第19話 一緒に寝ませんか?
「甚太~、入って良い? それともお邪魔かな?」
俺が明日の予定を考えていると、亜美の声が部屋の外から聞こえてきた。
ベッドでパソコン閉じるシャルと軽くアイコンタクトをしてから返事をする。
「あぁ、別にいいぜ」
「じゃ、じゃあ失礼しま~す」
亜美が扉を開いて、俺の部屋に入ってくる。
シャルの後にお風呂に入り、出てきたところらしい。
青の可愛らしい寝間着を着て、黒いショートヘアはすっかり乾かされていた。
亜美はニヤニヤしながら尋ねる。
「2人で何やってたの~?」
「え、えぇっと……!」
「ゲームの話に決まってるだろ? 『戦ロワ』は奥が深いんだ」
俺がシャルをゲーム友達にしたのはこれも理由の一つだ。
もし俺の傭兵としての証拠やシャルとの会話の内容を聞かれても「ゲームの話だ」で済む。
「あ~、そっか。ゲーム仲間だもんね。こんな可愛い子と仲良くなれるなら私もやろうかなぁ」
「亜美は不器用なんだから無理だよ」
「甚太だってそうでしょ。それにゲームは上手さじゃなくて楽しいかどうかの方が大切なんだから」
やけに的を射たことを言うと、亜美は「きゃー、シャルちゃん寝間着姿も可愛い~! 天使っ!」とシャルに頬ずりを始める。
シャルは大人たちと戦争の中で育って来たから同年代の女の子と仲良くなったことがないんだろう。
どうしていいか分からず、頬を真っ赤に染めて亜美のなすがままにされていた。
俺のベッドの上でイチャイチャするな。
「……甚太の部屋に入ったの凄く久しぶりかも」
シャルをぬいぐるみのように膝の上に乗せて、亜美は俺に呟いた。
「何もないだろ?」
「……本当。いつもバイトしてるのに物がないなんて不思議~」
伏見甚太は亜美の学費の為に自分では使わずに貯金し続けていた。
結局それは堂島に奪い取られて自殺のキッカケになったのだが。
いつかまた亜美に「お兄ちゃんありがとう」と言われるのを生きる希望にしていたらしい。
うーん、手遅れかもなこいつ。
「シャルちゃんは今日どこで寝るの? ウチ、布団が余分にはないんだ」
「あっ、ど、どうしましょう?」
「俺が床で寝りゃベッドが使えるぞ」
「床なんかで眠られるわけないでしょ」
亜美は呆れた表情でため息を吐く。
馬鹿言え、雨風しのげる最高の寝床だぞ。
「わ、私は別に甚太とでも――」
「却下だ。狭ぇだろうが。だったら俺は床で広々と寝てぇ」
絶対にシャルと寝るわけになんていかない俺は断固断る。
隣に座られただけで心臓バクバクだったんだぞ。
一緒の布団でなんか寝たら甚太の身体が持たねぇ。
多分、爆発する。
亜美も後押ししてくれた。
「そうよ、いくら甚太が人畜無害のヘタレで空気のような居ても居なくても変わらない取るに足らない存在だからって一緒のベッドで寝るのは流石にダメ!」
「俺を馬鹿にする必要あったか今?」
「そ、そうですか……」
シャルは少し残念そうに眉を下げる。
ずっと一緒に傭兵やってたから仕方がないけど、シャルも俺との距離感がバグり過ぎだ。
普通は嫌がるモンだぞ。
「だ~か~ら~、私と一緒に寝よ! 大丈夫、何もしないから! 本当に! す、少しだけ触ったりするかもしれないけど、それはスキンシップだから! 日本ってそういう国なの!」
口元をだらしなく緩ませて鼻息を荒くする亜美。
やはりシャルの可愛さは同性でも狂わせるレベルなのか。
そしてお前の痴態に日本を巻き込むな。
「亜美さんと一緒に眠れるの嬉しいです! す、少し恥ずかしいですが……」
身の危険が迫っていることを全く感知できずに無邪気に喜ぶシャル。
流石に戦場でこんな危険はないからシャルも傭兵としての勘が働かないらしい。
(シャル……無事に朝を迎えてくれ)
心の中で敬礼しつつ、部屋から出ていく2人を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます