第48話 ギャングのアジトに殴りこみ


「――なんで、私たちをさらったのよ!」


 電話を取ると、シャルのそんな声から始まった。

 恐らく、俺との通話状態は隠しているのだろう。

 車に乗せられているようなエンジン音が聞こえる。


「2人ともボスが好みそうな女だったからな! へっへっへっ」

「安心しな、ボスの好みに合わなければすぐに帰してやるぜ」


 そして、下っ端のような声も聞こえた。

 どうやら、誰かに捕まっているらしい。

 シャルがこんな失態をするとは……。

 と思ったが亜美と一緒だったなら仕方がないだろう。

 シャルが亜美を置いて一人で逃げるとも思えない。


「シャルちゃん、落ち着いて。とりあえず、ここは大人しく従おうよ」

「……亜美さんに手を出したら殺すわよ」

「おー、こえーこえー。へっへっへっ。安心しな俺たち『ベイビープレイ』は紳士だからよ」


 そして、電話口から『ベイビープレイ』の名を聞いて俺は堂島達に問い詰めた。


「おい、シャルたちが『ベイビープレイ』にさらわれたぞ!」

「あぁ、ボスは部下に女を連れてくるようによく命令するんだ」

「でも、大概の女は全員そのまま返されるぜ?」

「なんか、『基準』があるらしいんだ。よく分からねぇけどな」


 チッ、とりあえず電話口の様子を伺うか。

 こいつらの言うことが本当ならとりあえず2人は無事に帰ってくるはずだ。

 やがて、車が到着した音が聞こえる。

 シャルが身に着けている発信器を確認すると、港の廃倉庫だった。

 どうやらここがアジトらしい。


「ボス! 新しい女を連れてきました!」


 下っ端の声が聞こえると、その直後に亜美とシャルの悲鳴が聞こえた。


「キャア! 何よこの変態!」

「ちょっと、それ以上近づかないでよ!」


 『ベイビープレイ』のボス、赤坊あかぼう荻矢おぎやが現れたのだと一瞬で理解した。


「……だ」

「へ?」

「な、なによ……」


 赤坊は何かを呟く。


「完璧だ!」

「おぉ! ボス!」

「ついに見つかりましたか!?」


 そして、『ベイビープレイ』の一味がなにやら歓喜する声が聞こえた。


「高校生なのに小学生とも見間違えるようなあどけなさ! 小さい胸! 柔らかそうなお尻に、包容力のありそうな知的な佇まい! これだ! これこそが――」


 そして、赤坊の意味不明な歓喜の声が続く。

 この特徴はもしかしなくてもシャルの方を指しているだろう。


「君が俺の――ママだ!」

「……違うけど」


 シャルはバッサリと切り捨てる。

 そして、再度否定した。


「私は、お前のママじゃないよ」

「うるせぇ! お前が、ママになるんだよ!」

「ちょっと、シャルちゃんをどうするつもり!?」

「あ~、お前は帰ってよし。警察とか呼んだらこの子もお前も殺すけど」


 チッ!

 何か知らんが、シャルは帰れないらしい。

 助けに行くしかねぇか。


「ふざけないで! 私がシャルちゃんの代わりになるから、シャルちゃんは帰してあげてよ!」

「素晴らしい友情だ……だが、残念ながらお前はママじゃない」

「私も違うわよっ!」


 場所は分かった。

 シャルにはどうにか時間を稼いでもらって、その間に俺が駆け付けて2人とも救出する。


「――聞こえたぜ、助けを呼ぶ声が……」


 不意に、そんなことを呟くと鮫島が弾みをつけて跳び上がるように立ち上がった。


「イジメられてる女の子が居るな、そしてそれをかばおうとする女の子も」


(こいつ……どんなイカれた聴力してやがる……)


 マジでこの距離で電話口の声が聞こえていたらしい。

 いや、それよりももう回復したのかこいつ……。


「待ってろ、女子ガールたちよ! マンホールを戻したらすぐに助けに行くぞ!」


 そう言って、マンホールの蓋を持って元気よく駆け出した。


「バケモンかよ、あいつ……」


 フィジカルだけで言えば指折りの存在だ。

 ただ、方向音痴な上に場所も知らないあいつがアジトにたどり着くことはないだろうが……。


「しゃーねぇ、俺もさっさと助けに行くか」


 『ベイビープレイ』のアジトの港の倉庫に向けて、俺は走り出した。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

 次回の投稿が少し遅れてしまいそうです……すみません!

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