第32話 ブラマの長い夜の戦い 5


俺は振り返ろうとする。

無残な姿の聖書を大事に抱えながら。

もしかしたら読めるページがまだあるかもしれないもんな!

取り敢えず、先ずはこの家を早く出て、合流しなければ!!


後ろにいるゴーレムに対して、言うはずの言葉だった。

そう、ゴーレムだけに……

しかし……恐ろしい事に、俺は背後にもう一つの存在を検知した。


存在?

何か嫌なものを感じる。

俺はゆっくりと振り返る。

暖炉の炎が消えて、真っ暗な部屋だ。

暗く狭い視野に何かが映る。

人影?

もう一つの人影がのっそりと俺の方に向かって歩きだしていた。


「誰なんだ?」


俺は暗闇の中に目を凝らす。

人の形をした影が見える。

俺はその人影に向かって、声をかける。



返事はない。

ゆっくりとこちらに近づく人影。

これは……敵意があるのか?

敵意があるのだったら、先制攻撃を仕掛けた方が得策だが……。

それともただ単にブラマのせいで気が動転して訳がわからなくなっているだけなのか? 俺の言葉が通じない可能性を考える。

まずいぞ……。

どうするんだ!?

もし善良な一般市民だったら切り付けるなんて以ての外だ。

かといって、攻撃されてしまっては、こちらも反撃せざるを得ないだろう。


「……」


その時、月明かりがふと入ってきた。


――――――そこには、一人の少女がいた。

容姿は整っていて、美しい金色の髪が月明かりに照らされて輝いている。

年齢はヒョーゴとさほど変わらなそうだ。


「人間……か……」


俺は少し安堵した。

良かった……。

この子なら話が通じるかもしれない。

俺は一歩前に踏み出した。

少女の目を見て話す。


「ここはブラマが発生している。早くこの街を出ろ」


しかし彼女はその声を無視するように俺の方に向かって歩いている。


「おい!」


俺は大声で叫ぶ。


「聞こえているのか!!」


それでも少女は無言で歩いて来る。

……あ、

ここで俺は気付いた。


この少女の瞳には何も映っていないことに……。

機能していない灰色になった目。

これは完全な失明状態だ。


おそらく視力は完全に失われているのであろう。

だから何も見えていないのだ。

しかし目が見えないというのに、まっすぐと歩けている。


「おい!危ないからこっちに来るな!」


俺の声を無視して、少女は俺の方に向かってくる。

突如、少女の右手が動く。


「……っ!!」


咄嵯の出来事だった。

反射的に剣を抜き、少女の攻撃を防ぐ。

金属音が鳴り響く。

重い一撃だった。


……え?今、俺を剣で切ろうとしたの?!

今更だけどさ……この子…怖いんだけど!!!


少女はまたもや、右手を振り上げる。

暗闇でよく見えていなかったが、どうやら右手に剣を隠し持っていたらしい。

ちょ……待ってよ!!! 何なんだよ!この子は! 完全に盲目になっているんじゃなかったのか?

というか、なぜ俺に敵意を持っているんだ?

悪役だからか?(納得?)


――――いや、今それを気にしている場合じゃねえな。

少女の手には、鋭い刃の剣があった。

これはまずいな。


「おい、やめてくれ!!」


俺は必死になって説得を試みる。

だが、聞く耳を持たない様子の少女は、無表情のまま俺に襲いかかってくる。

少女の動きは素早かった。

暗闇の中で、俺の姿が見えているかのように的確な動きをしている。

俺は何とか少女の攻撃をかわしながら、隙を見ては少女の体を押さえつける。


「やめるんだ!!」


少女の細い腕を両手で掴む。

これで……おさまったか?

しかし、少女は勢いよく俺を押し出した。

この少女の力を舐めてた俺は、とんでもない力を隠し持っていた事を知る。


「はあ?!?!?」


情けなく、俺は外まで吹っ飛ばされた。

地面に打ち付けられて、全身が痛くなる。

一体なんなんだ?!あの子……

それにしても、なんていう馬鹿力なんだ……


その時だった、その少女がレオンの家からぬっと出てきた。

その少女の表情の変化は乏しく、やはり盲目のようだった。

しかし、しっかりと俺の方向に剣の先を向けている。


「……戦わなくちゃいけねえのか?」


俺は静かに呟いた。

もちろん、彼女からの返信はない。

……俺は意を決したように剣を構える。

そして、剣をゆっくり振り始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~


一閃。

ロングソードが勢いよく、俺の視界に飛び出した。

それは確実に俺の首を狙っている。

――――まあ、昔の俺だったら呆気なくゲームオーバーだな。

しかし、サリーさんと鍛えた剣を甘く見てはいけない。


「……残念だったな、それは【定型】で把握済みだ」


俺は、初期の定型から『相手が左から真っすぐ首を狙った時』の対処する【定型】を繋げる。

簡単な相手の攻撃パターンは、一応、反撃ができる。


「……」


しかし、少女は、全く躊躇することなく、俺に向かって剣を振り下ろす。


「…あ?」


不安感が俺をあおる。

もちろん定型を構え始めていた俺は、結構心の余裕があった。

しかし、彼女の剣が近づくたびに…。

剣の速さに驚愕していた。

――……あれ?ちょっと強くないかい?


「うおおおぉ!!」


速攻で、「ロマン砲を防ぐ定型」に切り替える。


この定型は唯一、繋げることが不可能な定型だ。

だからこの定型を繰り出した後に、初期の定型に戻すことが困難である。

―――しかしそれを気にしている暇ではない。

この攻撃が重すぎるのだ!!


ヒョーゴが叫ぶと同時に、少女は右手を振り上げた。

必死に体制を整えなおして、剣を体の近くに構えた。


キーーーーンッ!!!


甲高い金属音が鳴り響いた。

それと同時に、俺と少女はお互いに後ずさった。

威力が強いせいで、作用反作用が大きく働いたのかな?


「……」


ちょっと考える。

本題:この子の攻撃力がむごい件について。

普通の女の子が出せていい威力ではない。

多分、成人男性でもやっと再現できるかできないかほどの馬鹿力をこの少女は持っている。

因みに俺はひ弱な剣術師、つい前までは土魔法で遊んでましたw

はい、むりげー。


どうやって勝てっていうんだよ。

もしかしてこの女の子は魔王かい?

んーーーー。冗談は置いといて……、

この悪い状況を打破する方法を考えよう。


その時、俺の中で何かが浮かんだ。


……あれ?まてよ。

緊張しすぎて気にしなかった事がある。

彼女の剣の構え方よ。


実は俺って、

サリーさんに剣を習った日から、剣の流儀が沢山乗っている本を読んでるんだよね。

理由?

複数の流儀を重ねると最強になるんじゃないか説を立証させるためだよ。

(完全なるロマン)


でさ、この剣の動きはあの流儀に似ているんだよなあ。

その名も【神龍流儀】。

厨二病っぽい名前だけど気にしたら負け。

本の情報と目の前の子と構え方が完全に一致しているんだよな。

特徴はこんな感じ、


【神龍流儀】のメリット。

・とにかく破壊力がえぐい

以上


何故破壊力が強いのか?

その本曰く、人に化けた竜が人間に教えた流儀らしい。

まあ、たしかに竜が扱える剣と人間が扱える剣は全く違うもんな!!

竜からしては普通の流儀らしいが、一般人からしてみれば、筋肉馬鹿がやる流儀という認識に近いかも。

……もしかして人気ない流儀トップ3位ぐらいに入ってる感じ?


まあ、ともかくメリットはこれ。

次にデメリット。

・剣が壊れやすい。


はい、ここ重要。

実はこの流儀、相当剣に負担がかかってるんですよ。

威力は半端ないけどね。

だから剣が簡単に折れてしまう。

ほんっとにコストがかかる流儀だよなあ。

まあ、説明以上。


つまりだよ?

相手の剣を受け止める…じゃなくて避けて、どっかに剣を打ち付けて貰えば、

直ぐに剣が壊れる。

そしたら、試合終了になるんじゃねえの?

よし、そうしよう! まずは、相手の攻撃をかわす事が最優先事項だな。

少女は、剣を上に持ち上げた。

それに合わせて、俺は剣を体の右側に持ってくる。

『剣の重心を使って素早く移動、避ける』っていう事を一応習ったから実践の時。

「……」

少女は剣を振り下ろした。

それと同時に、俺は剣を右に移動させる。

そして、少女の剣を完全にスルーして、姿勢を低くする。


ガキンッ!!


少女が地面に剣を打ち付ける。

一回目。


次は高くジャンプ


がキンッ!!


二回目。


次に少女の射程外に突きをする。

重心移動の超速回避。


がキンッ!!!!!


三回目。


その間に、少女の持っているロングソードはどんどん刃こぼれが酷くなってゆく。

四回目。

そして、遂に少女の剣にひびが入った。

しかし彼女は剣を気にせずに次の攻撃の準備を始めた。

……よし、そろそろだな。


今度は避ける姿勢をせずに、初期の定型を準備して彼女の攻撃を待つ。

そして、次の瞬間、彼女は勢いよく剣を振るう。


「……ロマン砲を防ぐ定型、次で壊す」


静かに呟く。


がキンッ!!!!!!!!!


力に任せた剣と、技術力に任せた剣が交差する。

今度は過去最高にお互いの剣が震えた。

そして、次の瞬間、


「……」


彼女の剣が壊れた。

つまり、少女は力任せな【神龍流儀】をもう放つことは無い。

よし!!!目標達成!!!結構、姑息な手段だけどな…。

なんで剣を交差させたかって?

答え:根元から剣を折らせるためです。


まあいいや、それより多分これでこの子は戦意喪失だよね。うん。

俺は期待した視線を少女に向ける。

ブラマに巻き込まれて気が動転しているのだろう。

よし、この子は安全地帯まで連れて行こう。

多分、俺に対しての本物の敵意はないはず!!!


「…………」


しかし、少女は俺の予想を大きく裏切る行動をとった。

どんなに追い詰められた状況でも、

少女の表情は変わらず、

そして不意に、彼女は大きな声で叫ぶ。


「『鍛冶屋』ケンノウハツドウ!!!」


妙になれないカタコトな声を発する少女。

彼女は折れたロングソードを上に向かって翳した。

その瞬間、折れた剣がまばゆい光に包まれる。

さらになんと、――――少女は新品の剣を左手に持ち替えていたのだ。


「おいおい、嘘だろ?」


俺は思わず声を出した。

少女は無言のまま新品の剣を構える。

俺は絶望の淵に立たされた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


【鍛冶屋】それはハズレ称号の一つ。

能力、剣を作ることが得意になる、ただそれだけ。

そう、ハズレ称号のはずだったのが……。

ヒョーゴの強敵となって立ちふさがった。















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

作者より

異世界物=バトル、さいっこう。

誤字報告、分かりづらい表現の報告、諸々待ってます。








 

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