第19話 勇者パーティーの入り口に立ち。 2

昨日の光景が頭から離れない。

熱い吐息が耳にかかる感覚とか、あの弾力とか…。

…集中できねえ。


「ふう。邪心を追い払え…。悪役が浄化されることは駄目だ…」


ブツブツと唱えながら道を歩いた。


今日向かうべき場所はソイシー街っていう場所。

産業や技術などは遅れている街で、一次産業が盛んらしい。

街の住民も、生きることに精一杯な人が多い。

つまり、貧しい人々が集められた街ね。


そんな街にも立派な教会があった。

そこで毎年開かれる恒例行事、

『女神様の祝福』という儀式があるらしくて向かってる。


女神様って…あの女神さまか…?

俺は勝手にミュリエルさんを想像した。

俺に第二の人生を与えてくれた女神様であり、悪役を演じることを約束した女神さまでもある。


「……」


14歳の人間に向けた女神様からの贈り物。

それは将来、魔物の脅威から人々を守るために授けられる技。

称号で『農業家』とかも普通にあるらしい。

これも人々の生活を支える重要な称号だもんなあ。


贈り物システムに感動していると、街の近辺まで到着したらしい。

目の前に広大な畑が見えてくる。

家と家との間隔は広く、ロイロ・クラシにいた時の雑多な足音も聞こえない。

のどかな街だな…。

さて、今日の俺の目的地あるかな?

ヒョーゴはもっと奥の光景を見ようと目を細めてみる。


…あった。

自然が溢れている中で、ひと際目立つ人工物!

これが教会か…。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここが女神様からの祝福を受ける神聖なる場所でありますうえ、無礼な行為は許されません」


牧師は静かにそう告げた。

教会の中はとても広くて、天井が高い。

そして、大きなステンドグラスにはこの世界の女神様が描かれている。

近くの大きな銅像もミュリエル様である。


「それでは、こちらにお座りください」


案内されたのは長椅子だ。

その数は百を超えるだろう。

ヒョーゴは座った。


ここは教会。

いままさに『女神様の祝福』が始まろうとしている。

ヒョーゴは受付の人に嫌な顔をされながらも、出席できた。


「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより『女神様の祝福』を行います。まずは――」


牧師の説明が始まった。

…。

教会は広いけれど、人は数えるほどしかいない。

おそらく、この教会で働いている人たちだろう。


「――というわけです。わかりましたか?」


「…」


うーん。わからん。でも言いたいことは分った。

つまり、この世界には勇者は一人しか存在しない。

一人しか存在しないのだ。


ではどうして勇者パーティーが出来上がるか?

それは各地域の強い者たちが集まる集団のことを勇者含めて勇者パーティーと表す。

…つまり、勇者パーティーに勇者は一人しかいない。

それ以外のメンバーは実力で集められるってわけだ。


だから他の種族なども勇者パーティーに加入することはよくある事。

ここで不安になったことが一つ。


「俺って勇者じゃ無いよな…」


実は、一人勇者は確定しており俺は悪役。

別の教会で今頃勇者が発表されてるだろう。


そこで俺が『農業家』とか引いたら……どうなるんだろう? もしかしたらパーティーに入る資格も無いのでは……?

俺実力とか更々ないし…。

そんな考えが頭を過り、冷や汗が流れた。


もしそうなれば、勇者パーティーで悪役を演じることなんて夢のまた夢になってしまう。

それだけは避けなければ! だがどうやって証明すればいいのか分からない。

そもそも俺の称号は何になるんだろう?


「さぁ、始めましょう!」


説明が終わったようだ。

いよいよ始まるらしい。


「祭壇の前に立ち、目を閉じてください」


一人、また一人と祭壇の前に立っては手を合わせていた。

そして、俺の番になる…。

周囲からは俺を馬鹿にするような声も聞こえるんだよなあ。

ここでも嫌われてるのか!

好都合だけど…。


「さあ、目を閉じてください」

言われた通りに目を閉じる。

すると瞼の裏に文字が現れた。


えーと、俺の称号は…。

…?

これはどういうことだ?


「あなたの称号を教えてくれませんか?」


牧師は俺に問いかけてきた。

ちょっと待ってくれ。手違いかも、まさか俺が成るはずはない!


「これは…祝福を失敗したわ。もう一度できるか?」

「それはできません、ヒョーゴさん。あなたの称号を教えてくれませんか?」


駄目じゃん!!この称号を大声で叫べるわけないよ!

誰か…俺の称号を間違いだと言ってくれ!


「称号を貰いたての頃は、腕にその名前が刻まれています。確認しましょう」


次の人が待っているので長居はできない。

牧師は少し苛立ったように俺の袖をめくった。


……。

そこには『勇者のススメ』の文字があった。


「勇者!?ヒョーゴさんが……勇者?」


牧師は大きく開かれた目で俺の腕を何度も確認する。


「おい!牧師さん!何言ってやがる!!」


周囲の人々から怒りの声が上がる。

そーだ、そーだ(棒)

俺は悪役なんだよ!勇者なんてやってられっかー!

これは女神様の凡ミスだろう。


早く称号を変えてもらわなくては…。


「こいつ偽物だぞ!教会から出て行け!!」


一人の男が叫ぶと同時に周りの男たちも叫び始めた。


「そうだ!出ていけ!」

「お前みたいな奴がいると迷惑なんだ!」

「消えろ!」


男どもは口々に出ていけだの、消えろだの、喚き散らした。


まあしょうがない。こんな悪役が勇者とか世界の終わりよ。

世紀末よ。

人々が偽物だと言い張り、牧師が女神様の銅像に必死に答えを求めている。

まさに混沌としてるね。


リン、


…?

不意に鈴の音が鳴った。


リン、リン、リン、


これは幻聴か?

なんか嫌な感じがする。

ヒョーゴは鈴の音色に怪訝そうに顔を顰めた。


「鈴の音…。もしや、これは、女神ミュリエル様が左手に持っている鈴!」


牧師は勝手に叫んだ。

いや、それ女神さま関係ないよね? ただの偶然だと思うけど……。

ヒョーゴはミュリエルの銅像を見る。

…あぁ、確かに鈴持ってるわ。


右手には砕けた鎖を持ち、左手には派手な鈴を空に向かって翳している。

牧師の言葉を聞いた周りの人々は、一瞬静まり返ったがすぐに騒ぎ始める。


「本物か?」

「まさか、あり得ないだろう?」

「でも、あれは……」

「でも、でも……」

「でも、でも、でも……」


皆、疑いながらも、目の前に現れた現実を受け入れようとしていた。

そんな中、ヒョーゴは冷静だった。


とんでもないことに巻き込まれたわ。

きっとあの人が原因だろうけどね!!


俺は世界二人目の『勇者』になった。

きっと、一人目の勇者は無事に祝われているだろう。

問題はない。

問題があるのは俺の方だ!


「貴方が二人目の勇者、ヒョーゴ、ですね。おめでとうございます」


不意に上空からミュリエルさんの声が聞こえた。

…やっぱ、想像した通り。

段々と姿が見えはじめ、ミュリエル様の端麗な顔がハッキリと分かるようになる。

来ている服も銅像やガラス窓のモデルに完全再現されており、神々しいオーラさえ纏っていた。


「はあ」


「お礼など不要です。女神として当然のことです」


「迷惑しかかけてないんだが?!」


この女神様…、台本通りにセリフを吐いているのか!

会話がかみ合わない。


「では、祝福を与えます」


「……」


「ヒョーゴ、貴殿には『勇者のススメ』を贈ります。世界の為に努力を欠かさず、日々の鍛錬を忘れないでくださいね?」


これまでの『女神様の祝福』に女神様本人が現れたことはない。

つまり、この瞬間、女神様が俺に話しかけている姿は異様。


「女神様…!」

「なんで、ヒョーゴみたいな奴に!!」

「ミュリエル様ぁ!!!」


後ろの席からヒョーゴを羨ましがる声が聞こえた。

やっぱ、後ろの人たちにも見えているよね…。


「これからの活躍を応援しています」


最後にミュリエルは女神様スマイルを俺に見せつけた。

ちょっとぐらいは手加減してほしかった…。

流石に俺を勇者パーティーに引きずり込むのが目的だとしても大袈裟すぎっす。



作者より

・あー眠い。

夜の遅い時間に書いたコメントには「早く寝なさーい」が付きます。

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