第42話 堂島が仕返しに来ました


「ちょっと~、何今の変な叫び声~」

「どうせ『一般クラス』の生徒でしょ~?」

「本当におサルさんみたいよね~」


 中庭では、他のベンチに座っている特進クラスの生徒たちからクスクスと嘲笑される。

 大声を出した張本人である金井は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 お前らの一握りも到達できない位置にすでに金井はいるのだが。


「あのなぁ、一度くらいはちゃんとネットで調べとけ」

「うん……すっごく反省した。ねぇ、もしかして『メイクフーズ』も山岳ホールディングスの子会社?」

「あぁ、インスタント食品の製造を行ってる会社だな」

「あ、あ~。道理で……」


 金井は困惑しつつも、納得したような様子だ。


「お父さんの勤務先なんだよね」

「……マジか。親の親会社の幹部になるのかお前。言っててややこしくなってきたな」

「だからかぁ~。ウチ、母親が居ないから私が家事してるんだけど。なんか、今日はやけにねぎらわれてさぁ……」

「お前、『両親』が反対してるって言ってなかったか?」

「あっ、気を使われちゃうと思ってさ。あまり人には言わないんだ、母親が居ないこと」


 なるほど、色々と合点がいった。

 父親がどうしても飲食業への就職を反対していたのは、内情にある程度詳しかったからだろう。

 実際、斉田みたいな奴が野放しにされていたわけだしな。


「弟も私の事なんて見下してくるはずなのに、今朝は挨拶を返してくれたんだ。いつもは無視か舌打ちなのに」

「いつも無視か舌打ちされるのに挨拶し続けてるお前もすげぇな」


 割と強引で粘り強い所あるよなこいつ。

 だからこそ水島社長のお眼鏡にもかなったんだろう。


「あっ、でも誤解しないでね。弟は純粋な良い子なの。お父さんが『あんな風に馬鹿にはなるなよ』って弟に私のことを言い聞かせてたのが原因で……特進クラスに入れる為に勉強もかなり厳しくさせられてたから」

「家でのお前の立場、だいぶヤバかったんだな」

「まぁ、実際に私はお馬鹿で弟は頭が良いしね~。水島さんは、どうして私なんて選んじゃったんだろう……」


 金井の父親は水島社長の前では生きた心地がしなかっただろうな。

 まぁ、娘に愛情を分けてやらずにこき使った天罰ってことで。


「ご馳走様」


 金井の弁当箱を空にして返すと、金井は待ち構えていたようにメモを取り出した。


「お弁当どうだった? 感想聞かせて! 何が美味しかった?」

「なるほどな、俺はお前の料理の実験台にされてたわけだ。ていうかそれって食べてる時に聞かないと意味なくないか?」


 俺が指摘すると、金井は不思議そうに小首をかしげる。


「え? だって、食べ終わった後に覚えてる料理の方が知りたいでしょ? きっと思い出すのはその料理だろうし。それに、食べてる時に聞いたら身構えちゃって自然な味が分からないじゃん?」


 ……こいつ自分は馬鹿だ馬鹿だと言いながら天然で的を射たこと言いやがる。

 安心しろ、金井。

 水島社長の人を見る目は多分間違ってない。


 金井の弁当の感想を言い終えると、俺は今度は自分の弁当を食べ始める。


「あっ、伏見の弁当も美味しそうじゃん!」

「手抜きだけどな。俺も自分で作ってるんだ、意外だろ?」

「今更それくらいじゃ驚かないって~。これも~らい!」


 そう言うと、金井は勝手に俺の弁当箱からウィンナーを箸で奪い取って得意げな笑顔を見せる。

 くそっ、俺のタンパク質が(筋肉の為の)……。


「あっ、ウィンナーは切れ込み入れちゃダメだよ。せっかくの肉汁が焼いてる時に出ていっちゃうでしょ? あと、煮ても美味しいんだよ?」

「料理が好きなのは何となく知ってたが、大したモンだな」

「実は私、小さい頃から自分のお料理のお店を出すのが夢だったんだ~。水島社長に言ったら応援してくれてさ! だから、頑張ってるの!」

「なるほどな、じゃあ味見は俺に任せろ」

「タダ飯食いたいだけでしょ~?」

「馬鹿言うな、金を払うだけで食えるならいつでも払うさ。それにお前だってつまみ食いの共犯だろ?」

「私はちゃんと水島社長に白状したも~ん。そしたら笑顔で『味見は大切ですからね』って返されたけど」

「つまみ食いを白状した時、お前の父親凄い顔してなかったか?」

「そうそう! 汗だくで土下座し始めて、ビックリ! 弟もドン引きしてたよ~」

「そりゃあ、お前の行動一つでクビ切られるからな~」


 よく笑う金井と一緒にベンチで昼飯を食べて、他愛のない話をする。

 糞みたいな奴も多いが、金井みたいな奴も俺の命一つで守ることができたと思うと多少は報われた気持ちになった。


 そんな昼休みを終えると、午後の授業もやり切って放課後を告げるチャイムが鳴った。


       ◇◇◇


 帰り支度をしながら隣のシャルに話しかける。


「シャル、どうだった? 日本の授業は?」

「……甚太、私は天才ハッカーよ? 愚問じゃないかしら?」


 シャルは優雅に髪を手でなびかせた。


「で、どうだったんだよ?」

「全く分からなかったわ。英語以外は……」


 シャルは学校に通っていない。

 最底辺と言われるこの学校でも、シャルにとっては未知との遭遇だ。


「こんなの分からなくても生きていけるわ」

「実際に生き抜いてきた奴の言葉の重みは違うな」

「放課後はどうするの?」

「あぁ、俺は予定があってな。伏見甚太が堂島から奪われた金を取り立てなくちゃなんねーんだ」


 そう言うと、丁度スマホがメッセージを受け取った。

 堂島からだ。


『今すぐ屋上に来い。逃げんなよ』


 ――――――――――――――

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次の投稿もできるだけ早くできるように頑張ります!

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