第40話 太くねぇって!
自分の弁当箱を持って中庭に来ると、明るい声が聞こえてきた。
「あっ! 伏見っ! こっちこっち~!」
俺を見つけると、金井はベンチから笑顔で手を振る。
金井に尻尾はないが、きっとあったら同じようにブンブンと振っているだろう。
これが犬系女子というやつか。
俺が目の前を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「おいコラ! 無視すんな!」
「すまん、バイト先の制服じゃないから誰か分からなかった」
「私の事、服装で覚えてたのかよ!? ていうか、名前呼んだだろ!?」
当然、からかっただけだ。
というか、金井の学制服姿は一度見たら忘れられないだろう。
金井は胸の大きさ故にワイシャツがパツパツに張ってしまっている。
恐らく金井の性格的に、まだ着れるから買い直さずに無理やり着ているのだろうが。
ボタンがはじけ飛んで誰かにヘッドショットをかます日もそう遠くはない。
もう布への虐待だろこれ。
「それで、どうして呼んだんだ?」
「ま、まぁいいから! とりあえず隣に座ってよ。お昼はここで一緒に食べよ」
「残念ながら、昼飯は屋上で一人静かに食べる予定があってだな」
「あ、やっぱりボッチだったんだ。誘って良かった~」
何やら勝手に嬉しそうな笑顔を見せる金井の表情を見て、俺は仕方なく隣に座る。
金井の膝の上には、女子が食べるには少し大きめの弁当箱が置かれていた。
燃費の悪そうな金井の豊満な身体を見て、俺は納得する。
「やっぱり金井も沢山食うんだな」
「は、はぁ!? 違うって! ていうか、『やっぱり』って何だよ!」
何かを気にしているのだろうか、金井は顔を真っ赤にして俺の肩をポカポカと殴る。
「これは……あ、アンタの分」
「……はぁ? 俺の?」
聞き返すと、金井は自分の人差し指を合わせながら恥ずかしそうに話しだす。
「土曜日、バイト先でアンタに色々と助けてもらったじゃん? だから、その……お礼というか」
そう言われて、俺は思い返す。
確かあの日は金井が気絶した俺を運んだり、その後は金井が倉庫に匿って俺を斉田から守ってくれたり……。
「どちらかというと、俺の方が色々と助けてもらった気がするが」
「そんなことない! 結局私の悩み事とか、全部あの日に解決しちゃったんだから! おかげで就職先まで決まっちゃったし!」
呆れた言い分に俺はため息を吐いた。
「馬鹿、俺は関係ねぇよ。全部お前が自分の力で解決したんだ。お前が真面目に一生懸命働いてたから正当な評価を受けて声をかけてもらっただけだろ」
「でも、伏見にご飯を食べさせてもらってなかったらあの日は元気に働けたか分からないし……確かに私は馬鹿だけどさ」
「なんでそこだけ認めるんだよ……。まぁ、メシ食わせてくれるっつーなら大歓迎だけどよ。丁度足りねーと思ってたところなんだ」
俺がそう言うと、金井は俺が持っている大きな弁当箱を見て呆れたように笑う。
「あはは、足りないんだ? そんなに大きなお弁当箱でも?」
「男子高校生なんて常に腹すかせてる生物だからな」
金井は作ってきた弁当箱を開くとフタを自分の胸の上に載せる。
そして、箸と一緒に弁当を俺に手渡してきた。
(こいつ……ナチュラルに自分の胸を物置きに使ってやがる)
シャルが見たら無言でショットガンを取り出しそうな光景である。
「召し上がれ」
「おう、いただくぜ」
綺麗に盛り付けられた金井の弁当に俺は手をつけた。
「……ど、どう? 美味しい?」
金井は緊張しながら俺に尋ねる。
「あぁ、美味しいよ。店出せるレベルだ。やっぱり料理が上手いな」
流石の俺もここで意地悪はせずに素直に答える。
金井はホッとしたように胸をなでおろした。
「……あの日、バイトから帰った後、私が『山岳ホールディングス』に就職するって親に言ったら大反対されちゃったんだ」
「あ~。そういやお前の親、『飲食業は底辺職だ!』って言ってたんだもんな」
「うん。ウチって私以外はみんな結構頭が良いんだ。弟も特進クラスだし。だから私への当たりも強くて」
「どこも親には苦労してんだな」
「そのことを社長の水島さんに相談したら翌日、家の前にリムジンが停まっててさ――」
大体想像はつくが、俺は飯を食いながら続きを聞いた。
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