第27話 俺をフッた女を見返す
――翌日の日曜日。
昨日の件があって、俺のアルバイト先の黒山羊亭はしばらく休業するらしい。
ちなみにあの日が過去最高売上だったそうだ。
灰色のポロシャツとジーパンで地味な姿の俺は例の最先端科学技術展示会に入場するためにシャルと黒山羊亭の前で待ち合わせをしていた。
もちろん、『SWORD』を壊滅させた黒幕を見つけ出して、死んだ仲間全員分の弾丸をケツにぶち込んでやる為に手がかりを見つけるのが目的だ。
この展示会に出ている名前の日本人がステルスミサイルの技術提供をした可能性が高いからな。
(それにしても、おせーなシャルの奴)
同じ家から出るはずなのに、何故かシャルは待ち合わせにしたいらしく俺が先にここに着いた。
まぁ、アイツも今や高校生だし周囲の目とか気にしだしたのかもしれん。
今日は別行動で良かったかもな。
そんな風に思っていると、ようやくシャルがやって来た。
「お、お待たせ……」
シャルは少し恥ずかしそうな表情で俺から目を逸らして綺麗な金髪の髪を指でイジる。
シャルが着ている白いトップスはオフショルダーで綺麗な肩が露出していた。
短いスカートからは綺麗な脚がスラリと伸びる。
白いサンダルは花をあしらっていて幼さを感じさせるが、シャルには良く似合っていた。
髪は昨日の浴衣姿の時と同じように髪を後ろで巻いてかんざしで止めている。
「ど、どう……? この格好……」
シャルは緊張気味に俺に尋ねる。
「お前、全然ダメだろそれじゃ」
「えぇっ!?」
俺は率直な意見を述べた。
シャルはショックを受けたように少し瞳に涙を浮かべる。
これじゃ可愛すぎだ。
今、すれ違った通行人全員振り返ってたぞ。
流石に目立って仕方ない。
「もっと地味な姿に変装しろ。それと、サンダルだといざという時に走りにくいだろうが」
「そ、そうだよね……。はぁ、せっかく亜美さんが着飾らせてくれたのに」
「やっぱりアイツの仕業か」
全くアイツめ、シャルを着せ替え人形みたいにしやがって……。
家に帰ったら褒めてやんねぇと。
「……しかしシャルの場合、顔が見えてるだけで目立つんだよなぁ」
「日本人に変装できる特殊マスクはあるけど?」
「この暑さの中そんなモン被ったらすぐに倒れるぞ? 前髪のウィッグを付けて目隠れにすりゃいい。あとは服だな」
「分かったわ、着替えてくる……」
落ち込んだ様子でトボトボと自宅に向かうシャルの背中を見送る。
可愛すぎるってのも大変だな。
◇◇◇
休憩を適度に挟みつつ、他の客に紛れながらシャルと一緒に展示会を回る。
そうして6時間後。
全て見終わる頃にはすでに日が暮れかけていた。
「ふぅ~、疲れた~」
シャルはそう言って、展示会の施設前の外のベンチに座る。
俺はそばの自販機で買ったリンゴジュースをシャルに差し出した。
「ほら、飲むか?」
「ありがとう。誰か分からない親切な方」
「気にすんな、お前の金だ」
「……確かにそうだった」
変装の為に着けた長い前髪が視界を塞ぎ、さらに暑苦しいのだろう。
シャルは皮肉を交えて抗議する。
今日はできるだけ労ってやることにするか。
一応、この展示会で出てきた日本人科学者の名前は全員シャルが身に着けているイヤリング型の超小型カメラで記録した。
収穫と言えばそれくらいか。
容疑者の数が多すぎるが。
あと、やはり日本はゲームの技術が凄かったな。
……本当に、戦争なんてゲームの中だけで十分だ。
そんな風に思いながら展示会の外を眺めていると、ギャルの集団が横切った。
楽し気にキャピキャピと話をしているうちの一人と目が合ってしまい、相手は俺に気が付く。
「あれ? あれあれあれ~? 伏見じゃ~ん!w」
心の中で大きくため息を吐いた。
こいつは俺のクラスメートの1人、
俺――伏見甚太にとって一番苦手な相手でもある。
「髪型変えれば気づかれないとでも思った? 残念だけど、アンタの陰キャオーラでバレバレだっつの!」
そう言って、他の女子たちも引き連れてこちらにやって来てしまった。
ほとんどが俺と同じクラスメートだ。
俺と隣に座るシャルを見て性悪な笑顔を浮かべる。
(あぁ、そうだ……考えてみれば『こいつのせい』かもな。伏見甚太という人間がここまで卑屈になったのは)
他の女子高生たちも俺たち2人を前にして喋り始める。
「ねぇ、こいつってもしかして"例の"?」
「そうそう、とんでもない勘違いヤロー! マジでキショかった!w」
「ヤバいんだよこいつ! 生きてて恥ずかしくないのかな!w」
「髪切ったら割とイケてるじゃん! でもまぁ、キモいから無理w」
「展示会見に来てるなんてマジで陰キャっぽいw ウチらはカラオケ行くから横切っただけだけどw」
俺が転生する前、伏見甚太は彼女たちの数人に『オモチャ』にされていた。
もともと陰気だった伏見甚太は人生で初めて学校で女の子に優しくされた。
それが目の前の彼女、山城だった。
伏見は情けないくらいすぐに恋に落ちた。
山城は伏見にいつも優しく声をかけてくれて、自分に気があるような素振りを見せた。
しかし、伏見は陰キャな自分の身の丈には釣り合わないと諦めかけた。
そんな時に背中を押したのが今、山城の周囲に居る彼女たちだった。
「
女性経験のない伏見は彼女たちの助言を鵜吞みにして恥ずかしいメッセージも、誰かに見られたら死にたくなるようなこともしてしまった。
恋は盲目、そして何よりも伏見は必死だった。
自分みたいな陰キャでも頑張れば付き合えるかもしれないと夢見ていた。
彼女が出来れば妹の亜美に見直してもらって、会話のキッカケを作れるのも大きな目的だったようだが。
そうして、ついに伏見は山城を学校の裏庭に呼び出して愛の告白した。
「――ぷっ、あっはっはっ! もう無理、笑うの我慢できない! アンタの事なんか好きなわけないでしょ!w キモすぎ!w」
山城がそう返事をした瞬間、校舎の影や茂みからクラスメートたち全員がスマホで動画を撮影したまま大笑いしながら飛び出してきた。
「マジで傑作だな!w」
「メッセージとか全部学校中にRINEで晒されてんだよ!w」
「お前が女と付き合えるハズねーだろw」
「山城も我慢してお前なんかに優しくしてたんだぜ?」
「勘違い陰キャ、マジやべー!w」
「犯罪起こす前に止められて良かったわw」
そうして、伏見は学校で『イジメられて当然の男』という位置づけになってしまった。
もちろん、他のクラスメートたちは伏見が
伏見が加害者で、山城が被害者。
伏見がどう言い訳をしても苦し紛れの嘘だと思われる。
堂島に殴られている伏見を見て全員が笑っているのはそういう事だ。
(……とまぁ、これが伏見甚太を人間不信にした原因だな)
俺の事でもないのに心が痛くなるくらいだ。
伏見はこの日を境に家族以外の人間全員に恐怖を覚えるまでになってしまった。
もはや心的外傷後ストレス障害(PTSD)に近い。
山城はそんな俺を見て、ため息を吐きながら話す。
「なんか、堂島が明日『あんたを殺す』とか言ってたからもう学校来ない方が良いよ? 卒業まで家に引きこもってれば~?」
そして、隣に座るシャルを見て鼻で笑った。
「てか、何アンタ! 彼女なんかできたワケ? それで良いとこ見せたくて堂島相手にイキっちゃったんだ~」
「また殴られてゲロ吐くのはやめてよね、マジで汚いからw」
「ちょっとー、彼女が居るのにやめなよw」
「何言ってんの! ちゃんと教えてあげた方が良いでしょ!w」
今度は全員でシャルをけなす。
俺と一緒に居るというだけでこいつらにとっては誹謗中傷の対象なんだろう。
「アンタの彼女、髪で顔を隠して服も地味で肌も真っ白で引きこもりみたい!w」
「頑張って髪染めてる以外はアンタに似て陰気な女だね~、しかもチビだしw」
「顔を見たりはしないから安心して! ブス過ぎて笑っちゃうと思うから!w」
そう言うと、女子たちはゲラゲラと笑った。
「アンタもこんな男、やめといた方が良いよ~。喧嘩は弱いし、情けないしw」
「そうだ、こいつが桃花に送ってきたキモいメッセージ全部見せてあげるよ!」
「桃花に告白した時の動画なんてこいつ全身ガクガク震わして傑作だから!w」
「あっはっはっ、残念だったね伏見! これでまたフラれて可哀そう~w」
「そして、明日は学校で堂島にボコられて。今度はしょんべん漏らすんじゃない?w」
「あはは! またお気に入りの動画増えちゃう!」
俺の隣のシャルは、うつむいて長い髪でその顔を隠しながらも静かな怒気を放っていた。
――――――――――――――
【業務連絡】
山城たちはシャルによってとんでもないざまぁを食らうことになります……
怒らせてはいけない人を怒らせてしまった。
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