第44話 不良たちとの闘いで無双する


「で? その鮫島さめじまってやつは空飛べるのか? 頭が三つあるのか? それともハリケーンに乗ってやってくるのか?」

「へっへっへっ、鮫島さんはあまりの喧嘩の強さから『戦闘サイボーグ』って呼ばれてるんだぜ? てめぇなんか一瞬でミンチだ」

「サイボーグ化してるタイプか……」


 その種類のサメもきっとすでに出ていることだろう。

 俺は飽き飽きした様子でため息を吐く。


「とりあえず、山城は帰してやれよ。俺はもう来たんだから捕まえてても意味ねーだろ」

「へへっ、そうはいかねーな。前々からこいつは口出ししてきてウザかったんだよ」

「そうそう。顔は可愛いくせにガードは固てぇしよ~」

「伏見、お前もこいつには恨みがあるし別に良いよな? どうなってもよ」

「――キャッ!?」


 堂島の舎弟たちは押さえつけた山城のワイシャツの胸元を乱暴に剝ぎ取った。

 チッ、このエロザル共め。


「あぁ、山城には随分と辛酸を舐めさせられたからな。お前らの好きにしろよ」


 俺がそう言うと、山城は暗い顔でうつむく。


「――だが、靴紐くつひもくらいは結んだ方がいいぜ?」

「うん?」


 単純な手に引っかかり、舎弟たちは自分たちの足元に視線を落とした。

 その隙に俺は疾走して山城を押さえている舎弟達の顔面に一発ずつジャブを入れる。


「ウッ!?」

「グハッ!?」

「な、なんっ……!?」


 ――ドサリという音を立てて3人が同時に倒れる。

 今朝の恐怖がフラッシュバックしたのか、それともまだ自分が何をされたのかすら分かっていないのか。

 倒れた堂島の舎弟たちはうろたえた様子で這うように俺から離れていった。


「――ったく、しょうがねぇ糞ガキどもだな。ほら、立てるか?」


 俺は解放された山城を片腕に抱えていた。

 山城は驚いた表情で俺を見る。


「ど、どうして助けてくれたの……? だって、私のせいで伏見は……」

「俺はイジメられてる亀だろうが、罠にかかった鶴だろうが助けることにしてんだ。とりあえず、これでも羽織ってろ」


 山城を立たせると、俺は上着を脱いで肩にかけてやった。

 これで胸元は隠せるだろ。


 俺はたじろぐ堂島にため息を吐く。


「また先手を取らせてくれるとでも思ったか? 悪ぃが、喧嘩はターン制バトルじゃねぇんだ。メカシャーク(鮫島)が来ねぇならこのまま全員ぶっ倒しちまうが?」

「く、くそっ! 鮫島先輩、早く来てくれ! ていうか、何でまだ来ないんだあの人!?」


 俺がポキポキと拳を鳴らすと、堂島とその舎弟たちは震え上がる。


「お前が俺(伏見甚太)から奪い取った200万……とその他諸々で300万604円。きっちり返してもらうからな」

「暴利すぎる」

「604円はどっからきたんだ」

「もうどっちが正義か分からねぇよ……」


 ――その瞬間、俺を目掛けて円盤状の何かが横から飛んできた。

 俺は軽く後方に跳びながら足を振り上げると、かかとで打ち落として対処する。


(チッ、重てぇな……)


 飛んできたのはマンホールの蓋だった。

 ガランガランと大きな音を立ててその場に落ちる。


「どうやら間に合ったみたいだな」


 マンホールの蓋が飛んできた方向を見ると、体格の良い男がいた。

 シャツの下からでも分かるくらいの筋肉の張り。

 耳には鮫の形をしたピアスを着けている。

 こいつが鮫島で間違いないだろう。

 堂島たちは救世主でも見るような瞳で涙を流す。


「鮫島先輩! 遅いですよっ!」

「ちょっとだけ、道を間違えちまってな」

「どんな間違え方したらマンホールの蓋が飛んでくるんだ……」

「屋上どころか地下に迷い込んでるじゃねぇか……」


 どうやら極度の方向音痴らしい鮫島は俺を見て鼻で笑う。


「なんだぁ? 堂島たちをまとめて倒したっていうからどんなイカツイ奴が来るかと思ったが、どこにでも居そうなヒョロヒョロのガキじゃねぇか。こんな奴にやられたのかよ?」


 鮫島はそう言って、首をコキコキと鳴らしながら近づいてきた。

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