第41話 金井の勘違い
金井の両親が反対する理由も分かる。
大方、コイツがバイト先の社員にでも就職すると思ったんだろう。
「そうしたら、リムジンから水島さんが出て来てウチの家族にご挨拶に来たんだよね~」
話を続けながら、金井も自分の分の弁当を取り出した。
大きさは……俺に渡した弁当箱とそう変わらないが、無粋なツッコミは入れない。
「ウチのお父さんもお母さんも目を白黒させちゃって! そのあと水島さんが私の家族を凄く豪華なホテルの食事に招待してくれたんだ~」
日曜日に俺とシャルがくたくたになるまで展覧会を歩き回っている間にコイツは随分と良い思いをしていたようだ。
「良かったじゃねぇか。普通はそこまでしてくれねぇぞ」
「だよね! 水島さんって凄く良い人なの!」
「それで、両親の説得は上手くいったのか?」
「うん! 少し話をしたらお父さんもお母さんもペコペコと頭を下げ始めちゃったの!」
「まぁ、そりゃーそうだろうな」
実際に金井が打診されているのは『幹部候補』だ。
両親が想像していた一般職とは天と地ほどの差がある。
「流石は全国に6店舗もある『
ニコニコした表情でそう語る金井を見て、俺は確信した。
こいつ、まだ事の重大さが分かってねぇな。
「金井、『山岳ホールディングス』が何かは分かってるか?」
「うん? だから、『
「間違ってはないな」
俺は簡単な質問をする。
「……金井、『ブルーマウンテン』に行ったことはあるか?」
「何、急に……もちろんあるよ? どこにでもあるカフェでしょ? 新作は全部飲んでるよ!」
「じゃあ、『吉田屋』、『やよい亭』、『イタリアンキング』は?」
「あ、あるに決まってるでしょ! 全部よくあるご飯屋さんじゃん」
「金井が連れて行ってもらったホテルって、『サミットホテル』じゃないか?」
「な、なんで分かったの!? そうだよ!」
俺は金井からもらった弁当を全部平らげて一息ついた。
「今言ったの、全部『山岳ホールディングス』の子会社だぞ?」
「……へ?」
やっぱりだ、コイツそれぞれが独立した会社だと思ってやがる。
外食産業を中心に手広く経営しているのが『山岳ホールディングス』だ。
そんな企業の代表取締役である水島さんが直接説得しに来るほどに、こいつへの期待値は高いのだろう。
「えぇぇ~!? 噓~!?」
金井の絶叫が中庭に響いた。
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