第20話 勇者パーティーの入り口に立ち。 3

「ミュリエル…ちょっといいか?」


「…?どうしたんですか?」


どうしたんですか…じゃねえよ!

何好き勝手に俺を勇者にしてるんだ!

普通悪役が勇者とか馬鹿げているだろ~!


「あ!豹豪さんに『勇者』について説明してませんでしたね!」


…前世の名前で呼ばれるのは困る。


ミュリエル様は手を合わせるとにっこり微笑む。

初めて会った時とまた雰囲気が変わって見えた。

ゆったりしている気がする。


「そうだよ…。これから俺どうするの?」


俺は率直に質問した。


「…説明したい気はあるんですけど……」


女神様は周囲を見渡しながらそう答える。


勿論周囲には人々の嫉妬の目だ。

なんでこんな価値のない奴と女神様が話してるんだよ…。

そう言いたげな目をしていた。


一方、女神様はとても困っている様子であった。

困っている要因とはヒョーゴと意思疎通が難しい事。

祭ってた女神様が現れるとか…そりゃ、皆驚くだろう。


女神様は人差し指を頬に置きながら考えている。

その仕草にも正のオーラが漏れ出ているため、彼女の行動は全て神秘的だった。

…女神って生きてるだけで得なんだなあ。

俺は全く関係の無い事を考えていた。

その時、


「それだったら…こうしましょう!豹豪さん、一旦こっちに来てください!」


女神様は顔を上げてヒョーゴに手を差し出す。


こっち?どっち?

意味不明な女神様の言葉にヒョーゴは戸惑う。

一体女神様は何を思いついたのだ?

ここら一帯は安心して説明できる場所が無いと思うんだが?


「一緒に精神世界に行きましょう。あの時と同じように…」


女神様はヒョーゴの困惑している表情に気付く。

そして、説明を補足した。

精神世界…か。

どうやら、ブータ貴族に絡まれていた時に俺が無理やり引きずり込まれた場所ね。

昔のヒョーゴと会ったよなあ。

あいつはマジの悪役だった。


「あぁ、分かった。精神世界に行こう」


別にいいけどさ。

俺だって女神様と話をしたい。

この世界の事を知らなさ過ぎて…シナリオもらえないかな。


「では豹豪さん、手を重ねて…」


女神様は平然とした様子で俺に言った。

そうか、女神様が手を突き出してた理由って手を合わせる為か…。

どうやら、精神世界に向かうためには体に触れることが必要みたいだ。


「これでいいか?」


俺は手を重ねる。


「ちっ」

「ミュリエル様…!!」

「女神様の手に触れるだと…?!」

「うらやまっ………、けしからん!!」


背後から大勢の非難の声が聞こえます。

羨ましいと聞こえた気がする…気のせいか。


女神様の手に触れる事って重要な問題なの?

スベスベで柔らかくて、温もりがあって、…。

たしかに大罪だわ。


女神様は俺が手を重ねたのを確認する。


「では、精神世界へ!」


そう言った後に女神様はオーラを全開に出して、力を放ち始める。

その姿はまさしく女神。

誰もがその瞬間に目を奪われた。

…ヒョーゴ以外。


わっ!手を握ってきた?

指先が地味に冷たくて驚いたわ…。

あれ?女神様?

めっちゃ手が痛いんだけど…。

強く握りすぎ!

やべー。だんだん力強くなってないですか?!


オーラが強くなり、ヒョーゴと女神様が隠れ始めていた時、

ヒョーゴは女神様の握力に悶えていた。

最初の方は女神様のひんやりした指先が触れ、ヒョーゴはビクッと震えるだけで済んだが、

だんだん力が強くなってゆくにつれ、ヒョーゴは痛みのあまり視線が泳ぎ始めていた。


…もう、精神世界には行きたくないわ。


ヒョーゴは後悔を胸に、三度目の精神世界に旅立っていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


頭痛がひどい、ここはどこだ?

感覚がまだフワフワしている。


「…はよ…ざい…す…」


頭の中で声が反響してるな、

でも、分からない、頭痛ですべての感覚がマヒしているみたいで…


「ゴッズ・ヒール」


透き通った声で僕に向かって何かを叫ぶ、

目の前で淡い光が僕を包んで…

とたんに意識が戻ってくる。


「おはようございます。」


仰向けに倒れている僕、

その状態で声の主は覆いかぶさるように顔を近づけた。


「ふぁ!!」


急な展開に僕は目を白黒させる。

はっきり視界にとらえたのは銀髪のとびっきりの美少女だった。

なんか金色のオーラもまとってるし…。


「誰…なん…だ?あのとびっきりの…美少女は…」


「…ふぇ!!美少女…ですか!!えっと…、期待を裏切って申し訳ないのですが、

私はミュリエルです」


目の前にいたのはアタフタと慌てているミュリエル様。

とびっきりの美少女とか言っちゃったし。

絶世の美少女だけどさ。

…てか、精神世界に行くたびにヒール魔法をかけられるって地味に怖い。

世界超えるたびに僕って死にかけてるの?


「…ここは、精神世界ですか…?」


「はい、その通りです。豹豪さん。やはり精神世界では豹豪さんは敬語なのですね。素が変わってなくて面白いです」


目の前ではさっきまで取り乱していた女神様が静かに笑っていた。

周囲は真っ白い空間。

ヒョーゴとミュリエル様の二人っきりの場所。

まさに精神世界、これで来たのは三度目か…。


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