29話 ブラマの長い夜の戦い 2
「どんどん、ソイシー街で死亡者が増えている。助けてくれないか……?」
はい?
ソイシー街ってめっちゃピンチじゃん。
もう一人の勇者は見隠れして、
利益がない分、冒険者も現れない…、
―――これは……確かにおじさんが真剣になるのも納得がいく。
帝国の騎士は先にロイロ・クラシ街の安全を確保した後に、ソイシー街に出向くそうだ。
帝国の騎士何やってんだよ。先に危ない方救えよ。
「……あぁ、分かった。ソイシー街に向かう」
俺は静かに答えた。
緊張した顔つきをした、おじさんの顔に安堵の色が見える。
ふう、またしても俺は大変な役を背負ってしまったなあ。
というか、俺一人で勝てるのだろうか?
普通の異世界物語、だったら魔物相手には複数人で挑むのが常識だよな。
俺みたいな悪役気取っている雑魚に魔物討伐できるのかなあ?
「ヒョーゴさん!私も同行してもいいですか?」
その時、サリーさんから声がかかった。
彼女の顔はやる気で満ち溢れていた。
……。
これは連れて行くしかない!
毎度のことだけどよろしくね、サリーさん!
俺は雑魚だけど、サリーさんは最強だからなあ。これは勝った。
しかも、辺地の人も魔物に対して一応、抵抗しているだろう。
だからそこに加勢して、魔物の数を減らせばいいだけ。
長い間耐久していれば、帝国の騎士たちも来るからね。
つまり勝ちゲー(ドヤ)。
「面倒くさい仕事を増やされたな」
「ですね!私もさっさと終わらせて、デートしたいですね」
俺の言葉に続いて、サリーさんが答える。
―――う~ん?デートとは?
その後、デートという言葉に対して問い詰めたら、
サリーさんの方が逆に、信じられない目で、俺を見ていた。
「え…?お出掛けに誘われることはデートですよね??」
なんか、緊張がほどけて来たな。
とにかく、街を平和にして、(見隠れ中の)本物勇者を問い詰めたりして、
このことを笑い話で済ませるような結末にしたい。
それが俺の願望だ。
こうして二人はソイシー街まで走り始める。
―――
~~~~~~~本物勇者SIDE~~~~~~~~~~~
普段通りに夕飯を食べて、
普段通りに寝て、
そして、明日も普段通りになるはずだった。
「……」
夜にふと目が覚めた。
窓から見える月が綺麗で見入っていると、外から悲鳴や叫び声が聞こえた気がした。
気のせい、かな?
そう思ってもう一度眠ろうと目を閉じたが、どうにも落ち着かない。
嫌な予感というのか、胸騒ぎがしてならないのだ。
ベッドから起き上がり、装備を身に付ける。
剣を腰に差し、部屋を出て階段を下っていく。
するとそこには、
「……っ!?」
一匹のゴブリンがいた。
「ギャッ!」
僕に気付いたゴブリンは手に持った棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
魔物の分際で僕に攻撃するだと?!
僕は咄嵯に身を屈めてそれをかわすと、ゴブリンの首目掛けて一閃する。
しかしそれは空を切り、首を狙ったはずの一撃は不発に終わる。
「なんだよコイツ!さっさとくたばれよ!!」
苛立ち紛れに今度は心臓目掛けて突きを放つ。
だがそれも外してしまう。
「チィッ!」
舌打ちしながら一旦距離を取る。
何だこのゴブリン?動きが早いぞ。それに、普通のゴブリンより少し大きいような……。
いや、そんな訳ない。見間違い。
どちらにしたって僕は勝てる!
僕が前に対峙したゴブリンだって蹂躙できた。
何せ僕には『勇者』という称号があるのだから!!
「グギャッ!!」
再び襲ってくるゴブリンの攻撃を避けると同時に横薙ぎの一閃。
手応えあり。僕の剣は見事にゴブリンを切り裂いた。
ゴブリンはそのまま倒れると動かなくなる。
よし!これで大丈夫だろう。
「……?」
何かおかしい。
そもそも家の中になんで魔物がいるんだよ?
僕は疑問を抱きながらも家の外に出ると、そこには……
「なんだこれ……」
いつもの風景とはまるで違う光景が広がっていた。
街灯は無く真っ暗だし、家は燃えているし、辺り一面血だらけだ。
しかも、
「おいおい嘘だろ……」
街のあちこちから煙が立ち上っている。
明らかに異常事態だ。
これは夢なのか?それとも現実なのか? 頭が混乱している。
「誰かいないのかー!!!」
とにかく叫ばずにはいられなかった。
誰か僕を助けてくれよ!!可哀想な僕を救ってくれよ!
返事はない。
人の気配もない。
僕はどうしたらいいんだ……
その時だった、後方の方から、また魔物の気配がする。
まさかまだ他にいるのか? 一体何匹いるんだよ。もう勘弁してくれよ。
後ろにいたのは集団のゴブリンだった。
何で僕にこんな構うんだよ!?
ちっ、この街から出て行ってやる。俺は勇者だから助かるべき存在なんだ!そう!
「来なよゴブリンども!皆殺しにしてやる!!」
僕は自分を奮い立たせるように叫ぶと、ゴブリンに向かって駆け出した。
しかし、その時、僕は何か違和感に気付く。
あれ?ゴブリンってあんな大きかったっけ?
そう言えば、家の中にいたゴブリンも大きかった。
そして、その答えはすぐに出た。
目の前にいるゴブリンが持っていた棍棒が、いつの間にか巨大な剣になっているのだ。
まさか、まさか、まさか、まさか、まさか?!?!??!
ウィークゴブリンの進化系?!
〈この世界の魔物は基本的に名前に『ウィーク』が付く。
しかし、既存の魔物が突然変異した姿が確認された場合、『ウィーク』は外される。
そして、それぞれの個体に即した名前が付けられるのだ。
例えば、ウィークリザードンから派生する個体として、ハイリザードン、ヘルリザードンなど。
もちろん戦闘能力も変化する。
個体によってだが、突然変異前の数倍程、魔力量が上がるケースも多い〉
僕は死ぬかもしれない、直感で感じた。
そして、僕は踵を返して逃げ出す。
これは勝てないよ、
これはどうすれば!!!!
「うわーーん!!うわーーん!!」
その時近くで泣いている子供を見つけた。
ははは、良いこと思いついちゃった。
頭の中で、残酷な計画を思いつく。
そうだ、コイツをゴブリンの人質にしよう。
そうしたら、きっと見逃してくれるはずだ。
「おいガキ、こっちにこい!」
僕は子供を呼び寄せる。
そして、思いっきり突き飛ばした。
「ほら、早く逃げないと殺されるぞ!」
僕は子供を急かした。
子供の恐怖に歪む顔を見て、思わず笑みを浮かべてしまう。
これでゴブリンの標的が変わったぞ!
さぁ、僕は逃げちゃおうか! そう思ったのだが、
「『神龍流儀・玉砲惨禍』」
直後、轟音と共にゴブリンの身体が弾けた。
肉片と血液を撒き散らしながら、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
え?嘘だろ? 一瞬の出来事に呆気に取られていると、今度は後ろで物音が聞こえた。
「誰だよ?!」
振り返るとそこには、一人の少女がいた。
容姿は整っていて、美しい金色の髪が月明かりに照らされて輝いている。
年齢はレオンとさほど変わらなそうだ。
服は、貧しいせいかボロ布のような物を纏っていた。
しかし、彼女の纏うオーラは、決してそこらの平民とは比べものにならないくらい輝かしく、
容姿を際立たせていた。
「アタシの名前?ウィリアム・ウィリスよ」
ロングソードを持った、謎の少女だった。
作者より
・あ……次の日になってしまった……。
誤字報告、その他諸々、お願いします。
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