第45話 伏見VS鮫島


「へっ、伏見! テメーも終わりだな!」

「鮫島先輩はなぁ、地元のチーマーをたった一人で壊滅させたこともあんだよ」」

「その後、傷だらけの身体で2時間も引きずり回って自力で病院に行ったんだぜ?」

「徒歩10分で着く位置の病院にな!」


 こいつ、行きたい場所があるならタクシーでも使った方が良いんじゃねーか?


 俺が言うまでもなく、山城は俺から距離を取って安全な所まで移動した。

 これから喧嘩が始まることを予感し、巻き込まれないようにするためだろう。

 預けた俺の学ランをギュッと胸に抱いて、心配そうに見ている。


「鉄パイプやらマンホールやら、大事な水道インフラをことごとく持ち出しやがって。テメーら、もう水は飲ませねぇからな」


 俺はぶん投げられたマンホールの蓋の仇を取るために鮫島のアゴに左フックをかました。

 先手必勝。

 しかし鮫島は上体を後ろへと反らすして軽く躱す。


「おっと、ここは殴られたらやべぇんだよな。車で酔ったみてぇにフラフラになっちまう」

「お前、乗り物もダメなのかよ……」


 喧嘩の経験値がある程度高いのだろう。

 鮫島の構えは独特だが、ちゃんと急所を守りつつ反撃にも転じれるスタイルだった。


「おらっ!」


 お返しとばかりに右腕で殴ってきた鮫島の拳を俺は紙一重で躱す。

 ボクシングのように基本が出来ているパンチじゃない。

 完全に素人の喧嘩パンチだ。

 俺はそのまま左腕のカウンターで鮫島の鳩尾に打ち込んだ。


「――!? ゲホッ!」


 鮫島は軽くせき込む。


(チッ、伏見甚太の身体じゃパワー不足だな)


 鮫島の鍛え上げられた腹直筋に阻まれてノックダウンはできなかった。

 そして、問題はもう一つ。


(風圧で分かるが鮫島のパワーはヤベェ。ガードしたら腕ごともってかれる)


 鮫島の攻撃は全部躱すしかなさそうだ。

 恐らく、一撃でも当たったら戦闘不能になる。


「ゴホッ――なるほどな。なかなかまぁまぁそこそこやるじゃねぇか」


 思いもよらない俺の反撃に鮫島は少なからず動揺しているようだった。


「アンタこそ良い鍛え方をしてる。それでも俺には勝てねぇが」

「ふん、もう同じ手は通用しねぇぞ? 覚えたからな」


 そう言って、鮫島は再び同じように躱して殴りかかる。

 俺も先ほどと同じように左手で鳩尾にカウンターを入れる。

 しかし、鮫島は今度は左手でしっかりとガードしていた。

 ――なので当然、俺は残った右腕で鮫島の顔面をぶん殴る。


「ブヘッ!? くそっ!? 今度はなんだ?」

「悪いな、俺は腕が2本あるんだ。カウンターも2か所殴れる」

「……おかしいぞ? 俺も腕は2本あるはずなのに、どうして両方をガードできないんだ?」


 鮫島はこの簡単な計算を解くために考え込んでしまった。

 お前、もう帰れ。


「わりぃが、待ってられるほど俺も暇じゃねぇんだ。テメェを倒して堂島から金をもらう」


 今度は俺から攻めに転じる。

 鮫島は急所を上手く守っているので、仕方なく有効打が与えられそうな場所を打つ。

 俺の殴打を数発受けて鮫島は笑った。


「ふんっ、テメェの弱点はパンチが軽ぃことだ! ちゃんと肉食ってるか?」

「じゃあずっと守ってろ」


 鮫島はバカだが、このまま守っていても勝てないことは分かっているだろう。

 隙を伺いつつ、俺にカウンターを打つチャンスを待っていた。


(鮫島、こいつは昔の俺に良く似てるな。俺も肉体さえ鍛えれば格闘で勝てると思っていた)


 そしてSWORDで何度もボコボコにやられたのが当時の俺だ。

 『柔よく剛を制す』という言葉のとおり、手も足も出ない相手がごまんと居た。

 悪いが、お前よりも喧嘩の経験が30年ほど上だ。

 殴られてきた経験もお前より多い。


「うおぉぉぉら!」


 俺はサンドバッグのように鮫島を殴り続けた。

 固い肉体、確かにこれは骨が折れる。

 殴っているだけで伏見の身体にドンドン疲労が蓄積していく。

 しかし、鮫島も簡単に耐えきれるような攻撃じゃないはずだ。


「はぁ……はぁ……」


 一向に倒れない鮫島。

 クタクタになった俺は激しく息を吐きながらも攻撃を続けた。


 ――その一瞬の油断。

 俺は完全に両腕を下げていた。

 鮫島はその隙を見逃さなかった。


「うらぁ!」


 疲弊した俺に鮫島の鋭い右ストレートが迫る。

 ――そう、鮫島は俺のに乗ったのだ。

 優位に立った時こそ気を引き締める、戦闘の基本だ。

 油断したのは鮫島の方だ。

 相手に「勝った!」と思わせる。

 その瞬間、音もなく相手の首元にスッとナイフを突き刺すのが傭兵の戦術だ。


 脚力。

 二足歩行を覚えてから常に体重を支え続けている脚力は一般的に腕力の3倍に相当する。

 これが今の伏見甚太の肉体で俺が持ちうる必殺の武器だった。


「スパァーン!!」


 身体を半回転させて鮫島の攻撃を躱しながら放った俺の渾身の右上段蹴りが、鮫島の左こめかみにクリーンヒットした。

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【お知らせ&お願い】

 この作品もコミカライズするだろうということで、今回は戦闘シーンにしました!

 戦闘シーン、早く漫画で見たいですねぇ。

 そして、『山本君の青春リベンジ!』のコミックが発売されましたのでご購入いただけますと嬉しいです。

 主人公無双やハーレム系が読みたいなら『ギルド追放された雑用係の下剋上~超万能な生活スキルで世界最強~』のコミックが2巻まで発売中でして、3巻も冬ごろに出ると思いますのでかなりオススメです!

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