飛流は見え辛いのか、低空飛行をしてくる。



 しかし、そうなると速力が出ない。


 下手な高度だと電線に引っ掛かりそうになる。



「全部電線地中化しろや、菜々緒!」


「やなこったー」



 実は菜々緒。


 この地域の領主の娘である。


 後継ぎは幕府騎士軍で少尉をしている兄。


 財力確保と勢力拡大の政略結婚は姉がするので、末っ子の菜々緒は自由奔放に生きている。


 しかし、何だかんだ言って、地域の御用聞きの役も果たしている。


 人望は高い。


 気弱な父親をイビって実現した施作もしばし。



 菜々緒は本当は外の世界に出たいが、兄が帰って来るまでの我慢をしている筈であるが……。





 対する真飛流も貴族である。


 祖母が総合商社を営んでおり、母親がその会社の子会社で社長をしている。


 言わば社長令嬢である。


 あと、菜々緒とは幼馴染の関係である。



 常にライバル心剥き出し。


 勇者になったのもマウントを取る為。


 基本的に、仲は良く無い。



 ちなみに、菜々緒も真飛流も兄弟姉妹全員顔見知りであり、幼馴染でもある。


 例の政略結婚は、菜々緒の姉と真飛流の兄の事である。


 幼馴染同士での婚約をしており、領民からは『羨ましい結婚』と称えられ、受け入れられている。





 そして今。


 渦中の人物となっている夜弥美。


 夜弥美自身は平凡な人間である。


 特筆するとなれば母親の方に武士の親戚が居るだけ。


 その親戚から英才教育として、剣術、刀の扱いを幼少の時から叩き込まれた位である。


 実家は隣の領地の山奥。


 この街へは元々、出稼ぎで来ただけだである。


 今は冒険者となり、冒険者ランク8も叩き込まれた剣術のお陰でのし上がった。





 それがいつの間にか、イケメンな領主の娘にお姫様抱っこをされ、見た目はお淑やかな金持ちの娘が鬼の形相で追い掛けて来る。



(どうしてこうなった……)





 真飛流が光の矢で空爆をする。


 しかし、菜々緒は全て交わす。



 夜弥美は、(これは菜々緒優勢かなぁ)と思いきや。



 菜々緒が表通りに出てしまう。


「マズった!」


 路地に引き返そうにも、真飛流が菜々緒の目の前に降り立とうとする。



「アサダ!任せた!」



 横方向へ放り投げられる夜弥美。


 それアサダは受け止めて、夜弥美を地面に降ろす。


 アサダは溜め息混じりに、


「大丈夫か?お姫ちん」


「……それ、辞めて」


 夜弥美も溜め息を吐く。



 二人は菜々緒と真飛流が取っ組み合いを始めたのを見る。



 アサダは夜弥美の手を引く。


「ホレ、行くぞ。---お怒りの陽太がお前を探している」



 そう言われた夜弥美は渋々手を引かれて、また路地へ行くのであった……。



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