第11話 最高の仲間たち

 

 詩織と結婚後。

 俺は『SWORD』の隊長を務めた。


 そして……『例のミッション』が俺たちのもとへと舞い込んできた。


 "大陸間ステルス弾道ミサイル(IICBM)を破壊して、日本への攻撃を阻止せよ"


 相手は旧ソ連の生き残りのマフィア集団だった。

 強大な組織を相手に何人もの仲間がやられた。

 俺たちはそれでもまだ破壊対象であるミサイルの発射場所を見つけ出せずにいた。


 ――そんなある日。


「"龍二! ディーノが帰還したぞ! 追っ手は俺が殲滅した!"」


 アーロンがそう言って、血みどろになったイタリア人のディーノを担いできた。

 マフィアたちのやり取りは暗号化されていたので、それを読み解けるディーノがスパイとして潜入していたのだ。


 ベッドに寝かせると、ディーノは息も絶え絶えに俺に報告する。


「"ミサイル発射基地の場所が分かった……。緯度: 60.7°、経度: 101.4°のゴラソン森林の奥だ……"」

「"よくやった! 今、傷を塞いでやる!"」


 しかし、ディーノの傷の位置を見て息をのんだ。

 肺と肝臓が撃ち抜かれていた。

 こんな状態でここまで生きて戻ってこれたこと自体が奇跡だ。

 ディーノの執念によるモノだろう。

 それと……心臓手前で止まった弾丸はディーノが胸ポケットに入れていた小説を貫通していた。


 ディーノも自分がもう助からないことを分かっているようだった。

 自分の首にかけたドッグタグを引きちぎり、その血みどろの手で俺の手を力強く握った。


「"龍二、僕の夢は……図書館を作ることだった。誰でも無料で、沢山の本が読める……そんな場所を……"」


 血を吐きながら、それでも力強い瞳で語る。


「"みんな、怖いから争うんだ……恐怖は無知から始まる。みんなが本を読んで学べば、戦争なんてしなくて済む。知識は兵器よりも強いんだ……"」


 今際の際の言葉。

 そこにはディーノの強い願いが込められていた。


「"ディーノ、心配すんな! お前の夢は俺が叶える! ホワイトハウスよりデカい図書館をぶっ建てて、お前の好きだった本を並べてやるからよ!"」

「"龍二、ありがとう。ふふ……僕は、先に旅立つよ……天国で本を書くんだ。楽しみだなぁ……"」


 震えた手で敬礼してにこっと笑うと――ディーノの身体から力が抜けた。

 アーロンも敬礼して静かに涙を流す。


「……ボン・ヴォヤよい旅をージュ」


 シャルは泣きながら、ディーノの手を取り。

 そっと自分の頬に押し当てた。


       ◇◇◇


 ディーノが命を賭して得た情報を頼りに俺はギルベルトとアーロンと共に森林を走り、ミサイル基地に向かう。

 しかし、予想通りマフィア達の守りが固く中々攻め込めなかった。


「"これが最後の一発だ!"」


 ギルベルトはそう言ってロケットランチャーを撃った。

 100kg近いギルベルトの巨体じゃないと撃った方が吹き飛んでしまう。

 この兵器が俺らの切り札だった。


「"よし! 道が開けたぞ! 進め!"」


 アーロンとギルベルト、俺の3人で基地に向かう。

 すでに退路は無かった。

 後ろからマフィアたちに回り込まれていて、俺たちはミサイル発射基地に向けて進むしかない。


「"くそっ、また待ち伏せかよ!"」


 しかし、ギルベルトのロケットランチャーの弾が無くなったところで手詰まりになった。

 時間が経てばたつほどに向こうが態勢を整えて有利になってしまう。

 この奇襲を成功させるにはさらなる混乱が必要だった。


「"……俺が暴れる。お前らはその隙にここを突破しろ"」


 アーロンはそう言うと、俺とギルベルトの胸を軽く小突いた。


「"俺は元々アメリカの兵士だからよぉ。アメリカさえ守れれば良いって思って『SWORD』に入隊したんだ"」


 敵の位置を目視で確認しながら、アーロンは語る。


「"――でもよ、お前らと一緒に生活してて思った。俺、お前らの国も大好きだ。戦争なんて絶対にさせねぇ"」


 アーロンは首にかけているドッグタグを外すと、俺の首にかけた。


「"アーロン……"」

「"龍二、ギルベルト……お前らは俺の弟だ。血は繋がってなくても、心で、魂で繋がってる。だから、俺に守らせてくれ"」


 アーロンは雄たけびを上げ、機関銃を撃ちながら疾走した。


「"うぉぉぉぉ!"」


 敵の銃口は全てアーロンに向く。

 赤い血しぶきを上げながら、アーロンは一切怯むことなく敵の陣地の一角に乗り込み、陣形を崩してくれた。


 その隙に、俺とギルベルトは走る。

 決して振り返らず、脚を止めず。

 アーロンの死を無駄にはしない為に。


 ――ドォォォン!


 そして、後方から大きな爆発音が聞こえた。

 きっと多くの敵を巻き込んで手榴弾で自爆したのだろう。

 勇敢な傭兵の、最後の雄姿すら俺たちは見ることができなかった。


「"進め! 進めっ!"」

「"アーロン……! 畜生っ!"」


 走りながらアーロンのおかげで混乱しているマフィアたちをギルベルトと共に撃ち殺していく。


 仲間の死も悲しみも願いも全て背負って走る。


 それだけが、俺の最高の仲間たちに報いる唯一の方法だった。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

「早く現代に戻ってざまぁ無双して!」と思っている皆様、すみません!

過去編は次回で終わりです!


引き続き、よろしくお願いいたします!

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