24話 悪役は努力する

「あーやることねぇな」


ヒョーゴはベットに体を預けながら、呟いた。

最近は仕事もなければ、シナリオすらない。

魔法を習うことも、自分の体の中にある魔素が抜けきってしまえば発動することができない。

つまり、ヒョーゴは異世界にきて始めての暇を満喫していた。


「暇も暇で苦痛だけど……」


なんとなく、追い越されそうで怖い。

元々、俺の『勇者』っていう称号でさえ偽物だし、ここで怠けてたら勇者パーティーの本物のお荷物になるんだよなあ。

パーティーメンバー強化のために悪役演じてるのに、本当に無能になってしまったら意味がない。

かと言って、出来ることもなく……。


『コアを五重ぐらいに厚くしたけど……ゴーレム生成!!よっしゃ、成功!』


『グアグアグア!!』


『よし、じゃあ置く場所無いから、崩すかあ』


『?!?!?!?!?』


『おい!ちょっと殴るなって!痛い、痛い!!』


『グアグアグア…グア!!』


『何言ってるか分からねえよ!』


『グア…、ァ、ィ、う、ェ、お、…ステなィデ?』


『ゴーレムって喋るの?!』


その後、しっかりと会話ができた。

なんだ、ゴーレムって意思疎通できるじゃん。

最終的に二匹目のゴーレムに勇者を探してもらうことになった。

もし勇者が聖書持ってたらっていう場合は役に立つし。


「………」


という感じで、結果的にヒョーゴは惰眠を貪っていた。

怠惰な生活が本当の悪役のあるべき姿なのだが、やはりヒョーゴは努力する傾向にあるらしい。


「まあ、外出てみるか、」


ヒョーゴはベットから立ち上がると体を大きく伸ばす。

そして、欠伸をしながら部屋を出ていくのであった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ブンッブンッ!!


あれ?外で物々しい音が聞こえるんだけど?


ヒョーゴが家を出ようと、扉に手をかけたときに、外から音が聞こえた。


サリーさんも家の中にいないし、

もしかして外に出て、洗濯物を乾かしている?

いや、それにしても音が大きすぎる。


ヒョーゴは耳を澄まして聞けば、どうやら風を切る音のようだ。


「……」


ヒョーゴはとりあえず、ドアを開けて家を出た。

そして音の元凶を探るために周囲を確認する。


「――ふっ!ふっ!」


すると何やら可愛らしい声が聞こえた。


声が聞こえた…。

この声って、多分サリーさんだよねえ。

一体何やってるんだ?


「―――はっ!はっ!」


どうやら家の後ろの方で、何かをしているらしい。

流石に洗濯物にこれぐらいの掛け声は必要ないと思うが……。


「サリー?」


声をかけてみた。


「―――はっ!は…ぅ?あ!ヒョーゴさん!おはようございます」


「あぁ」


ヒョーゴの目に前にいた、彼女は木刀を持っていた。

どうやら剣の訓練をしていたみたいだ。


「剣?訓練か…?」


「えっと…、私は戦闘能力に長けているオーガ族なので……。

剣を振るのは小さい頃からの癖です」


雀百まで踊り忘れずってか。

オーガ族って見た目とか名前通り、戦闘能力高いんだぁ。


「剣を振っている姿はあまり、見せたくなかったので隠れて振っていましたが、まさかバレてしまいましたか…。」


光っている汗を、細い指先で拭いながら照れているサリーさん。

今は露出が大きく、動きやすい服装をしていた。


「……」


さて、結局俺はどうするか。

暇で暇でしょうがないし、自分の能力を上げる努力はしたい。

しかも俺は偽物でも勇者だし、周囲にはレプリカ称号なんてバレたくない。

じゃあ、剣を習うの決定だ。


「あ!私邪魔でしたか?ごめんなさい、今どきますね…!」


サリーさんは木刀を大きい布で包んで、そそくさと退場しようとした。

完全にヒョーゴのことを考慮した上での判断だった。


「……待て、」


そこに彼女を止める声がかかる。


「…え?えっと……」


「サリー、お前が必要だ。否定することは許さん。俺に剣を教えろ。」


「…っ!!!」


横暴な発言をしたことに優越感を得ているヒョーゴは、

サリーさんの顔が更に嬉しさで赤くなっていたことに気付くはずがない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「えっと…ですね!私が習ってた剣の流儀なんですけど…!」


ふむふむ


「私としては使い勝手が良いのですけど……実は……

この世界で最も嫌われている流儀なんです!!」


嫌われてるシリーズきたぁ!

『魔王が生みの親』呼ばわりの土魔法、に引き続き、

嫌われ流儀、

まあ、サリーさんが推してるんだし、俺も習いたいけど。


「構わん。続けろ」


「え!あ、はい!!!ちなみに『鬼咢羅夢音きがくらむね』っていう名前の流儀です!!」


きがく…?

ラムネ?

ラムネか…この世界に来て一回も食べてないなあ。

機会があれば食べたいけど無理だろうな。


「この流儀の特徴なんですけど、剣をノンストップで動かします!」


ノンストップ?

剣って普通は状況によって動かしたり止めたりするよね。

…とてもとても嫌な予感がするわ。


「基本の動作として…今振りますね」


サリーさんは説明を中断して剣を構える。

そして、剣を縦や横に振りまわした。


縦、横、縦、横

えー。

十字に振り回しているようにしか見えないんだけど…。

これをノンストップか。あれ?意外と大変なのでは?


「ヒョーゴさん!近くにもう一本、剣があるので拾ってください!」


サリーさんの目の先には、二本目の木刀らしきものが置いてあった。

どうやら、ヒョーゴに実践させたいみたいだ。


「では、手合わせお願いします!」


「…あぁ、分かった」


ヒョーゴがのっそりと剣を持って構える。


『鬼愕羅夢音』って強いのかなぁ?

剣を適当に振り回してるようにしか見えない。

嫌われている以前に流派としての機能を果たしていない気がする。


それほど、この剣術は面白おかしく見えた。


「…(ビュン)」


無言でヒョーゴは剣を振り下ろした。


キンッ!


すると呆気なくサリーさんに弾き返されてしまった。


まあ、ここまでは予想してる。

剣を握っている時間に相当さがあるもんね。

これはしょうがない。

重要なのはこれからよ!


ヒョーゴがこの剣術を目にして初めて気づいたこと、それは軌道が読める事だった。

この流儀の基本は、十字を描くように剣を動かし続けること。

だから剣が通った後、すぐにその場所を突けば、相手を貫通することができる。


ヒョーゴから見ればとても欠陥がある流儀であった。


よし!脇腹の部分を剣が通った後に合わせて、二回目の攻撃を打ち込みますか!


キンッ!


一回目の攻撃は防がれたことによって相手を油断させる。

そして二回目の攻撃は完全に、隙を伺ったものだった。


「……」


キンッッッ!!!!


しかしそんな自信がありげなヒョーゴの攻撃はことごとく防がれてしまった。

ヒョーゴ自身全く理解が追い付かない。


「そろそろ私からも反撃行きます!!」


ふいにサリーさんが声を上げた。

その直後、とんでもない速さでヒョーゴに剣が迫っていた。


「………!!」


ヒョーゴは紙一重でかわす。

しかしサリーさんは諦めることなく、流れるように二回目の攻撃をした。

それはヒョーゴの足に当たる。

サリーさん自身、あまり全力を出していない一撃だったが、ヒョーゴからしては結構鈍い痛みが残った。


「はあ?!」


思わず叫んでしまう。

そして三回目、何とかかわす。

しかしサリーさんはさらに加速した。

一回転したのち、四回目、五回目の攻撃を連続で当てる。


「(やっべ、これ死ぬかも!!)」


とにかくヒョーゴは防御に徹する。

そんな追い込まれている彼に息をつく暇もなく、サリーさんは六回目を……


「ここで終わりにしましょう。これ以上、怪我をさせてしまったら私が持ちません」


ふいに剣の流れが止まり、ヒョーゴからサリーさんは距離を置いた。


「……」


やべえ、

何だこの流儀。

攻撃の間隔が余りにも速すぎるんだが?!

現実的にこのスピードで相当重たい攻撃を繰り返すとか、頭沸いてるわ?!


ヒョーゴは内心、ビビり散らかしていた。


「これは『鬼愕羅夢音』の優れている点です。

剣の勢いを止めずに、流れるように自分を守り、流れるように攻撃する。

定型通りに相手を追い詰め、時には、定型を逸脱して相手を凌駕する

そのような要素を持ち合わせている流儀なのです!」


自信ありげにサリーさんは語っていた。

『鬼愕羅夢音』

それは、【定型】という名の百以上の技が合わさって出来ているもの。

例えば、相手が剣を振り下ろした時の対処する技

相手が右に避けた時に追撃する技、

相手が詠唱を始めた時の妨害する技。

これらが【定型】という技に当てはまる。


そしてこの流儀の特徴は、これらの技を全て繋げて行うのだ。

つまり、途方もない技の暗記量。

強靭な体、半端でない体力。

そして技を繋げる繊細な技術。


この三つを持ち合わせていなければなし得ない流儀であった。



…やばい流儀に出会った気がするわ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


投稿再開!

久しぶりで文章の作り方が変わった気がする。

誤字訂正、分かりにくい表現の報告を待ってます。



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