第33話 転入生は美少女です

 

「ちょっと、伏見ヤバくない……?」

「あいつ、アクション映画みてーな動きしてたぞ」

「あ、あんなに喧嘩強かったの?」

「カッコ良かったかも……」


 俺以外のクラスメート達も教室に戻ってくると、俺をチラチラと見ながら好き勝手に噂していた。

 そんなのは気にせず、俺はスマホを弄ってシャルと連絡を取り合う。

 どうやら面談は問題なく済んだらしい。

 しかし、何やら困った事があったようで……。


『先生に校内を案内してもらったんだけど……朝練してる男子生徒達に言い寄られて大変だったわ。女子生徒にも次々抱きしめられるし……亜美さんが言っていた通り日本ってこういう国なのね」


 やはりそうなったか。

 そして、亜美に騙されているが挨拶でハグをする文化なんて日本にはない。

 シャルには美人税だと思って諦めてもらうしかないな。

 そんな風に考えていると、メッセージが続いた。


『このままじゃ流石に面倒だから、悪いけど龍二に協力してもらうわ』

『協力ってなんだ?』


 俺が尋ねるメッセージを送ると、数分ほど間が空いてからメッセージが返ってきた。


『私を龍二の彼女ってことにしておいて』


(…………)


 マジか。

 いや、まぁシャルが嫌じゃねぇなら別にいいが。

 俺の偽装彼女になってまでナンパを避けたいのかよ。


 俺が『了解』と返事をすると、既読が付いてその後のメッセージはなかった。

 もうすぐ朝のHRだから、教室に向けて移動しているのだろう。

 いったんスマホを机に置くと知らんうちに俺の机の周りに女子が集まってきていた。


「あっ、やっとこっち見てくれた~」

「ね~、誰と連絡取ってたの? あの金髪の根暗彼女~?」

「もしかして、彼女の為に鍛えてたとか? だからあんなに強くなってたの~?」


 ケラケラと笑いながら話すこいつら3人は国際展示会の前で会ったギャルたちだ。

 神崎尚子かんざきなおこ見田沙理奈みたさりな芹沢佳林せりざわかりん

 山城はこいつらには加わらず、何やら複雑そうな表情で自分の席からこっちを見ている。

 堂島はまだ痛む様子の腹を手で押さえながら睨みつけるように俺たちのやり取りを聞いていた。


 俺が無視すると、こいつらは左右から俺の腕に抱き着いて胸を押し付けてきた。


「私、なんて言うか今回のことでアンタを見直したっていうか~」

「そうそう! あんな地味子じゃなくて私と付き合っちゃいなよ~!」

「ちょっと待ったー! 私の方が良いって!」

「じゃあこっそりと付き合おうよ~、あの子にバレなければ大丈夫だって」


 やいのやいの言いながら俺に媚びるような笑顔を向ける。

 こいつらは別に俺のことが好きなわけじゃない。

 頭の悪い不良女にありがちな思考だ、強い男と付き合うことで自分も強い立場だと思いたいんだろう。

 俺の方が堂島よりも喧嘩が強いと分かって寄ってきていることは一目瞭然だった。


(確かに俺なんかとでも偽装カップルになりたいシャルの気持ちが分かるな……うざってぇ)


「アイツは今日からこのクラスに転入してくる。だから、テメェらとは付き合えねーな」


 俺は腕を振り払うと、どっかに行けとでも言うように手をパタパタと動かす。


「へぇ~、あの子今日転入してくるんだ~?」

「分かった! じゃあ、あの子とも仲良くしてあげるからさ!」

「そうそう、女子って仲良しグループに入れないと悲惨だよ~?」

「あんな根暗っ子の転入生じゃこの先やっていけないかも~」

「ていうか、甚太と釣り合ってないって!」


 まるで脅しでもするかの様にそう言って笑う。

 まぁ、こいつらは地味な格好に変装したシャルしか見てないからな。


「髪で隠して、顔も見せられないくらいなんでしょ?」

「きっと自分の身の程を知るって~」

「そうそう、あの子もそのうちアンタと別れるよ」


 こいつら、シャルをイジメて俺と別れさせようとでも考えているのだろうか。

 なんて命知らずな奴らなんだ。


 俺がこいつらにまとわりつかれる様子を不機嫌そうな表情で見ていた堂島は、今の話を聞いてニヤつきながら俺に話しかけてきた。


「テメェの彼女がウチのクラスに来んのか?」


 喧嘩では俺に敵わないから他の部分でどうにか俺を辱めてプライドを保ちたいのだろう。

 俺は無視してスマホでニュースを見る。

 日本でも外国人の犯罪が増えているようだ、エイラが言っていた通りだな。


「へへっ、どんな根暗ブスが来んのか楽しみにしてるぜ?」


 堂島はそう言うと、舎弟たちとゲラゲラ笑った。

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