第33話 ブラマの長い夜の戦い 6

え?剣を修復したの?

それってチートじゃん!!!

この世界にチート所持者が勇者以外にいたことに驚き。


……やっべ、感心して、脳内空っぽにしてても意味がない。

相手の特徴……、

剣を酷使する最強流儀、

剣を修復できる最強称号、

これって、俺勝ち目ないじゃん!!


俺が持ってるのって、

使いこなせたらコンボ技最強流儀、

ヤバい牛と戦って、身につけた反応力、

最強土魔法(笑)

なんだけど…………。

全く共通点が無い、果たしてこれを駆使して勝てるのか?


「………」


俺は目の前の少女に油断なく視線を向ける。

目を逸らした瞬間に着られそうで怖いからだ。

……今は、相手は体力を消耗したのか、少し呼吸が乱れている。

だったら無力化できるチャンスかも?!


…いや、チャンスじゃない。

―――俺の体力も消耗しているんだよ!

そして、体力消耗しているうえに、相手が俺を狙っている理由も知らないから、

無力化のしようが無い。

最悪の場合、切ることも考えなくてはいけない。

俺が人間を……切るのか?

同族を殺すのか?


「……」


キンッ!!!


次の瞬間、目の前の少女は体を揺らしたと思うと、腕を思いっきり振るう。

……俺の方にロングソードの刃が迫ってきた。

頭の中で思考が纏まってないまま、また戦闘が始まる。


おいおい!相変らず剣の威力が重いなあ!!

少しでも避けるのが遅れたら致命傷なんだが?!


少女が動かす剣の攻撃力はピカイチ。

重いロングソードのはずなにのよくそこまで相手を斬れるほどまで振り回せるものだ。


剣を交差しても、力で負けるのはヒョーゴ。

そして、剣が壊れてもヒョーゴは替えが無い。

つまり、一方的な戦いであった。


キンッ!!!

キンッ!!!

キンッ!!!


避けることが出来なかった斬撃をヒョーゴは自身の剣で受け止める。

…しかし、交差する剣の音は、始めより、音が鈍くなっていた。

これは刃こぼれした印だ。

もちろん剣を酷使した少女だけでない、

その攻撃を一身に受けていたヒョーゴの剣だって、ダメージを受けていた。

お互いの剣が脆くなっているのだ。


キンッ!!!!!


「おぉ!!!」

「……」


次の攻撃、今までよりも強い力で剣が交差した。

思わず声を漏らしてしまうヒョーゴ。

そして、彼は反動で後ずさってしまったのだ。

……これは悪手だった。


「『鍛冶屋』ケンノウハツドウ!!」


……一瞬のうちに、少女はヒョーゴから距離を置く、

そして、例の言葉を宙に放ち少女は自身の剣を再度構える。

その少女が所持していた剣に、まばゆい光が包み込む。

――――彼女の剣は再生した。



「くっそ……」


称号を使わせてしまった事に後悔する。

…ヒョーゴは考えた。


これは本気で、死ぬかもしれないな。

普通に剣が使えなくなったら、対抗する手段無いし……。


Q俺はここで倒れていいのか?

A否!世界滅亡するわ!!


勇者パーティーに入る前に俺が倒れたら本末転倒だし、

―――世界を救うか、一人を救うかってことすか?

荷が重すぎる!!どっちも救いてえよこの野郎!

神龍流儀の子!ちょっとは大人しくしやがれ!


―――元々、全力で戦ってたけど、そろそろ斬る前提で攻撃手段を移行するか。

俺は心の中で、決心した。


今までは二つまでしか定型を繋げていなかったが、相手の対応によって無限に定型を繋げてやる!


俺は少女の目を見据えた。

灰色で無機質な目、これは絶対見えていない。

なのに、絶望するわけでなく、かと言って錯乱状態に陥ったような行動をとる少女。

……あれ?この子って……

―――――ここでヒョーゴは、少女の発する雰囲気に何かを悟った。


「……俺が勝ったら、お前は大人しく家に帰れよ」


俺は目の前の狂った少女に向けて、初期の定型を構えた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



戦闘はさらに激化した。


ガガガッ!!!


尋常でない、剣の擦れる音に周囲が震える。

いや、これは剣を削りあっている音だった。


「……」


ヒョーゴが剣を超速で振るう。

それに対して、使いずらそうなロングソードで少女は守勢に回っていた。

遂に、剣の音が途切れることが少なくなる。


ヒュッ!!!


スキを見て、少女は剣を振るい、ヒョーゴの頬をかすめた。

守りに徹底していることに苛立ちを覚えているようだった。


しかしヒョーゴは焦ることなく冷静に対処する。


バキッ!!!


自身の剣の負担をできるだけ減らしながら、8個の定型を一瞬で繋げて、少女の剣を割った。


「……っ!!」


少女が体を震わせて、驚きを表現した。

それと同時に、少女の体から黒い煙のようなものがボワッと湧き出てきた。

その煙は宙に消える。

ヒョーゴはその光景を眺め、状況を確認しながらも、『初期の定型』に即座に構え、次の攻撃姿勢に入る。


ヒョーゴは強いのか?

まあ見てわかるが、彼は八個の定型を繋げるのがギリギリなのだが。

それでも初心者にしてはあり得ない程の技量を持っていた。

―――彼は、この街に来る途中に魔物と戦って実践を積んでいたのだ。


さらに、死に直面した時、脳が覚醒して記憶に検索をかけるとかどうだとか、

そう言う研究があるらしい。

ヒョーゴが『鬼愕羅夢音』を一応扱えているのはそのおかげなのか?


話を戻そう。

――――――始めは、少女が完全に優勢だった。

しかし途中から、

ヒョーゴが勢いを取り戻していた。



『鬼愕羅夢音』、それは体力はもちろん、

何といっても、技量が求められる剣術だ。

それに対して『神龍流儀』は力。


パワーに徹底した『神龍流儀』

技に徹底した『鬼愕羅夢音』


まさに、鏡のように対比された関係であった。

どちらも、真の力を発揮させようと奮闘している今、激戦だった。


「よっと」


ヒョーゴは不意に黒い煙に剣を向ける。

それは、彼女の脇腹近くの、濃い黒い煙だった。

ヒョーゴはその剣の刃を振り下ろした。

これは彼が予想した、一つの答えである。


―――洗脳されているのではないか?


ヒョーゴの振った剣の刃が、煙に触れたとたんに

その煙は少女の体の中に潜り込んでいってしまった。

……意思を持っていないはずの煙に剣を避けられた。


まるで、今見ている少女の体とは違うような

性質を持った生命体?

彼女の中にもう一つの生命体が住んでいるような違和感を覚える。


「お前は洗脳されているのか?」


ヒョーゴは小さくつぶやいた。

もちろん、完全なるヒョーゴの偏見だ。

それは彼自身も理解している、しかしこれが洗脳でないとするならば

『この少女は自分の意識でヒョーゴを攻撃している』

ということになる。

つまり、ヒョーゴは少女を斬ることにつながる。

どうにかして、この結末だけは避けたかった。


ヒョーゴが呟く、

次の瞬間、目の前の少女が復活した剣を構える。

そして、首元めがけて斬りかかってきた。


この説に頼るしかない。

どうか、これで合っていてくれ!!!!


ヒョーゴは後ろに足をけって、腕に持っている剣を次の定型に移行させる。

少女の方は、『神龍流儀』の一番威力が強い技を構えながら突進してくる。



この状況、戦っている本人は分って当たり前だが、

見ている人でも分かるだろう。

――――この一撃に失敗した方が、この戦いの敗北者だと。


少女の強固の一撃は、ヒョーゴの剣や首を刈り取る。

ヒョーゴの定型は、防げる方法はなく、コンボの様に彼女の体を連続で切り付ける。


「……」


遂に剣が触れる瞬間、

ヒョーゴがもう一度少女の顔を伺う。

その時、……少女の口が動いたのだ。


「―――――アタシの右手首……」


……それはヒョーゴに対して、初めて喋った意味のある言葉であった。

とても弱弱しいが、確実にヒョーゴに向けて添えられていた言葉だった。

突然の出来事に唖然とするヒョーゴ、


「……!!」


しかし、ヒョーゴはすぐに平然を保つ努力をした。

これは一瞬の出来事。

彼は言われた通りに、彼女の右手首を眺める。

……あ…、


「これって……」


ヒョーゴは思い出す。

彼女のこれまでの剣の振りを、

そして、彼女に「右手首」と言われて完全に理解する。


――――彼女の『神龍流儀』は完ぺきではない。

右腕を強く振りすぎているせいで、コンマ一秒の単位で、右手首が無防備になるのだ。

剣を持っている右手首が無防備になっている。

つまり、少女の攻撃を完全に無効化できるということなのだ。

かと言って、自力でこれに気付くことは流石に難しすぎた。

……しかし、ヒョーゴは少女の(助言?)言葉で理解した。


「マジで分かんねえよ、おまえ」


ヒョーゴは、初期の定型を少しずらす。

そして、彼女の剣に注意しながら、ヒョーゴは剣を向けた。

そのまま、剣を下ろし……、

彼女の手ごと一閃―――――はしなかった。

刃の無い方の剣の部分で、彼女の持っている剣を叩き落としたのだ。

まあ、これはこれで痛いが、彼女は切り落とされることなく、剣を離した。


「やっと剣を離したわ!!これで第一関門突破だな!!」


彼女は、自身のくせを、戦い中に申告してきた。

これは、俺と戦う意思が無いのでは???

もう、洗脳されている確定だよね!!

脅迫とかもあり得るけど、少なくとも自身の意思ではなさそうだし。

……穏便な方向に事を運べたらいいな。


ヒョーゴはそう思いながら、彼女の剣を後ろの方へ滑らせる。

うん、ロングソード大きかった。

当たったら本気で不味かったなあ……。


さて、次はどうやって洗脳を解こうか……。

ヒョーゴが考え始めた瞬間、

そのまま少女は、ヒョーゴの方向に身を任せながら倒れたのだ。

まるで糸の切れた人形のように。


「ん!!倒れてきた!!生きてんのか~?!」


ヒョーゴが声を掛けるが、目を覚ます気配はない。

近くの壁に寄りかからせるため、彼女を少し体を起こさせると、

少し煤をかぶってしまったが可愛らしい顔と、

服が切れて、ちょっとアウトな谷間が見えた。


へーじょーしん、平常心。


ヒョーゴはそう心の中で唱えながら、黒い煙を探す。

あの、謎の生命体、一体あれは何なのだろう?


その時、ヒョーゴの視線は彼女の背中で止まった。

なぜなら、ヒョーゴの視線の先には、どす黒い何かがあったからだ。

これは彼が探しているモノだった。


「これは一体なんだ?」


ヒョーゴが、声を上げた時…。

突如、そのどす黒い煙の中から、何かが飛び出してくる。

無言で、剣でふさぐ。これは予想していた。

しかし、休む間もなく不意に右からも何かがヒョーゴを襲ってきた。


迂闊だった。

疲労もたまり、彼女の体に傷を付けたくないという思いから、判断する速度を鈍らせてしまった…。

ヒョーゴは煙に紛れている何かに、体を吹き飛ばされる。

煙で周囲の状況が全くつまめてない今、どこに何かがある分からない。


「マサカ、勇者デハナイ少年二母体ヲサイキフノウニサレルトハ……」


吹っ飛ばされている中、正面で声が聞こえた。


「リベンジマッチダ! 少年ヨ」


辺りはより深い黒い霧に包まれる。

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