第31話 ブラマの長い夜の戦い 4

タイミングの良いところにゴーレムが現れた。

よし、シナリオ探し開始だな。


「俺を案内しろ」


「グワア、グワア!!」


俺がゴーレムに命令を下すと、すぐにゴーレムは動き出した。

見た目に反して元気だな、このゴーレム君。

…本当に大丈夫か?

結構ボロボロだよなあ。

可哀想なことに片腕取れかけてるし。

うん、マジで痛そう。


「ゴーレム止まれ、」


俺はゴーレムを引っ掴む。


「グワア!!!」


すると、ゴーレムは驚いたように顔を上げた。

完全に俺を恐れているようだ。

まあ、主従関係あるし怖がるのも当然だな。


「……」


暴れようとするゴーレムを片手で押さえつける。

しばらくは激しい抵抗をしていたが、途中から静になる。

よし、これで安全。

その後、あまりゴーレムの反応を気にせずに俺はある行動に出た。


それらをざっくり説明すると、

まずは、近くの土をすくった。

次に土に魔素を染み込ませた。

そしてクリエイト・コアを唱える。

……。

ゴーレムの肩に手を当てた。

地道に魔素を芯まで流し込み……。

最後に物質を固める魔法、

ロー ・ステルスを唱える。


「……グワア?」


俺は真顔で淡々と作業をこなす。

その様子にゴーレムは驚いたような声を上げた。

うんうん、得体のしれない作業にはそりゃ、変な反応しますわ。

そして、最終的に…


―――よーし、…半分成功!


俺の目の前には、一体の形の整ったゴーレムがいた。

そう、ボロボロゴーレムを修復したのだ。

実は、俺は独学で修復できる技術を身に着けた。

あまり時間がかからないが、集中力が必要なため、敵を目の前に…言い換えれば、

戦闘中にしてできる技ではない。

簡単にいうと、ケア魔法。


「これでどうだ?」


俺は、ゴーレムに問いかける。

確認しなきゃ。

もしかしたら不具合があるかもしれないからね。


「グワアーー!!グワア!!」


土ゴーレムは、活発に体をぶんぶん動かすと、大きな声で鳴いた。

―――うん、元気そう。

ならよかった。

これからシナリオ探しをするにあたって、

ゴーレム君が途中で力尽きてしまうと意味が無いからね。

これで目論見通り、シナリオ案内が支障をきたすことなくできそうだ。


これで完璧かって?

……まあ、さっきも言ったと思うけど、半分しか目標は達成できていないんだけどね。

本当は、ゴーレム君のコアを六重にしたかったんだよなあ。

今の最新型の土ゴーレムは五重までが限界だから、六重に挑戦してみた。

でも、結果から言って失敗。

作り出したコアが、魔素に変換されて周囲に拡散してしまったんだよね。


だから半分成功。

言い換えれば半分失敗。

残念!!

経験上ゴーレムってコアを重ねるほど強くなるからね。

もしかしたら…戦力に?!

って思って作りました。


まあ、今のままでも、十分強いけど。

四重のゴーレム君は、

小屋にいる凶暴な動物を一撃で気絶させることが出来る戦闘能力を持ってはいるけどね。

でも、魔物の戦闘能力は桁違いに強いからなあ。

集団で襲いに来る敵が本当に面倒臭い。

だから、ゴーレムも対応出来るようにアップデートさせておきかった。


――――おっと、考え事をしている時間はない。

急いで、ソイシー街の冒険者に加勢しなければ……。

さあ、ゴーレム君、案内してくれ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ここは帝国の主要建築物、シンフォニューム宮殿。

そもそも帝国とは世界の経済の中心である。

また経済面だけでなく軍事面も充実している。

なにせ、魔王と互角に渡り合うほどの軍事力が必要となるからだ。


人間族の長である、これを皇帝と人々は呼んだ。

その人物が住まう、人間族における政治の最高機関、

それがシンフォニューム宮殿である。


その場所で、


「あれ?!例のゴーレムが居なくなってるよ!!」


一人の、背の低い男性が騒いでいた。


「『賢者』様、どうされたのでしょうか?」


その時、部屋に使用人が入る。

声に気付かされたのか、『賢者』という人物は、使用人にこう話した。


「あの、魔王の配下みたいな、凶暴な土ゴーレムの事!!」


とても焦っている様子である。


「そのゴーレムが、行方知らずになりましたと……。

————周囲に連絡を取ります、」


「変な仕事増やしてごめん!よろしくね!!おいらは少し忙しいからさ」


そう、『賢者』がこの前、ソイシー街で捕まえたゴーレム。

『賢者』は情報を吐かせるためにゴーレムを確保したのだが、

いつの間にかそのゴーレムは居なくなっていた。


「どこ行ったのさ?……う~ん、ゴーレムをぶち込んでおいた檻は特別製だよね。

たしか、アダマンタイトっていう希少金属で固めておいた…。

素手で破るのは難しいよね」


『賢者』は超高価金属の名前を軽々と口にした。

――――この世界では、金貨銀貨銅貨、というものが使われる

アダマンタイト、これは通常1㎏当たり金貨3000枚分=(日本10億円)

この値段で取引されている。

彼の金銭的感覚は、狂っていた。


「土ゴーレム……、戦闘能力も優れなければ知能も低い。

魔法なんて更々撃つほどの知能も器も持っていない。

一体どういう事だろ????!!!!

あーもう!!権能発動して、ゴーレムを隅々見ればよかったよ……」


『賢者』は静かに嘆く。


―――周囲に聞き込み調査をしたが、良い結果を得られず……。

結果的に、この事件は迷宮入りした。


……この謎のゴーレムが、コアをもっと厚くしたらどうなるか?

とんでもない禁忌にヒョーゴは片足を突っ込んでしまったようだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ゴーレムと一緒にお散歩中~。

お、目の前にゴブリン発見したz……シュパーン!!

一閃、ゴブリンの首が落ちる。

剣振るっただけよ。

構ってる暇はないからなあ、取り敢えず効率重視で突き進んでゆく。


数分後、また何か魔物が出現!!

緑色の体だけど、なんか尻尾があって、ひょろっとしてて…

…ってリザードンじゃん?! 初めて見た!

うーん、なんか心の底から憎悪の感情がたぎってくる。

どういうことだろーーーー?


とにかく気にせずに―――――シュパーン!!

一閃……できなかった!!

切ったところから生えてくるんだけど!!

気持ち悪いな……。


先ほどの俺の攻撃に、リザードンの上半身がちぎれたものの、一瞬で再生されてしまう。

これは困ったものだ。

……仕方なし。 『鬼愕羅夢音』を使うきゃないよな!!


その後、時間が少しかかったが討伐成功。

尻尾切ったら弱体化して、首を切って終了。

『鬼愕羅夢音』……今日はたくさん使う機会があったから、

結構腕に馴染んできたかもしれないな。

自分の努力の成長を感じたことにより、少し頬を綻ばせる。


とにかく、ゴーレムヒョーゴペアは順調に進んでいた。


そして、勇者の家の前に着く。


「うわあ、これって勇者の家?」


「グワア!!そぅダょ!!」


「やっぱ盗んでたのですね~。最悪な気分だわ……」


勇者君、これは立派な犯罪だよ?

ブラマの鎮圧に加勢して、現実を思い知りなさい!!悔い改めな!!

ってな。

俺としては結果から言って、シナリオを回収すればそれでいい。

そんな小さい事で怒らないのでね。

――――まあ、シナリオさえあれば、このバッドイベントを先回りして

被害を減らせたのかもしれない。

……こうなってしまったら仕方ない。

過去は過去だ。

どうせ戻すことが出来ない。


この件に関しては俺の不注意もあったな。

これから勇者の扱いに気を付けなければならないな(意味深)。


「グワア、グワア」


不法侵入ごめん、と言いながら勇者の部屋に入る。

へー、レオンっていうんだ……この人。

私物に名前が書いてあって、ここで初めて知った。

取り敢えず、くしゃくしゃになった『賢者』からのプリントを机らしきものの上に置いておく。


よし、ミッションコンプリート!

『賢者』よ、なにがあっても俺を恨まないでくれ、俺はするべきことをした!

例えば、こんな性格の奴だから周囲から「泥棒勇者ーー」って謳われるかもしれないけど、

俺の知ったことではないぜ。

『ミュリエル様』が選んだ責任と『賢者』が誘った責任でOK?


ふう、これでシナリオ探しだけに集中だな。


「グワア、グワア!!!」


ゴーレムが大きな声で叫んだ。


俺が声の方を向くと、ゴーレムが嬉しそうな顔で、ある場所を指さしていた。

妙に明るかった。

―――おお!!シナリオを見つけたのか!!

俺も嬉々とした様子で、ゴーレムの下に駆けて行った。


「見つけたのか!」


「グワア、グワア!!」


ここまでどうやって行きついたのか知らないが、ゴーレム優秀だわ!!

さあ、シナリオ回収して街の人々救いに行こうぜ!!


俺はゴーレムの向いている方向に視線を向ける。


「……」


呼吸が止まりそうになるほど、俺は驚いた。

目を白黒させる。


え?

え?

え?

え?

え?


自分の体温が急激に下がってゆくように感じた。


理解が追い付かない……。

これって、暖炉だよね?

燃え盛ってますけど……。

ここにシナリオがあるの?ゴーレム君?


「グワア!!!」


ゴーレムは頷いた。

…………、俺は急いで、家の外の土をかき集めて、魔法で固め、

暖炉を密閉状態にする。

するとすぐに暖炉の火は消えて、燃えかけている木材が、見えるようになった。

……はあ、なんだよ。


俺は暖炉の中に、手を突っ込むと、何かを勢いよく、引っ張り出した。

……そこには、ページの全般が燃え尽きていた、無残な聖書があった。


「……」


勇者の行動理由が、分からない。

俺に恨みがあっての行動なのか?

それとも誰かに、命令されたのか?

とにかく、理解しがたい現状をただただボーっと、眺めていた。


しかし、数秒後、俺は自分の頬を思いっきり叩いた。


―――打ちひしがれている場合じゃない!!

情報はないけどさ。

と、とにかく、死に物狂いで集落を探さなくては。

サリーさんと合流して、作戦変更だ。


「ゴーレム!取り敢えず元の場所まで戻るぞ!!」


元の場所とは、サリーさんと離れた地点。

そこにもしサリーさんが居なかったら、家が集まる場所に移動する。

ヤケクソだが、混乱状態に陥っていた俺にはこれぐらいしか考えている余裕はなかった。


俺は振り返ろうとする。

無残な姿の聖書を大事に抱えながら。

もしかしたら読めるページがまだあるかもしれないもんな!

取り敢えず、先ずはこの家を早く出て、合流しなければ!!


後ろにいるゴーレムに対して、言うはずの言葉だった。

そう、ゴーレムだけに……

しかし……恐ろしい事に、俺は背後にもう一つの存在を検知した。


存在?

何か嫌なものを感じる。

俺はゆっくりと振り返る。

暖炉の炎が消えて、真っ暗な部屋だ。

暗く狭い視野に何かが映る。

人影?

もう一つの人影がのっそりと俺の方に向かって歩きだしていた。


















~~~~作者より~~~~~


誤字報告、分かりにくい表現の報告、待ってます。

帝国の説明をもっとカッコよくしたい願望。

では、

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