第43話 B級映画にサメは必要か?
堂島からの呼び出しメッセージが表示されたスマホ画面をシャルに見せる。
「流石はシャルだな。堂島の脳をハッキングして操るなんて、これで誘い出す手間が省けた」
俺が冗談を言うと、シャルはため息を吐く。
「期待させて悪いけれど、私がハッキングする為にはある程度の本体スペックが必要なの。堂島じゃCPUもメモリも脆弱過ぎて無理ね。龍二ならいつでも操れるわよ?」
「……そいつぁ、光栄だな」
確かに今の童貞思考入り混じった伏見の身体だと簡単に手玉に取られそうだ。
そんなことは絶対にシャルに悟られてはならない。
なんて考えながら、俺はスクールバッグを背負う。
「シャルも来るか?」
「ちゃんとポップコーンとコーラは用意してあるのかしら?」
「残念ながらこれから屋上で見れるのはB級映画のショートフィルムだ。そんな気の利いた用意はないな」
軽口を飛ばしていると、シャルのスマホがメッセージを受け取った。
「あら、残念。亜美さんからお呼ばれしちゃった」
残念な気持ちなど微塵も感じられない笑顔でシャルは得意げにスマホの画面を見せつけてくる。
文字数よりもハートマークとキスマークの方が多い文章で亜美から放課後のお誘いを受けていた。
「俺は堂島でシャルは亜美と……か。世界って不平等だな」
「誇っていいわ。少なくともこの場所は貴方が救った世界だから」
「やっぱり、特進クラスでも随分と可愛がられたのか?」
「えぇ、文化の違いって大変ね。日本だと『フランス人の女の子が転入してきた場合は、同性なら抱きしめたらお互いに幸せになれる』って教えてもらったわ」
あるか、そんなピンポイントな風習。
まぁ、特進クラスの生徒はこっち(一般クラス)とは民度も比べ物にならないしそんなに無茶もしてこないだろう。
「男子には言い寄られなかったのか?」
「う~ん、向こうのクラスの男の子はこっちとは全く様子が違ったわ。大半が眼鏡をかけていたし、私を遠巻きに見てるだけ。私が何かのアニメのキャラにそっくりだとかそんな話はしていたけど」
何となく想像はできる。
こっちは肉食動物、向こうは草食動物でちゃんと檻が分けられてるようで安心だ。
女子が集団でシャルを取り囲んでしまえば割って入ってくることができないんだろう。
「だから、龍二と付き合ってるなんて話をする機会はなかったわね」
「それ、フリだからな? ちゃんと亜美にも説明しておけよ?」
「わ、分かってるわよ。そんなに必死にならなくても良いでしょ……」
シャルは何やら不機嫌そうに頬を膨らませる。
特進クラスの生徒なら俺とは違って頭も性格も良い奴がいるだろう。
恋愛の練習をする相手にも丁度良いのが居そうだしな。
シャルが争いとは縁のない『普通の生活』を歩み始める第一歩だ。
「じゃあ、また後で会いましょ?」
「あぁ、一応気をつけてな。日本とはいえ、変な輩もいる」
校舎の階段を俺は上に、シャルは下に。
お互いを待つ相手の元へと向かって行った。
◇◇◇
「へっへっへっ、来たな伏見」
「ちょっと! 離して!」
屋上につくと、堂島の舎弟たちに腕を抑えつけられた山城も一緒にいた。
「……なんで山城がいるんだ?」
「こいつが『伏見にはもう手を出さないで』なんて言ってきたからよ~」
「うるせぇから、こうして捕まえてるってわけよ」
なるほど、山城なりの罪滅ぼしの方法がそれか。
B級映画とは言ったが、捕らわれたヒロインが出てくる分マシかもな。
堂島は得意げに声を荒げる。
「てめぇはもう終わりだぜ! なんたって、最強の不良――
サメは出てくるのか…。
やっぱりB級映画だったな。
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