第34話 ブラマの長い夜の戦い 7

「なんだあいつ!?」


俺は思わず大きい声を出してしまった。

…うわ、声出したせいで体の節々が痛いんだが?

倒れた体制からのっそり起き上がると、肩に乗っけてあった、小さい瓦礫のクズをどかす。

そして少し顔をゆがめながら周囲を見渡した。


辺りは、煙やチリなどが散乱してうまく見えない。

視界が悪い……夜だからなおさらだ。


状況説明、

今さっき、俺は謎の怪物に突き飛ばされてしまったのだ。

そして、見知らぬ場所に俺はいる。

以上。

少女の背中に引っ付いていたあの謎の生物。

……これって完全に敵意があるね。

あの生物が、また少女の体を操ったら……。

もしかしたら、第二の戦闘が始まるのでは?

洗脳された(推定)少女を助けた後、すぐに飛ばされたものだから本当に体力が無い。

また洗脳少女と戦うかも。

これは泥試合……もしくは負け戦だぞ。

―――いや、気を落としてちゃだめだなあ。

とにかく、あの子をなんらかの呪縛から解いてサリーさんの方に合流しよう。

プラン変更!

聖書なかったし!!

……本当はあったけどさ、使えねえし!!


「……」


いや、やっぱとても不安だわ。

味方が欲しい!味方!!

……あれえ?てか、ゴーレムどうしたんだろ?

さっきから姿が見えないんだけど……。

そういえば、レオンの家から飛ばされた時にはもう離れ離れになったもんなあ。

―――まあ、いいか。

あのゴーレムだと太刀打ちできなさそうだし。

アイツはどっか行ったけど、俺一人で対処する、もしくは時間稼ぎをする!!

直感的に、あの謎の生物が街に出るとヤバい気がする。

破滅…的な?


ピタピタ


どこからか足跡が聞こえた。

ヒョーゴは周囲を見渡して、音の方へ、体を向けて剣を構える。

その時、ヒョーゴは見た。

ユラユラと、煙越しに映る黒い影を。


「―――」


背が高い影、

そして瞬時に悟る。


「この影は、あの少女ではない?」


俺がそう言った次の瞬間、

正面から猛スピードで何か飛んでくる。


一瞬の出来事だった。

ヒョーゴは、それを見て目を大きく見開いた。

反射神経だけで横に跳ぶ。

すると、何者かの攻撃がヒョーゴの頬を掠めた。

傷口から血が流れる。


「……」


ヒョーゴは攻撃を避けた後、素早く立ち上がる。

そして剣を構えたまま、相手の出方を伺う。

敵の姿は、よく見えなかった。

ただ、ぼんやりとしたシルエットだけが見える。

ひも状の何かが敵の体中に纏わりついているような……

人型生物。

しかし、ヒョーゴにはわかった。

コイツは、人間じゃないと。


いや~攻撃スピードが速すぎる!!

これは確実にあの少女ではない。

え…?

だったら誰すか?


ヒョーゴはシルエットだけで相手を特定するのは困難だと感じた。

分かった事・攻撃クソ強速い。

これだけでも俺には大きな絶望感を与えてくる。

どうしよう……。


そう考えていた矢先、

煙越しに見える影の口が開いた。


「……少年ヨ、キサマハ俺二会ッタコトガ運ノツキダ……!!」


ロボットの声の様に何やらカタコトである。

しかし、そんな生温い表現では表せない、

その音圧だけで周囲の空気はビンビンと震えていた。


「…………俺ハ、……デアル!!」


何か言っているようだが、その声は次の行動でかき消されてしまった。

そう、また何かがヒョーゴの方に飛んできたのだ。

直感的に分かる「これは避けなくてはいけない」


そう思ったヒョーゴは、必死に横に転がって避ける。

そして、二発目……。

体勢を崩したヒョーゴの行動は限られており、

決死の覚悟で剣を盾にして攻撃を受け止めた。

ドォンッ! 凄まじい衝撃波が全身に響く。

衝撃に耐え切れず、後ろに吹き飛ぶ。

地面に強く叩きつけられた。


「ぐっ……」


神龍流儀とは比べ物にならない力……なんだが。

剣は半壊状態。くっそ。

―――そして今やっと、攻撃してきた正体が触手だと分かったわ。


出来るだけの力を振り絞って、体を起こす、そしてボロボロになった剣を構えた。

しかし、そんな勇気ある行動とは裏腹に、彼には不安の色しか見えない。

ヒョーゴは正面にいる者との格の違いに気付いてしまった。


そして、ついに聞き取れた声に、さらに絶望を与えられた。


「俺ハ誇リタカキ魔王幹部。――『イビル』ダ!!!!」


か、幹部?!

ダメだこりゃあ……勝てねえよ……。

おいおい、序盤にボスを出すストーリーとか教えはどうなってるんだ?教えは!!


完全に不利な戦いにヒョーゴは挑む。


~~~~~~~~


避けて、攻撃されて、避けて、攻撃されて。

吹き飛ばされて…を繰り返していた。


「……」


――もう、限界だわ……。

そう思いながら、何とか攻撃を耐え続ける。

「元々、無謀な行為」だとヒョーゴも気付いていた。

いくら、彼が頑張っても、所詮、彼はただの偽勇者なのだから。

しかし、ここで剣を振るのを辞めたらどうなるか?

答えは簡単、彼の首が飛ぶ。ただそれだけ、


「くっそ!!!!」


ヒョーゴは回避と防御を続ける。

しかし、次第に傷は増えて行く一方、体力もつきかけていた。

もう、ヒョーゴはボロボロになっていた。

――このままじゃあ、死ぬな……。

ヒョーゴは焦りながらも、何もできずにいた。


そして、不意にヒョーゴはふらついてしまう。

疲れているのか?! まずい!! 体制を直そうとするが、遅かった。

敵の攻撃が当たってしまったのだ。

しかも、今度はモロに受けてしまった。


「――!」


痛いなんてもんじゃない。

体が動かない。

ヒョーゴはその場に倒れ込んだ。


「……あ」


そして、意識が薄れていく。

……あ、ああ。

だめだ、力が入らない。

俺はここまでなのか。

俺が死んだら、世界滅ぶけど(笑)。

…情けなさすぎる。

でも、この体は動かなかった。

――本当に俺って情けないなあ……。


イビルからの次の攻撃が来る音がする。

―――ゲームオーバーか……


ヒョーゴはそう思って目を閉じた。

しかし、その時だった。

ヒュン 風を切る音が聞こえてきた。


「……」


ヒョーゴはその音を聞いて目を開ける。



すると、目の前には白色のマントが写っていた。


「ふん、拙者に切れぬものはない」


目の前には、切り捨てられた触手と、仁王立ちしている何者かの姿があった。

ヒョーゴは顔を上げて、その人物の顔を見る。

そこには……


教会で見た、白い仮面をかぶった謎の騎士がいた。


「そなたが勇者のヒョーゴであってるか?」


急に質問を投げかけられてきた。


「え……あ、そうだ……」


ヒョーゴは戸惑いながら答える。


「そうか、よく耐えたな」


目の前の騎士はヒョーゴに優しく声を掛けると、彼の頭をポンポンと優しくなでた。

その後、軽くヒョーゴは抱きしめられた。


―――はい?子ども扱いこんにゃろぉぉ!!


いちいちヒョーゴの反応を気にする騎士ではない。

騎士は自身の白い仮面を外し、マントを取った。

マントからは赤色のロングな髪が現れ、

仮面からは美人で気が強そうな女性の顔が現れた。

そして、その謎の騎士は剣を構えて言った。


「拙者は『最官帝国騎士さいかんていこくきし』である。イビルよ覚悟!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



戦闘内容は激しかった。

女騎士とイビルの激闘が始まっていた。

彼女の持っているロングソードでイビルの攻撃を切り捨てつつ、イビル本体にも切りつけていた。

ただ、イビルは切られても、すぐに再生していた。

すぐに、大量の触手を用意して、イビルは反撃を開始する。


「貴様ハ、何者ナノダ?!!」


イビルが叫んだ瞬間だった。

しかし、女騎士の方はあまり気にせずに、ただただ剣で切り伏せる。

まるで、剣術で自分の存在を物語っているかのように。


「クソ!!俺二、俺二、チカヅクナ!!!」


超高速触手が、女騎士を真正面から攻撃に入る。

もちろん、あの女騎士だったら切り捨てることが出来よう。

しかしその攻撃に、彼女は大きく後ずさった。

まあ、結局はこれが正解だったのだが。

なにせ、今の攻撃はロマン砲であったからだ。

女騎士は触手に距離を取りながら、顔に着いた汗をぬぐっていた。


「やはり、一筋縄ではいかぬか……」


女騎士は少し悔しがる様子で呟いた。

そして、近くにいた、ヒョーゴに声を掛ける。


「そなたは安全なところに避難せよ」


彼女は感じていた。

あのヒョーゴは優しさに溢れた馬鹿であると。

彼だったらボロボロな体でも応戦に来るかもしれない。

なにせ、今まさに彼は再度剣を強く握って、イビルを睨んでいたのだから。

彼女にとってありがたみは感じるが邪魔でしかない。


「『勇者』は完璧称号ではない。早く避難せよ」


女騎士はヒョーゴの行動に釘をさすと、またイビルに向き合った。

そして、疲れが見えているイビルに向かって女騎士は走りだした。

そう、彼女の攻撃はまだ終わっていなかった。

なんと、いつの間にか女騎士の手の中には、大きな大剣が握られていたのだ。

ファルシオンと呼ばれる大剣。

その大剣は光り輝いており、見ているだけで目が眩むような輝きを放っている。

女騎士は一気に距離を詰め、大剣を振りかざす。


「これで終わりだ!!」


振り下ろされた刃は、そのままイビルへと直撃する。

その一撃は、あまりにも綺麗すぎた。

まるで、真っ赤な花びらが舞い散るように、血飛沫が辺りに飛び散った。


―――――しかし、倒したはずのイビルの姿が、消える訳でなく、

歪み始め霧が更に濃くなった。

不安をあおるようなどす黒い色。

周囲がもっと暗くなる。


「俺ハ簡単二死二ハシナイ!!コロサレルノハ、オマエダ!!」


何処からか声が聞こえてくる。


「霧状か……やはり幹部クラスになる面倒なり」


女騎士はそう言いながら、油断せず構えた。

しかし、イビルの攻撃はこれまでの戦い方とは違った戦法であった。

触手では無く、イビル自体が分裂し、女騎士に攻撃を仕掛けてきた。

しかも、周囲には、気怠さを感じる(デバフと思われる)真っ黒い霧。


「なっ!?」


流石の女騎士もこれには驚きの声を上げてしまう。

全てを切り伏せる訳もなく、一体の攻撃を許してしまう。

――しまった!避けきれない!! イビルからの攻撃を防御しようとしたが、時すでに遅し。


「くっ」


イビルの攻撃が、女騎士の胴体を削ろうとしていた。

避けようがない。

女騎士は攻撃を受ける覚悟をした。

しかし、その時、


「アップ・グラウンドぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


女騎士の背後から、叫び声が聞こえた。

――これはヒョーゴか?

次の瞬間、

イビルの胴体を、地面が押し上げた。


「グヘェ!!!」


予想外の攻撃に、イビルは体制を崩して、女騎士への攻撃を中断してしまった。

このチャンスを逃さずに、女騎士は、ロングソードで一刀両断。

遂にイビルの分身体は居なくなった。


女騎士はヒョーゴに言う。


「恩に着るぞ、少年よ!!」


そのまま、女騎士は霧から脱出する。

そして、彼女はヒョーゴの方を向いた。

次の瞬間、女騎士の目がもっと大きく見開かれる。


「何?魔王の配下であるゴーレムがなぜそこに??」


ヒョーゴの隣には、例の土ゴーレムがいた。








~~~~~~~~作者より~~~~~~~

四千字……。

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