第38話 イジメっ子に制裁を!
「はぁ~……」
黙って様子を見守っていた山城は大きなため息を吐き、自分の席を立ち上がる。
そして空いていた俺の隣の席に座って囁いた。
「……伏見、私があの子たちに相談したらクラス中に拡散されちゃったことは謝るわ。でも、私に変なメッセージを送って原因を作ったのはアンタよ。彼女をここに連れてきたらこうなるのも仕方がないんじゃないかしら」
どうやら、山城はクラスに拡散させる気はなかったらしい。
山城が相談に来たタイミングでギャル3人が勝手に拡散させたんだろう。
「……俺も謝っておくよ、誤解してた。山城も『アイツらの仲間』だと思ってた。お前も被害者だったんだな」
俺の言葉を聞いて、山城は小首をかしげた。
「……仲間? 被害者? 一体何を言っているの?」
「気にすんな、ってことだよ」
この後の展開が分かっている俺はそれだけ言ってまたシャルの方へと目を向けた。
「何度見ても本当に酷いよね~」
「最悪、気持ち悪い~」
「これは嫌われても仕方ないわ~w」
ワザとらしく俺への軽蔑の視線を向けながら一通りの罵声を受ける。
そして、シャルも同調するように声を上げた。
「えぇ、本当に! みんなの言う通りね! こんなメッセージを送るなんて、きっと『性格が悪くて気持ち悪くて、みすぼらしい人』ね!」
「そうそう! こんな最低な奴となんて別れちゃえ!」
「ほら、伏見! シャルちゃんも幻滅してるよ~!」
シャルが俺に別れを切り出すのを周囲が期待する中、満を持した様子のシャルは神崎に語りかけた。
「ところで、神崎さん。とても良いスマートフォンをお使いなんですね」
「へ? 別に普通のxphoneだと思うけど? ていうか、みんなこれ使ってるし」
「そうですね、日本だと70%以上の方がこのスマホを使っているみたいです。実は、私の祖父が製造に関わってるんですよ」
シャルはそう言ってにっこりと微笑んだ。
――もちろん、嘘である。
実際にはシャル本人がxphone開発の根幹に関わっている。
エンジニアとしても優秀なシャルは一度も姿を見せることなく製造元であるテクノロジー企業aprilの重役として在籍している。
遠隔で神崎たちのスマホからデータを抜き取れたのも、スマホの仕様を知り尽くしているからだ。
神崎のスマホを手にしたままのシャルは周囲のみんなに見えるよう、画面を上にして机に置いた。
「祖父から聞いたのですが、実はxphoneの内部には膨大なデータが記録されているんです。知っていましたか?」
みんなの前で披露するように、シャルは音量や電源などのサイドボタンを決まった手順で数回押すと画面に黒いウィンドウが表示された。
それを見て、主に男子生徒たちが沸き上がる。
「す、すげー! 隠しコマンドって奴!?」
「はい。xphoneの関係者が内部データを回覧できるようになっているんです」
興味深々の生徒たちの前でシャルは説明を続ける。
「位置情報はもちろん時間、緯度と経度、高度に移動速度、そして……タッチスクリーンには操作した人の『指紋』が記録されているんですよ」
そう言って、シャルが神崎のスマホの画面に大きく表示させたのは指紋のデータだった。
「スマートフォンは犯罪にもよく利用されますから、警察の捜査などにご協力できるよう、こうして誰が操作したのか分かるようになっているんです」
「そういや最近よく、スマホが決め手で犯人が捕まったとか聞くよな」
「これが神崎さんの指紋です、綺麗ですね~」
「ちょっと、恥ずかしいじゃん! 止めてよ~w」
神崎はシャルがちょっとしたおふざけでもしていると思っているようだった。
周囲も同じように笑っている。
「さて、それじゃ甚太のスマホも貸してもらおうかしら?」
「あまりやり過ぎんなよ?」
「私は真実を伝えるだけよ」
俺はすぐに自分の――伏見甚太のxphoneを目の前でシャルに手渡す。
シャルは手早く同じ操作をして指紋のデータを表示させた。
「貴方が先ほど画像で私に見せてくれたメッセージの日付は2030年の7月24日でしたね……あら、不思議! 同じ日付に甚太のモノじゃない指紋が検出されてます!」
「……へ?」
シャルは俺と神崎の、2台のスマホの画面いっぱいに指紋を表示して隣に並べてみせる。
一目で比較ができるように。
「あら? またまた偶然ねっ! この指紋、どうやら神崎さんのモノと同じみたい!」
あれよあれよという間にシャルによる晒し上げが始まっていた。
事態の深刻さにようやく気が付いた神崎は表情を青くして声を荒げる。
「は!? ちょっ、ちょっと待った! 勝手に何してんだよ!」
「失礼いたしました、神崎さんのスマートフォンはもうお返しいたしますね。さて――」
シャルは続けて俺のスマホを机の上に置いたままみんなに見えるように操作する。
「この日、山城さんにメッセージが送られていた時間帯に甚太のスマートフォンがあった場所は……ここですね。あら? どうやら甚太の家じゃないみたい」
露骨にわざとらしさが増したシャル。
というか今更ながら、なんだよその口調。
スマホのマップで拡大表示すると、女生徒数人がザワザワとしはじめた。
「その辺りって確か神崎の家じゃ……」
そう、伏見甚太は愚かにも神崎に自分のスマホを預けてしまっていたのだ。
神崎が伏見に近づき、「陰キャのアンタじゃ女の子の誘い方なんて分からないでしょ? 桃花の事は私の方が詳しいから任せて!」と半ば強引に詰め寄られ、ロックを解除して手渡してしまった。
そして翌日スマホが手元に戻ってきた時にはすでに送信したメッセージは伏見の携帯から消されていて、伏見甚太は何が何やら分からないままクラス中の嫌われ者になっていたというワケである。
なんとまぁ、間抜けな話だ。
状況証拠から、全員が思っていることをクラスの一人が口にした。
「――ってことは山城に伏見のスマホからメッセージを送ってたのは神崎だったってこと?」
つい先ほどまで愉快そうにケラケラと笑っていた表情から一転。
神崎は目を泳がせながら冷や汗を流し始めた。
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