第12話 感動の再会を
「"ぐおぉ!"」
俺と一緒に走っていたギルベルトが苦悶の声を上げて転倒した。
俺は思わず足を止める。
「"クソッたれ!"」
ギルベルトは倒れたまま手に持ったアサルトライフルでマフィアの頭を撃ち抜き、俺に言った。
「"龍二、俺はもう走れねぇ! ここに置いてけ! できるだけ足止めするからよ!"」
俺はそんな言葉を無視して、ギルベルトを担ぎ上げた。
「"おいっ! 無茶だ! 俺を担いだまま走れる訳ねぇ!"」
「"喋んな、舌噛むぞ!"」
俺はそのまま、全力で駆ける。
発射基地まではあと少しのはずだ。
もう仲間を失いたくない。
「"ほ、本当に俺を担いで走ってやがる! 俺は108.4kgだぞ?"」
「"テメェ……リバウンドしてんじゃねぇよ……ダイエットしろって言ったろ"」
――そして、俺はギルベルトを担いだまま発射台のある施設の目の前にまで来れた。
全容は把握できないが、そこまで大きな建物ではない。
「"信じられねぇ……本当に逃げ切りやがった……"」
「"ここの草むらに隠れるぞ……"」
息も絶え絶えに俺はギルベルトを地面に降ろす。
そして、撃たれた足を見た。
これは……確かにもう動けないだろう。
ギルベルトは強がって笑った。
「"俺はここに置いていけ。ロケットランチャーの弾がない今、俺はただのチャーミングなデブだ"」
「"こんなとこに置いていけるか。施設の中ならお前を隠せる場所があるはずだ。片足は無事なんだから、ここからはお前も歩けよ"」
ギルベルトに無理やり肩を貸すと、俺は茂みから立ち上がった。
何かを悟ったかの様に、ギルベルトは語り出す。
「"龍二、俺は世界中から腹ペコな奴を無くしたい。だから、貧困の原因になる戦争は止めなくちゃならねぇ"」
「"あぁ、分かってる。それでも、お前は食べ過ぎだ"」
「"デブは幸せの象徴だ。それに、俺のこの身体だって役に立つ時があるんだぜ?"」
――そんな話をしている瞬間だった。
背後に『カランッ』と何かが落ちる音が聞こえた。
直後、俺はギルベルトに突き飛ばされた。
驚いた俺の目に映ったのは、地面に落ちたグレネードに向かって飛び込むギルベルトの姿だった。
「"ギルっ!"」
「"龍二、後は頼んだぜっ!"」
俺に満面の笑みを向け、グレネードは爆発した。
ギルベルトの大きな体は爆発の衝撃から俺の身体を守り、俺は全身にギルベルトの返り血を浴びる。
……きっと俺は傭兵としてはまだまだ未熟なのだろう。
感情を抑える訓練は苦手だった。
「ふぅー……」
深く息を吐いて、俺は精神を研ぎ澄ます。
身体を焼き尽くしそうなほどの怒りを、全て自分の力に変えてギルベルトが腰に着けていたサイバルナイフを握った。
全員殺してやる。
この森にいるマフィアは全員……。
修羅となった俺は森が本来の静けさを取り戻すまで、躍動し……
――敵を全滅させた。
「はぁ……はぁ……ギル、アーロン。お前らの仇は討ったよ」
俺はギルベルトの遺体からドッグタグを外し、他の仲間たちのタグと一緒に自分のネックレスに付けた。
◇◇◇
ミサイルの発射施設に入ると、マフィアたちの死体が転がっていた。
その死体を見て、俺は誰の仕業か確信する。
(別動隊のオスカーだな。全員、綺麗に首の骨が折られてる)
狭い屋内だったので銃を使わずに、格闘術と不意打ちのみで施設内の敵を殲滅していったのだろう。
俺の格闘術の師匠だ、結局まだ一度も勝てたことがない。
警戒しつつ、施設内を探索していると一人の少女がコソコソと歩いているのを見つける。
「"おい、シャル"」
「"ひぃぃ! まだ敵が居たの!? 殺さないで――って龍二! だ、大丈夫っ!? 凄い血よ!?"」
別動隊のオスカーたちと共に裏口からこの基地を目指していたシャルロットと合流した。
「"大丈夫、全部返り血だ"」
「"そ、そうなんだ……他の仲間は?"」
「"…………"」
「"……そう、分かった"」
「"そっちは? オスカーはどこにいる?"」
「"敵の最後の一人が格闘術のスペシャリストだったの。オスカーはそいつともみ合いになって……一緒に崖から落ちていって……"」
そう言って、シャルはオスカーのドッグタグを見せた。
死を覚悟してシャルに渡していたんだろう。
「"そうか……。どうやら生き残りは俺たち2人だけらしいな。ミサイルは?"」
「"多分地下、そこに行く為の扉がグレネードで変形して開かなくなっちゃったから何とかしようと今道具を探してたの"」
「"よし、俺なら無理やり開けられる。連れて行ってくれ"」
シャルロットについていき、俺は施設の扉を拾った鉄の棒を差し込んで開く。
その先はシャルロットがハッキングで扉を開いて下に向かって行く。
そしてついに、広大な空間とミサイル弾頭が現れた。
「"な、なんだね君たちは!?"」
「"正義のヒーローだっ!"」
ミサイルの周囲に居た研究員らしき奴らを殴り倒す。
大きなコントロールパネルの画面には発射まで残り38分という表示が出ていた。
どうやら間一髪だったらしい。
「"シャル、ミサイルが発射しないように止められるか?"」
「"任せて! その為に来たんだから!"」
ポキポキと指を鳴らすと、シャルは自分のパソコンとミサイルのコントロールパネルを繋いだ。
そして数分後、ターンっ! とエンターを弾くとミサイルの発射タイマーが止まる。
「"よし! 後は時限爆弾をセットして――"」
俺が準備を始めようとすると、アラートが鳴り始めた。
『"外部からのサイバー攻撃を受けました。当ミサイルは残り10分で自爆いたします"』
「"10分!? シャル、止められるか!?"」
「"……ダメ! システムの干渉を完全に遮断してる! これじゃ逃げるしかないわ!"」
証拠隠滅用の自爆装置が仕掛けられていた。
ミサイル自体の威力はそんなに大したモノじゃない。
これは戦争の火種としての役割しかないから。
それでも、10分で逃げられる場所までは余裕で爆発に巻き込まれてしまうだろう。
俺は解決策を探して周囲を見回す。
――そして、見つけ出した。
「"シャル……これを"」
首にかけていた仲間たちのドッグタグをシャルの首にかける。
俺、宮本龍二のドッグタグも……。
「"手動で出せる非常用の大型防御扉がある。俺はこれを閉めて爆発範囲を狭めるからシャルはその間にできるだけ遠くまで逃げろ"」
「"そ、そんな……! 嫌よ、私だけ生き残るなんて!"」
泣きじゃくるシャルの頭を、俺は優しく撫でる。
「"シャル、生きてくれ。そして俺たちの家族に伝えてくれ。『立派な最期だった』って。俺たちを覚えてくれてるのはお前だけなんだ"」
「"そ、そんな……うぅ……"」
「"もう時間が無い!
俺はすぐに走って防御扉を閉めるレバーを回した。
このミサイルが置いてある部屋全体を閉める扉だ。
当然、一人で回すことは想定されておらずとんでもない重さだった。
「"うぉぉぉおお! シャル、行けっ!"」
俺は鍛え上げた筋肉でレバーを回す。
ゆっくりだが、門のように大きな防御扉は確実に閉まっていっていた。
扉を走り抜ける時、シャルは涙を拭いながら俺を見る。
「龍二……大好き」
日本語で、そんな言葉が聞こえた気がした。
『――自爆まで残り10秒……9……8……』
防御扉を閉めると、俺は胸ポケットから家族の写真を取り出した。
きっと、シャルはもう遠くまで逃げることができただろう
「――
――――――3、
――――2、
――1
こうして俺は任務を達成し、命を散らした。
◇◇◇
――そして、高校生に転生した今。
俺の目の前には傷一つ無く生き延びてくれたシャルが居た。
綺麗な服を着て、綺麗な金髪の髪を纏めて。
そして、あまりにも綺麗な顔を除けば、そこいらにいる女子高生と変わりがなかった。
「貴方の夫、宮本龍二さんについてお伝えすることがあります」
そう言われた詩織は少し驚いた表情を見せた後、取り繕ってにっこりと微笑んだ。
シャルは勉強していた日本語をすっかり流暢に話せていた。
「……ウチに上がっていって。お茶を出すわ」
「……はい。失礼いたします」
詩織に促されてシャルは家に上がる。
その手には、俺のドッグタグが大事そうに握られていた。
――――――――――――――
【業務連絡】
ようやく、現代に戻ります!
大変お待たせしました!
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