運命の魔法〜伝えたい言葉と変わらない現実〜
RERITO
運命の魔法〜伝えたい言葉と変わらない現実
「あれ?ここ、来たことある。」
全身に身の毛が泡立つ。どこもかしこも、見たことあるものばかり...ここは、俺の知ってる世界。
俺は、彼女と水族館でデートすることになった。
そう、それが3日前の話。
高校生一年生の秋あたりに彼女に告白して、いい返事をもらった。高校に入った時に一目惚れで、中々踏ん切りがつかなくて、春になったら、クラス替えということも重なり焦りから、告白をした。幸い、二つ返事で了承され。付き合うことになった。
1週間くらいは、夜中に話すとか...ちょっとクラスで手を振ったり振られ返したり...はは..なんて、あって
ちょっとしたはずみで、デートをしようってことになった。
場所は、ちょっと遠出で駅を3回くらい乗り換えて行く場所...
正直とても浮かれていた。
「明日、楽しみだね。」
なんて、聞いた日は、舞いあがっちゃうんじゃねぇか。って思った。
うん。そう思った。
当日...待ち合わせをして電車に揺られ、外を眺める。
これから、どうなるんだろうな。っていうワクワク感もあったような気がする。
「ねぇねぇ、今日の水族館...どんな場所だか調べた?」
彼女が、話かける。正直どんな感じに話そうとかそういうのを考えてたから...あまり見てなかったので、いや、見てない。楽しみにしてたからさ、って返事をした。
彼女は、ショートカットの黒髪を揺らしながら、にこっと笑って...
「そっか、そうだよねぇっ」
って言ってた。うわっ、かわいいかよ。って思いつつ、A子は調べたのかって聞いたら
「私も調べるほど、余裕なかったんだよね。」
と返してきた。そっか、一緒じゃんって笑いあった。そうこうしてると、目的の水族館についた。
俺は、少しだけ異変に気づく
あれ?ここなんだか見覚えないか....一抹の不安が俺の中に駆け巡る。このまま進むとなにか大事なものを失いそうな気がして...
「お、着いたねぇ、行こっか」
うん...。俺の言葉には、少しだけ覇気がなかったような気がする。
では、お楽しみください。店員さんが営業スマイルで答えてくれる。
彼女は、徐にチケットを二人分と書かれたチケットをパキリと割って...
「ありがとうございます。ふふ、これ分けると思い出の品になるでしょ?」
うん。そうだね。大事にするよ。そう答えような気がする。至って普通...大丈夫動揺していない。この水族館には、何かがあるということに頭が一杯になっていたのかもしれない。
そういうところを分かって彼女は、気を紛らわしてくれた。そう受け取るべきだろう。
少しだけ、むすっとした顔を見せた。彼女は、
「ねぇ、こっちのベンチで、ちょっと休もうか。入ったばかりだけど...」
そう言った。うん...。情けない返事だったと思う。
彼女に手を引かれて、ストンとベンチに腰を下ろすと。
「どうかしたの?入ったあたりから、元気ないよ?」
と、声をかけてくれた。なにか分からない。胸の中がモヤモヤする。なんて言えるわけがない。でも...彼女の目を見る。
屋台で売っているウィンナーが彼女の目越しに見える。なにを考えてるんだ。俺は...ごめん。ちょっと気分が優れなくて...そう言った。
「そっか。無理はしないでね?」
少しだけ...悲しそうな表情をした。そんな彼女に耐えられるわけもなくて...あ、いや、って声がでたけど...すぐに、黙った。最悪だ。
「んー、あ、向こうにあるウィンナーでも食べようよ。」
お昼には、全然早いけど...そう付け足した。
「おじさん。ウィンナー二つ頂戴」
あいよ。っと、こんがりと焼かれたウィンナーを渡してきた。
煙が、もくもくと立ち込めてて...はぁ、少し早めのお昼でもいいか。と言う気持ちになる。でも、こんな光景も可視感があった。
なんで....そう思わざるを得ない。
「ん?どうしたの?」
いや、なんでもない。なにか、凄く悲しくなった。心がドクッドクッと、変な音をあげている。
「あ、私に惚れ直しちゃったのかな?」
うん。そうだよ。と、返した。そうに...決まってる。
「はい。どうぞ」
ありがとう。僕は、もう一本目のウィンナーをもらった。今更だけこれ、フランクフルトだと思う。って言ったら、
「そうだねぇ。なんでウィンナーなんだろうね。」
って笑って返してくれた。全くだ。二人で笑った。
「どう、体調?もう、平気?」
うん。もう大丈夫。って言えたかどうか不安だけど...多分返せたはずだ。
「そっか。あ、私たち行くところ決めてなかったよね。今決めちゃおうよ。」
そうだね。そうしよう。営業スマイルの店員に、地図をもらっていたので、そこに記載されてる箇所をまじまじと眺めた。
「えーと、こことかいいんじゃないかな?」
そこは、ペンギンコーナーだった。あー、確かに。いいかもね。僕は、すぐに了承した。
「おお!!いいね。ペンギンさんが一杯だ。」
あたり一面ペンギン だらけである。ははっ、確かにそうだな。と返す。
「この子達の名前ってなんていうんだろう。ほら、あの子とか....」
あの子...と、指差した方には、小さなペンギンがいた。
体をぶるぶるとふるわせて、静かにこっちを見ている。
「えーと...」
ふと、ライアだ。と...呟いた。
「え?」
って、大きく目を開いている。俺も、言ってからハッて気づいて、あれ?俺なんか言ったかな。って少しだけ...顔を捻った。
「ライアって...あ、確かにライアだね。」
ガイドラインには、ライアって書いてあった。
なにかが、聞いてはいけないような気がする。ちょっと待って!!と、彼女にストップをかけようとしたけど、すでに遅かった。
「あ、なにかが書いてある。ライア 性別は、男 性格は、人懐っこくて、お調子ものだった。って...」
だった?....
「う、うん。今は、番つがいの女の子が、いなくなっちゃって、ずっとあそこで....って、あれ、おかしいな。涙が...」
いきなり、涙を流し始めた彼女。明らかに様子がおかしいのは、わかってる。俺は、なにかがフラッシュバックした。
「お疲れ様です。」
遅いぞ。新人と、声がかかる。荒っぽい感じの大将ってイメージを受ける先輩だ。
「いや、申し訳ないです。今から餌やりするんで...」
早くしろよ。と、言われ...いそいそと、魚の籠を手に持って...歩き出す。今日は、別のアルバイトが立て込んでて遅れました。なんて言い訳にもならないですよね。
すでに、夕暮れ時...流石に、まずい。
ギーっと重たい扉を開いて、部屋の中に入る。
「えーと、みんなに均等に餌をやれるようにですよね。」
そーれ。餌だぞぉ!!っと心の中でいいながら、魚を投げていく。ぞろぞろと、駆け寄ってくるペンギンの顔は、ちゃんと把握している。
えーと、右から順に...
「シアン、ハスラー、フータ、太郎...っと...ん?ライアと、キャシーの様子が変だな。」
どうした。ありゃ、これは....岩影に激突して足を痛めたのかな。ペタペタと、こちらに寄ってくる姿はぎこちなく、寄り添うようにしてライアが付いてくる。
本当に仲がいいんだなぁ...と考えながら、はい。ご飯だよ。と魚を口に入れてあげる。そして、扉を引いて、先輩に声をかける。
「キャシーが、足痛めてるみたいなんですけど...どうしますか?」
あ、あー、そこの救急キット使ってくれ...と、先輩が言うので、はいよー。と手にとって、戻る。
が...あれ?キャシーがいない。
待てよ。ライアは.......いた。隅の方で、水をばちゃちゃあげている。これは、まずいんじゃないか...
「おい。待ってろよ。すぐ助ける。」
そして、無謀にも、水の中に飛び込んだ。
一瞬にして悪くなった視界を、どうにか凝らして中を見つめる。
いた。
空気の泡を数回もごもごと、浮かび上がらせて溺れてるペンギンが1匹いた。
急いで、ペンギンを抱えてこみ。水をかきあげて、上に上がろうとする...けど、突然のことだったから、もがっ...と、空気を吐き出してしまった。
まずい。このままじゃ俺もこいつ共々溺死する。一瞬だけ、キャシーを見る。
こいつは、彼氏いるんだよな。
そう。思った。うん。なら、俺には悔いは、ない。精一杯に水を掻き、手に持ったキャシーを思いっきり、宙に投げ出す。
幸せに生きろよ。
かぁはっ!!はぁはぁ、はぁ...大きく、過呼吸に陥りそうだった俺は、一気に空気を吸い込む。
「.....」
彼女も、横目に見つめる。なにか言葉を失っている。というより...
バッカ!!息を吸い込め!!
思っいっきり、背中を叩く。
「かはぁっ...はぁはぁはぁ....」
明らかにまずい状況だった。二人揃って青い顔をしていた。
ライカが俺たちを見つめている。
お互いに目を合わせて...どこかで、休もうということになった。
ペンギンがいる場所には、行けない。ということもあって、じゃあ、どこに行くかと考えて...二人の頭には、一つの場所しか思いつかない。
フランクフルトの店の近くで、休憩をする。
あれは...ふと、さっきのフラッシュバックが目を焼き付ける。お互い、なにもしゃべれずにいた。
「おい。君ら大丈夫か?」
優しそうで、怖そうな顔のフランクフルトの店員が声をかける。
あ....
俺には、見覚えがあった。
先輩だ。
「先輩...」
どうして、呟いたのかわからない。うろんげな目で俺を見つめてくる。
「先輩?なにを抜かした事言ってるんだ。」
そうだな。確かにそうだな。だけど....なんで、ペンギンのコーナーのアルバイトしてたんじゃないのかよ。っと大きく言葉をついた。
「お前....」
彼女も、驚いた顔をしていた。ごめん。っとそう声をかけて...
「なにものだ。お前...いや、確かに俺はペンギンコーナーでアルバイトをしていたが...二十年くらい前の話をして...」
そこで、なにかを察したかのように....
「まさか...な、いやそんな....」
「俺は、あそこで溺死したはずだ。教えてくれ。あのキャシーは....キャシーは、結局どうなったんだ。」
彼女が、より一層驚いたような表情をしていたのは、気づいてないだろう。先輩は、そっと一呼吸をして...
「なんで、お前あんな真似をしたんだ!!自分の命をなんだと思ってやがる。」
....絶句した。
そうじやない。そうじゃない。と言葉が頭の中をどうどう巡りをして...
「お前が死んだ後で、あのペンギンは既に事切れていた。お前が死んだ意味は、なかったんだよ。」
「う、嘘だ...」
混乱と共に...足から力が抜けた。
俺は...助けられなかったのだろうか。
「あ...すまないな...嬢ちゃん、いきなりどなったりして...」
「....い...いえ...」
彼女は、俯いた。場違いとでも思ったのだろうか...
「お、俺は...俺は....」
「お前は、もっと自分の命を大事にしろ!!はぁ、なんて今更言っても意味はねぇからな。二十年だ。俺がお前と合わなかった月日は....」
あ...吐く息が白かった。急速に、冷えていく....なにもかもが...
目の奥がぽやけて...周りも見えなくなって...
「ふぅ....ちょっと待ってろ...」
彼は、スタスタと歩いていき...フランクフルトを持ってきた。
これは...奢りだ。と、彼は言って、そのまま立ち去った。
なにか、色々と言いたげな顔だったが...ふっと、後ろを向いて歩きだした...
「あ、あぁああ」
暖かいフランクルトの味が、俺を包み込む...ちょっと辛くて...酸味があって、苦しい味だ....
「ねぇ...」
そう呟いた彼女は、俺の目を見つめて...ごめんね。と一言呟いた。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
なろうのところに書いたものをこっちに持ってきたものです。
なろうでは、長編小説 山神転生を書いています。
コメディと、冒険がくっついたおもしろい...(多分)作品になっているので、見に来てくださいねw
運命の魔法〜伝えたい言葉と変わらない現実〜 RERITO @rerite
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