1-5

 マギサの主食は「怪異」だ。


 なぜ「怪異」を食べるのか、どうやって食べているのかをシバは知らない。


 興味はなくもないが、マギサが自らしゃべらない限りは聞く気はなかった。


 詮索屋は、どこでも嫌われるものだ。


 なんにせよ、今回の「怪異」はマギサの胃に収まった。


 それでしまいの話である。


「別にあなたは呪われていなかったけれど――まあ、それはそれとして『彼』は食べておいたから」


 準構成員の男は、マギサの言葉にようやっと顔を上げて目を丸くする。


 シバにはなにも、一切なにも見えなかったが、マギサには別のものが見えていたのだろう。


 公園へと続く西側の階段には、たしかに「幽霊」がいたのだ。


 ……すべて、マギサの主張するところであるからして、真実本当のことなのかどうかはシバには判じかねたが。


 シバは一瞬、マギサの方便を疑った。


 けれどもマギサも根っからの善人というわけではない。


 現にイジメの果てに殺されたという少年の幽霊を、己の欲を満たすために食べたのだから。


 だから、マギサがこの準構成員の男にひとかけらの同情を持って助けた――という可能性はないだろう。


 準構成員の男は、まったく幸運だった。


 シバは、そう思っていたのだが。


「あの男、死んだんだってよ」


 もはや恒例となった、マギサの家での食事会。


 特に上手くはないし、飛び抜けて美味くもないマギサの食事を胃に収めつつ、シバは世間話を振った。


 ちなみにマギサの料理の腕は前述の通りなんとも言えないわけだが、マギサ自身は料理が趣味で、特技だと思っている。


「『あの男』? ……もしかしてこの前のお友達のこと?」

「あ? 友達ぃ? ……テメェ、どこに目ぇつけてんだ? あ?」


 マギサは糸目をわずかにぱちくりとさせて、首をかしげた。


 シバはと言えば、腕に鳥肌が立つのを感じて、舌打ちをひとつする。


「違うの?」

「違うに決まってんだろーが!」

「友達だから助けたいのかなって」

「んなわけあるか! ……クソ、話が進まねえ……」


 このままマギサとの応酬を続けていれば、したい話ができないと早々に気づいたシバが言い合いを打ち切る。


 仕切り直しとばかりに、グラスに注がれた水を飲み干し、乱暴にテーブルへと置いた。


「だから……この前の『呪いの階段』のときの男だけどよ」

「うん」

「階段から落っこちて打ちどころ悪く死んだんだと」


 その話を聞かされたときのシバの率直な感想は、「ふーん」という無味乾燥なものだった。


 助け甲斐のない男だとも思った。


 せっかくマギサが男に恨みを抱く幽霊を食ってくれたというのに、当の男は――シバに言わせれば――「クソつまらない」理由で死んでしまったのだから。


 酒に酔って足を踏み外して――。


 残された女や子供がどうなるのかはシバは知らないし、特に興味もなかった。


「ふうん……どこで死んだの?」

「あ? そこまで知らねえよ」

「残念。――『怪異』になっていたら、食べられると思ったのに」


 シバは「ヤなやつだな」と思ったが、そんなマギサに特別な感情を抱いている時点で、自分も大概だと思った。

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