第18話 勇者パーティーの入り口に立ち。1(導入すぎて題名詐欺)

チュンチュン、


小鳥がきれいな旋律を奏でる。

そんな早朝に教会の牧師は壇を掃除していた。

壇の周囲は白い花で飾られており、とても景色が美しい。


「…今年もこの時期が来ましたなあ」


牧師は目を細めながら独り言を言う。


教会。

それは14歳になった人が女神様から祝福を受ける場所である。

女神様とは一般的に、魔物が荒らす世界を救いに導く存在。

名前はミュリエル様。

つまり、人間族においての崇めるべき象徴のことだ。


その女神様が、この時期になると14歳の人間に祝福を渡す。

祝福とは魔物に対抗する技であり、

それを受け取る儀式を『女神の祝福』と呼んだ。


「今年はこの町から勇者様は出るのですかな?」


続けて牧師はこうも呟いた。

実は『女神の祝福』により、勇者という存在を確認できるのだ。

女神様によって『勇者のススメ』という称号を人に与えられた場合、

与えられた人は身分が平民でも奴隷でさえも勇者として丁重に扱われる。


つまり勇者と認定されただけで人生は勝ち組の軌道に乗る。

毎月、王家から贈られる膨大な財産と

下手な貴族は寄せ付けない地位。

勇者が決まり次第、魔王討伐に向けて軍指揮官は有っても無いような扱いを受ける。

なぜなのか?

それは国の軍の所有権でさえ勇者パーティーに半分以上、渡される。


それだけ女神様の認めた『勇者のススメ』は価値がある。


「今年も期待するのぉ…」


牧師は朝日の反射をガラス窓越しに眺める。

…。

ここはロイロ・クラシの繁華街とは違い、少し離れた場所にある廃れた街だった。

ソイシー街、そう呼ばれている。

ここには一次産業しか主に発達しておらず、経済の流れがとても遅い。

しかし、捨ててもいい街では決してない。

なぜならば繁華街ロイロ・クラシより人が多く住んでいるからだ。

しかしそんな街にも思い入れを持っている人物はいる。


貧乏人しか住むことの無い街だが、この街の住民も平等な価値があると


「この街が発展することを願って…」


それが牧師だった。

牧師は最後にミュリエル様の像に手を合わせた。

勇者様が現れますように…と。

今年、14歳になった者が女神様から祝福を受ける『女神の祝福』の儀式は

明日から始まる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


どうも、ヒョーゴです。

なんかサリーさんから聞いたけど、

明日ソイシー街に行って、女神様から祝福を頂くらしい。

女神からの祝福?あー異世界転生よくあるギフトみたいなものか!


貴族に転生、無能だったら速攻で追放されちゃう。…って感じのね。

えー、俺どうしよう。

サリーさんに聞いた感じ、スキルじゃなくて称号をもらうらしい。

『農業家』とか『上位戦士』とか。


俺は勇者パーティーに入る予定だけど、俺自身は勇者じゃ無いんだよな。

悪役だし。

これってどうやって勇者パーティーに加入できるんだろ?

成り行きが分からない!シナリオくれ。


「ミュリエル様と繋がることができる人生一度きりのチャンスです!

ヒョーゴさん、勇者になれるよう頑張ってください!」


うん…。頑張る…。

適度にね。

最近、サリーさんからの期待が大きすぎる件について。

勇者になれって大層なこと言うね。

てか、悪と勇者は鏡の関係。

俺が悪役であること忘れてないですか?


舐められて…いるのか?

それは駄目だ!何としてでも好感度を下げなければ!

悪役の威厳を保つことも日々の仕事。

自分の直感は?…悪役を演じるべき。


実行!


…よし、考え付いた。

サリーさんの襟首をつかんで威嚇しよう!

されたら怖いよね。嫌いになっちゃうよね。

不良と一般人とのカツアゲでよく見る奴。


嫌われて今後一切話しかけられることも無くなる気もするが…

原因不明の期待度上昇は良くない。

対処法が分からないのが一番困る。


いつのまにか悪役がサリーさんに浄化されそう。

これは、緊急処置ということで。


俺はサリーさんに近づいて行った。

さて、どんな感じに襟首掴もうかな?

俺、喧嘩したことないから分からないけど多分、こんな感じ?


「サリー、お前は…」


不格好に彼女の襟首を指で挟む。

そして、威嚇を始めようとした…。


ガツッ


しかし、途中でヒョーゴは足が地面で突っかかってしまった。

原因は土魔法練習によって出来上がった盛り上がりによるもの。

まさに自業自得だ。


ちょっと待って!体制崩れちゃう!

これ地面に強打するかも…!!


手はサリーさんを掴むために使っていたので頭を守るすべがない。

ヒョーゴはサリーさんを驚かせようとした途中で、ボケをかましてしまったのだ。


固い地面に顔面をぶつける姿勢に入ってしまった。

サリーさんを掴んでいた手もするりと抜けてしまい…

そして勢いを失わないまま体が崩れ落ちてしまう。


これ痛いやつ、無念。


目を瞑って、

ヒョーゴは地面に顔面を強打することを覚悟した。

明日までに痛みが引いてるといいな…。


「…」


…数秒経つ。

しかし、いくらたっても痛みがやってこない。


あれ?痛くない?『痛み耐性』をゲットした的な…?

ヒョーゴは自分で勝手に状況を解釈しようとする。

頭から落ちたのに、痛くない?

固くない?てか、柔らいのでは?


ヒョーゴは次第に五感を十分に活用できるようになる。

うん、柔らかい。

温かい。

なんか…花のいい匂い?

視界は真っ暗で…。


これまで感じたことの無い感触に混乱する。


「…ヒョーゴさん?えっと、これはワザとですか?」


上ずった声が聞こえる。

この声はサリーさん?

ヒョーゴは思ったより近くに聞こえたサリーさんの声に反応した。


「なん…だこ…れ…」


喋ろうとするけどモゴモゴとして口がうまく動かない。

頑張って動かそうとするが…、


「ひゃ、ちょっと!ひょーごさん!だめ!」


サリーさんが慌てた様子を見せる。

その度に視界に移る、二つの何かが大きく揺れた。


…まさか?

ヒョーゴは察した。

目の前の正体ってサリーさんの…?

ヒョーゴが顔を埋めている正体はサリーさんの大きな胸だった。


は?はあ?!

好感度下げるどころか犯罪じゃん!

これは謝らないとサリーさん激怒だぞ?!


状況を正しく把握したヒョーゴは焦りながら思考を張り巡らす。


「ごめんな!今のは…」


思いついたらすぐさま行動。

ヒョーゴは謝ろうと首を上げた。

そしてサリーさんの顔を伺った…。


真っ赤じゃん。顔真っ赤だ。

これは相当、怒っているのでは?


ヒョーゴはサリーさんにぶん殴られている自分を想像して鳥肌が立つ。

多分、今日が命日だと勘付いた。


悪役と言えど限度がある。

これは速攻で謝って、そして…!


ヒョーゴは言い訳の言葉と共に謝ろうとした。

少しでもサリーさんの期限をとろうとした行動だった。

…しかし、


そのヒョーゴの口は何かに押さえつけられた。

とても息継ぎしづらい。


…え?俺を窒息させんの?

ごめんねって!まじで許してくれ…へ?


パニック状態に陥っていたヒョーゴにサリーさんから言葉が投げかけられる。


「…やっと、素直になってくれたんですね」


サリーさんは感動するようにボソボソと言葉にした。

そのせいで甘い吐息がヒョーゴの耳にかかる。


…素直?なんのことか…。


そこでヒョーゴはまた自分の顔が胸に埋もれていることに気付いた。

これはサリーさんの手で半強制的に押さえつけられていた。

…さっきより一段と花の香りが強くなった気がする。


「ヒョーゴさんはいつも私を追い越して、そして先で私を見守ってくれている。正直言って、守られているだけが悔しかったのです」


「…」


「だってズルいでしょ?私はヒョーゴさんに何も渡すものが無い。でもヒョーゴさんはいつも私に喜びを、いっぱいくれる」


…ゴーレムとヒョーゴさんの「仕事を取り合う」劇は最高でしたよ。

そっと耳打ちされる。

ヒョーゴはその淫らな声に脳を溶かされそうになる。


その頃には完全に悪役が浄化されていた。


「そんな私は何も喜べることをさせてあげられなかった!…でも、これ、好きなんですよね?」


誤解です。そんな声も上げられない。

なんか事実を言われているような気もしたから。


「これからも私はいくらでもヒョーゴさんを抱擁しますよ。

…いや、来てくれないと私が寂しいです」


サリーさんはさらに強く抱きしめた後に、ヒョーゴから離れる。

その時の笑っている顔に思わず惚けてしまった。


今日得た新しい事実。

悪役はサリーさんに通用しなくなった。









作者より

勇者パーティーの入り口…。

全く関係なかった。

誤字、分かりずらい表現の報告をお願いします。

推敲は頑張ってます(o^―^o)ニコ。

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