第30話 ブラマの長い夜の戦い 3

振り返るとそこには、一人の少女がいた。

容姿は整っていて、美しい金色の髪が月明かりに照らされて輝いている。

年齢はレオンとさほど変わらなそうだ。

服は、貧しいせいかボロ布のような物を纏っていた。

しかし、彼女の纏うオーラは、決してそこらの平民とは比べものにならないくらい輝かしく、

容姿を際立たせていた。


「アタシの名前?ウィリアム・ウィリスよ」


困惑しているレオンに向かって、目の前の少女は声を上げる。

その様子を最初は茫然と見ていることしかできなかったレオンだが、段々と、ウィリスの事を理解し始める。


あぁ、コイツは知ってるぞ!

女騎士を目指していたはずなのに、『女神様の祝福』でゴミ称号【鍛冶屋】を獲得したんだよ!

その上、コイツは昔から、僕に対してそっけない対応しか見せないから、苦手。

僕がどれだけ普通に接しようとも冷たいんだよ。

はあ、どっかに行って欲しいな。


レオンは頭の中でウィリアム・ウィリスについて思い出した。

それと同時に、レオン自身の厄介者であることも理解して、彼の表情は暗くなる。


「……君があの技を放ったのか?」


レオンは重々しく口を上げて問う。


「そうだけど?」


ウィリスを名乗る女性は少し首を傾げた。


「だって、君みたいな女の子が放つような技じゃなかっただろ?」


ピキッ

レオンの差別的な発言がウィリスに突き刺さった。


「は?アンタ馬鹿じゃない?魔物相手に性別なんて関係ないでしょ。それに、相手が女だからって手加減してたら、死ぬのはそっちよ。アタシは魔物を殲滅するために生まれてきたんだからね」


なんだよこいつ。

僕に向かってなんて口をきいてるんだ!!

本気を出せば僕だって、あの魔物ぐらい簡単に殲滅できるんだよ!!


自分の罪のある行為を棚に上げて、憤怒するレオンの姿があった。


「まあ、そんな事はどうでもいいのよ。今は、その男の子を避難させましょう」


〈少し諦めた様子でウィリスは、ゴブリンの死体の前で、気を失っている少年を指さした。

ゴブリンに襲われ、間一髪のところで助けられた少年だ。

――――ウィリスは思っていた。

勇者という者は、誰にも分け隔てなく接して、手の届く範囲に降りかかる危険の手を退ける存在であると。

すでに、レオンが勇者であることはこの村のだれもが知っている。


今さっきの発言にはイラっと来たものの、やはり、ウィリスは【勇者】という存在を信仰していた。

………だからこそ、驚きが隠せない。〉


「なんで僕がそんな事しなくちゃいけないんだよ!!」


このレオンの発言にウィリスは固まる。


「子供…助けないの? え? どういうことなの……??」


「だから、何で僕がそんなことしなくちゃならないんだよ!!」


「……!?」


ウィリスは自分の耳を疑った。

目の前にいる男は何を言っているのか? 子供を助ける?それが普通ではないのか? ウィリスにとって、その行動は正義そのもの。

そして、言った張本人が【勇者】であることが更に彼女を惑わせた。


「うぅ……」


気を失っていたはずの子供が目を覚ます。

そして、ウィリスを見ると、彼女に向かって抱きついた。


「このお兄ちゃん怖いよ!!」


子供の顔は真っ青であり、声の先はレオンに向かっていることがハッキリと伝わった。

ここで、状況を理解する。

なぜ子供は気絶してたのか。

何故ゴブリンと、【勇者】が距離を置いていたのか。

そして、答えに行きつく。

【勇者】であるレオンが子供を身代わりにして自分だけ助かろうとしたこと。

――――ウィリスは静かに怒った。


「一体…この子供に何をしたわけ??」


ウィリスは、鬼の形相でレオンに詰め寄る。


「何もしてないよ!このガキが勝手に僕のところに来ただけだ!!」


レオンも負けじと言い返した。

その様子にウィリスは、鋭い眼光で睨みつけると、


「なら、何故その子はこんなにも怯えているのよ!」


「知らないよ!」


「本当に貴方って人は最低ね!」


彼女自身の理想とする【勇者】とかけ離れていることにウィリスは絶望する。


「うるさいな!お前にだけは言われたくないんだよ!」


「アタシが何をしたっていうの!」


しかし、ここで【勇者】は更に追い打ちをかけた。


「いつも偉そうな態度をとってるくせに、君こそ誰一人として守れてないじゃないか!!

女騎士になるとかどうとか言っておいて、結局、ゴミ称号しかもらえなかった奴に言われたくない!」


レオンはわめき散らした。

この言葉は、ウィリスにとって禁句であった。

……。

そして、ウィリスの感情は怒りから悲しみへ変わる。

彼女は俯きながら呟いた。


「アタシはただ、皆を守りたくて……、誰かの役に立ちたくて……」


ウィリスは泣かないように、自身の手をぎゅっと握りしめていた。

悲壮感が周囲を包み込む。


――――かと言って、現実は彼女に味方するほど、甘くはない。

今はブラックマター真っ最中。

悲しみに暮れている時間が無い事を知ることになる。


「役に立つ?そんなわけ…………おい!なんだよあれ?」


愚痴とため息をこぼしていたレオンはふと我に返る。

そして、急に後方を指さした。

そこには、黒いモヤのようなものが渦巻いていた。


渦のように回転し、光を失った完全な黒が、辺りに散乱した。

そこから、突如、人型の何かが飛び出してくる。

それは、肌が黒く、全身に血管が浮き出ている。

目は白目が無く、黒一色に染まっている。


「キミガ、キョウシャダネ?」


突然の出来事に、ウィリスは唖然としてしまう。


「え?なに?!きゃっ!」


ウィリスは、そのまま持ち上げられてしまう。

本当に予期せぬ出来事だったためウィリスも丸腰であったからだ。


「いや!離してよ!なにするのよ!! 」


必死に抵抗するウィリスだが、相手は人間離れした力を持っている。


「フッ」


謎のモヤのかかった怪物は、ウィリスを抱えたまま、空高く飛び上がった。


「うっ……ぐっ……!」


ウィリスは、苦しそうな表情を浮かべる。

背後から急に謎の怪物が、ウィリスを抑えつけた。

これを言い換えれば奇襲である。

ほんの数秒の出来事であった。


「ぼ、僕は!!に、逃げる!!」


この状況でもレオンは、自分勝手であった。

ウィリスの声を無視してレオンは走り出す。

レオンは、恐怖心から村の外へと全力で駆け出した。

そして、彼は無我夢中で走り、完全に彼女らの視界から去ってしまった。


「ジャア、キミニハスコシ、ネテモラオウ……」


モヤのかかった謎の怪物は、ウィリスの口をふさぐ。

そして、彼女の意識はそこで途切れた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





(俺)悪役とオーガ族は今日も今日とで全力で生きているぜ!!


さーて、さて。

やってまいりました。

ソイシー街!!

……明らかにひどい。

ここまでテンションを上げておいて、悪いが、周囲は【悲惨】という言葉ですら状況を表すに足りない気がする。

踏み荒らされた畑、完全に焼けてしまった家。

元々明かりが少ない街だが、曇天のせいでさらに廃れて見えるこの光景。


この世の終わりを表現してると言っても過言でない。

しかも景色だけが恐ろしいのでない。

さっきから魔物が定期的に襲ってくるから怖いんだよ~。

地味に強い魔物がたくさん出てきて、精神すり減りそう。


そう言えば……十分前ぐらいに襲ってきたゴブリンは強かったなあ。

まあ、苦戦している俺の横で、サリーさんが一閃———

討伐完了~~~♪

だったけどね。

ここまで簡単に討伐されると、あのゴブリンって雑魚だった説が浮上する。

俺って最弱((


とりあえず、ここまで来ることにも時間がかかった。

さて、今回の目的は、人命救助にあるぞ!!

先ずは、住民の避難先(シェルターらしきところ)を捜索して、死守だな。

次に魔物の討伐に重きを置く。

……多分二つ目のステップの時までには騎士が来てくれると思うんだけどなあ。

まあ、ここまで想像して逆に来なかったと気が怖いんで、この街の生き残り冒険者さんを合わせてなんとか守れないかな?


不意に背後に気配を感じる。


「ギャ!!」


気持ち悪い声だよーーー!

うん、振り向かなくても正体は分るよ。

ゴブリンでしょ?

振り向きます。

緑色の体に、ごてごてと付いた筋肉、手にはこん棒と……。

正解!!ゴブリンだよ。やったね。


……というか数が異常な気がするんだが?

ヒョーゴは周囲を見渡す。

ゴブリンで視界が相当埋め尽くされている。

実際これまでに戦った集団でもここまで多くの敵と一斉に対峙したことは無い。

絶望的な風景であった。


隣を見ても、サリーさんはやはり苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

どうやら、相当対処に時間がかかりそうだ。

さてさて、どうするかな~?

とにかく、速攻で倒しちゃって……


「ヒョーゴさん。先に行ってください!!体力が少ないヒョーゴさんにここを任せることはできません」


サリーさんが俺に向かって話しかける。

先に行くだと?!

まさに死亡フラグじゃねえか!!やーだよ。

俺も一緒に戦うってな!


「街の中心に跋扈している魔物の強さが分からない以上はヒョーゴさんは戦闘を少し控えて、体力を回復すべきです!なにせ【勇者】の称号を持っているのですから!」


サリーさんは勇者の部分を強調して言った。

あ、そうね。

確かに、魔物相手だとステータス上がるもんねー。

弱い相手には無双だし、

強い相手だと力の差を埋めることが出来て有利に戦いを進められるね!!

俺を隠し玉扱い、了解。

本物の勇者であればの話だけど。


………まさか、サリーさんに【偽勇者】だと気づかれてないの?

なぜ?

あれだけ初期に出てくるようなゴブリンに苦戦したんだぜ?

普通は「おかしいなあ」とか疑問を持つよね。

サリーさん言い切ったぜ。

少しぐらいは俺を疑ったりしないの?!


内心突っ込みを入れる。

まあ、ヒョーゴがどれ程サリーさんの信用度が高いかを把握していないのが原因だ。

もし心の中を見通せる能力を持ち始めたら、ヒョーゴは言葉を失うだろう。

理想(悪役)の自分と実際思われている自分のギャップが大きさに。


「先に…急いでください!!ヒョーゴさん!!」


こうしている間にも『鬼愕羅夢音』を駆使しながらサリーさんは剣と共に舞う。

そしてどんどん、敵の数を減らすのだ。

まあ、元々の数が多すぎるせいで時間は相当かかりそうだけども……。


「……分かった」


そこまで言うのなら仕方が無いか……。

とにかく、人のある場所に出向かないと!!

ヒョーゴはサリーさんの意見を飲んで、ゴブリンの数の少ない所を突っ切ってゆく。

この数が少ない通りはサリーさんが計算的にゴブリンを倒し、作ってくれたのだ。

感謝しかないっす。


アクシデントに見舞われながらも順調に事が運んでいた。

……しかし、

ここでヒョーゴはある事に気付いてしまった。


冒険者たちの拠点とか知らんし、住民の避難場所はワザと隠しているから余計に分からないよね?

人が集まる場所知らないわ(;´Д`)


致命的なミスである。

あまり考えずに出向いてしまったが故の結果である。

どうやら、この問題を問い詰めて行くにつれ、情報が皆無である場合、

救助不可能であることを悟ってしまったのだ。


――――ここで考える。

何処にいるんだ?

いや、推測しても意味無いか。

まじで必要不可欠な情報を持っていないんだが?!

……情報……。情報か……。

情報?!ちょっと待って、この世界の情報と言えば!!


突然ひらめいた。


「グワア!!グワア!!セぃシょ!みツけタ!!」


その時、前方から見覚えのある、生き物が転がり込んでくる。

見た目は明らかな土。

少しカタコトな口調。

見た目は制作時よりもボロボロとしていたが、確実にゴーレム君だと分かった。

このゴーレムは、前に、勇者捜索のために出向かせたゴーレムであった!


「良いところに来た!俺を案内しろ」


情報と言えば、シナリオ!!

ラノベ聖書だよ!!

これさえあれば情報戦無双w

さあ、聖書を拾って、このブラックマターを完全に制覇しようじゃないか!!

フハハハハハ!!





~~~~~~~~~~


誤字報告。わかりにくい表現の報告をお願いします。

展開速すぎたかな?

また、夜遅いコメントには、例のアレが付くので悪しからず。

では、



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