第13話 馬鹿で悪かったな

 シャルは詩織に家の中に通してもらい、2人は向かい合って客間に座る。

 そして、シャルはもう一度ペコリと詩織に頭を下げて挨拶した。


「私はシャルロット・スタンリーです。龍二と同じ『SWORD』のメンバーで……結婚式の際に一度だけお会いしました」


「えぇ、貴方は龍二の一番の親友だもの。もちろん知っているわ」


 俺は中庭から窓のすぐそばに隠れて、客間に座る二人の会話を盗聴する。

 勝手知ったる自分の家だ。

 スマホのインカメラを利用して二人の様子も見ていた。


「……龍二は。立派な……『最期』でした」


 そう言うと、シャルは自分の服の袖をギュッと握ってボロボロと泣き出してしまった。

 ゆっくり頷くと、詩織はシャルのそばに寄り添い、そっと抱きしめる。


「ありがとう。伝えに来てくれて……辛かったでしょう?」

「ご……ごめんなさい。詩織さんの方が辛いはずなのに……」

「ううん、私は覚悟できてたから。シャルちゃんの方が辛いんだよ」


 そのまましばらく、シャルは詩織の胸の中で泣き続けていた。

 詩織は目をつむって、優しく頭を撫でる。


「わ、私を最初に理解してくれたのは龍二だったんです……そ、それまでは私の周りの大人は敵しかいませんでした」

「ふふっ、龍二はいつも相手の気持ちになれるからね」

「龍二は私のことをいつも子供扱いして……でも、龍二だってすぐムキになるし子供っぽいと思います」

「そうなのよ。私も龍二とは喧嘩ばっかりだったわ。まぁ、いつも私が勝ってたんだけどね」

「本当に、龍二は鈍感で、デリカシーが無くて、自分勝手で、馬鹿で、アホで……」

「そうよね、アホよね。全く、こんなにかわいい子を泣かせるなんて酷い奴」


(おいおい、俺の悪口大会で盛り上がってんじゃねーよ)


 呆れつつ見守っていると、シャルは瞳に涙を浮かべた顔を上げた。


「……りゅ、龍二に会いたいです。例え、夢でも良いので……」

「きっと、夢に出てくれるわ。龍二は泣いてる女の子を放っておけないもの」


「…………」


 詩織は俺が居なくなっても平気なようだった。

 もともとほとんど帰れてなかったしな。

 ……いや、そんなはずはないか。

 本当は分かってる。

 詩織の心の中は悲しみに暮れているはずだ。

 シャルが自分の代わりに泣いてくれているから。

 悲しみを分かち合ってくれてるから。

 詩織は動揺せずにいられているんだろう。


(シャル……ありがとう。やっぱりお前は最高の親友だよ)


 その後、お昼頃まで。

 シャルと詩織は俺の悪口で盛り上がり。

 またシャルが泣き。

 詩織が慰め。

 また俺の悪口を言い合う。

 そんな単純なことを繰り返していた。


「――すみません、お邪魔しました」

「もう行っちゃうの? ご飯食べて行けば?」

「いいえ、またお会いできますので今日はこの辺で。それと……これを」


 シャルはそう言って、俺のドッグタグを詩織に差し出した。


「それは……シャルちゃんが持っててくれる?」

「そ、そういう訳には……!」

「いいの。シャルちゃんの方がきっと大事にしてくれるから」

「……ありがとうございます」


 そう言うと、シャルは俺のドッグタグをギュッと胸に抱いた。


 そして、シャルは詩織の家を出て行った。

 俺はシャルの後を追いかける。


 シャルは街を歩き、小高い丘の上に登って行く。

 そして、街を一望できる見晴らしの良い場所に来た。


 俺の子供たち、優香ゆうか雅也まさや、そして俺の身体の元の主である伏見が通う重道高校ではお昼休みに生徒たちが楽しそうに校内を歩いて談笑している。

 町の道路では犬が嬉しそうに老人と散歩して、その隣の公園では子供たちが楽しく遊んでいた。


「龍二、これが……貴方が守った景色ですよ」


 俺のドッグタグを首にかけてシャルは呟く。


 シャルは言っていた。

 俺に……『夢でも良いから会いたい』と。


 ――だったらきっと、後悔は無いだろう。


「……龍二の馬鹿」


「――馬鹿で悪かったな」


 柵に手をかけて物憂げに俺を罵倒する少女に、俺は声をかけた。

 ――――――――――――――

【業務連絡】

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