第17話 お兄ちゃんを遂行する
「初めまして、お母さん、妹さん! 私はシャルロット・スタンリーです! えと、フランス人で……甚太君の同級生です! ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします!」
「…………」
「…………」
リビングに通してもらったシャルは何故か少し緊張した様子で頭を下げる。
本当に何度見てもアニメからそのまま飛び出してきた来たような美少女だ。
そして、そんな彼女を目の当たりにした母と妹は分かりやすく慌てる。
「え、えぇっと……グ、グーテンモルゲン! に、日本語がとってもお上手ね!」
「な、何これドッキリ……? 芸能人が変装してるやつ?」
母親の桜は少し緊張しながら両手を合わせて微笑む。
そしてその挨拶はドイツ語だ、逆に良く知ってたな。
妹の亜美は綺麗に整ったショートヘアをブンブンと振り回してカメラを探し出す始末である。
「それで、シャルをウチに泊めても良いのか?」
「もちろんよっ! お夕飯も作ったから良かったら食べてね!」
「何が『ダンボール渡すから今晩は公園で寝てくれ』よ! アンタには血も涙も無いの!?」
亜美がシャルの身体をギュッと抱いて俺を睨む。
追い出そうとしてたのお前だろ、手のひら阿波踊りか。
「シャルちゃん、こんな鬼畜陰キャの言うことなんか聞かなくて良いからね」
「いえ、甚太は鬼畜というよりむしろM――」
「か、母さん! 腹減った! 早くメシ食おうぜ!」
シャルがとんでもないことを言い出そうとしたので俺は言葉を遮った。
俺の身体はアザだらけなんだから完全にそっちの趣味だと誤解されるだろーが。
「はいはい、すぐに用意するから。シャルちゃんも待っててね」
桜はキッチンで鍋を温め、夕食の準備を始めた。
「シャルちゃん、お顔ちっさーい! お肌も白くて可愛すぎー!」
「き、恐縮です……亜美さんも可愛いですよ?」
「きゃー! 好き好きっ!」
亜美はシャルに抱き着いて頬を擦り付ける。
シャルは俺の家族に対して、お行儀よく猫をかぶっていた。
きっと潜伏するためだろう、意外と器用な事も出来たんだなこいつ。
「シャルちゃんはどうして甚太なんかと知り合っちゃったの?」
そんな事故みたいに言うなよ。
あと、お前の方が年下だからな?
「え、えぇっとですねぇ……」
何も考えていなかった様子のシャルは困ったように俺を見る。
「……ゲームだよ。ほら、俺がたまにやってる『戦場ロワイヤル』ってゲームがあるだろ? それで知り合ったんだ」
――『戦場ロワイヤル』、通称『戦ロワ』。
伏見の記憶の中にあった、フルダイブ型のゲームだ。
プレイヤーがヘッドセットを着けて寝ると、五感が完全にリンクされてゲームの中で傭兵として本番さながらの対人戦ができる……らしい。
これはプレイヤー同士がマッチングして戦うので、俺がゲームを通じてシャルと出会うのも不自然ではないだろう。
「あー、あのバンバン人を撃つゲームね。甚太、弱すぎて辞めたのかと思ってた」
「最近また少しやったんだよ。その時にシャルとチームになってさ」
「そうそう! その時に甚太に助けてもらったんです! 命を!」
シャルも話を合わせた。
命を助けてもらったという部分は嘘じゃないな。
そんな話を聞いて、亜美は大きなため息を吐く。
「ふ~ん、じゃあガッカリしたんじゃない? 本人がこんな冴えない陰キャだったんだから」
「そ、そんなことないですよ? 甚太はその……頼りになります」
「ぷっ、あはは! 頼りになるだって! 甚太、頑張りなさいよ!」
亜美は俺の肩をバシバシと叩いて、俺を見下すように笑った。
当然、雑魚でイジメられているような俺が頼りになんてなるはずがないという嘲笑だろう。
(くそっ、こいつ……)
俺が甚太の身体になったことで困ったことが1つある。
亜美にこれだけボロクソ舐められているのに……。
こいつが妹として可愛くてしょうがない。
甚太のせいで、俺の頭には存在しないはずの亜美との記憶があった。
だから、『お兄ちゃんを遂行する』という使命が心に刻まれているのだ。
恐るべきシスコ――
……仕方ねぇ、亜美は甚太の忘れ形見だ。
もしこいつに何かあったら俺が全力で守ってやるか。
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