第20話 気軽に復讐する
――チュンチュン。
狭い風呂場の小窓から朝日が差し込み、小鳥がさえずる。
「ふぅ~」
朝6時に起きて早朝ランニング。
そして筋トレと最後に瞑想を終えた俺はシャワーを浴びていた。
しばらくはこれが身体作りのルーティーンになるだろう。
母親――伏見桜が今までバランスよく作ってくれていた食事のおかげで、この身体は基礎がしっかりしている。
若いから疲労の回復も早い、怪我以外は絶好調だ。
(以前の俺は孤児だったから成長期にロクな食事が食えなかった。伏見甚太は幸せ者だな)
朝食を作るためにリビングでフライパンを火にかけると、亜美が目をこすりながらやってきた。
「あら甚太、早いわね」
「おはよう、亜美。俺は今日バイトだからな」
「またバイト? 本当に良く働くわね~」
「……亜美の分の朝食も作っておいたぞ」
俺はトーストの上に目玉焼きを載せたエッグトーストをテーブルに置く。
付け合わせにサラダとソーセージもタコの形に切っておいた。
「あら、気が利くじゃない!」
そう言って、亜美がお皿の前に座ると俺はその皿を取り上げた。
亜美は不思議そうに俺を見上げる。
「ちゃんと挨拶が返せない奴にはあげられないな。おはよう、亜美」
「な、なによ~。ちょっと忘れてただけじゃない」
「それは由々しき事態だ。おはよう、亜美」
「はいはい、おはよう」
うんざりしたように返事を返す亜美。
満足した俺は皿を亜美の前に戻してやった。
亜美はいつも俺に挨拶なんて返さないので、強硬手段だ。
「ヘタレな甚太のクセに、生意気ね……」
「俺がヘタレな事と挨拶を返さないことは関係ないだろ。シャルはまだ寝てるのか?」
「寝ているわ、天使のようにね」
「お前、シャルに手ぇ出してねぇだろうな?」
「出してないよ! シャルちゃんのフローラルな香りはパジャマ越しにいっぱい嗅いだけど!」
それ、セーフか? アウトか?
人としてはアウトな気もするが、妹フィルターのせいで俺は許せてしまう。
「はぁ~私、シャルちゃんと結婚しようかな」
トーストをかじりながら世迷言を呟く亜美。
全く、何言ってんだこいつ。
亜美とシャルが結婚するなんて……。
そんな事したら亜美は他の男と結婚することも無くなって、シャルは家族になっちまうじゃねぇか……最高か?
ちょっと法律変えてくるから待ってろ。
「あら~早いわね、甚太君と亜美ちゃんおはよう~」
続いて起きてきたのは母さんだ。
俺は新しい卵をフライパンに落として、トースターにパンを入れる。
「おはよう、母さんの分のパンも今焼くから」
「おはよ~、甚太ってばシャルちゃんが来てから人が変わったように頑張ってるの」
「あらあら! やっぱり恋って人を変えるのね~」
「期待させて悪いが、俺とシャルはそういう関係にはならねぇ。友達だ」
「甚太君ったら照れちゃって~」
「確かに甚太じゃ頑張らないと釣り合わないもんね~」
そんな話をしていると、シャルもリビングにやってきた。
「お、おはようございます!」
「「「おはよ~」」」
3人で挨拶を返すと、俺はシャルの分の朝食も用意してやった。
その間に亜美がコーヒーを淹れる。
全員でテーブルに座り、朝食を食べながら会話を始めた。
「シャルちゃんは今日何か予定あるの? 良かったら、私が日本を案内してあげる!」
亜美がそう提案すると、シャルは困ったような表情をした。
「あっ、えっと実は調べモノがありまして……」
「シャルは
「あら? シャルちゃんって留学に来てたのね」
「シャル、入学手続きは俺が調べておいたから今日は亜美の相手でもしてやってくれ」
俺がそう言うと、シャルは驚いて瞳を丸くした。
「……え? ちょ、ちょっと待ってそれは」
「――入学手続きの書類、まだ渡してなかったよな。軽く書き方説明するからちょっと来い」
俺はリビングからシャルを連れ出した。
2人きりになると、案の定シャルは不満げに俺を見る。
「ちょっと、龍二。どういうこと? 復讐するんでしょ? 私が調べないと前に進まないじゃない」
「復讐はする。だからって別にお前が亜美と遊びに行かない理由にはならない」
「どういうこと?」
「……女子高生を演じる練習をするんだ。亜美と一緒に。お前はずっと傭兵だったから日本の女子高生として溶け込むのも難しいだろ?」
こうでも言わないとシャルは納得しないだろう。
シャルが『SWORD』に入隊させられた理由は自身の親殺しの罪によるものだった。
だが、今はもう自由だ。
仲間の復讐なんか、シャルは普通の高校生生活を満喫しながら気軽にやれば良い。
シャルは新しい仲間を見つけて、その間に俺が全て片を付けてやる。
「そ、それもそうね……」
「だがシャル、重要なミッションをお前に与える」
俺はそう言って、シャルの肩に手を乗せた。
シャルも緊張した面持ちで俺を見る。
「亜美と写真を沢山撮ってきてくれ。一緒に写ってるやつな。後で俺に送ってくれ」
「……龍二ってシスコン?」
「違う、伏見甚太の人格が残っているせいだ……多分。頼んだぞ!」
シャルは呆れた表情で見てきているが、俺にとっては大統領の護衛任務と同じくらい重要なミッションだった。
頼んだぞ、マジで。
◇◇◇
「じゃあ、俺はバイトに行ってくるから。亜美、シャルをよろしくな」
「は~い、行ってらっしゃ~い」
朝食を食べ終えると、俺はバイト先に向かった。
誰もが俺の事を見下している、あの店だ。
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