第4話 傭兵転生
――バイト終わり。
殴られ続けた痛みと、叱られ続けながら奴隷のように働かされたことで俺は身も心も衰弱し切ってしまっていた。
(でも、これで1年間死ぬ気で働いた……給料は100万円近くは貯まってる。これで妹の学費は払えるはずだ……!)
すっかり日が落ちた道を歩いていると、妹の
今、塾が終わったのだろう。
亜美は俺と違って頭が良くて、大学に行くために勉強を頑張っている。
すると、一度だけ家で会ったことのある亜美のお友達が俺に気が付いた。
「あっ、あれって亜美のお兄ちゃんじゃない?」
そう言われた亜美は、トボトボと歩いていた俺と目が合い、すぐに逸らす。
「兄貴じゃないよ。あんな奴」
「えっ、でも――」
「いいから行こ! 玲奈の家でもう少し勉強してから帰るから」
亜美はいつもこんな感じだ。
俺みたいな情けない男が兄だとは思われたくないんだろう。
でも良いんだ。
俺にとっては可愛い妹だから。
それに、俺が亜美の学費を払ってやれれば少しはお兄ちゃんとして見直してくれるかもしれない。
そんな希望を持ちながらいつもの帰り道。
道の角を曲がると、俺は不意に肩を掴まれた。
「――よう、伏見。こんな所で奇遇だなぁ」
「……へ?」
振り返ると、堂島が舎弟を何人も引き連れて俺を待ち構えていた。
嫌な予感に全身の血の気が引いていく。
「……ところで、実は今入り用でよぉ。ちょっとばかし……100万ほどお金を恵んでもらえると助かるんだが」
「……え……あう」
「俺たち、友達だから構わねぇよなぁ?」
ハメられた。
堂島は最初っから俺にお金を与えるつもりなんてなかったんだ。
――俺が1年間死ぬ気で働いて貯めた妹の学費は、堂島の遊ぶ金に消えた。
「はい、チーズ!」
「ぎゃはは! 良く撮れてるぜ~」
抵抗したら傷を増やすだけだと知っている俺は、言われた通りに酒とタバコを手に持たされて写真を撮られる。
さらに、酒もいくらか飲まされた。
俺を脅迫する材料を増やしたいんだろう。
これで俺はもう……何もかもを失った。
残されたのは堂島の奴隷として搾取されながら生きる道だけだった。
◇◇◇
解放された俺は家に帰り、フラフラと自分の部屋に入る。
(もう、疲れた。何もかも……楽になりたい……)
精魂尽き果てた俺の頭に浮かんだのはそれだけだった。
そんな瞳に映ったのは、部屋のパソコンに繋いであるLANケーブルだ。
(これくらい細くても、きっと俺の細い首を締め上げるには十分だな……)
そんな考えは、ぼんやりとした思考のまま行動へと移されていった。
LANケーブルをパソコンから外すと椅子の上に立ち、天井に結び付ける。
今までも、何度か死のうと考えたことはあった。
だけど、自分を愛してくれている母親の顔がよぎって実行できなかった。
でも今はお酒のせいでそれも忘れていた。
天井から垂れ下がったLANケーブルで輪っかを作ると、俺はそれを首にかける。
どうしてこうなったんだろう。
きっと、それは俺が弱いからだ。
弱いから、強い者に支配され続ける人生になってしまった。
(次に生まれ変わる時はもっと強い生き物になりたい……。無敵の……龍みたいな生き物に……)
椅子を蹴飛ばすと、細いケーブルが首に食い込む。
その瞬間に意識を飛ばしてしまった伏見の肉体には――。
丁度行き場を失っていた傭兵『無敵の龍』、宮本龍二の魂が入り込んだ。
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