第11話 悪役、街で暴れる 3

「あ? 殺すぞ?」

「舐めてるのはどっちだ?あん?」

「っち、」


はい、チンピラにケンカを売った悪役です。

止めとけばよかった。

めっちゃ怖い。

さっきはこの人達と距離があって、あまり迫力を感じなかった。


でも、近付いてみると凄いんだよね。

迫力が。

とにかく背が高い!

羨ましい限りだぜ!

まあ、俺自身もまだ成長期真っ只中だし身長の伸びには期待はできそう。


話を戻す。

迫力が凄い!

チンピラってバカにしてたイメージあるけど意外と怖かった。


「あぁ、ごちゃごちゃ、うるせえんだよ!」


ということで俺も威嚇タイム。

声を張り上げて相手をビビらせよう。

もしかしたら逃げてくれるかもしれない!


「煩いのはお前だ!二度と喋れない喉にされてえのか?え?」


はい、逆効果。

相手を興奮させてしまいました。

取り返しがつかない、あー今更か。


というか、チンピラの一人から何か嫌な予感がするんだが?

それ、攻撃姿勢だよね?

まさか…路上で本当に殴り合ったりとかしないよね?


「現実も知らない甘ちゃんめ、殴られる痛みをしれ」


と、チンピラAが言葉を吐き捨てた。

その瞬間、チンピラAの腕が猛烈な勢いで腕を振るう。

つまり、


あ、察した。

俺殴られるのか!

マジで短気かよ…。

とにかく腕で防いだりしないと!

多分めっちゃ攻撃が痛いけど直接体を殴られるのはマズい!


ゴズッ


鈍い音がして、ヒョーゴの腕にチンピラAの拳が当たる。

そして、とても重い音が周囲に響いた。

他のチンピラは残忍な笑みをこぼして、ヒョーゴの様子を見ていた。

そして、フードをかぶった者は唖然としていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


俺はなぜ戦っているのか?

なぜ喧嘩をしているのか?

自分でもよく分かってない。


俺自身を大事にするため?俺が罪をかぶるのが嫌だから?

なんか自分への当て付けな気がする。

もっと、自分は別の理由で戦っているような…。


あ、気付いちゃったわ。

俺は…、

…やっぱ言わない。

これは心の中でしまっておこう!


俺は悪なんだよ。だから自分の利益だけを考えなくてはいけない。

そう、自分の不利益な事をしたら矛盾してしまう。

なんて言ったって悪役のヒョーゴ様だからね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ドスッ


ぐわあ!

殴られてしまった!

これまで、人に殴られた事なんて無かったのに!


音めっちゃ響いたな。

腕を殴られて流石に動かすことはできな…。



「ハハハ!こいつ固まってやんの!」


「何されたかもコイツ、理解できてねえw」


「もっと殴ってやろうぜ!」


チンピラたちの声が聞こえる。

…。

あのさ…。

盛り上がってるところ悪いんだけど…。

このチンピラ達の攻撃、あんま痛くないんだけど。


めっちゃ腕に鈍い痛みが残る想像してたけど、まったく想定と違いました。

痛くないです。

腕めっちゃ元気に動かせるぜ!

あ~。チンピラなりの舐めプレイね。


まだ、こいつ等には奥の手があるんだ!(確信)

まさか、こんな五歳児レベルのパンチが本気なわけないよね?


「こいつ、まだ俺達のこと睨んでるぜ?」

「お前ら、右と左に行ってこいつを囲め、そのガキは縄ででも縛っておけ」

「「了解」」


そしてチンピラ達は指示通りに動く。

ははーん、俺を殴ったチンピラAが指示してるのね。

つまり、こいつが親分的な存在か!


親分=強い、みたいなイメージを持っている俺からすると、

親分は後回しで、下っ端から倒したいな。


戦力は削れるところから削りたい!

下っ端も、倒せるかわからないけど。


「ヒーロー気取っておいて、ダセーなこの野郎!」


下っ端チンピラBが俺に殴りにかかってくる。

見た感じ、とっても隙のある殴りだった。


よし、受け流してカウンター、入れるか!

あんまり、カウンターしたことないけど目眩まし程度でも活躍できれば充分!

さあ、受け流しぃ!


ヒョーゴは殴りかかってくる腕を叩くような動作で受け流そうとする。


「…!」


…チンピラたちの目の色が変わったような?

まあ、俺のことを嘲ているのだろう。

傍から見れば俺の受け流しなんて不格好でダサい技に見える。


「オラァ!」


全力の受け流し!

軽快な音とともに相手の腕に俺の拳から肘の部分が叩き込まれる。

コイツは、攻めと受け両方に対応していて使いやすい。


お!しかもマグレで顎にも当たったわ!

少し緊張して的がズレたのか。

ラッキー。

相手痛いはず!


「う…。」


チンピラBはうめき声を漏らす。

これは、技が決まった証拠だ!

さあ、気を抜かずにカウンターだ!

倒せなくともこれで削ってやる!


「カウン……」


俺は準備していたカウンターを放とうとする。

しかし、何か違和感に気付いた。

…。


「は?」


そう、相手が少しも受け身を取る姿勢を見せないのだ。

無言で立ったまま地面を見つめていた。

なんだ?これも舐めプレイか?


俺は、奴が余裕に見えため、距離を取った。

やはり何か奥の手が!?


「…ぁぁ…」


その瞬間、受け流しをされたチンピラが崩れ落ちるように倒れた。

そう、意識を完全に失っていた。


…。

そっか…。まあ、下っ端だもんな。

弱くて当然。

注意すべきは親分だ!


「アイツ…何をしたんだ!?」

「少し腕が動いてるように見てたんすけど…」


なんかチンピラ達が会話している。

まさか!もう、俺を殺す策でも考えついたのか!?

これは、気が抜けないな。


「仲間を殺した恨みぃ!!」


下っ端チンピラCが殴りにかかってくる。

コイツも動作が全く洗練されていない。

雑魚なのか…。


「殺してねえし。黙ってろ」


「ひぶぅ!?」


チンピラCの容赦なく顎を飛ばす。

すると、コイツも同じ様に白目を剥いて倒れた。

ふう、静かになった。


「お、お前。ヒョーゴなのかよ?!」


親分は俺に訪ねてくる。

いや、ヒョーゴですが?

もしや、前のヒョーゴの劣等版なんて言ってくるのか?


「今、それが問題ではない。俺を舐めてきたことが問題だろ?」


悪役信条、一条、抜粋!

てか、初め手を出したのはそっちや。


もう、帰ってくれ。

下っ端の体調を気遣ってやるのが親分じゃないのか?

とにかくここは和解で…。


「和解を…」


「化け物!!っち!俺の仲間を傷つけやがってよお!」


話を聞いてくれ。

お願いだから、会話しようよ。

俺、親分には多分勝てねえよ。


「仲間を殺した恨みぃ!!」


いや、お前もかい。

同じセリフ言ってるやん。

あー。もう!最悪。

喧嘩して勝てるわけないっての!


そんな弱気の俺にさらなる災難が襲ってくる。

そう、相手はナイフを所持していたのだ。

あれ?意外と刃が長いぞ?

銃刀法違反だ!

この世界には銃刀法なんて無いと思うけど。


そもそも法律の概念を人々が有しているのかも怪しい。

…って、そんな事を考えている暇は無い!


推定、強いチンピラ。

ナイフ持ち。

会話が通じない。


会話が通じない時点で和平はあり得ない。

ナイフは刺さったら終了。


異世界の喧嘩って怖っ!!


「肘落とし!」


ナイフを避けて腕に腕を重ねる。

なけなしの技。

これに、賭ける!

喧嘩がここまで発展するとは思わなかった。

ナイフは強すぎる!


「銃刀法違反だ!バカ野郎!」


俺はビビりながらも技をしっかり当てた。

我ながらにこの技が上達したと思う。


ドシーン、という音が周りに響く。

それは親分が殴ったときの音よりも、随分大きく裏路地の隅から隅まで響き渡るようなものだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…それで、ヒョーゴ君はアイツらを倒したわけか?」


「…」


「二人は顎の骨にヒビが入っていた。

しかも、一人のやつは全身骨折。丁度、ハイポーションを用意していたから最悪の事態にはならなかったが…」


「…」


「今回だけは正当な防衛として認めてやる。

こっちの方からギルドに誤っておくからな。

次回から暴れるなよ。」


町の交番的なところに居ます。

どうも、悪役です。

強そうなおじさんに事情聴取されています。


いやあ、弱かったね。

チンピラ達。

ただの強がりだったのかな?


「…まさかヒョーゴのやつ、ギルド問題になっていた三人衆を軽くなぎ倒すとは…。」


このおじさんの呟きはヒョーゴに届くことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る