25話 悪役は努力する 2

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第三者視点を導入するときは〈〉を使います。

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とある酒場にて


「この世で一番使えねえ剣の流儀ってなんだと思う?」


「んー。すぐには思いつかねえなあ」


「へっ、この世で最も使えない流儀なんて、オーガ族に伝わる『鬼愕羅夢音』に決まってるだろ!あんな使えねえ流儀見たことねえ」


「そうなのかい、まあ聞いたことはあるが……」


「体力の燃費も悪ければ、不格好で隙だらけ。あんなクソ流儀、残ってる時点で幸運だなw」


〈そんな会話が繰り広げられていた。

しかし彼らは『鬼愕羅夢音』の真髄を知らない。

なにせ、凡人が触れてもいいような簡単に習得できる流儀ではない。

剣に生きるものが、たどり着けるか着けないかを競うような品物。

この流儀は知る人ぞ知る、最強流儀であった。〉


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「―――次は、『相手が左から攻撃したとき』の取るべき行動です。まずは自分を守る基本の型から、こう!」


サリーさんは元気に剣を振っている。

透き通るようなきれいな声で、説明をすると、

次にオーガ族を感じさせるような恐ろしい覇気をまとって、剣をビュンビュン振っていた。


怖え。

やっぱサリーさん恐ろしや。

オーガ族っていうだけで戦闘力は強いかな〜〜って軽く思ってたけど、

最強だろ……。


サリーさんは、剣を構えると、また十字に剣を振る。

どうやら、これが【自分を守る基本の型】らしい。

この技も相当奥が深いそうで、剣の刃を向ける先や、疲れにくい手の動かし方など…。

この技を完全に取得すると、正面であればどの方面から攻撃が来ても絶対に防げるらしい。

恐ろしや。


「今日はもう日が落ちてきたので、次の技で最後にしましょうか。

最後は【相手がカウンターを用意した】場合の技です!」


暗記量が多い、、今日10個も『定型』習ったんだけど!!

【自分を守る基本の型】

【相手が剣を振り下ろした時の型】

【相手が右下から攻撃した時の型】

【相手が左下から攻撃してきたときの型】

【相手が右上から攻撃した時の型】

【相手が右足から先に避けた時の型】

etc.....



そして今日最後に習う『定型』は【相手がカウンターを用意した型】か…。

細分化されすぎてて怖い。

しかも、右上と右下で、響きは似ているけど、それぞれの型では動きが結構違うから覚えづらいんだよなあ。



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「こんな感じです!! 感覚掴めましたか?」


「……一応」



嘘です覚えてないっす。

覚えきれるわけないだろ!!(叫び)

しかも個々で技を覚えたら繋げる作業だろ?

あと二年で王都に行くのに習得しきれるのか?!


〈ヒョーゴが一日で全く身にならない感覚を持っているのは当たり前だ。

彼は勘違いしているようだが、この流儀を極めることは剣に人生をささげるほどの覚悟を持たなければ到底達成できない。

それほどまでに難しい流儀だということを彼はまだ知らない。〉


「大丈夫です!!いつか習得できますよ!大体基礎練習としてはこの山を下りて登って三往復ぐらいすればすぐに極められると思います!」


さらっととんでもない事を言ってくるサリーさん。

さっきまで美しかった笑顔が怖く見えてくるわ……。


「三往復か……キツイな……」


三往復……。

歩いて一往復で六時間……。

無理じゃね?


「ヒョーゴさんが知っているか分からないのですけど、

山道は蛇行するように設計されているのです」


それは知ってるけど……。

まさか、時間短縮のために、ストレートで進んで、道なき道を歩けなんて言わないよね。

それほど鬼畜ではないと信じている。

だって、ストレートって急すぎるし舗装されてない道なんて、転倒したら死ぬじゃん。

流石に、別の方法が……。


「曲がらずに真っすぐ降りることによって時間短縮できます!!」


流石はオーガ族、

全てを身体能力でカバーする姿勢。


「……まあ、そうだよな」


悪役、魔王討伐に先駆けて腹くくるわ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



「今日は少し疲れましたね…」


「だな。背中が痛ぇ」


今は、『鬼愕羅夢音』の練習を終えて、夕飯を取っている。

日も沈みかけて、少し眠気に襲われる。

ここまでリラックスできる場所とは……。


転生して一年たって慣れたな……この家も。

もう、すっかり心から認めるマイホームだな。


ヒョーゴはそう思った。


目の前にいるサリーさんは、お酒を飲んでいた。

……。元々は飲んでなかったんだけどね。

なんか、最近飲み始めてびっくりしている。


うーん、たしか……俺が『偽勇者』称号を手に入れた時ぐらいか……。


勇者パーティーは『帝国』というものが管理している集団。

勇者になったら、この家を出ていく必要あるし、もうサリーさんには会える機会が少ないのよなあ。

……あれ?

ヒョーゴ出て行ってラッキー、っ的なノリで酒を飲んでいらっしゃる?

これは傷つく…。

まあ、悪役を演じ切れているだけで、俺の役目は果たしている訳だけど。


「……そうですね…。そーいえば、ヒョーゴさんの母さんも!この流儀気に入ってましたね!!ヒック…『かっこいい!これ好き!』って、私も嬉しくって……」


サリーさん酔っぱらってる。

顔を真っ赤にしてニマニマしながら、ヒョーゴを見ている。

なんか声も弾んでいるけど、体の方地味に弾んでいる。

そのせいで二つの巨峰が上下に揺れてるんだが……。


「昔ですね……!!あの!昔に……」


呂律回ってないですよ~。

少し不安になりながら俺はサリーさんの声を聴いていた。

すると突然、サリーさんは過去の話をぶん投げてきた。

そして昔話が始まる。


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「君ってオーガ族なの?!」


〈一人の女性が大きな声で叫んだ。

そしてその女性の目の先にはサリーさんらしき女性がいる。

女性の方が、オーガという言葉に驚いてる一方、

サリーさんは不安げな顔をしていた。〉


「はい……。隠してたこと謝ります……」


〈ついにサリーさんはある女性に向かって頭を下げる。

……これは昔の物語、豹豪がヒョーゴに乗り移る前、

つまり、両親も悲劇になってない頃の話である。


この頃のサリーさんは、帽子を目深にかぶって、街で働いていた。

サリーさんはオーガ族の村を出て行ったあと、

放浪の旅をしていたのだ。

そして、旅の資金集めをしていた時に、サリーさんはヒョーゴの母と出会う。


きっかけはサリーさんが働いていた店にクレーマーが入店したこと。

客に対して、教養が無い態度を取れないサリーさんが困っていた時に、

ヒョーゴの母がクレーマー客を追い出した、これが始まりだった。


それからオーガの正体を隠し続けながらも、ヒョーゴの母との仲を深めていった。

なぜ隠さなくてはいけないのか?

それは前にも説明した通り、オーガ族は魔族、という認識が強いからだ。

歴史的背景を見ても、魔族と共闘して別種族を追い返したという事例がある。


よって、オーガ族とは人間の住む町では歓迎されない存在だったのだ。

だから正体を隠すしかない。〉


……でも、バレてしまいました。

トールさん(ヒョーゴの母)と街を出る時に、魔力感知器に引っかかってしまった始末。

魔物の侵入を予期するための魔力感知器に反応してしまったのです。


結局はオーガ族だと説明するだけで済みましたが、

周囲からは冷たい視線。

……とにかく、魔族と人間族で衝突が起こっていない時代で助かりました。

もし衝突していた世界線だったら、私の首は間違いなく飛ばされていたことでしょう。

だって準魔族判定ですから。


こうしてオーガだって正体が分かった後、私はヒョーゴさんの母に謝りました。

もし許してくれなかったらどうしましょう。

これは唯識事態。

もし、魔族とかかわりを持っている人間がいるなど、知られてしまったら、

二度と、人に頼れる綱は無くなります。

作物の取引で成り立っている家庭なんて、なおさら。

やはり私はオーガ族の村に籠るべきだったのでしょうか…。


「いやいや、謝んないでよ!!オーガ族って聞いて逆に納得して安心した!!」


しかし、その事実を聞いたトールさんの顔は明るかったです。

オーガ族は魔物として扱われているのに、

魔物は人間を殺すことを厭わない存在だと知っているのに……。


「それだけで、あったしなんか気にしないよ。……そう考えるとヒョーゴちゃんの感って鋭かったのね!」


私を励ましてくれます。

ここまで寛容な人間は見たことがありませんでした。

これが私の最初の唯一の希望になりました。


……。

ヒョーゴ……そんな人いましたね。

8歳を過ぎたぐらいの男の子でしょうか?とても幼く見えました。

しかし、その幼さにそぐわない観察力。

その子は私を見ただけで素早く彼の母の後ろに隠れました。


ヒョーゴさんの母曰く、こんな臆病な子供じゃないんだけどねー


やはり、私の正体を察していた……のでしょうか。

特別な能力を持っている可能性もありますね。

可能性?いや、トールさんの子だから絶対に特別ですよね!(確信)


『これからも、あったしの家に来てよ!そしたら、クッキーあげるからさ!』


やはり優しい。

私こそ、これからも仲良くしたいです!


『よ、よろしくお願いします』


『うんうん、やっぱサリーちゃんは可愛いね!!』


~~~~~~~~~~~~~~


そんな永遠に続いてほしいと思えるほどの、甘い生活。

だからこそ長くは続きません。


そして、一年後

ヒョーゴさんの父がブラックマターに巻き込まれました。

世間でいう略語ではブラマ。

大規模な魔族の暴走のことを指します。

その被害というのは、街が五つも簡単に滅びてしまうという程。

凶悪極まりない災害です。


それに巻き込まれてしまったヒョーゴさんの父。

数か月もしないうちに亡くなってしまいました。

最後に『この世界に、ヒョーゴに、トールに、サリーに…幸あれ。』

という言葉を残して、


それからというもの、トールさんは段々と強がるようになってきました。


『トールさん、顔色悪いですよ!?手伝いますね!!』


『へーき、へーき。私最強だから(笑)。それよりサリーちゃんはヒョーゴちゃんと仲良くなる方が大事だよ~』


『でも……』


『大丈夫!!! 問題なし!』


そう言いながら、翌日は高熱を出す。

しかしそのまた次の日には、笑顔を作って、二日分の仕事を成し遂げる。

そんな日々の連続でした。


そしてある日、


『あったし、最近体力が落ちてる気がするんだよね~。でさでさ、そのサリーちゃんのイケメン剣術教えてくれない?適度な運動は体にいいって言うじゃんさ!』


トールさんは私にそう言った。

……体にいい?嘘つきです。

この頃、別のムーン王国の街でブラマが起こりました。

実はブラックマターは数十年に一度しか起こらない、ごく小確率の災害。

しかし、最近は頻繁に起きている。


トールさんはそれを知ったのでしょう。

そしてその被害を受けぬようにするため。

ヒョーゴさんを守るため。


……私は思いました。

なんで自分を傷つけてまで、周りの人を守るのでしょうか?

自分が生きることが全てだと信じている私には到底、理解不能。

多分、この疑問は墓場まで持ってゆくことになるでしょう。


『……分かりました。オーガ流『鬼愕羅夢音』をお教えします』


でも、私は最終的にトールさんの熱意に屈しました。

そして、私は望まぬ剣をトールさんに教えることになります。


その結果はどうなったか教えて欲しいのですか?

もちろん、後悔ですよ。

後悔。


後日、トールさんは盗賊に……はい、

ハッキリ言った方がいいですね。

トールさんは盗賊に惨殺されました。

理由は単純、トールさんは襲ってきた相手に『鬼愕羅夢音』を使ったからなんです。

消耗の激しい流儀。

さらに、日々の疲労。

この頃になるとヒョーゴさんも仕事に参加しますが、やはり厳しい現状。

そのせいで、トールさんはすぐに尽きてしまいました…。

これだったら人間も使えるシンプルな流儀を伝授した方が良かった。


あぁ、やはり人間に教えていい流儀ではなかった。

弱体化したトールさんに追い打ちをかけたのは私なのです。

ヒョーゴさんの母が亡くなった原因は私。

だから、後悔。


ですから、もう、私は!!!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


サリーさんの話重いな。

お酒飲んで愉快そうな顔をしてたから、楽しい昔話が始まるかと思ってた。

随分とリアルな話でビビった。

まあ、これが現実だしな……。

これで完全に過去が明かされたけど。

やっぱ、ヒョーゴ一家は救えないなあ。


「ですから!!!! 私は!!!!!」


ゴンッ!!


その瞬間、サリーさんは強く机をたたいた。

えっと、どうしたんだ?

急に怒られても困るんだけど……。


〈ヒョーゴは不思議なものを見る顔でサリーさんを伺っていた。

でも、話の内容からして、あまり気持ちが進まない事だとは想像がつく。

なにせ、サリーさんの表情はとても苦しそうだから〉


「ヒョーゴさん……」


真っ赤な顔をしたサリーさんが寂し気に口をゆがめる。


「なんだ?」


それに対して俺は淡々と聞いた。

あまり、良い雰囲気は感じなさそうな内容だけど予想する。

まあ、聞くしかないな。


そうしてサリーさんは言葉を発した。

ブラウンの瞳を大きく見開いて。


「ハッキリ言います。勇者を辞めませんか?ヒョーゴさん」


そう来るか……。




~~~~~~作者より~~~~~

誤字脱字の報告。

あと…なんだっけ?

あぁ、あれか。

分かりにくい表現があった場合、指摘してもらえると助かります!!

では、

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