上からの景色と下からの景色
RERITO
上からの景色と下からの景色
その日は、少し早い会社からの帰宅、通勤ラッシュがない時間帯に被ることのない久しぶりの帰宅だった。疲れている時は、周りが気にならなくなる...手に持っているカバンが、重たく感じられ早く寝たいと、まだ寝ちゃダメだ。という葛藤で目を擦りながらフラフラと歩いていた。
家の前に着き、手探りでポケットの中の鍵を探しだす。
「あー、ここじゃなかったか...」
家の前に来たのに中々鍵が、見当たらなくて苛立ちがつのる。
くそっ...いつもは、左ポケットの中に入れてるはずだ。
ポケットの中身をひっくり返しても見当たらないことを確認すると、はぁ、というため息を吐きながら、右ポケット、カバンの中と順番にありそうなところを探し出す。
カバンの奥の方に、光るものが見つかるとほっと息をつき鍵を開ける。
掃除をする時間すらない我が家は、少しだけホコリっぽいがそんなことは疲れている時ほど気にならないものだ。
玄関の前にカバンを落とすと、手頃にソファの上でふて寝する。
「はぁ....なんというか、俺なんのために生きてんだろうな」
眠り魔は、ふとした時にくる。
「いててて...なんか、肩痛いし...」
ソファで寝た後など、よくある体勢の悪さ故か起き上がった時に、変な痛みがあるな。
ぐっと起き上がり時計を眺める。
「7時....そんなに寝てなかったな」
寝る時の時刻など見ていなかったから、大体5時くらい寝たから2時間くらいか...
「二度寝するかぁ....」
さっきよりも大分体が軽くなったお陰で、少しだけ余裕ができた。
ソファから起き上がり、枕と布団を取り出して再びふて寝するが...
「眠れねぇな」
一度起きたらもはや、寝る気すら起きなかった...
はぁ...仕方ない、洗面器まで歩き軽く口をすすぐ。
歯ブラシももうこんなボロボロになってやがんのか、買い出しに行くっきゃないかぁ
「それに、髪...こんなに伸びていたか?時間感覚がマヒしてやがるな」
ボサボサになった髪を軽く伸ばしてから、再び寝ることもできないんだったら...外に行って、髪でも切ってくるか...
軽く支度を整えてから、近くの散髪屋を調べてそれとなく評価の高そうな場所にいく。
「へぇ...こんなところに新しい散髪屋ができたのか...」
確か、昔ながらの散髪屋があったような気がしたが、今ではすっかりブランドチックな新しい散髪屋に変わっていた。それに、いつのまに女性用に化粧、ウェーブなどもできるらしい...どっちもできる店でも高評価なんだな。
ふぅ...まぁ、行ってみるのも悪くないな。
俺は、店に入る前には軽く下見をする。どんな場所なのか...果たして来る人の年齢層はどれくらいなのか?というような感じだ。すぐに入るっていう手もあるだろうが...入ってからやっぱり辞めます。なんて言い難い。
と、着いたところで一人のおばあちゃんが女の人を連れて入るところだった。
「ちょっと!!こんな店だとは、思わなかったよ!!昔の店はどうなっちまったんだい!!」
「ちょっとおばあちゃん...店の前で騒いじゃダメだよ。」
「ふんっ!!出来たばかりのお店など信用できたもんじゃないよ!!」
「おばあちゃんが、この店がいいって言ったんでしょ?もう、駄々こねないでよ。恥ずかしいじゃない。」
どうやら、店の前で揉めているらしい...あんな入口で揉められたら、入ろうにも入れないなぁ...これは
そっと通り過ぎようとした時...
「どうしたんですか?なにかお困りごとでもありましたか?」
ポニーテールの女の人が、掛け合っていた。名札にサユと書かれている。
顔はよく見えないが...この声どこかで聞き覚えがあるような。
「す、すみません。うちのおばあちゃんが、変に騒ぎ出してしまったので」
「ふんっ!!あんたこの店で働いているのかい?」
「え...あぁ、そうですね。働き始めたばかりです。」
「この店の前に、あった店にいい腕をした美容師が居たはずなんだっ!!私はね。その人を目立てに来たんだよ。」
「そ、そうですか」
「話によると潰れたらしいじゃないか!!もうあの美容師さんに会えないのは悲しいねぇ...そう思うだろ?」
「は、はぁ....」
「わかっくれたなら、いいんだ。で、どこにいるのか?知らないかい?」
「え、いえ、私に言われましても...」
何だこのおばあちゃん...めんどくさいなっ!!潰れているんだから、いないだろう...迷惑クレーマーというやつか....
サユという店員さんもオロオロとしている。
あ、そうだ...なら...こうしたらどうだろうか...
俺は、ある思いつきからおばあちゃんに話しかけに行くことにした。
「あのぉ...おばあちゃん?」
「む?誰だいあんた?」
「俺は、通りすがりのサラリーマンですね。」
「通りすがりのサラリーマン...おばあちゃんこの人多分やばい人だよ」
「ふん!!なにか話に来たんだろう?」
怪訝そうな顔をしたおばあちゃんの保護者とでもいうべきだろうか...まぁ、通りすがりのサラリーマンとか聞かないよな。俺もとっさに出てきた言葉だけど...
「俺は、この店に凄腕の美容師さんがいると思うんだ」
「む?小僧のくせにいいよるねえ...私は、昔から美容師として腕を磨いている人に頼みたいんだよ!!」
「おばあちゃん...よく考えてみな?この店は、割と口コミが高かったんだ」
「ふむ?なんだい?口コミっていうのは」
「口コミっていうのは、みんなの意見が載ってるツールのことだよ」
「へぇ....」
少しだけを目を細めて、を見る。白がモチーフとなった店...
看板には髪を切るなら、カゲサンッ!!という字がデカデカと書かれている。
名前は、ちょっとあれが、中は、極々普通の店のようだ。
「この新しくできた店が、評価が高いねぇ....」
「サユさん!!なんで評価が高いんだい?」
「えっ!?!あぁ...うちは、基本的にお客様との関係性を大事にしています。そして、欲しいスタイルをいち早くキャッチした髪型と、昔ながらの髪型...手の届かない...痒いところまで丁寧に仕上げております。」
「とよ。ここまで、すぐに言えるんだ?どうだ?おばあちゃん、ここ以上の場所はなさそうだぜ?」
「ふんっ!!小僧に小娘がいいよるわいっ!!」
こ、小僧w俺もう立派な中年入りかけなんだがなぁ....小僧呼ばわりされるとは、思わなかった
「まぁ、及第点かね...まりね、来な!!この店に入ってみるよっ!!」
「えぇ...おばあちゃん...さっきまで、あんなに嫌がってたのに、通りすがりのサラリーマンなんかに...」
「うるさいねっ!!私は、ここに入るって決めたんだいっ!!」
「ちょっとぉ...」
おぉ、迷惑おばあちゃんが、髪を切りに行ったぞ....わ、我ながらいい仕事をした。思いつきっていうか、行き当たりばったりだったような気もしなくもないけど、なんとなくだがこのサユって人なら、答えてくれるはずだ。と思ったんだ。
「あ、あのぉ、ありがとうございました。助かりました。」
「いえいえ、お気になさらず...俺もここの店で髪切って貰おうと思ってたんだ。」
「つまり、あなたもお客さんってことですね!!」
「あ、あぁ」
明るいな...この人、少しだけ怖気づいてしまうが...今更変えるなんてのは、できない!行ったからには、入るぞ!
「いらっしゃい」
もう夜中あたりだというのに、まだやっているこの店...少しだけおばあちゃんがいたので時間が掛かってしまったが...よしとしようか...
「お客さんかぁ...この時間帯に二人も入ってくるたぁ、珍しいなぁ」
「あ、親方ぁ!!コッペパン買ってきましたか?」
「あぁ、買ったぞ?これが、サユの分で、こっちが俺の分なっ!!」
「あざーす!!」
ノリが変だな...この店は
「むっ...あんたもこの店に入ろうとしてたのかい?」
「あ、あぁ...そうなんだ。そこでおばあちゃん達が揉めてたもんだから」
「なるほどねぇまぁ悪いことしたね」
「いや、いいんだ。特に急いでたわけじゃない」
この店の営業時間は、8時頃まで...だったはず。今は、げっもう7時30分か。急いだ方がよかったか?
「あ、そうだ。親方ぁ」
「あぁ、どうした?」
「おばあちゃんの方は、親方がやってもらってもいいですか?年季が入った腕じゃないと嫌っていう話だったので...」
「ふぅん...おい、ばあばあ」
すぅ...この親方は、かなり歳をとっている。が、年齢的に見ると、おばあちゃんとどっこいどっこいかなぁそんな親方が、おばあちゃんに向かって...バアバァ!?!?いや、年齢とかそういう話に限らず、初対面から失礼すぎるだろ
「親方と言われてたね。なんだい?」
「いや、俺が受け持ってやるから、なにができても文句言うなよ」
「さぁ、どうかね。私は、腕だけ出みる女だよ?そんなのやり終わってからいいなっ!!」
「チッ...めんどくさい、ばあさんだ」
と言いながら、机の上に置いてあるいくつかのハサミやら道具やを手に取った。その手は、慣れた手つきだ...この親方できるというのを確信せざるを得ない。まぁ、見栄えは、だが...
「あ、お待たせしてすみません。あなたを担当するサユと申します。では、こちらへ」
「あ、はい。ありがとうございます。」
親方とおばあさんの話が目から離れられないのだが、そんなことより俺の髪も切って貰わないといけないしな。いつまでもグタグタしてたら、時間になってしまうだろうし
「パッと見てたんですけど、かなり伸びてますね。これ、いつ切ったんですか?」
「いやぁ...その、去年の頭くらいですかね」
「ワァオ、よくそこまで伸ばし続けましたね」
「多忙でしたので....」
ふーん...と髪を見つめて、なにかを考えているサユさん
「で、どんな髪型がいいんですか?」
「サッパリとした雰囲気がでてくれれば、それでいいのですけど...」
「じゃあ!!坊主ですねっ!!」
「おい、嘘だろ....」
待て待て、いきなり坊主にしたら、周りの人ドン引きだろ。
「じゃあ、軽く目元に入らない程度で前髪を切って、それに合わせて切って行く感じで?」
「あ、じゃあ、それで」
「了解しました〜」
そこから、おばあちゃんも俺もなにも言わない無言の空間ができた。ただひたすらチョキッチョキッという音が響く。
その空間か、心地いい性か少しだけ...眠む気がやってきて....
「お兄ちゃん!!凄いなぁ」
「よっと!!」
気軽いペースで、登り棒を上っていく。かなりの高さのある登り棒で、上まで登るのは、至難の業....のように見えるが、実際はそれなりにやり方さえ分かればすぐに登れちゃう。至ってシンプルな運動だ。
「おいおい。こんなのできないのかよ。サユは」
「えぇ...だって、私力ないもん...」
お気に入りの人形を抱えて、俺をしたから眺める。
サユもこの景色見てみればいいのに....軽く陸上を一望できるその遊具からの景色は最高だった。
そして、この景色を見ようとしないサユに少しだけ苛立ちも感じた。
俺だけがこの景色を見ても、面白みの欠片もないな
この上には、なにが見えるんだろう...そう感じた時から練習をした。初めは、バカみたいに全然上手くいかなくてズルズル滑っていくだけ...退屈だった。
だけど、いつの日にかこうしたら上手くいくんじゃねぇか?と感じた結果、それが上手く的中してこの登り棒を制覇した。
「すげぇ....これが、上の景色....」
そこから、何日も何日も登った...この景色を見ることだけが学校での楽しみだった。だけど、いつの日にか、その景色はありふれたものになった。
つまらない...そういう気持ちが芽生え初めた頃に現れたのが、このツインテールの少女サユだ。
ある日...いつものように見に来たサユ、そしていつものように見ているだけのサユにイライラした俺は、ついに怒りが頂点に達した。
「サユっ!!この景色は、絶対みた方がいいよっ!!」
「確かに、凄いと思うけどさぁ...でも、私には無理だって!!」
「こうすればいいんだって!!」
毎日、俺が登る姿だけ見ている。そんなの面白いわけない!!どうせ見るなら、この景色を見て欲しいそう思ったのだが....
「嫌だよっ!!私は、別に上りたいわけじゃないっ!!」
「じゃあ.じゃあ何が目的なんだよ!!」
「それは....言えない...」
「はぁ?言わないと分からないだろっ!!あの上の景色以上になにがいいんだよ」
「嫌だっ!!言わない!!」
「わけわかんねぇっ!!」
その時は、とにかくむしゃくしゃした。嫌だっ!!とか言わないっ!!とかの言ってばりだったから...
ふざけるなよ...なんでそんなよく分かんない理由で、がんばって登ろうとすらしないんだよ。あんなに憧れてるように見てくるのに、どうして...
「もうしらねえ!!」
「あぁ、お兄ちゃん!!どこに行くのっ!!」
「ふんっ!!」
そして、喧嘩をした...それから、よく分からないものが大嫌いになった。それが小学校の頃の未だに覚えている記憶だ。
あれから、どうなったのか...サユがどの学年だったかもわからない。
嫌になって登り棒に行かなくなってから、それっきりだった。
「お兄さん?お兄さん起きてくださーい!!」
「あっ...俺寝てたのか?」
「それは、もうぐっすり眠っていましたよ。」
「そうか....」
壁に掛かってる時計を見る時刻は、8時....既に、閉店時間のはずだ。
30分か...随分長い夢を見た気がしたのだが...
「もう、時間すぎてるじゃないですかっ!!はぁ...でもまだ髪洗ってないんですよね。寝ていらしたみたいですし...」
「すまないな...」
「はぁ...サービスですよ?ホントに」
「おうおうっ!!起きたかっ!!たくっ、髪切ってる途中て寝るたァ非常識な客だなぁ」
「全くですよ。とりあえず、髪洗い流していきますからね」
なんとなく、隣で髪を切っていたおばあちゃんを眺めっ...な、なんなんだっ!めっちゃ若返ってるじゃないかっ!!一気に30歳くらい若返って....もはや、誰だよ。なんとなく、ホクロの位置が一緒だから、分かるけど...誰だよっ!!お前っ
ふぁさぁ...とツヤツヤの髪を広げるおばあちゃん(?)
「親方と言ったね....やるじゃないか」
「ふんっ!!俺の手にかかれば、歳を若返られせることだって造作もねぇよ」
げ、幻聴だよな...都市伝説でも見てるのか?俺は...
「あっ!!もうっ、こっちに集中してくださいよっ!!お客さん!!」
「あぁ...すまん...」
軽くシャンプーを掛けてもらって、髪を洗ってもらう...あ、これは、気持ちがいいな...最高っだ。
そういえば、なんか後ろの方で、放心しているおばあちゃんの保護者の人が見えたけど、あんなの見せられたら、それはなぁ...
「よいしょっ、よいしょっ....」
なんか...可愛い声掛けをしながらって、ここ癒されるなぁ....
「できましたっ!!」
「えっ!?!めっちゃサラサラ....」
「うちの特性のシャンプーですから」
「は、はぁ...」
今まで気づかなかったけど、髪もすごいいい感じに揃えられていてスッキリされている。なぜか、雰囲気も変わったような気がする。
「あぁ...それと、ですね。髭とかもやっておきますよ?」
「あ、お願いします...」
軽く、暖かいタオルが目元にらかけられて、綺麗に整えられる...俺の髭、モジャモジャやったからなぁ....
「よしできたっ!!」
パッとタオルが離れたあとで、驚く...サユさんの顔が近くに見えた。
ポニーテールを外して、手でツインテールを作って俺を見ている。
「あのぉ、誰だか気づきませんか?」
「すぅ....さっきの夢で気づいたところだよ」
「夢で....ってことは、小学生の時の....」
「はい」
ボニーテールを再び作り直して、すぐに髪を乾かしにとりかかるサユ
「もうっ!!あれから、一度も来てくれないので辛かったんですからねっ!!」
「いやぁ....いつの間にか...すっかり忘れててだな」
「酷いです。私....忘れ去られてたんですね....」
「申し訳ないっ!!」
「いいですよ。あの時は、待てども全然来ませんでしたので寂しくなりましたが、今会えたので」
慣れた手つきで、髪を乾かしてくれるサユ.
いつの間にか...もうこんな歳になってたんだな....
「なんだい?あんたたち、知り合いだったのかい?」
「へぇ...あの引っ込み思案のサユに知り合いがいたたぁ、初めて聞いたなっ!!」
「なんですかぁ!?!それ、私に友達がいないみたいじゃないですかっ!!」
「いるのか?」
「いませんけど....」
「ちょっ...痛いっ!!ひっばるなっ!!俺に八つ当たりをするなっ!!」
「あ、すみません....つい....」
ついじゃねぇ....さらさらになった髪が、一瞬で傷んじゃうだろうがっ!!
それにしても、サユが髪切ってたとはなぁ...
「おばあちゃんっ!!この人酷いんですよ?いつも遊んでくれたのに、いきなり音信不通になって!!許せなくないですか?」
「遊びまくったあげくに捨てたのかい?とんだチャラ男だね!!真面目そうな見た目してるのに...許せないねぇ....」
「チャラ男じゃないですよっ!!おばあちゃんは、後ろの人をなんとかしてくださいよっ!」
「おばあちゃんが...若返った....おばあちゃんが...若返った....おばあちゃんが....」
はぁ、めんどくさいねぇ....といいながら、保護者?さんの顔をベチベチと叩いている。
「はぁ....サユ...変な冗談は、やめてくれ...」
「いいじゃないですかっ!!私は辛かったのですっ!!ぐすっ」
「あぁ、おい泣くなっ!!」
むしろ、小学生のことを覚えているサユがおかしくもあるのだが....ホントに...どんだけ昔のことを覚えているんだか
「ぐすっぐずっ....あの日....私は、言いたくなかったんです」
「え?」
「だからっ!!私は、あなたのことを!!」
「夜中なのに、熱いなぁ...お二人さんっ!!」
ちょっ、黙れ親方!!今いいところなんだっ!!空気よめっ!!
「あぁあぁ、熱くて堪らないよ....ほら、変えるよっ!!あぁ、お金の精算もしたいからねぇ!!おらっ!!親方だかなんだかしらないけど、オジサンもちょっかいかけないで、いくよっ!!」
「あぁ、サユぅ....俺の可愛い弟子がぁ....」
おばあちゃんの粋な計らいで、ここは、俺とサユだけになった....ただ、俺は髪切りたかっただけなんだけどなっ...赤く目を腫らしているサユを見つめる。
昔の面影が少しだけ見て取れる堂顔が、俺を見つめている。
「はぁ...ちょっとこうやってお膳立てされると照れくさくなってしまいます。」
「そうだな....」
沈黙....ガラスの向こう側には、夜空が光り輝いている....
歳だけ重ねているけど...この夜空だけは、変わらないんだな
「サユ....あの日、俺は登り棒から見る景色が全てだと思っていた。」
あの高い鉄棒の上から見下ろす景色こそが至高の....なによりも変え難いものだった。
「あの日、お前が見ていた景色は、なんだったんだ」
空から目を離して、サユを見つめる。
長い時間がかかってしまったが、今だから聞きたいこと...あの日には、聞けなかった遅れてしまった大事なこと
「私が、見ていた景色は
あなたですよ。ずっと憧れていたあなたの姿がなによりの最高の景色でした。」
今は目の前を隠す髪はない...普段から見ることがなかった人の顔を見ることができて...
辛かった日常が、昔の思い出と置き去りにした言葉を今蘇らせてくれて...
俺も、バカじゃない...あの頃の俺には分からなかっただろうけど
「好きだったんだな...俺が」
「はい」
でも、その言葉には答えたくない...あの日々に明日から戻る.
サユの顔は、耳まで赤くなっていた。
「私は、今あなたに会ったことが運命のようにも思えます。」
一言ずつ....
「私は、全く今まで出会いに恵まれませんでした...私は、あなたが好きだという気持ちが薄れたことは、ありません」
「でもっ!!それでも、俺は、歳をとった!!今からじゃ...もう」
「遅いと思いますか?私は、思いませんよ」
ダメだ....こんなに、いい人が俺のような辛い今の生活に連れ込んじゃ...ダメだ、あまりにも...あまりにも....
「俺は....無理だ」
「そう....ですか....」
漬け込んだみたいで....無理だ....
でも....
「この店は、いつやってるのかな?」
「うちですか?うちは、毎週土曜日と日曜日だけやってるみたいです。」
「なら、一週間に一度ここに訪れてみようかな」
ホントですかっ!?!といいいながら、手を取るサユ...はぁ....
「髪を整えないと、こんなにいい夜空が見えないだろ?」
「確かに、ここの夜空はピカイチですねっ!!」
視界は、広がった...下から見える景色も案外いいものかもしれないな....
あとがき
お読みくださりありがとうございました。
なろうの方にも掲載しているのですが、本人なので問題ないです。
(特に売れてるわけでもないですし...)
山神転生という長編小説を書いています。コメディよりの、転生ものです。興味があれば是非読みに来てくださいねw
上からの景色と下からの景色 RERITO @rerite
★で称える
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