第24話 戦闘で無双する
3時までの忙しいランチ営業を乗り切り、一度店を閉める。
すると、女子高生スタッフたちが瞳を輝かして俺のもとに駆け寄ってきた。
「
「いっぱい助けてくれてありがとう!」
「甚太君って外国語話せたんだね~!」
「しかもお客さんたちもみんな凄く楽しませてたし!」
「働いてる姿も凄くクールでカッコ良かったよ!」
今まで聞いたことのない彼女たちの甘ったるい声。
あまりの薄気味悪さに俺は顔を引きつらせる。
「……俺、『甚太君』なんて呼ばれてたか? 『クソ陰キャ』だとか散々バカにされてた記憶しかないんだが」
「そ、それはごめん……」
「甚太君ってほら、冴えな――大人しい感じだったし」
「うん、今日で凄く印象が変わったっていうか」
「私たち、誤解してたみたい! 一緒に楽屋で休憩しようよ!」
「それとさ、今度遊びに行こっ! 甚太!」
「お~、気が向いたらな」
全く、急に手のひら返しやがって。
その優しさを少しでも生前の伏見甚太に分けてやれなかったのか。
そんな風に呆れながらキッチンに行くと、金井が膨れっ面で俺を睨んでいた。
「おいおい、つまみ食いし過ぎだろ。頬袋がいっぱいだぞ? リスか?」
俺がジョークをとばしても、金井は不機嫌そうに腕を組む。
「あ~はいはい。良かったですね。女の子たちにモテモテじゃないですか」
こいつ、怒ると敬語になるのか。
性格がにじみ出ているみたいで面白いな。
そして、こいつが怒ってる原因なんてすぐ分かる。
金井も頑張ったのに俺だけがチヤホヤされているからだろう。
俺はため息を吐くと、キッチンに入って金井の隣に行った。
「な、何よ……? アンタが一番疲れてるでしょ? 早く休憩しに行きなさいよ」
「何バカ言ってんだ。一番頑張ったのはお前だろ」
一人でキッチンをこなす大変さは伏見甚太の経験から良く分かってる。
それを不手際なく、ちゃんとこなしてみせた金井は影の功労者だ。
俺の指示にも従ってくれたしな。
「提供された料理、全部美味しく出来てたみたいだぜ? お客さんたちも喜んでた。夜の営業もこの調子で頼む」
「そ、それは……アンタが朝早くから仕込みを全部済ませてくれてたから……」
「あぁ、金井の仕込みまでして大変だったぜ。飯食わせたりよー」
「もー! すぐそうやって――」
また金井をからかうと、急に視界が歪んだ。
フラつき、調理場に手をつく。
(くそっ……なんだ? 急にまた眠気が……)
恐らく、伏見甚太の脳への負荷のせいだ。
多数の言語を操りながらの周囲との連携。
ある意味ここも戦場だったからな。
こんなのに慣れてるはずもない、緊張の糸が切れてこの身体の脳が限界を迎えたらしい。
「ちょ、ちょっと! 伏見、大丈夫!?」
「あぁ、すまん……少し疲れ……が――」
誰かに抱しめられるような感覚を最後に俺は意識を失った……
◇◇◇
――目を覚ますと、俺は仰向けで寝ていて目の前に壁があった。
(……なんだこれ)
何故か吸い寄せられるように手で触ってみると、ぷにっとした感触が――
「きゃあっ!? ちょっと、何っ!?」
「イテッ」
直後、枕が動いて俺は床に頭を打つ。
そこには、顔を真っ赤にした金井がいた。
ここは……キッチン裏の倉庫か。
そこに金井と2人で居る状態だ。
どうやら金井に膝枕をされていたらしい。
こいつの胸が大きいせいで視界が塞がれて壁かと思った。
「目、覚ましたのね! 全く、急に倒れてきてびっくりしたじゃない!」
「金井が受け止めてくれたのか、俺をここに運んだのもお前か?」
「そうよ。一応、見つからないようにキッチンから倉庫に引きずって運んで、他の子たちにはアンタは一旦帰ったって言っておいたから。安心して休んでいいわ。斉田もパチンコ打ちに出かけて、しばらくは店に来ないと思う」
金井はそう言ってまた正座する。
時間を見ると、あれから1時間以上は経っていた。
「何で倉庫に運んだんだ? しかも、寝てる間ずっと居てくれたのか?」
「ア、アンタって斉田に恨み買われてるでしょ? だからほら、一人で寝てると危ないからさ……。ここなら見つからないし」
「そういうことか、サンキュー。助かったぜ」
確かに、今斉田の前で無防備に眠るのは危険だろう。
倉庫の床なんて固くて冷たいだろうに、こいつ俺の為にずっと正座して膝を貸してくれていたのか。
マジで良い奴だな。
あと、俺を引きずって運んだって結構力があるな。
「ほら、まだ寝てて良いから」
金井はそう言って、自分の膝をペシペシと叩く。
しかし、このままだと金井の身体の方が疲れてしまうだろう。
営業はまだ夜もあるんだ。
俺は上手く断る言葉を探した。
「いや、高さがちょっと……首が痛い」
「私の太ももが太いって言いたいの? 締め殺すわよ?」
膝枕を遠慮する為に言った言葉だったが、半分真実だ。
金井は少し気にしていたのだろうか、笑顔だが今までで一番怒っている。
大丈夫だ、太ももは太い方が強くて良いぞ。
「――そういや、聞いてなかったな。今朝はどうして両親と喧嘩したんだ?」
話題を逸らす為に気になったことを聞く。
金井は大きくため息を吐くと話し出した。
「……私、馬鹿だからさ。勉強頑張らないと、どこにも就職できないぞって父親に言われたの」
「あ~、勉強か。大変だよな~」
俺は傭兵として活躍する為に語学を学んだが学校にはロクに行ったことがないので勉強はしていない。
だから、勉強が苦手だという金井の気持ちもよく分かった。
これから重道高校に通うから俺も苦労するかもな。
「でも、私本当はお料理の勉強がしたくて。接客も大好きなんだ。まぁ、どっちもアンタほど上手くはやれないけどさ」
金井がお店で働いてる時はいつも楽しそうにしている。
お客さんを笑顔にすることを誇りに思っているようにキラキラと輝いている。
実際、お客さんの口コミも金井の接客を褒める声ばかりだった。
「でも、お父さんは私に諦めさせる為に『飲食店は底辺職だ!』って言ったの。それで頭にきちゃって」
「それは怒って当然だろ」
「だ、だよね! 今朝、アンタにご飯を食べさせてもらったじゃん? それで、やっぱり私のやりたい事は大切な事だって思えたの」
金井は少し嬉しそうに喜ぶが、すぐにため息を吐いて落ち込んだ。
「でも、私このままアルバイトを頑張ってるだけじゃダメかもって少し思ってて……親が言うように就職も出来ないかもだし」
「大丈夫だ。金井は一生懸命頑張ってる。ちゃんと見てくれてる人もいるさ」
「……そうだね、今日は伏見が私の事を見ててくれたし。今はそれで十分かも」
金井はそう言って、ニコッと笑った。
……ていうか、今日客として来ていた会長と社長がお前を見てたぞ。
しかも、働きぶりを絶賛してたぞ。
もう名前と顔は覚えられてるし、今日また来るって言ってたし多分金井にも何か話が持ち掛けられるかもな。
「――さて、もう夜の営業の分の仕込みを始めた方が良い、金井も手伝ってくれるか?」
俺がそう言って倉庫を出ようとすると、金井は俺の手を掴む。
「今日はもう帰って休みなよ! 夜は私たちだけで何とかするから」
金井の提案は有難いが、俺は夜も働きたかった。
今日は、国際展示会の初日。
そして、展示会のテーマは『日本の最先端科学技術』だ。
働きながら外国人客たちの会話を聞いていたが、情報収集にかなり役立つ。
何やらキナ臭い話をしている奴らもいた。
俺が破壊したIICBMも日本の最先端科学技術が使われている。
たかがマフィアですら兵器が作れてしまうのだ。
そして、マフィアたちは捜査の裏をかいてこういうオープンな店を利用することも多い。
もしかしたら『SWORD』を潰した組織の足掛かりも掴めるかもしれない。
(だが、疲れてるのは確かにその通りだな……)
そんな風に思っていると、俺のスマホが振動した。
画面を見ると、亜美からRINEが送られてきていた。
『イェーイ! 甚太見てるー? 甚太の大切なお友達のシャルちゃんは今こんなことになってまーす!』
そんなメッセージと共に写真も送られてきていた。
亜美とシャルが浴衣を着てピースしながら2人並んで自撮りをしている。
シャルは慣れない浴衣に少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
『これからお祭りに行ってきまーす! シャルちゃんも楽しんでるから心配しないで! 甚太もバイト頑張りなさいよ~!』
「…………」
画像を大切なフォルダに保存すると、俺は気合いを入れなおす。
「金井、大丈夫だ。今全ての疲れが吹き飛んだ」
「えっ、何があったの?」
「妹から『バイト頑張れ』ってメッセージが来た」
「……伏見ってシスコン?」
「違う、家族想いの良いお兄ちゃんだ」
改めて、日本守って良かったな……と思いつつ、俺はキッチンに向かった。
◇◇◇
また斉田が来る前に俺は6人前くらい勝手に店の食料をガツガツと食べる。
「……私、『これ』の共犯にされてたの?」
そう呟きつつ金井が食べ続ける俺を睨んでくるが、切り分けたバケットを口に突っ込んだら呆れた表情で許してくれた。
そんなこんなで他のスタッフたちも店に戻って来て夜の営業が始まる。
女子高生たちは相変わらず俺の働きぶりを褒めながら身体をすり寄せてきて、その様子を斉田と金井が不機嫌そうに見ていた。
俺としては邪魔だから散って欲しいんだが。
営業が始まり、2時間が経った頃。
夜も店内は外国人のお客さんであふれかえっていた。
そんな中、フードを深くかぶった小柄な客が来店する。
「"あの……ここで日本食は食べられますよね?"」
「"はい、お一人ですか?"」
「"一人です! あの、目立たないお席に行きたいです"」
声から女の子であることは分かったが、何か事情がありそうだ。
警戒しつつ、俺は彼女を奥の席に案内して注文を取る。
「"えっと、何が美味しいかしら? 私、お箸が使えないの"」
「"でしたらお好み焼きなんてどうでしょう? ナイフとフォークでも食べやすいですよ"」
「"お好み焼き! 知ってるわ、食べてみたかったの! これにするわ!"」
無邪気に喜ぶ彼女に料理を提供すると、頬にソースを付けて美味しそうに食べ始めた。
――それから5分もしないうちに"それ"は起こった。
後から入店した男性の2人組が突然、サバイバルナイフを取り出してフードをかぶった彼女に襲い掛かる。
(全く、バレバレだ……。殺気も全然隠せてねぇ)
予期していた俺はすぐに彼女のそばに駆けつけた。
事情は分からんが、とりあえずこいつらを成敗してから聞きゃあいいだろう。
「"すみません、少しお借りしますね"」
「"――へ?"」
食事中の彼女の手から奪い、左手にフォーク、右手にテーブルナイフを持った俺はそいつらのサバイバルナイフを受け止めた。
――――――――――――――
【業務連絡】
読んでいただきありがとうございます!
次回はレストランの道具を使ったアクションシーンになりそうですね!
そして、何より早く学校でのざまぁを書きたいです!
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