第39話 イジメっ子たちを公開処刑する

 

 神崎が容疑者に挙がった直後、シャルはわざと周囲の全員に聞こえるように呟く。


「でも神崎さんの指紋だけしか出ないのは意外だわ。てっきり、見田みたさんと芹沢せりざわさんの3人で甚太に成り代わってたのかと思ってた」


「――わ、私たちは知らねぇよ!」

「そ、そうそう! 神崎が勝手に送ったんだろ!」

「はぁ!? ふざけんな! あんたらも面白がって、文章考えてただろーが!」


 まんまと術中にハマり、保身の為に神崎を売った見田と芹沢。

 しかし、その言い争いが何よりも力強く証明していた。

 シャルが暴いたデータは真実である……と。


 シャルは神崎たちを見下すようにクスクスと笑いかける。


「もう一度言うわ、『こんなメッセージを送るなんて、きっと性格が悪くて気持ち悪くて、みすぼらしい人ね』。もちろん、それは甚太じゃなかったワケだけど」


 ――バン!

 俺の隣の席から机を叩く音が聞こえた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ何っ!? あの日、私に送られてきた酷いメッセージは全部あんた達が私に送ってきてたってこと!?」


 動揺を隠せない様子で山城は席を立ちあがる。


「どうして!? どうしてそんな酷いことをしたのよ! じゃあ、伏見は何も悪くなかったじゃない!」


 正直、俺に言わせてみれば神崎にスマホを手渡した時点で伏見の失態だ。

 だが、どうして伏見なんかを標的にしたのかは気になるな。


 すると、全てを神崎のせいにして責任を逃れたい見田みた芹沢せりざわが説明を始めた。


「神崎が『桃花に仕返しがしたい』って言ったんだよ」

「仕返し……?」

「桃花、以前サッカー部の先輩の藤間ふじまから告白されて振っただろ? アイツ、神崎が告白して振られた相手なんだよね」

「だ、だからなんだっていうのよ?」

「そのすぐ後にアンタが伏見に興味持ったじゃん? だから、神崎から『桃花だけ上手くいくなんて気に入らねーから滅茶苦茶にしてやろう』って」


 焦った神崎は反論にもならない反論をする。


「あ、アンタらだって『桃花がいい子ちゃんぶっててムカつく』とか、『あいつばっかりモテててウザい』とか言ってたじゃん!」


 想像よりも遥かにくだらない理由だった。

 伏見甚太は完全に巻き込み事故じゃねぇか。

 まぁ、高校生の争いの発端なんてこんなもんか。


「そ、そんな理由で。私の、初めての……」


 山城はそう呟くと震えながらギャル3人を睨む。

 ――そこで1時間目の授業が終わるチャイムが鳴った。

 廊下からは生徒たちの明るい喧騒が聞こえ始める。


 山城は大きくため息を吐いた。


「伏見、謝りたいことが沢山ある。今までの態度、私のせいで巻き込んじゃったこと、全部……。だけど今は頭が真っ白なの。もう少し時間をくれる?」


 俺はシャルにスマホを返してもらいながら本音を言った。


「別に、ハメられた俺(伏見)が間抜けだっただけだ。だから、神崎も、他の奴らも勝手にしろ。今更謝りに来られてもウゼーだけだし」


 そもそも俺の中身は伏見甚太じゃねーしな。

 それよりも、俺はスマホに変なことをされてないかチェックする。

 シャルのことだから、スパイウェアの一つや二つ入れられててもおかしくない。


 山城が離れて教室を出ていくと、他の生徒たちもこの場から離れていく。

 神崎と見田、芹沢もそそくさとこの場を離れようとすると、シャルが語りかけた。


「甚太はこう言ってるけど、私は許してないわ」


 シャルの声を聞いて、3人はビクリと足を止める。


「当然でしょ? 私の彼氏を酷い目に合わせたんだから。『りなりな』さん、『まいこ』さん、『れみぃ』さん?」


 謎の呼称で呼ばれた3人はさらに顔色を悪くする。


「あ、アンタ……なんでそんなことまで……」


 3人は過呼吸のように呼吸が荒くなり、脂汗をにじませる。

 先ほどまでとは比べ物にならないほどだ。

 SNSの裏アカウントの名前くらいじゃここまでは狼狽えないはずだが。

 恐らく、行き過ぎたパパ活か売春か何か犯罪をしているのだろう。

 今のはその活動をしている源氏名か。


 シャルは天使のような笑みを浮かべるが、その口からは悪魔の呪詛が述べられた。


「大学入試、就職、結婚。貴方たちにもこれから沢山大切な瞬間がありますから。そんな時にうっかり過去の犯罪が流出して、全てが台無しになってしまわないように気を付けてくださいね?」


 流石はシャル。

 普通ならこの場で公開処刑をしそうなもんだが、これはそれより最悪。

 自分の人生を滅茶苦茶にできる情報をシャルが握っている。

 3人はこれからずっと怯えながら生きていくしかない。


「あ……あは……あはは」

「シャルロット様……その……」

「も、もう手出しはいたしませんので……」


「これからも、仲良くしてくれると嬉しいわ!」


 シャルはニッコリとほほ笑んだ。


(自業自得とはいえ、これはむごいな……)


 俺は心の中で手を合わせた。


       ◇◇◇


 その後、昼休みまで俺は周囲からの視線を感じながら授業を受けることになった。

 誤解によって俺をイジメていた生徒の中には、ある程度罪悪感を覚えた者もいるようだった。

 同じように伏見に何らかの罪を被せた奴らは、俺ではなくシャルの方にビクビクしながら

 堂島はそんなこと関係なく、俺を叩きのめすチャンスを失いイライラしていたが。

 こいつにとっては逆らわない相手が欲しかっただけで、事実なんてどうでも良かったんだろう。


 昼休みになると、シャルは今朝俺が作ってやった小さな弁当箱を持って言う。


「ごめんなさい、甚太。お昼は亜美さんに誘われてるの」

「おー、行ってこい」


 妹の亜美はこの重道しげみち高校の『特進クラス』に所属している。

 亜美が所属する『特進クラス』と俺たち『一般クラス』では偏差値が30くらい違う。

 要するに、頭の良い奴とバカを明確に区別しているのだ。

 実際、特進クラスの人間からしてみたら俺たちなんて動物園の猿とそう変わらないだろう。

 『一般クラス』は学校にとっても雑な扱いで、問題が頻発するせいかイジメ程度ではまともに取り合ってくれない。


(さて……俺は屋上でメシでも食うかな)


 今朝、自分で作った3段重ねの弁当箱を持って教室を出ると、スマホが鳴った。

 シャルに返してもらった直後だったので爆発でもするのかと身構えたが、どうやらただの着信だった。

 相手は……バイト先の金井だ。

 そういや、こいつも俺と同じ重道高校だったな。

 当然、一般クラスだが。

 そんな風に思い出しながら俺は電話を取る。


「おう、どうした?」

「あっ、伏見! も、もし、お昼暇だったらで良いんだけどさ! 中庭のベンチに来てくれる……?」

「何でだ?」

「な、何でも良いでしょ! じゃあ、先に待ってるから! 来てよね!」


 謎の呼び出しを受けて、俺は金井が待つ中庭のベンチへと向かった。

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